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「石川九楊大全」

開催中〜2024/07/28

上野の森美術館

東京都・台東区

カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』

開催中〜2024/07/28

東京国立博物館

東京都・台東区

トーキョーアーツアンドスペースレジデンス2024 成果発表展「微粒子の呼吸」第1期

開催中〜2024/08/04

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

おとなとこどもの自由研究 工芸の光と影展

開催中〜2024/08/18

国立工芸館

石川県・金沢市

新紙幣発行記念 北斎進化論

開催中〜2024/08/18

北斎館

長野県・小布施町

大川美術館コレクションによる20世紀アートセレクション ―ピカソ、ベン・シャーンからポップ・アートまで

開催中〜2024/08/18

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界

開催中〜2024/08/25

東京都庭園美術館

東京都・港区

特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト —神奈川沖浪 裏の誕生と軌跡—」

開催中〜2024/08/25

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

開催中〜2024/08/25

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙

開催中〜2024/08/25

国立西洋美術館

東京都・台東区

超・日本刀入門 revive―鎌倉時代 の名刀に学ぶ

開催中〜2024/08/25

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

「-没後100年-富岡鉄斎 鉄斎と文人書画の優品」(仮称)

開催中〜2024/08/25

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

企画展「旅するピーナッツ。」

開催中〜2024/09/01

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝

開催中〜2024/09/01

森美術館

東京都・港区

AOMORI GOKAN アートフェス 2024 「つらなりのはらっぱ」

開催中〜2024/09/01

アートフェス(芸術祭)( 青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館、十和田市現代美術館)

青森県

伊藤潤二展 誘惑

開催中〜2024/09/01

世田谷文学館

東京都・世田谷区

音を観る ―変化観音と観音変化身―

開催中〜2024/09/01

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

エドワード・ゴーリーを巡る旅

開催中〜2024/09/01

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

ルーヴル美術館の銅版画展

開催中〜2024/09/01

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

ザ・キャビンカンパニー 大絵本美術展〈童堂賛歌〉

開催中〜2024/09/01

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

「ヨシタケシンスケ展かもしれない」

開催中〜2024/09/02

そごう美術館

神奈川県・横浜市

カルダー:そよぐ、感じる、日本

開催中〜2024/09/06

麻布台ヒルズ ギャラリー

東京都・港区

市制施行70周年記念 自然、生命、平和 私たちは見つめられている 吉田遠志展

開催中〜2024/09/06

府中市美術館

東京都・府中市

日本のまんなかでアートをさけんでみる

開催中〜2024/09/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

企画展「未来のかけら 科学とデザインの実験室」

開催中〜2024/09/08

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2

東京都・港区

特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」

開催中〜2024/09/08

東京国立博物館

東京都・台東区

須田国太郎の芸術――三つのまなざし

開催中〜2024/09/08

世田谷美術館

東京都・世田谷区

聖書の世界〜伝承と考古学〜/古代オリエントをたのしむ!子どもミュージアム

開催中〜2024/09/08

古代オリエント博物館

東京都・豊島区

慰問 銃後からのおくりもの

開催中〜2024/09/08

昭和館

東京都・千代田区

開館20周年記念 山梨放送開局70周年 平山郁夫 -仏教伝来と旅の軌跡

開催中〜2024/09/09

平山郁夫シルクロード美術館

山梨県・北杜市

織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム

開催中〜2024/09/16

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

トーキョーアーツアンドスペース レジデンス2024 成果発表展 『微粒子の呼吸』第2期

2024/08/17〜2024/09/22

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線

開催中〜2024/09/23

SOMPO美術館

東京都・新宿区

空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン

開催中〜2024/09/23

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

吉田克朗展 ものに、風景に、世界に触れる

開催中〜2024/09/23

埼玉県立近代美術館

埼玉県・さいたま市

島袋道浩 : 音楽が聞こえてきた

開催中〜2024/09/23

BankART Station

神奈川県・横浜市

「人間×自然×技術=未来展(ひと かける しぜん かける ぎじゅつ は みらい てん) – Well-being for human & nature – 」

開催中〜2024/09/23

SusHi Tech Square内1F Space

東京都・千代田区

つくる展 TASKOファクトリーのひらめきをかたちに

開催中〜2024/09/23

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

和のあかり×百段階段2024 ~妖美なおとぎはなし~

開催中〜2024/09/23

ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」

東京都・目黒区

平田晃久―人間の波打ちぎわ

2024/07/28〜2024/09/23

練馬区立美術館

東京都・練馬区

【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏

開催中〜2024/09/23

山種美術館

東京都・渋谷区

令和6年度夏季展「Come on! 九曜紋―見つけて楽しむ細川家の家紋―」

開催中〜2024/09/23

永青文庫

東京都・文京区

夏の特集展示2024「戦争の時代 日本における藤田嗣治 日常から戦時下へ」

開催中〜2024/09/24

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵

開催中〜2024/09/29

東京富士美術館

東京都・八王子市

昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界

2024/08/31〜2024/09/29

泉屋博古館東京

東京都・港区

梅津庸一 クリスタルパレス

開催中〜2024/10/06

国立国際美術館

大阪府・大阪市

大地に耳をすます 気配と手ざわり

開催中〜2024/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

レガシー ―美を受け継ぐ モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ

開催中〜2024/10/13

松岡美術館

東京都・港区

GO FOR KOGEI 2024「くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの」

2024/09/14〜2024/10/20

富山県富山市/岩瀬エリア、石川県金沢市/東山エリア

富山県・富山市、石川県・金沢市

令和6年度第2期所蔵品展 「特集 新恵美佐子 祈りの花」

開催中〜2024/10/20

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

令和6年度第2期所蔵品展  特集:生誕100年 芥川紗織

開催中〜2024/10/20

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

彫刻の森美術館 開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日

開催中〜2024/11/04

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

北アルプス国際芸術祭 2024

2024/09/13〜2024/11/04

芸術祭(長野県大町市)

長野県・大町市

特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」

2024/09/10〜2024/11/04

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

瑛九 ―まなざしのその先に―

2024/09/14〜2024/11/04

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

MOTコレクション 竹林之七妍/特集展示 野村和弘/Eye to Eye-見ること

2024/08/03〜2024/11/10

東京都現代美術館

東京都・江東区

ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ

開催中〜2024/11/10

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

東京都・新宿区

没後300年記念 英一蝶 ―風流才子、浮き世を写す―

2024/09/18〜2024/11/10

サントリー美術館

東京都・港区

日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション

2024/08/03〜2024/11/10

東京都現代美術館

東京都・江東区

企画展「作家の視線― 過去と現在、そして…」

開催中〜2024/11/11

ホキ美術館

千葉県・千葉市

田名網敬一 記憶の冒険

2024/08/07〜2024/11/11

国立新美術館

東京都・港区

特別展 文明の十字路  バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰 ―ガンダーラから日本へ―

2024/09/14〜2024/11/12

三井記念美術館

東京都・中央区

森の芸術祭 晴れの国・岡山

2024/09/28〜2024/11/24

芸術祭(岡山県北部12市町村、津山市、新見市、真庭市、鏡野町、奈義町など))

岡山県・北部12市町村

大正・昭和のモダニスト 蕗谷虹児展

2024/10/05〜2024/11/24

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

フィリップ・パレーノ:この場所、あの空

開催中〜2024/12/01

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

心象工芸展

2024/09/06〜2024/12/01

国立工芸館

石川県・金沢市

田中一村展 奄美の光 魂の絵画

2024/09/19〜2024/12/01

東京都美術館

東京都・台東区

挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展『はにわ』

2024/10/16〜2024/12/08

東京国立博物館

東京都・台東区

ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に

2024/10/05〜2024/12/15

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

コスチュームジュエリー ―美の変革者たち― シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより

2024/09/08〜2024/12/15

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

特別展 オタケ・インパクト ―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―

2024/10/19〜2024/12/15

泉屋博古館東京

東京都・港区

おしゃべり美術館 ひらビあーつま~れ10年記念展

2024/09/21〜2025/02/16

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

Exhibitions

ブダペスト国立西洋美術館&ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト――ヨーロッパとハンガリーの美術400年

ブダペストにある二つの美術館が所蔵する名作130点が来日。
ハンガリーの近代絵画の代表作もそろう。東京・六本木の国立新美術館にて3月16日まで。

 オーストリアのウィーンからドナウ川を下るか鉄道で東に向かうと、じきにハンガリー国内に入る。中欧のハンガリーは、西をオーストリア、北をスロヴァキアとウクライナ、東をルーマニア、そして南をセルビアとクロアチアなどに囲まれた、平野に広がる内陸国だ。首都ブダペストはハンガリーのほぼ中央に位置し、市内をドナウ川が流れる。ブダペストは、その美しさから「ドナウの真珠」と呼ばれる。

 日本とハンガリーが修好通商航海条約に調印したのは、1869年(明治2年)(当時はオーストリア=ハンガリー二重帝国)。両国の外交関係開設150周年を記念して、ブダペストにある二つの美術館が所蔵する作品により、ヨーロッパとハンガリーの約400年にわたる美術を紹介する展覧会が開催中だ。なお二つの美術館とは、1906年開館のブダペスト国立西洋美術館と1957年開設のハンガリー・ナショナル・ギャラリー。両館は2012年以降、組織を統合。約24万点のコレクションの母体はエステルハージ家などハンガリー貴族に由来する。

 ■展覧会構成
 本展の全体の構成は、大きく二つの部からなり、以下のように細部に分かれる。
 Ⅰ ルネサンスから18世紀まで  1.ドイツとネーデルラントの絵画/2.イタリア絵画(聖母子、聖書の主題、ヴェネツィア共和国の絵画)/3.黄金時代のオランダ絵画/4.スペイン絵画――黄金時代からゴヤまで/5.ネーデルラントとイタリアの静物画/6.17-18世紀のヨーロッパの都市と風景/7.17-18世紀のハンガリー王国の絵画芸術/8.彫刻
 Ⅱ 19世紀・20世紀初頭  1.ビーダーマイアー/2.レアリスム――風俗画と肖像画/3.戸外制作の絵画/4.自然主義/5.世紀末――神話、寓意、象徴主義/6.ポスト印象派/7.20世紀初頭の美術――表現主義、構成主義、アール・デコ

 会場をめぐると、そのコレクションの豊潤さに驚かされる。ルカス・クラーナハ(父)(1472~1553年)による風刺のきいた《不釣り合いなカップル 老人と若い女》(1522年)や、エル・グレコ(本名ドメニコス・テオトコプーロス)(1541~1614年)の描いた深い境地の《聖小ヤコブ(男性の頭部の習作)》(1600年頃)(両作品とも、ブダペスト国立西洋美術館所蔵)のオールドマスターの傑作など、16世紀ルネサンスから20世紀初頭のアヴァンギャルドまでの作品が、変化をもって展開し、息をつかせない。

 本展では、西洋とハンガリーの名作が入り混じるかたちで美術の流れをたどる。この記事では、第Ⅱ部から特にハンガリーの近代美術に絞って、いくつかの作品を紹介したい。独特の魅力を放っている。

 ■ハンガリーのこと/人名の呼び方、高名な音楽家も輩出
 ところでハンガリーというと、筆者が親しみを覚えるのが、人名の呼び方だ。ハンガリーでは日本語と同様に、人名は基本的に、姓、名の順序である。たとえばハンガリー生まれの19世紀ロマン派を代表する作曲家でピアニストのリスト(1811~86年)は、国際的にはフランツ・リストと呼ばれるが、ハンガリー語ではリスト・フェレンツだ。ハンガリーは音楽が盛んな国として有名である。リストのほかにも、作曲家で民俗音楽研究家でもあるバルトーク・ベーラ(1881~1945年)やコダーイ・ゾルターン(1882~1967年)ら名高い音楽家を輩出している。また本展には出展はないが、20世紀の美術家には、バウハウスで教鞭をとったモホリ=ナギ(ハンガリー語ではモホイ=ナジ・ラースロー)(1895~1946年)や、オプ・アートの先駆者ヴァザルリ(1908~97年)がいる。

 ■ハンガリー近代絵画を切り拓いたシニェイ・メルシェ:《紫のドレスの婦人》など
 「この絵の複製が私の祖母の部屋に飾ってありました。これは国中でとても愛されている名画で、『ハンガリーの《モナ・リザ》』と呼ばれています」。本展の内覧会でパラノビチ・ノルバート駐日ハンガリー大使館特命全権大使は、こう話された。シニェイ・メルシェ・パール(1845~1920年)が描いた《紫のドレスの婦人》(1874年、ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵)のことである(★以下、所蔵がハンガリー・ナショナル・ギャラリーの作品は、所蔵先の記載を略す)。鮮やかな紫の流行のドレスに身を包んだ若い女性が、青空のもと、黄色の花が咲き乱れる緑の野原で腰をかけている。草花を手にし、長い髪にはドレスとお揃いの紫の髪飾り。すぐ近くに黄色のリボンを巻いた大きな白い帽子が置かれる。女性の可憐さと芯の強さも同時に表現されている。画面全体に降り注ぐ陽光が感じられる。

 シニェイ・メルシェが若妻をモデルに描いた本作は、パリで第1回印象派展が開催された年の制作だ。ハンガリーの美術の歴史はヨーロッパとあまり変わらないが、そのなかでシニェイ・メルシェは、伝統的な絵画を打ち破ったハンガリーの近代美術の先駆者とされる。彼はミュンヘンで学び、1908年までパリを訪れたことはなかったが、ハンガリーで独自に、パリの印象派の画家たちが行ったことを実践した。つまり、移ろう光の表現のために絵具を混ぜずに純粋な色彩や補色による色彩効果を追求し、また神話や歴史画ではなく19世紀の同時代の近代生活や風景を主題とする、など。《紫のドレスの婦人》では、紫、黄、緑の純粋な色彩を併置。しかし彼の作品はその斬新さゆえ、美術批評家からすぐに理解を得られず、評価されたのは19世紀末になってからだった。本作は、特に一般大衆に絶大な人気を博し、今日に至るまでポスターや切手などに多用されている。

 シニェイ・メルシェが描いた作品は、神話に登場する人物ではない裸婦を描いた《ヒバリ》(1882年)や独創的な画題である《気球》(1878年)も出品されている。

 ■国際的名声を得たムンカーチ:《フランツ・リストの肖像》《ほこりっぽい道Ⅱ》など
 シニェイ・メルシェと同世代で、早くに成功し国際的な名声を得たハンガリーの巨匠がいる。ムンカーチ・ミーハイ(1844~1900年)である。《フランツ・リストの肖像》(1886年)は、ハンガリー出身のピアニストで音楽家リスト最晩年の74歳の肖像画だ。ピアノの鍵盤に左手を置き、静かにこちらを見つめるリスト。42歳のムンカーチは、パリのムンカーチ邸を訪れた老音楽家の威厳と豊かな人生の達成をも生き生きと描写した。この4カ月後にリストは世を去った。リストは1882年、展覧会のため故国に帰国したムンカーチと親交を結び、彼のために「ハンガリー狂詩曲第16番」を作曲している。30歳以上年の離れた二人が敬意をもって交流し、互いに創作を行ったことを知り、心が温まる思いがした。

 ムンカーチはブダペスト、ウィーン、ミュンヘンで修業後、ギュスターヴ・クールベ(1819~77年)から影響を受けたレアリスムの傑作《死刑囚の独房》(1870年)(★本展に出品無し)によってパリのサロンでメダルを受賞した。召使いの少女や村人を描いた《泉のそばの少女》や《「村の英雄」のための習作(テーブルに寄りかかる二人の若者)》(ともに1874年)はその系譜にある。彼は1874年に男爵の未亡人と結婚し、その後パリの豪奢な邸宅で上流社会の人々との社交生活を送った。ブルジョアの華やかな生活を細部まで描写した《パリの室内(本を読む女性)》(1877年)のような大衆好みのサロン絵画も数多く制作。どの作品にも共通するのは卓抜の筆遣いである。そのなかで風景画の《ほこりっぽい道Ⅱ》(1874年以降)は異彩を放つ。自然の大気現象を描き、格別の境地にある。

 ■「ハンガリーのナビ」リップル=ローナイの作品
 縦長の画面に、白い水玉模様の洒落たドレスの女性が立っている。等身大の女性の身振りのなんと軽快で優雅なことか。これはリップル=ローナイ・ヨージェフ(1861~1927年)が描いた《白い水玉のドレスの女性》(1889年)である。色数を抑え、本質のみを捉える。同じ画家による《赤ワインを飲む私の父とピアチェク伯父さん》(1907年)は、強烈な赤や黄などの色彩が太い輪郭内に塗り分けられ、平坦な画面を構成する。男たちの表情がいい。

 リップル=ローナイはミュンヘンで修業後、1887年からパリに滞在してムンカーチの助手となった。その後ナビ派のグループに迎えられ、「ハンガリーのナビ」と呼ばれた。1901年以降は主に故国で活動。ナビ派とは、19世紀末にポール・ゴーガン(1848~1903年)に学び新しい芸術を目指したピエール・ボナール(1867~1947年)らパリの若い芸術家の集団だ。その特徴は反写実、象徴主義、装飾性である。《白い水玉のドレスの女性》は、リップル=ローナイが初期からナビ派へ移行する時期のもの。後者はナビ派らしい作品だ。

 ■チョントヴァーリ:不思議な《アテネの新月の夜、馬車での散策》
 会場を巡っていて、《アテネの新月の夜、馬車での散策》(1904年)の前でなんとも不思議な衝撃を受けた。画家はチョントヴァーリ・コストカ・ティヴァダル(1853~1919年)。もと薬剤師だった。画面上部の夜空は月をはさんで青色からピンク色に美しく変容する。大きな建物と前を馬車で行く人たちの中央部分だけ光が当たり、ほかは両側の糸杉を含めて影になっている。上方にアテネの神殿が見える。きわめて素朴な描写なのだが、リズミカルであり、画面の外に限りなく続く物語や壮大な世界を感じさせる。本展のカタログによると、チョントヴァーリは巨大な風景画も描いているという。ほかの作品も見てみたくなった。

 ■ハンガリーの歴史
 最後にハンガリーの歴史をおおまかにたどっておこう。ハンガリーは、マジャル人が9世紀にロシアのウラル山脈の中・南部から移動し、現在の場所に定住したとされる。1000年頃、ハンガリー王国が成立し、中世に版図を広げた。15世紀後半にマーチャーシュ王がルネサンスの花を咲かせたが、16世紀にはハプスブルク家によるハンガリー王位の継承やオスマン帝国の進出によって版図は三分割された。18世紀には全土がハプスブルグ帝国の支配下に入る。1867年にオーストリア=ハンガリー二重帝国となるが、第一次世界大戦で敗戦の結果、オーストリアと分離。第二次世界大戦後、1948~89年は社会主義体制をとる。2004年にEUに加盟した。
 
 本展をめぐると、ハンガリーという国が私たちに近づいてきてくれるようだ。あちこちに驚きがある。森を歩くように本展を楽しんでほしい。


【参考文献】
1) 編集=国立新美術館 宮島綾子/中江花菜、ブダペスト国立西洋美術館&ハンガリー・ナ
ショナル・ギャラリー パブレーニ・アーグネシュ/ベーニ・アンドレア、日本経済新聞社文化事業部:『日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念 ブダペスト国立西洋美術館&ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト――ヨーロッパとハンガリーの美術400年(展覧会カタログ)』、発行=日本経済新聞社、2019年。

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2020年1月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。


写真1 会場風景。
シニェイ・メルシェ・パール《紫のドレスの婦人》、1874年、
ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真2 会場風景。
右は、ムンカーチ・ミハーイ《フランツ・リストの肖像》、1886年、
ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー。
左奥は、ロツ・カーロイ《春――リッピヒ・イロナの肖像》、1894年、
ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真3 会場風景。
左は、ムンカーチ・ミハーイ《ほこりっぽい道Ⅱ》、1874年以降、
ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー。
右奥は、クロード・モネ《トゥルーヴィルの防波堤、干潮》、
1870年、ブダペスト国立西洋美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真4 会場風景。
右は、リップル=ローナイ・ヨージェフ《白い水玉のドレスの女性》、1889年、
ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー。
左は、レオ・プッツ《牧歌》、1890年頃、
ブダペスト国立西洋美術館。(撮影:I.HOSOKAWA)

写真5 会場風景。
リップル=ローナイ・ヨージェフ《赤ワインを飲む私の父とピアチェク伯父さん》、1907年、
ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真6 会場風景。
左は、チョントヴァーリ・コストカ・ティヴァダル《アテネの新月の夜、馬車での散策》、1904年、
ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー。右は、グラーチ・ラヨシュ《魔法》、1906~07年、
ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー。
(撮影:I.HOSOKAWA)
 

【展覧会名】
日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念 
ブダペスト国立西洋美術館&ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 
ブダペスト――ヨーロッパとハンガリーの美術400年
Treasures from Budapest: European and Hungarian Masterpieces
from the Museum of Fine Arts, Budapest and the Hungarian National Gallery

Japan-Hungary Friendship 150 th Anniversary

【会期・会場】
開催中~2020年3月16日 国立新美術館 企画展示室1E
電話:03-5777-8600 (ハローダイヤル) 
[展覧会詳細] https://budapest.exhn.jp

※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。