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手塚治虫「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-

開催中〜2025/05/25

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)

東京都・港区

没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園

開催中〜2025/05/25

太田記念美術館

東京都・渋谷区

DESIGN MUSEUM JAPAN展 2025~集めてつなごう 日本のデザイン~

開催中〜2025/05/25

国立新美術館

東京都・港区

アート・アーカイヴ資料展XXVII 「交信詩あるいは書簡と触発:瀧口修造と荒川修作/マドリン・ギンズ」

開催中〜2025/05/30

慶應義塾大学アート・センター(三田キャンパス 南別館 1階)

東京都・港区

開館50周年記念「1975 甦る 新橋 松岡美術館 ―大観・松園・東洋陶磁―」

開催中〜2025/06/01

松岡美術館

東京都・港区

ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ

開催中〜2025/06/01

アーティゾン美術館

東京都・中央区

すべてを描く萬(よろず)絵師 暁斎 ―河鍋暁斎記念美術館所蔵

開催中〜2025/06/01

中之島 香雪美術館

大阪府・大阪市

イメージの魔術師 エロール・ル・カイン展

開催中〜2025/06/01

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

皇室の美と山梨~皇居三の丸尚蔵館の名品~

開催中〜2025/06/01

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展 ノー・バウンダリーズ

開催中〜2025/06/01

国立国際美術館

大阪府・大阪市

横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」

開催中〜2025/06/02

横浜美術館

神奈川県・横浜市

ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ

開催中〜2025/06/03

CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京・京橋TODA BUILDING 6階)

東京都・中央区

「総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」展

開催中〜2025/06/08

東京都写真美術館

東京都・目黒区

マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート

開催中〜2025/06/08

森美術館

東京都・港区

西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館

開催中〜2025/06/08

国立西洋美術館

東京都・台東区

企画展示「20世紀イタリアの巨匠 マリノ・マリーニ 新収蔵の版画作品を中心に」

開催中〜2025/06/08

群馬県立近代美術館

群馬県・高崎市

遥かなるイタリア 川村清雄と寺崎武男

開催中〜2025/06/08

目黒区美術館

東京都・目黒区

特別展「古代DNA―日本人のきた道―」

開催中〜2025/06/15

国立科学博物館

東京都・台東区

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

開催中〜2025/06/15

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」

開催中〜2025/06/15

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」

開催中〜2025/06/15

京都国立博物館

京都府・京都市

国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示 三井家の五月人形

開催中〜2025/06/15

三井記念美術館

東京都・中央区

ラーメンどんぶり展 「器」からはじめるラーメン×デザイン考

開催中〜2025/06/15

21_21 DESIGN SIGHT

東京都・港区

特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」

開催中〜2025/06/15

東京国立博物館

東京都・台東区

開館記念展III(急) 花ひらく茶と庭園文化―即翁と、二万坪松平不昧 夢の茶苑

開催中〜2025/06/15

荏原 畠山美術館

東京都・港区

春の特別展「食の器と道具」

開催中〜2025/06/20

国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館(ICU湯浅八郎記念館)

東京都・三鷹市

花と暮らす展

開催中〜2025/06/22

国立工芸館

石川県・金沢市

横尾忠則 連画の河

開催中〜2025/06/22

世田谷美術館

東京都・世田谷区

総合開館30周年記念 TOPコレクション 不易流行

開催中〜2025/06/22

東京都写真美術館

東京都・目黒区

初夏展「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻『領内名勝図巻』―」

開催中〜2025/06/22

永青文庫

東京都・文京区

藤田嗣治 ―7つの情熱

開催中〜2025/06/22

SOMPO美術館

東京都・新宿区

名作展「川端龍子の描き出した世界 生誕140年を迎えて」

開催中〜2025/06/22

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

篠原一男 空間に永遠を刻む——生誕百年 100の問い

開催中〜2025/06/22

TOTOギャラリー・間

東京都・港区

黒の奇跡・曜変天目の秘密

開催中〜2025/06/22

静嘉堂文庫美術館@丸の内

東京都・千代田区

箱根-横須賀連携企画第3弾 アートでつなぐ山と海 箱根・芦ノ湖 成川美術館コレクション展 海辺のミュージアムで楽しむ日本画のきらめき

開催中〜2025/06/22

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

石田尚志 絵と窓の間

開催中〜2025/06/22

アーツ前橋 ギャラリー

群馬県・前橋市

特別企画展「めぐる いのち 熊谷守一美術館40周年展」

開催中〜2025/06/29

豊島区立 熊谷守一美術館

東京都・豊島区

ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展

開催中〜2025/06/29

森アーツセンターギャラリー

東京都・港区

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2025/06/29

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

まど・みちおのうちゅう―うちゅうの あんなに とおい あそこに さわる―

開催中〜2025/06/29

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス

開催中〜2025/06/29

東京都現代美術館

東京都・江東区

MOT Plus ハン・ネフケンス財団との共同プロジェクト シャハナ・ラジャニ

開催中〜2025/06/29

東京都現代美術館

東京都・江東区

日本画コレクション再発見と 片岡球子「蔦屋重三郎の浮世絵師たち」

開催中〜2025/06/29

神奈川県立近代美術館 葉山

神奈川県・葉山町

民藝 MINGEI–美は暮らしのなかにある

開催中〜2025/06/29

千葉県立美術館

千葉県・千葉市

鹿島茂コレクション フランスのモダングラフィック展 —20世紀初頭の風刺画からアール・デコ挿絵本、1930年代グラフィック雑誌まで

開催中〜2025/06/29

群馬県立館林美術館

群馬県・館林市

GLAM―黒柳徹子、時代を超えるスタイル―

開催中〜2025/06/29

そごう美術館

神奈川県・横浜市

リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s

開催中〜2025/06/30

国立新美術館

東京都・港区

「この、原美術館ARCという時間芸術」第2期

開催中〜2025/07/06

原美術館ARC

群馬県・渋川市

どうぶつ展 わたしたちはだれ? どこへむかうの?

開催中〜2025/07/06

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

橋口五葉のデザイン世界

2025/05/25〜2025/07/13

府中市美術館

東京都・府中市

岡崎乾二郎 而今而後 ジコンジゴ Time Unfolding Here

開催中〜2025/07/21

東京都現代美術館

東京都・江東区

開館30周年記念 MOTコレクション 9つのプロフィール 1935→2025

開催中〜2025/07/21

東京都現代美術館

東京都・江東区

江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ

2025/05/30〜2025/07/21

千葉市美術館

千葉県・千葉市

開館30周年記念 日本美術とあゆむ―若冲・蕭白から新版画まで

2025/05/30〜2025/07/21

千葉市美術館

千葉県・千葉市

企画展「死と再生の物語(ナラティヴ)―中国古代の神話とデザイン―」

2025/06/07〜2025/07/27

泉屋博古館東京

東京都・港区

【特別展】生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち

開催中〜2025/07/27

山種美術館

東京都・渋谷区

士郎正宗の世界展~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~

開催中〜2025/08/17

世田谷文学館

東京都・世田谷区

移転開館5周年記念 重要無形文化財指定50周年記念 喜如嘉の芭蕉布展

2025/07/11〜2025/08/24

国立工芸館

石川県・金沢市

ほとけに随侍するもの

開催中〜2025/08/31

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

藤田嗣治 絵画と写真

2025/07/05〜2025/08/31

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金

開催中〜2025/09/07

ラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyo

東京都・江東区

オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ—モダンを拓いた2人の巨匠

2025/05/29〜2025/09/07

三菱一号館美術館

東京都・千代田区

「銀河鉄道999」50周年プロジェクト 松本零士展 創作の旅路

2025/06/20〜2025/09/07

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)

東京都・港区

特集展よみがえる絵画・展示室内開催イベント「びじゅつかんであそぼ@てんじしつ」

2025/06/21〜2025/09/07

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

高畑勲展 ̶日本のアニメーションを作った男。

2025/06/27〜2025/09/15

麻布台ヒルズ ギャラリー

東京都・港区

小湊鉄道開業 100 周年記念展「古往今来・発車オーライ!」

開催中〜2025/09/15

市原湖畔美術館

千葉県市原市

原良介 サギ子とフナ子 光のそばで

2025/06/14〜2025/09/15

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

藤田嗣治 猫のいる風景

開催中〜2025/09/28

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

知られざる秀逸コレクション 東京・足立区立郷土博物館所蔵浮世絵名品展

2025/05/24〜2025/10/05

北斎館

長野県・小布施町

開館50周年記念 おいでよ!松岡動物園

2025/06/17〜2025/10/13

松岡美術館

東京都・港区

Sereneの写実 森本草介・島村信之2人展

2025/05/28〜2025/11/10

ホキ美術館

千葉県・千葉市

企画展「ゴッホ・インパクト—生成する情熱」

2025/05/31〜2025/11/30

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー

2025/05/31〜2025/11/30

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

長沢芦雪《菊花子犬図》 18世紀(江戸時代) 絹本・彩色 個人蔵

Exhibitions

特別展 癒やしの日本美術
― ほのぼの若冲・なごみの土牛 ―

心安らぐ日本美術が並ぶ

 国内外で不安定な事態が続く。そんななか我々の心は何を求めるのか。
 日本美術の名作を数多所蔵する山種美術館で開催中の本展には、若冲、芦雪、土牛をはじめ、江戸時代から平成までの名品60作が揃う。会場でゆっくりと作品を眺めた。「わあ、可愛い!」との囁き声も聞こえてくる。

本展の構成

 本展は以下4つの章で構成されている。
 第1章 江戸時代の「ゆるかわ」 若冲・芦雪/第2章 癒やしの風景・心地よい音/第3章 かわいい動物・愛しい子ども・親しい人との時間/第4章 心が解き放たれる絵画

伊藤若冲《伏見人形図》

 江戸中期に京都画壇で活躍した伊藤若冲(1716~1800)による《伏見人形図》(1799〈寛政11〉年、山種美術館)は、素朴で愛らしい。40代からほぼ10年をかけた彼の代表作 国宝《動植綵絵》(30幅)の細密極まり緊張感みなぎる描法とは、随分異なる。伏見人形は、京都の伏見稲荷大社近くで、桃山時代頃から現在も販売されている土人形。この地の粘土で作られ焼き上げて、胡粉や岩絵具で着彩される。
 
 若冲は、このほのぼのとした趣をもつ伏見人形を40年間描き続けた。最晩年に描かれた本作は、いくつか残る七布袋の一つ。軍配を手にした七人の布袋がリズミカルに並び立つ構図も少ない色数の配色も絶妙だ。菩薩来迎図のようでもある。一人ずつの佇まい、細い線で描かれた眉と眼と瞳、小さな手足。どれも微笑ましい。若冲は土人形らしさを表現するため、光沢のある絵具と、ざらりとした質感の絵具とを使い分けている。人気の画題だったのだろうが、本作から若冲自身の伏見人形への愛着が感じられる。若冲は晩年、伏見稲荷大社に近い黄檗宗寺院石峯寺の門前に居を構えた。

会場風景(以下同様)。伊藤若冲《伏見人形図》 1799(寛政11)年 紙本・彩色 山種美術館
会場風景(以下同様)。伊藤若冲《伏見人形図》 1799(寛政11)年 紙本・彩色 山種美術館
伊藤若冲《伏見人形図》部分 1799(寛政11)年 紙本・彩色 山種美術館
伊藤若冲《伏見人形図》部分 1799(寛政11)年 紙本・彩色 山種美術館

 若冲は自宅で鶏を飼い、観察し、数多描いた。水墨画である《鶏図》(18世紀〈江戸時代〉、個人蔵)は、勢いある卓抜な筆遣いで、正面を向く鶏をデフォルメして描く。近くに寄ってみた。若冲のユーモアに頬が緩む。

左から、伊藤若冲《鶏図》 18世紀(江戸時代)。伊藤若冲《蜻蛉と鶏図》 18世紀(江戸時代)。共に、紙本・墨画 個人蔵
左から、伊藤若冲《鶏図》 18世紀(江戸時代)。伊藤若冲《蜻蛉と鶏図》 18世紀(江戸時代)。共に、紙本・墨画 個人蔵

長沢芦雪《菊花子犬図》

 長沢芦雪(1754~99)も江戸時代中期、京都画壇で活躍した。豪快で機知に富んだ作品や、夏目漱石の小説『草枕』に登場する恐ろしげな《山姥図》など多彩な作品を残したが、可愛い子犬の絵も多く描いた。《菊花子犬図》(18世紀〈江戸時代〉、個人蔵)では9匹の子犬がじゃれ合う。あどけない目、ふわふわした毛並み、さまざまな仕草、尻尾。どれも可愛い。白犬は輪郭線をとり、その他は薄墨で体毛を描く。子犬の絵は芦雪の師であり、人気実力とも当代随一の絵師・円山応挙(1733~95)が得意とした。芦雪はそれを踏襲したわけだが、芦雪の描く子犬たちは無邪気さが格別。傍らの白菊黄菊も楽しそうに揺らぐ。
 
 なお、画面左に押された印章「魚」は、氷の中の魚を表し、氷形印といわれる。本作の印は右上が欠けているが、これは芦雪自身が欠けさせたといわれ、1792(寛政4)年以降の作品を示すとされる。

長沢芦雪《菊花子犬図》 18世紀(江戸時代) 絹本・彩色 個人蔵
長沢芦雪《菊花子犬図》 18世紀(江戸時代) 絹本・彩色 個人蔵

小川芋銭《農村春の行事絵巻》

 大正時代に描かれた小川芋銭(おがわうせん)(1868~1938)の《農村春の行事絵巻》(1912~26年頃〈大正時代〉、山種美術館)は、墨画淡彩の絵巻。農村の正月から種蒔きまでの生活を軽妙な筆致で描写する。以下は、村の石仏に老婆たちがお参りしている場面。本作からは人々の温かな交流や誠実な生活ぶりが伝わり、見る者に幸福感をもたらす。芋銭は茨城牛久沼畔に住み、その自然と生活を独自の画風で描いた。

小川芋銭《農村春の行事絵巻》 1912~26年頃(大正時代) 紙本・墨画淡彩 山種美術館
小川芋銭《農村春の行事絵巻》 1912~26年頃(大正時代) 紙本・墨画淡彩 山種美術館

川合玉堂《山雨一過》

 川合玉堂(1873~1957)による《山雨一過》(1943〈昭和18〉年、山種美術館)を眺めていると晴朗な気持ちになる。雨後の水色の空のもと、風を受けながら馬子と馬が峠を行く。情感をこめて自然と人の生活を描いた玉堂の傑作だ。

右手前から、川合玉堂《山雨一過》 1943(昭和18)年 絹本・彩色。山本丘人《風景》 1959(昭和34)年 紙本・彩色。共に、山種美術館
右手前から、川合玉堂《山雨一過》 1943(昭和18)年 絹本・彩色。山本丘人《風景》 1959(昭和34)年 紙本・彩色。共に、山種美術館

川﨑小虎《ふるさとの夢》

 四曲一隻の屛風《ふるさとの夢》(1928〈昭和3〉年、山種美術館)は、抒情性あふれる作品を残した川﨑小虎(1886~1977)の作。柔らかな色彩が夢のようで、惹かれて近づくと、手前の草むらにまどろむ角兵衛獅子の子供が、まさに夢を見ている情景。両親のこと。故郷での遊び。その胸の内が夢となって現れ、画面のあちこちに浮かぶ。画家の優しさが重なる。

左から、 川﨑小虎《ふるさとの夢》 1928(昭和3)年 紙本・彩色 山種美術館。奥村土牛《兎》 1936(昭和11)年 絹本・彩色 山種美術館。珍しい毛の長いアンゴラ兎を写生して制作。
左から、 川﨑小虎《ふるさとの夢》 1928(昭和3)年 紙本・彩色 山種美術館。奥村土牛《兎》 1936(昭和11)年 絹本・彩色 山種美術館。珍しい毛の長いアンゴラ兎を写生して制作。

奥村土牛《浄心》

 画家自身の心を解き放つために描いた作品も紹介されている。奥村土牛(おくむらとぎゅう)(1889~1990)作《浄心》(1957〈昭和32〉年、山種美術館)は、師である小林古径(こばやしこけい)(1883~1957)が亡くなった折、以前何度か訪ねた中尊寺の秘仏である一字金輪坐像(いちじきんりんざぞう)を写生して制作された。土牛は、本作について以下のように綴っている。「先生ほどの高潔な人がこの世に何人いるだろうかと思い、私は悲しくてならなかった。(…中略…)中尊寺の管長にお願いして許可を得た。駅前の旅館に泊って毎日拝観と写生に通ったが、ただ目の前にある仏像を写すというだけでなく、私の心の奥にある仏像を描きたいと思った。それで題名も、「浄心」とつけた」(文献3:151~152頁)。
 
 土牛は、16歳で梶田半古(1870~1917)に入門し、塾頭であった古径に日本画の手ほどきを受け、半古没後は、古径の大森・馬込にある画室に住み込み、引き続き指導を受けた。なお、土牛の雅号は父が「土牛、石田を耕す」との寒山詩からつけてくれたもの。彼はその名の通り精進を続け、淡い色調によるおおらかな境地を打ち立てた。

左から、奥村土牛《浄心》 1957〈昭和32〉年 紙本・彩色 山種美術館。奥村土牛《蓮》 1961(昭和36)年 紙本・彩色 山種美術館。《蓮》は法隆寺近くの池に咲く蓮。他界された日本美術院の重鎮だった齋藤隆三への哀悼の意も込めて描かれた。
左から、奥村土牛《浄心》 1957〈昭和32〉年 紙本・彩色 山種美術館。奥村土牛《蓮》 1961(昭和36)年 紙本・彩色 山種美術館。《蓮》は法隆寺近くの池に咲く蓮。他界された日本美術院の重鎮だった齋藤隆三への哀悼の意も込めて描かれた。

 本展を廻り、自然のなかで深呼吸をしたような気分になった。
 なお、館内の「Cafe椿」では作品に合わせて創作した和菓子も味わえる。
 
【参考文献】
1)佐藤康宏:『若冲伝』河出書房新社、2019年
2)山種美術館学芸部(山﨑妙子/高橋美奈子/橋淵豊子)編集:『山種美術館所蔵 奥村土牛作品集』、山種美術館、2010年
3)奥村土牛:『牛のあゆみ』中公文庫、中央公論新社、1988年
 
執筆・撮影:細川いづみ(HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2023年12月)
※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。
※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。

特別展 癒やしの日本美術 ― ほのぼの若冲・なごみの土牛 ―
 
【会期・会場】
2023年12月2日(土)~2024年2月4日(日)  山種美術館(東京・渋谷区)
※詳細は公式サイトでご確認ください。
公式サイト https://www.yamatane-museum.jp/