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生誕120年 古賀忠雄展 塑造(像)の楽しみ

開催中〜2024/02/25

練馬区立美術館

東京都・練馬区

白井美穂 森の空き地

開催中〜2024/02/25

府中市美術館

東京都・府中市

特別展「北斎サムライ画伝」

開催中〜2024/02/25

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

正倉院宝物を受け継ぐ―明治天皇に始まる宝物模造の歴史―

開催中〜2024/02/25

明治神宮ミュージアム

東京都・渋谷区

うるしとともに― くらしのなかの漆芸美

開催中〜2024/02/25

泉屋博古館東京

東京都・港区

HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美

開催中〜2024/02/25

三鷹市美術ギャラリー

東京都・三鷹市

札幌国際芸術祭 SIAF2024

開催中〜2024/02/25

芸術祭(北海道立近代美術館、札幌芸術の森美術館、モエレ沼公園ほか。*さっぽろ雪まつり大通2丁目会場は会期が短いのでご注意を)

北海道・札幌市

やんばるアートフェスティバル

開催中〜2024/02/25

芸術祭(沖縄県国頭郡の大宜味村立旧塩屋小学校ほか、沖縄県各所)

沖縄県

印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979

開催中〜2024/03/03

国立工芸館

石川県・金沢市

MOTアニュアル2023 シナジー、創造と生成のあいだ

開催中〜2024/03/03

東京都現代美術館

東京都・江東区

皇居三の丸尚蔵館 開館記念展「皇室のみやび-受け継ぐ美-」第 2 期:「近代皇室を彩る技と美」

開催中〜2024/03/03

皇居三の丸尚蔵館

東京都・千代田区

[公募展] Seed 山種美術館 日本画アワード 2024 ― 未来をになう日本画新世代 ―

開催中〜2024/03/03

山種美術館

東京都・渋谷区

坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア

開催中〜2024/03/10

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA

東京都・新宿区

豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表

開催中〜2024/03/10

東京都現代美術館

東京都・江東区

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「もじ イメージ Graphic 展」

開催中〜2024/03/10

21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2

東京都・港区

MOTコレクション 歩く、赴く、移動する 1923→2020/特集展示 横尾忠則―水のように/生誕100年 サム・フランシス

開催中〜2024/03/10

東京都現代美術館

東京都・江東区

特別展「本阿弥光悦の大宇宙」

開催中〜2024/03/10

東京国立博物館

東京都・台東区

都市にひそむミエナイモノ展 Invisibles in the Neo City

開催中〜2024/03/10

SusHi Tech Square 1F Space

東京都・千代田区

水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた~

開催中〜2024/03/10

そごう美術館

神奈川県・横浜市

FACE展2024

開催中〜2024/03/10

SOMPO美術館

東京都・新宿区

和田誠 映画の仕事

開催中〜2024/03/24

国立映画アーカイブ

東京都・中央区

ムットーニワールド からくりシアターⅤ

開催中〜2024/03/24

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

四百年遠忌記念特別展 大名茶人 織田有楽斎

開催中〜2024/03/24

サントリー美術館

東京都・港区

ニャラティブ! ‐物語から見る招き猫亭コレクションと現代作家展‐

開催中〜2024/03/24

藤沢市アートスペース

神奈川県・藤沢市

ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 6『メニスル』

開催中〜2024/03/24

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

企画展 「魅惑の朝鮮陶磁」/特別企画 「謎解き奥高麗茶碗」

開催中〜2024/03/26

根津美術館

東京都・港区

VOCA展2024 現代美術の展望-新しい平面の作家たち

2024/03/14〜2024/03/30

上野の森美術館

東京都・台東区

森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

開催中〜2024/03/31

森美術館

東京都・港区

tupera tupera + 遠藤幹子 しつもんパーク in 彫刻の森美術館

開催中〜2024/03/31

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

企画展「いざ、勝負!」

開催中〜2024/03/31

北斎館

長野県・小布施町

岩﨑家のお雛さま

開催中〜2024/03/31

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

岡田健太郎―重なる景体

開催中〜2024/04/07

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

三井家のおひなさま 特別展示 丸平文庫所蔵 京のひなかざり

開催中〜2024/04/07

三井記念美術館

東京都・中央区

印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵

開催中〜2024/04/07

東京都美術館

東京都・台東区

美術家たちの沿線物語 小田急線篇

開催中〜2024/04/07

世田谷美術館

東京都・世田谷区

魔女まじょ展

開催中〜2024/04/08

魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)2階ギャラリー

東京都・江戸川区

初公開の仏教美術 ―如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて―

開催中〜2024/04/14

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

櫻井翔 未来への言葉展 PLAYFUL!

開催中〜2024/04/14

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

令和5年度早春展 中国陶磁の色彩 ―2000年のいろどり―

開催中〜2024/04/14

永青文庫

東京都・文京区

英国キュー王立植物園 おいしいボタニカル・アート 食を彩る植物のものがたり

開催中〜2024/04/14

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

建立900年 特別展 中尊寺金色堂

開催中〜2024/04/14

東京国立博物館

東京都・台東区

生誕150年 池上秀畝―高精細画人―

2024/03/16〜2024/04/21

練馬区立美術館

東京都・練馬区

須藤玲子:NUNOの布づくり

開催中〜2024/05/06

水戸芸術館現代美術ギャラリー、広場

茨城県・水戸市

春の江戸絵画まつり ほとけの国の美術

2024/03/09〜2024/05/06

府中市美術館

東京都・府中市

第5回「私の代表作」展

開催中〜2024/05/12

ホキ美術館

千葉県・千葉市

ライトアップ木島櫻谷 ― 四季連作大屏風と沁みる『生写し』

2024/03/16〜2024/05/12

泉屋博古館東京

東京都・港区

イヴ・ネッツハマー ささめく葉は空気の言問い

2024/03/10〜2024/05/12

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン

開催中〜2024/05/19

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

版画の青春 小野忠重と版画運動 ―激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち―

2024/03/16〜2024/05/19

町田市立国際版画美術館

東京都・町田市

マティス 自由なフォルム

開催中〜2024/05/27

国立新美術館

東京都・港区

金屏風の祭典 ——黄金の世界へようこそ

開催中〜2024/06/02

岡田美術館

神奈川県・箱根町

日本の山海

2024/02/27〜2024/06/02

松岡美術館

東京都・港区

卒寿記念 人間国宝 鈴木藏の志野展

2024/03/19〜2024/06/02

国立工芸館

石川県・金沢市

遠距離現在 Universal / Remote

2024/03/06〜2024/06/03

国立新美術館

東京都・港区

第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」

2024/03/15〜2024/06/09

芸術祭(横浜美術館、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路)

神奈川県・横浜市

北欧の神秘ーノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画

2024/03/23〜2024/06/09

SOMPO美術館

東京都・新宿区

記憶:リメンブランス-現代写真・映像の表現から

2024/03/01〜2024/06/09

東京都写真美術館

東京都・目黒区

BankART Life7「UrbanNesting:再び都市に棲む」

2024/03/15〜2024/06/09

BankART Station

神奈川県・横浜市

企画展「北斎と感情」

2024/04/06〜2024/06/09

北斎館

長野県・小布施町

特別展「大哺乳類展3−わけてつなげて大行進」

2024/03/16〜2024/06/16

国立科学博物館

東京都・台東区

茶の湯の美学 ―利休・織部・遠州の茶道具―

2024/04/18〜2024/06/16

三井記念美術館

東京都・中央区

「どうぶつ百景 江戸東京博物館コレクションより」展

2024/04/27〜2024/06/23

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

令和6年度初夏展「殿さまのスケッチブック」

2024/04/27〜2024/06/23

永青文庫

東京都・文京区

カール・アンドレ 彫刻と詩、その間

2024/03/09〜2024/06/30

DIC川村記念美術館

千葉県・佐倉市

特別企画展「熊谷守一美術館39周年展 守一、旅を描く。」

2024/04/16〜2024/06/30

豊島区立 熊谷守一美術館

東京都・豊島区

民藝 MINGEI—美は暮らしのなかにある

2024/04/24〜2024/06/30

世田谷美術館

東京都・世田谷区

三島喜美代―未来への記憶

2024/05/19〜2024/07/07

練馬区立美術館

東京都・練馬区

企画展「旅するピーナッツ。」

開催中〜2024/09/01

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝

2024/04/24〜2024/09/01

森美術館

東京都・港区

AOMORI GOKAN アートフェス 2024 「つらなりのはらっぱ」

2024/04/13〜2024/09/01

アートフェス(芸術祭)( 青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館、十和田市現代美術館)

青森県

日本のまんなかでアートをさけんでみる

2024/03/16〜2024/09/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

Exhibitions

佐川美術館「生誕110年 田中一村展」

 公益財団法人「佐川美術館」で開館20周年記念特別企画展「生誕110年 田中一村展」が開かれている。関西では10年ぶりとなる大規模な田中一村展となり、一村の幼少期から青年期にかけての南画、新しい画風を模索した千葉時代から晩年の奄美大島での集大成となる作品や襖絵など約180点(展示替え含む)を展示する。

奄美で出会った田中一村の作品と佐川美術館
 10年前、奄美大島にある「田中一村記念美術館」で初めて田中一村(1908-1977)の作品と出会った。高倉という奄美独特の高床式の建築が水中に立ち、美術館独特の背筋が伸びるような雰囲気がなく、館外に広がる奄美の地の延長のような空気が漂っていたことが新鮮だった。そこで出合った一村の作品が琴線に触れる強い魅力で、大きな衝撃を受けたことは今も覚えている。その一村の大規模な展覧会が滋賀県の佐川美術館で開かれることを知り、美術館に向かった。

 琵琶湖のほとりに佇む佐川美術館は設立母体である佐川急便株式会社創業40周年記念事業の一環として1998年に開館。広い水庭に浮かぶように立つ姿が美しく印象的で、建築デザインも評価されている。日本画家・平山郁夫、彫刻家・佐藤忠良、樂焼の家系の十五代目で陶芸家の樂吉左衞門の作品を中心に展示し、2007年に竣工した樂吉左衛門館と併設の茶室は、樂氏本人が設計の草案を行った。事前予約が必要なこの茶室も建築関係者をはじめ多くの人が訪れている。私も数年前に訪れ、美術館の立地や佇まい、茶室に魅了された一人。


写真①「佐川美術館」外観

神童が描いた最上の南画
 一村は無名のまま69歳の生涯を閉じた。没後三回忌に合わせ、地元有志が遺作展を開き、南日本新聞が記事で紹介。5年後の1984(昭和59)年にNHK「日曜美術館」が取り上げたことで、全国に知られるようになった。当時、鹿児島放送局で勤務し、美術番組の経験があまりなかったディレクターによる無名画家の企画は放送までに長い年月を要したが、実際に放送されると絶大な反響を呼んだと本展監修者の美術家・大矢鞆音さんが「田中一村 豊饒の奄美」(日本放送出版協会発行)で振り返っている。専門家には批判する声もあったものの、続いて出版された作品集は増版され、巡回展の会場が次々と追加されていったことから、一般の関心がどれほど高かったかがわかる。そして当時から30年ほど経ったこの展覧会の盛況ぶりは、その熱気は一時のものではないことを表している。「絵は50年後100年後に評価されるもの」という一村の言葉の通り、絵は画家の没後、世にはばたき、人々を魅了している。

 「青少年時代 若き南画家」と題した第1章では、7歳から23歳までに描いた作品を見ることができる。彫刻家の父・田中彌吉の指導のもと、幼少期から南画(中国の南宗画に由来する絵画)を描き、神童と呼ばれるほど画才を発揮した。児童画展で受賞し、雅号を米邨(べいそん)に。現存作品中最年少の一作だという《菊図》は墨で描かれた葉や枝の構図が秀逸で、その完成された画に驚く。続く枝に止まった雀やかわせみを描いた短冊や金地の《花菖蒲》など、10歳前後で描いた作品とは到底思えない作品が次々と現れ、才能は生まれ持ったものなのだと思い知らされる。一方で、これほどの才能を持ちながら無名のまま没したことが不思議に感じる。

 18歳で東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学する前年の1925(大正14)年には『全国美術家名鑑』に名を連ねていた。同期入学の20人には、東山魁夷、加藤栄三、橋本明治、山田申吾らがおり、卒業が1931(昭和6)年であったことから「花の六年組」と称された。米邨は自身の病気や家族の病気など家庭の事情や学校の方向性、教授との関係もあったのか、「家事都合」として大学を二ケ月ほどで辞める。「南画の時代ではなかった、といってもいいのかもしれない」と大矢さんは書く。父の友人の尽力で米邨の後援会ができ、より一層、南画に邁進する。掛け軸の《藤図》やこのころ描かれた《紅白梅図》は一つ一つの花や葉の形と色、花や枝の全体の構図が絶妙で、ため息が出る素晴らしさだ。南画に詳しくないが米邨の作品は十代のうちにこれ以上のものがないほど最上の領域になっていたのでは、と感じる。
 中国のモチーフで描いたという《菊水図》《牡丹図》《桃果図》は画面いっぱいの大きな図柄や大胆な色づかいに目を奪われる。晩年の奄美での作品に通じたものも感じる。中国清末から中華民国初期の画家の影響を受けていたという。日本では、与謝蕪村、青木木米、加納鉄哉、富岡鉄斎といった先達に倣って作画を行っている。そして《椿図屏風》は金地にあふれんばかりに咲き乱れる赤と白の椿がなんともあでやかで、その迫力と美しさに圧倒され、「すごい」という言葉しか浮かばない。二曲一双の屏風の左隻には何も描かれていないところも潔い。一章にして既に一村の画才と作品の素晴らしさをこれでもかと見せつけられたようだと圧倒されながら歩を進める。


写真②会場風景。左から《蓮図 擬八大山人筆意》(紙本墨画、捲り、1920年、個人蔵)、《蓮図》(紙本墨画着色、捲り、1927年秋(19歳)、奈良県立万葉文化館蔵)、《菊図》(紙本墨画着色、額装、1927年春、個人蔵)、《紅白梅図》(紙本墨画淡彩、軸装、1926年(17歳)、個人蔵)
写真③《紅白梅図》(紙本墨画淡彩、軸装、1926年(17歳)、個人蔵)
写真④《椿図屏風》(紙本金地着色、2曲1双、1931年、千葉市美術館蔵)

絵の中の魂が時空を超えて伝える芸術の真髄
 1931(昭和6)年、23歳の時に南画と決別する。後年の一村の手紙によると、「自分の進むべき画道を自覚し、その本堂と信ずる絵」を描き支援者に見せるが、賛同する者は誰もいなかったという。「その時、折角心に芽生えた真実の絵の芽を涙をのんで自らふみにじりました」(「田中一村 豊穣の奄美」より)と綴っている。描くことをやめ、6人兄弟の長男として、病気の弟や妹の生活を支えるため父から受け継いだ細工物のアルバイトに加えて、病弱ながら肉体労働を敢行。病気になり血を吐きながらも働き続けたという。晩年、奄美で絵を描くため、骨身を削りながら質素な生活を送っていたストイックな精神に通じる。

 第2章「千葉時代 新しい画風への挑戦」では、新しい画風を模索する中で描かれた《南天》などの貴重な作品や自然豊かな千葉で風景や動植物などを描いた作品を紹介する。一村の絵は写実的なものへと移っていき、奄美に渡るまでの約30年間、千葉に住み写生を続けた。

 ここで衝撃の出会いが待っていた。何気なく歩き、《秋色(しゅうしょく)》という作品を見た瞬間、吸い込まれるような強い力で引き寄せられた。千葉寺にある自宅の裏山を描いたという作品は、葉の色が変わった秋のもの悲しさが表れながらも赤や黄の美しさが描かれ、色や構図など全体がとにかく素晴らしく、泉から湧き出るように感動が体に広がる。「生きている実感」とはまさにこういった瞬間をさすのだろう。絵画鑑賞がこれほどまでに人の心を揺るがすことに改めて驚きを感じながらそのような絵を生み出すのは、絵の中に込められた魂なのだと気づく。そう書いていると、一村の手紙に「絵と対座している時は、勇気は泉のように沸き、生気が体内にみなぎるのを覚えます」との言葉を見つけて驚く。彼が絵に込めた魂のほとばしる泉はその力を失うことなく、時空を超えて見るものにもその感覚を呼び覚まし、芸術の真髄を教えてくれる。
 さらに「自分が生涯かけて描く絵は人にどう評価されようとかまわないのです。真実の絵を描き残すことが、私の生きる道なのです。私が死んでも絵は残ります。私を離れ、絵がひとり歩きした時に、絵の中にある真実が人の心に感動を与えるのです。私は真実の気持ちを納得するまで描いています」と記す。まさにその通りなのである。一村は絵に真実を、彼の全てを打ち込め、その魂が没後41年の今、こうして強い感動を生み出している。ちなみに第3章には私が感動した《秋色》と同じく秋の植物を描いた《秋色虎鶫(とらつぐみ)》が2点展示されており、虎鶫が入ることがまたポイントとなり、こちらも素敵な作品だった。他にも、上品な装いの掛け軸の《南天》や淡い色が秀逸な《ホオズキ》など2章も挙げればきりがない傑作揃いだった。


写真⑤《秋色》(紙本着色、額装、1938年秋、田中一村記念美術館蔵)

旅を通して得た出合いと作品
 第3章「一村誕生」には1947(昭和22)年に、青龍社展に初入選した《白い花》が展示されている。出品を機に「一村」に改名。南画との決別から約15年が経っていた。翌年には金箔の屏風《秋晴れ》を出品するが落選。もう一点の作品が入選するが、自信作の落選に怒って辞退したという。(抗議の手紙を書いたところ「方向性が違うため」と返信あり)。1953(昭和28)年と翌年には同級生だった東山魁夷、加藤栄三、橋本明治が審査員に参加していた日展に落選。その後も院展に2点出品するが落選が続き、団体展への出品を断つ。

 《浅春譜》や《水辺夕景》《冬景色》《筑波山》など、3章の作品は切り絵を彷彿とさせる黒色が基調となった作品が多くみられ、2章の作品との変化、異なる魅力を感じる。さて、ここでまた衝撃の出合いが待ち受ける。私が以前、田中一村記念美術館で一番心を打たれた作品は色紙の《足摺狂濤》(本展では未出品)だった。青や緑が織り交ざった美しい海の色に映える白い波しぶき、岩にぶつかる激しい波のうねりの躍動感のある描写が目の前に海が広がるようで、なんともいえない感動に動けなくなった。そう考えると、絵を見て自分でも驚くほどの感情、状態を引き起こすのは、10年前も今もやはり田中一村なのである。本展で《室戸奇巌》を見た瞬間、その海の色と白い波しぶきに「この色!」とその時の感動が一瞬にして蘇った。1955(昭和30)年、九州や四国などを巡るスケッチ旅行で亜熱帯の植物や自然の景色に強い刺激を受けたという。一週間かけて四国を巡り、高知県の足摺岬と室戸岬を訪れ、この二作が生まれた。《足摺狂濤》の畳紙(たとう)に残されたコメントに「室戸ハ奇石累々 足摺ハ断岸千尺 太平洋ノ怒濤ハ脚下ヲ噛ム」と書かれている。《足摺狂濤》には荒々しい波が、《室戸奇巌》にはがっちりとした岩山が描かれている。《山村六月~北日向にて》は高千穂を描いた作品で、植物が前面に出て遠景との強い遠近感や植物や雲の描写などが、だいぶ奄美での作品に近いものを感じる。構図を変え2年がかりの制作の末、院展に出品された作品だという。



写真⑥《室戸奇巌》(絹本着色、色紙・額装、1955年、個人蔵〈千葉市美術館寄託〉)

奄美に暮らし、生きている絵を描く
 第4章「奄美時代、旅立ちと新たなる始まり」には、親しい支援者が「奄美行きの資金援助に」と注文した襖絵も展示されている。半年がかりで《白梅図》や《四季花譜図》など計12枚を描いたという。先の旅行から3年後の1958(昭和33)年、50歳の時に一村は当時、日本の最南端だった奄美群島に単身で移住する。

 アダンやビロウ、クロトンなど亜熱帯の植物や鳥、魚をモチーフとした日本画という点も、もちろん一村作品の大きな特徴だ。亜熱帯の動植物の独特な色や形が生き生きと描かれ生のエネルギーが満ちる絵を初めて目にした時、衝撃だった。クロトンという色も柄も熱帯を感じさせる葉は単独にも熱帯魚と共にも描かれていて、《クロトンとカヤツリグサ》は黒と黄色がメインとなるシンプルさが、より造形を引き立たせる。代表作の一つである《初夏の海に赤翡翠(あかしょうびん)》も奄美の魅力をふんだんに備えた作品。縦153センチの大きさも迫力があり、一村が描いた奄美の自然に包まれる。幼少期からの作品に一貫するのは高い技術力もそうだが、構図の素晴らしさだと思う。奄美にわたって間もないころに描かれており、まだ新鮮なまなざしで奄美を描いたという印象も受ける。「材題の中で生活していることは実に幸福です」と親しい支援者に手紙を送っている。

 「売ろうという気持ちが先に立つと素人受けする妥協した絵になる、売り絵は外道である」(「絵のなかの魂 評伝・田中一村」より)とした一村、「他の職業で生活・貯金し、絵を描き始めたら生活のための仕事はしない」と決め、大島紬(つむぎ)が有名な奄美大島の紬工場で、染色工として働き始める。5年働いて3年描き、2年働いて千葉で個展を開くという計画だったようだ。

 植物や熱帯魚が描かれた作品をみると、絵を見ているだけで実物を見ているようなリアリティがあり、奄美大島を垣間見ているような感覚に陥る。「本当に生きている絵とは、常に生活を共にし、本質を見ていなければ描けないものだ」(「絵のなかの魂」より)というのが、一村の持論だったという。奄美大島というと南国の鮮やかな色彩があふれるようなイメージもあるが、雨天が多く、地元カメラマンに「グレーの世界」と称される。私の記憶の中でも雨の印象が強い。一村の作品は墨を生かしながら、雨が多くうす暗さを伴った奄美の空気感までも表現されている。19年間、この地で暮らし、見つめ続けた一村の奄美がそこにある。

 一村が命を削って描き「閻魔大王への土産品」とした作品は、奄美に12年暮らした時に描かれた《アダンの海辺》(本展では8月19日までの期間限定展示)とその4年後に描かれた《不喰芋と蘇鐵(クワズイモとソテツ)》(本展では未出品)だという。一村は《アダンの海辺》の「主要目的」として、「乱立する夕雲」と「海浜の白黒の砂礫」と記す。《アダンの海辺》が陽の光やさざ波など情緒を感じさせる風景画といった印象に対して、《不喰芋と蘇鐵》は繫茂する熱帯植物が造形的でデザイン画という印象も受ける。この2点が一村にとって特別な二作だったことは興味深い。親しい知人に託した方が「死後、世に出る」との勧めもあり、《不喰芋と蘇鐵》を手放すことになった際には、絵を広げては見入り、巻いたり広げたりを5、6回も繰り返したというほどの愛着だったという。
 奄美で「一村終焉の家」も訪れた。緑を分け入り今にも朽ち果てそうな、うら寂しい佇まいで目立つ看板もない。そのままの姿が一村の暮らしていた当時の様子を感じさせる。作品の人気に対してそのさりげなさは、まるで一村自身の姿のようでもある(2008年に訪問)。

 今年7月にはパリで一村の作品が海外初公開となった。今後は国内にとどまらず、世界中で愛されていくのだろう。絵の中の一村の魂、一村の描いた「真実の絵」は、一村自身が確信していた通り、画家の手を離れ、生きる人々を魅了し続ける。地位や名誉ではかれない「真の芸術」の姿がそこにはある。一村の絵に対峙することで喜びや感動を得るだけでなく、一村の絵は見る者自身の考え方、生き方さえ問いかけるのである。本展に足を運ぶことができてよかった。日々を真摯に過ごし、また一村の絵に対峙したい(文中、敬称略)。


写真⑦《初夏の海に赤翡翠》(絹本墨画着色、額装、1962年、田中一村記念美術館蔵)



写真⑧《アダンの海辺》(絹本着色、額装、1969年、個人蔵(千葉市美術館寄託))
(C)2018 Hiroshi Niiyama


※画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。

(参考文献)
・「田中一村 豊饒の奄美」著者=大矢鞆音、発行=日本放送出版協会、2004年
・「絵のなかの魂 評伝・田中一村」著者=湯原かの子、発行=新潮社、2001年
・「もっと知りたい田中一村 生涯と作品」著者=大矢鞆音、発行=東京美術、2010年
・「田中一村作品集[増補改訂版]」監修・解説=大矢鞆音、編者=NHK出版、2013年

執筆・写真(写真⑧を除く):堀内まりえ

【展覧会情報】
公益財団法人佐川美術館「生誕110年 田中一村展」
2018年7月14日~9月17日
http://www.sagawa-artmuseum.or.jp/