建築家や設計事務所から建築模型を預かり、保管・展示をする「建築倉庫」。海外の美術館に寄贈されたり破棄されることも多かったという建築模型を寺田倉庫が保管し公開している。

　建築模型の倉庫は2016年、寺田倉庫が倉庫会社の強みを生かして「展示しながら保管する場所」として始まった。紙や木、アクリル、金属などさまざまな素材で作られる建築模型の経年変化を最小限に抑えるために、一年を通して室温や湿度、照明などの保管環境を徹底的に管理する。室温を一定に保つため、見学人数も制限されている。2023年４月には展示スペースを拡張してリニューアルオープンした。

　保管する600点以上の建築模型から常時100点以上を展示する。長く保管しているものから日々入れ替わるものまで、その時に建築家が預けているものを展示するので、何が見られるかはその時次第。模型と言っても数人がかりで運ぶほどのサイズのものが多く、それぞれの事務所で保管していくのは難しいだろうと想像する。

　国立競技場の設計に携わった隈研吾建築都市設計事務所の模型も多数保管する。国内外で多数の建築設計を手掛け、模型の数も膨大だろう。展覧会の際に必要な模型を取り出すなど、日々入れ替わっているという。

　倉庫の雰囲気が楽しい。展示棚の下段には段ボール箱が並び、設計事務所から運び込まれたそのままの様子から、設計現場に近づいたような、事務所を覗いたようなそんな感覚になり、設計者が身近になっていく。この箱の中にはどんな模型が入っているのだろうと想像すると楽しい。たくさんの設計者の思いや汗、各地で巨大な構造物となった建築の原点がこの空間に一堂に会しているのを肌で感じ、圧倒される。

　建築模型は設計の過程で作られた検討用模型、完成形や理想とする建築を表現したプレゼンテーション模型、建築の骨組みである構造を抜き出した構造模型などさまざまな用途や過程で作られる。いろいろな種類の模型が並び、建築が作られるプロセスを感じることができる。「建築模型は専門家じゃなくても建築の魅力に入りやすく、建築に触れていただく最初の入口としていい媒体」と同館ディレクターは話す。

　知っている建築の模型と出合うのも嬉しく、知らない建築もまた興味深い。こうして建築の全貌を眺めることができるのも模型だからできること。一方で、細部の精巧なつくりや表現も改めて感心する。
　
　また、ここでは香山壽夫の「東京・四谷聖イグナチオ教会（計画案）」のように実際には建てられなかったアンビルトの模型も見ることができる。アンビルトの建築にとって、模型が最終的な姿だと思うと感慨深い。

　同館が発行する「建築倉庫新聞」がまた面白い。建築家にとっての模型についての思いを読むと、それぞれの建築家が模型に対して強い思いを持ち、建築模型がいかに建築家にとって重要なものであるかが伝わってくる。建築家の伊藤寛は「僕にとってのクリエイティブの魂」（第一号）と表現する。また、模型作りに使う素材と道具の紹介など、これまでなかなか知ることのなかった視点で建築模型を感じるのも新鮮。さらに建築に関わるさまざまな取り組みを行う人のインタビューなどもあって、読む者の建築の世界を広げてくれる。その充実した内容に、「建築文化を伝えたい」という同館の思いが伝わってくる。
　
　建築模型はミニチュアのように縮小サイズの世界を楽しむのも魅力だが、建築倉庫にはそれだけではない建築の世界に触れる魅力がある。
　
*トップ画像 MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
左から「道の駅ましこ」「SHIFT」
　
執筆・写真撮影（記載のあるものを除く）：堀内まりえ
（文中敬称略）
＊写真撮影は主催者の許可を得て撮影しています。
　
参考資料
「建築倉庫新聞」第一号　2022年10月 WHAT MUSEUM/建築倉庫
「建築倉庫新聞」第二号　2023年１月 WHAT MUSEUM/建築倉庫