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須藤玲子:NUNOの布づくり

開催中〜2024/05/06

水戸芸術館現代美術ギャラリー、広場

茨城県・水戸市

春の江戸絵画まつり ほとけの国の美術

開催中〜2024/05/06

府中市美術館

東京都・府中市

【特別展】花・flower・華 2024 ―奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら―

開催中〜2024/05/06

山種美術館

東京都・渋谷区

古代メキシコ -マヤ、アステカ、テオティワカン

開催中〜2024/05/06

国立国際美術館

大阪府・大阪市

小金沢健人×佐野繁次郎ドローイング/シネマ

開催中〜2024/05/06

神奈川県立近代美術館 鎌倉別館

神奈川県・鎌倉市

第5回「私の代表作」展

開催中〜2024/05/12

ホキ美術館

千葉県・千葉市

ライトアップ木島櫻谷 ― 四季連作大屏風と沁みる『生写し』

開催中〜2024/05/12

泉屋博古館東京

東京都・港区

イヴ・ネッツハマー ささめく葉は空気の言問い

開催中〜2024/05/12

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

皇室のみやび―受け継ぐ美― 第3期「近世の御所を飾った品々」

開催中〜2024/05/12

皇居三の丸尚蔵館

東京都・千代田区

開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z

開催中〜2024/05/12

東京都庭園美術館

東京都・港区

ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ

開催中〜2024/05/12

国立西洋美術館

東京都・台東区

国宝・燕子花図屏風 デザインの日本美術

開催中〜2024/05/12

根津美術館

東京都・港区

春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ

開催中〜2024/05/12

長野県立美術館

長野県・長野市

モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン

開催中〜2024/05/19

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

版画の青春 小野忠重と版画運動 ―激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち―

開催中〜2024/05/19

町田市立国際版画美術館

東京都・町田市

HELLO! コレクション ZOZO×千葉県立美術館

開催中〜2024/05/19

千葉県立美術館

千葉県・千葉市

子の日図屏風と宮廷文化

開催中〜2024/05/19

遠山記念館

埼玉県・比企郡川島町

企画展《歌舞音曲鑑 北斎と楽しむ江戸の芸能》

開催中〜2024/05/26

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

百年後芸術祭 -内房総アートフェス-

開催中〜2024/05/26

芸術祭(市原市・木更津市・君津市・袖ケ浦市・富津市の内房総5市)

千葉県・市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の内房総5市

特別展 雪舟伝説―「画聖(カリスマ)」の誕生―

開催中〜2024/05/26

京都国立博物館

京都府・京都市

月岡芳年 月百姿

開催中〜2024/05/26

太田記念美術館

東京都・渋谷区

金屏風の祭典 ——黄金の世界へようこそ

開催中〜2024/06/02

岡田美術館

神奈川県・箱根町

日本の山海

開催中〜2024/06/02

松岡美術館

東京都・港区

卒寿記念 人間国宝 鈴木藏の志野展

開催中〜2024/06/02

国立工芸館

石川県・金沢市

川瀬巴水 旅と郷愁の風景

開催中〜2024/06/02

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

1950〜60年代の日本画―造形への挑戦

開催中〜2024/06/02

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

遠距離現在 Universal / Remote

開催中〜2024/06/03

国立新美術館

東京都・港区

第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」

開催中〜2024/06/09

芸術祭(横浜美術館、旧第一銀行横浜支店、BankART KAIKO、クイーンズスクエア横浜、元町・中華街駅連絡通路)

神奈川県・横浜市

記憶:リメンブランス-現代写真・映像の表現から

開催中〜2024/06/09

東京都写真美術館

東京都・目黒区

BankART Life7「UrbanNesting:再び都市に棲む」

開催中〜2024/06/09

BankART Station

神奈川県・横浜市

企画展「北斎と感情」

開催中〜2024/06/09

北斎館

長野県・小布施町

名作展「大画面の奔流―川端龍子の『会場芸術』再考」

開催中〜2024/06/09

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

特別展「法然と極楽浄土」

開催中〜2024/06/09

東京国立博物館

東京都・台東区

静嘉堂文庫竣工100年 特別展「画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎」

開催中〜2024/06/09

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

平野杏子展 – 生きるために描きつづけて

開催中〜2024/06/09

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

空海 KŪKAI ―密教のルーツとマンダラ世界

開催中〜2024/06/09

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

青山悟 刺繍少年フォーエバー

開催中〜2024/06/09

目黒区美術館

東京都・目黒区

没後120年 エミール・ガレ展 奇想のガラス作家

開催中〜2024/06/09

渋谷区立松濤美術館

東京都・渋谷区

特別展「大哺乳類展3−わけてつなげて大行進」

開催中〜2024/06/16

国立科学博物館

東京都・台東区

茶の湯の美学 ―利休・織部・遠州の茶道具―

開催中〜2024/06/16

三井記念美術館

東京都・中央区

ベル・エポックー美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に

開催中〜2024/06/16

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

サントリー美術館コレクション展 名品ときたま迷品

開催中〜2024/06/16

サントリー美術館

東京都・港区

昭和モダン×百段階段 ~東京モダンガールライフ~

開催中〜2024/06/16

ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財 「百段階段」

東京都・目黒区

宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO

開催中〜2024/06/16

東京オペラシティアートギャラリー

東京都・新宿区

板倉鼎・須美子展

開催中〜2024/06/16

千葉市美術館

千葉県・千葉市

高橋由一から黒田清輝へ ―明治洋画壇の世代交代劇―

開催中〜2024/06/16

栃木県立美術館

栃木県・宇都宮市

ここに いても いい リトゥンアフターワーズ 山縣良和と綴るファッション表現のかすかな糸口

開催中〜2024/06/16

アーツ前橋

群馬県・前橋市

“オモシロイフク”大図鑑

開催中〜2024/06/22

文化学園服飾博物館

東京都・渋谷区

「どうぶつ百景 江戸東京博物館コレクションより」展

開催中〜2024/06/23

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

令和6年度初夏展「殿さまのスケッチブック」

開催中〜2024/06/23

永青文庫

東京都・文京区

シンフォニー・オブ・アート — イメージと素材の饗宴

開催中〜2024/06/23

群馬県立館林美術館

群馬県・館林市

驚異の細密表現展 ―江戸・明治の工芸から現代アートまで―

開催中〜2024/06/23

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

没後70年 戦争を越えて―写真家ロバート・キャパ、愛と共感の眼差し―

開催中〜2024/06/23

東京富士美術館

東京都・八王子市

カール・アンドレ 彫刻と詩、その間

開催中〜2024/06/30

DIC川村記念美術館

千葉県・佐倉市

特別企画展「熊谷守一美術館39周年展 守一、旅を描く。」

開催中〜2024/06/30

豊島区立 熊谷守一美術館

東京都・豊島区

民藝 MINGEI—美は暮らしのなかにある

開催中〜2024/06/30

世田谷美術館

東京都・世田谷区

創刊50周年記念 花とゆめ展

2024/05/24〜2024/06/30

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52 階)

東京都・港区

KAGAYA 星空の世界 天空の贈り物

2024/05/01〜2024/07/01

そごう美術館

神奈川県・横浜市

三島喜美代―未来への記憶

2024/05/19〜2024/07/07

練馬区立美術館

東京都・練馬区

石岡瑛子 I デザイン

開催中〜2024/07/07

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

Beautiful Japan 吉田初三郎の世界

2024/05/18〜2024/07/07

府中市美術館

東京都・府中市

ふたり 矢部太郎展

開催中〜2024/07/07

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

MOTコレクション 歩く、赴く、移動する 1923→2020/Eye to Eye-見ること

開催中〜2024/07/07

東京都現代美術館

東京都・江東区

ホー・ツーニェン エージェントのA 

開催中〜2024/07/07

東京都現代美術館

東京都・江東区

Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展

開催中〜2024/07/07

東京都現代美術館

東京都・江東区

【特別展】犬派?猫派? ―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―

2024/05/12〜2024/07/07

山種美術館

東京都・渋谷区

TOPコレクション 時間旅行 ― 千二百箇月の過去とかんずる方角から

開催中〜2024/07/07

東京都写真美術館

東京都・目黒区

企画展 歌と物語の絵 ―雅やかなやまと絵の世界

2024/06/01〜2024/07/21

泉屋博古館東京

東京都・港区

藤田嗣治 エコール・ド・パリの時代 1918~1928年

開催中〜2024/07/23

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

「石川九楊大全」

2024/06/08〜2024/07/28

上野の森美術館

東京都・台東区

国芳の団扇絵 ―猫と歌舞伎とチャキチャキ娘

2024/06/01〜2024/07/28

太田記念美術館

東京都・渋谷区

企画展「未来のかけら 科学とデザインの実験室」

開催中〜2024/08/12

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2

東京都・港区

生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界

2024/06/01〜2024/08/25

東京都庭園美術館

東京都・港区

特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト —神奈川沖浪 裏の誕生と軌跡—」

2024/06/18〜2024/08/25

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

2024/05/21〜2024/08/25

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙

2024/06/11〜2024/08/25

国立西洋美術館

東京都・台東区

企画展「旅するピーナッツ。」

開催中〜2024/09/01

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝

開催中〜2024/09/01

森美術館

東京都・港区

AOMORI GOKAN アートフェス 2024 「つらなりのはらっぱ」

開催中〜2024/09/01

アートフェス(芸術祭)( 青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館、十和田市現代美術館)

青森県

伊藤潤二展 誘惑

開催中〜2024/09/01

世田谷文学館

東京都・世田谷区

音を観る ―変化観音と観音変化身―

開催中〜2024/09/01

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

アートキャンプ白州 2024 Camp and Art in Each Heart!

2024/07/06〜2024/09/01

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

エドワード・ゴーリーを巡る旅

2024/07/06〜2024/09/01

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

カルダー:そよぐ、感じる、日本

2024/05/30〜2024/09/06

麻布台ヒルズ ギャラリー

東京都・港区

日本のまんなかでアートをさけんでみる

開催中〜2024/09/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」

2024/07/17〜2024/09/08

東京国立博物館

東京都・台東区

開館20周年記念 山梨放送開局70周年 平山郁夫 -仏教伝来と旅の軌跡

開催中〜2024/09/09

平山郁夫シルクロード美術館

山梨県・北杜市

フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線

2024/06/22〜2024/09/23

SOMPO美術館

東京都・新宿区

空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン

2024/07/13〜2024/09/23

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

吉田克朗展 ものに、風景に、世界に触れる

2024/07/13〜2024/09/23

埼玉県立近代美術館

埼玉県・さいたま市

印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵

2024/07/06〜2024/09/29

東京富士美術館

東京都・八王子市

梅津庸一 クリスタルパレス

2024/06/04〜2024/10/06

国立国際美術館

大阪府・大阪市

大地に耳をすます 気配と手ざわり

2024/07/20〜2024/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

レガシー ―美を受け継ぐ モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ

2024/06/18〜2024/10/13

松岡美術館

東京都・港区

企画展「作家の視線― 過去と現在、そして…」

2024/05/23〜2024/11/11

ホキ美術館

千葉県・千葉市

Exhibitions

エミール・ガレ ― 自然の蒐集

ガレの創造の源泉とは? 箱根のポーラ美術館で7月16日まで。

 ■ヘッケル博士
 (( ヘッケル博士! 
    わたくしがそのありがたい証明の
    任にあたつてもよろしうございます))
 これは、宮沢賢治(1896~1933年)が1924年に発表した詩集「春と修羅」のなかの「青森晩歌」にある言葉だ。この部分だけだとわかりにくいが、亡くなった妹に対面する賢治の悲痛な思いが伝わってくる。このヘッケル博士とは、ドイツの有名な生物学者エルンスト・ヘッケル(1834~1919年)のこと。ヘッケルの著作は、エミール・ガレ(1846~1904年)にも多大な影響を与え、ガレに新しい世界を開かせることになる。

 ■ガレと自然、ガレの多面性/光る会場構成
 フランスのアール・ヌーヴォーを代表する工芸作家エミール・ガレ。そのガラス工芸の全貌を紹介する展覧会が、自然に囲まれた箱根のポーラ美術館で開催中だ。モネ、ルノワール、ピカソなどの名作を所蔵することで知られるポーラ美術館は、ガレの作品も多数所蔵する。そのなかから厳選した60点を含め、総数約130点のガレのガラス工芸の傑作が、本展に出品されている。ガレは植物や昆虫や水生動物などをモティーフとし、高度な技術の粋を尽くし、工芸を卓抜なる芸術作品に昇華させた。そして万博でグランプリを受賞するなど、当時から高い評価を得た。

 本展覧会は、ガレの創造の源泉である自然を森と海からアプローチし、ガレと博物学の関係に注目する。そして彼の初期から晩年までの作品の変遷を追う。巧みな会場構成が光る。会場ではガレの生命感あふれる繊細な芸術を満喫できるとともに、それらが学術的基盤、文学の教養、また優れた経営手腕などガレの多面性の産物であることを教えられる。

 なお、アール・ヌーヴォーとは「新しい芸術」の意で、19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパを中心に開花した芸術運動・様式である。建築、絵画、彫刻、工芸の領域に共通して展開し、装飾と美術の融合を目指した。名称の由来は1895年にパリに開店した美術商ジークフリート・ビングの店の名だ。その表現の特徴は、自然界の動植物のもつ流麗な有機的曲線の再構成である。象徴主義や唯美主義への傾倒がみられる。アール・ヌーヴォーはそれまでの異国の美術や過去の芸術の模倣が乱立する状況に抗おうとするものだった。

 ●展覧会構成 本展の構成は、以下のように四つの章ともう一つからなる。
 第1章 初期―エナメル彩の魅力/第2章 神秘の森/第3章 驚異の海/自然の蒐集―ガレと博物学/第4章 晩年―象徴主義を超えて

 ■初期のエナメル彩の作品
 展覧会場入り口前で、ガレが制作した奇妙な魅力をもつ陶器の犬(《犬型陶器》、1865~1890年代、ポーラ美術館)が迎えてくれた。会場にはいると、ガレの初期のガラスの器が整然と並んでいる。フランス東部のナンシーに生まれ、同地で活躍したガレは、1867年に21歳で父のガラス業・製陶業に正式に加わり、1877年に事業を受け継いだ。初期の仕事の特徴は、透明ガラスに練り絵具を筆で彩色したエナメル彩である。イスラム文化圏でみられるアラベスク文様や、生涯を通してモティーフとした植物や昆虫も多く描かれている。

 《バッタ文花器》(エミール・ガレ、1878年頃、サントリー美術館)(※工芸作品の作者は全てエミール・ガレ。以下、略)は、下部が球形の器。涼し気な淡青色の透明ガラスに、バッタが生き生きと、また白菊が流れるように描かれ、口縁に唐草模様が取り巻く。金彩の部分は日本の蒔絵のようだ。素地には斜めに凹凸の畝が走り、輝く様子は水中を思わせる。これはガレが自ら開発した技術による月光色ガラスで、大変な人気を博した。1878年のパリ万博に出品した《鯉文花器》は、『北斎漫画』から図案を借用したものだが、これも月光色ガラスの作品でパリ装飾美術館の買い上げとなった。

 《菊花文花器》(1900年頃、ポーラ美術館)はカラフルだ。上に向かってやや細くなる形の器に、黄色と青色の大輪の菊が繊細に描き分けられ、上部に蝶が舞う。口縁にも蝶が連なる。背景には霞がたなびき、その間にひび割れのような文様が広がる。本作もエナメル彩と金彩を併用。ガレは日本の造形の特質を取り入れるジャポニスムの代表的な芸術家としても知られる。彼は日本を「キクの国」と称したが、菊の花は百合などともに日本趣味を示す代表的な植物だった。ガレは、ナンシーに1885年から3年間農商務省の技師として日本から留学していた高島北海(1850~1931年)と親交をもち、彼から日本の植物について教示を受けた。

 ■ガレの森/「わが根源は森の奥にあり」
 「わが根源は森の奥にあり」とのガレの言葉は、その工房の木製門扉に彫りこまれていた。これは自身の創造の源を示すとともに、循環する生態系をも意味するといわれる。

 《昆虫文脚付杯》(1889年、個人蔵)は、「悲しみの花瓶」として1889年のパリ万博に出品したシリーズの一つ。すすけたような黒ガラスが独特の趣だ。透明ガラスに2つの暗色のガラスを被せている。正面に天に向かうスズメバチが、また他にも昆虫が描かれ、底面にはウィリアム・シェイクスピア(1564~1616年)の『真夏の夜の夢』からの引用が刻まれている。ガレは工芸と文学を繋ぎ、その世界を広げ、高めた。また彼は1885年、中国の玉や清朝のガラス作品をベルリンで詳しく調査した。清朝乾隆帝時代の被せガラス製鼻煙壺を蒐集も行っている。ガレの黒ガラスシリーズは、中国のガラスの影響の可能性が指摘されている。

 《ケシ文花器》(1900年頃、ポーラ美術館)では、器の形態がケシの実を表す。白い素地に伸びていくケシの蕾や葉の緑色が映える。さらに暗色で枯れ落ちる花びらが重なる。植物の生涯を一つの花器に結晶させた。花びらの彫刻的な表現は、ガレが寄木細工に倣って考案したガラスでの象嵌技法マルケトリーによるもの。ガレは特許を取得し、1900年のパリ万博での作品でも使用し、1889年のパリ万博に続いて2回目のグランプリを受賞した。

 ガレの活躍の地ロレーヌ地方のナンシーは園芸が盛んだった。その契機となったのは1830年代に著名な植物学者ドミニク=アレクサンドル・ゴドロン博士が赴任したこと。ガレは少年期にゴドロンと知り合い、その指導のもとに植物学にのめりこんだ。1873年に自宅の庭園造営を父に任されたが、1万平方メートルの面積の庭園はガレ没後には2500種の植物が蒐集されていた。これらは作品の生きたモティーフだった。ガレは芸術家であるとともに植物学者でもあった。ロレーヌ地方の野生ランの進化の研究を行い、1900年の万博の際に開催された国際植物学会で発表している。植物に関する専門的著作も多く執筆した。

 ■ガレの海/ヘッケルの著作
 生涯にわたって森の生き物や生態を主題としたガレだったが、1899年から亡くなるまでの最晩年の5年間は海の生き物や生態に興味をもち、作品に取り入れた。なんと、クラゲもある。《くらげ文大杯》(1898~1900年、サントリー美術館〈菊池コレクション〉)は、上部には被せガラスによりクラゲと海藻を、下部には渦巻く深海の海流を、色を曇らせるパティネの技法で表現している。《クラゲ文花瓶》(1900~04年、北澤美術館)は、明るい色彩だ。大きなクラゲが花瓶一杯に身体を広げてユラユラしている。また、《海藻と海馬文花器》(1905年頃、ポーラ美術館)は、透明ガラスと赤の被せガラスの間に緑色で海藻を示す帯を入れ、表面にエッチングで海馬(タツノオトシゴ)が彫られている。海馬は海中で潮に流れされないよう海藻に尾を巻きつけているそうだ。その生態をガレは熟知していた。本作の口縁部にシャルル・ボードレール(1821~67年)による『悪の華』のなかの「人間と海」の詩文が彫られている。

 ガレのこのような海への好奇心を直接刺激したのは、ドイツの生物学者で進化論者であったエルンスト・ヘッケル(1834~1919年)が著わした『自然の芸術形態』(1899~1904年に配本)だと考えられている。ガレはこの著作を所有していた。本記事の冒頭に記したヘッケル博士の著作である。ヘッケルはここに鉢クラゲなど有機的な曲線をもつ海生無脊椎動物の姿を多数掲載した。対称性を重視して構成し配置した見事な図版だ。本展ではその図版が50点展示されている。

 ■博物標本とともに/同時代の絵画とともに見る
 ガレの工芸作品と、モティーフとなった植物や昆虫や貝や鉱物などの博物標本が並ぶ展示は壮観である。このアイデアには脱帽した。ガレが作品に取り入れた生き物は同定できるようだ。例えば、流麗になびく草花の上に蝶が舞う様子を表現した《草花文耳付花器》(1895年頃、ポーラ美術館)の前に、東京大学総合研究博物館所蔵のアオタテハモドキなどの美しい蝶の標本が置かれている。比べてみると、ガレは蝶を正確に描写していたことがわかる。工房の弟子たちにもそのことを厳しく指導していたそうだ。しかしながら、両者が全く同じではないことも確かだ。ガレの器にある蝶は動いている。ひらひらと空を舞っているように見える。

 また、ガレと同時代に同じモティーフを描いた絵画とも並べての展示も行われており、興味深い。時代背景も浮かび上がる。驚かされたことの一つは、ポーラ美術館が誇るクロード・モネ(1840~1926年)の二つの絵画《睡蓮の池》(1899年、油彩/カンヴァス、ポーラ美術館)と《睡蓮》(1907年、油彩/カンヴァス、ポーラ美術館)の間に、ガレの睡蓮の花瓶と杯が挟まれて展示されている。なんと贅沢なことだろう。

 ■晩年の生と死を暗示する作品/装飾の立体化
 《蘭文八角扁壺》(1900年頃、北澤美術館)は、桃色のカトレアの花がそのまま壺に貼りついたようだ。圧倒的な立体感。裏には朽ちたカトレアが表現されている。花の部分はアプリカシオンの技法によるものだ。一つの壺に生と死を込めている。独特の色彩や立体的な表現は、中国清朝のガラス工芸の影響もあるのだろうか。《蜻蛉文脚付杯》(1904年頃、ヤマザキマザック美術館)は、宇宙をも思わせる深い青色の地に蜻蛉(トンボ)が浮かぶ。よく見るともう一匹蜻蛉がグラヴュールの技法で彫り出されている。最晩年に制作された本作は、格別の詩情がある。ガレは生涯にわたり、はかないものとしての蜻蛉を好み、数多の作品の主題とした。『北斎漫画』の蜻蛉の図版や、山本芳翠(1850~1906年)がジュディト・ゴーチエの和歌の訳に挿絵を描いた『蜻蛉集』(1885年)の影響も考えられる。ガレは1904年に白血病で亡くなったが、死期を前にした最晩年、親しい人たちに蜻蛉の脚付杯を形見として贈っていたという。
 本展を巡り、箱根の自然の森を散策したくなった。

 ※ピカソ作《海辺の母子像》に関する新発見 なお、ポーラ美術館所蔵のパブロ・ピカソ(1881~1973年)の青の時代の代表作《海辺の母子像》(1902年、油彩・カンヴァス、ポーラ美術館)について、新しい発見があったことが、先日発表された。ポーラ美術館は、 米国のワシントン・ナショナル・ギャラリー、 カナダのアートギャラリー・オブ・オンタリオとの共同調査を行い、ハイパースペクトル・イメージングによる調査で、作品の下層部に1902年1月18日のフランスの新聞紙の貼り付けがあることを発見した。本作は同館の常設展示会場で8月中旬まで展示されている。


【参考文献】
1) ポーラ美術館学芸部(担当:工藤弘二・山塙菜未)編集:『エミール・ガレ―自然の蒐集』(展覧会カタログ)、西野嘉章・大澤啓・佐藤恵子・池田まゆみ・工藤弘二・山塙菜未 執筆、ポーラ美術館 発行、2018年。
2) 天沢退二郎 編:『新編 宮沢賢治詩集』、岩波書店(岩波文庫)、1991年。

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2018年6月)


※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。



写真1 会場風景。
左手前は、エミール・ガレ《蜻蛉文脚付杯》、1904年頃、ヤマザキマザック美術館。
最晩年の作品である。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真2 会場風景。
エミール・ガレ《ケシ文花器》、1900年頃、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真3 会場風景。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真4 会場風景。
右は、エミール・ガレ《クラゲ文花瓶》、1900~04年、北澤美術館。
左は、エルンスト・ヘッケル著『自然の芸術形態』より「鉢クラゲ類」、1899~1904年、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真5 会場風景。
エミール・ガレ《蘭文八角扁壺》1900年頃、北澤美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真6 展覧会会場の入り口にて。
エミール・ガレ《犬型陶器》、1865~1890年代、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会名】
エミール・ガレ ― 自然の蒐集
Emile Gallé:Collecting Nature
【会期・会場】

2018年3月17日 ~ 7月16日 ポーラ美術館
電話:0460-84-2111(代表)
[展覧会詳細]http://www.polamuseum.or.jp/sp/emile_galle/
[ポーラ美術館HP]http://www.polamuseum.or.jp/

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