有機的建築を提唱したライト。その全貌に迫る
アメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(1867~1959)の先駆的な点を取り上げるなかで全貌を紹介する大規模な展覧会が開催中だ。彼は、ル・コルビュジエ(1887~1956)、ミース・ファン・デル・ローエ(1886~1960)とともに近代建築の三巨匠といわれる。ライトは91年の長い生涯で、水平性を強調した一連のプレイリー・ハウスから、ユニティ・テンプル、自邸兼教育の場タリアセン及びタリアセン・ウェスト、カウフマン邸(落水荘)、グッゲンハイム美術館など多様な建築を設計した。日本との関係は深く、東京の帝国ホテル二代目本館は前期から中期にかけての代表作だ。ライトは一貫して、自然との共生を、環境とのつながりを重視する「有機的建築」を唱えた。
本展監修は、ケン・タダシ・オオシマ ワシントン大学教授及びジェニファー・グレイ氏(フランク・ロイド・ライト財団副代表、タリアセン・インスティチュート ディレクター)。昨年より3館を巡回する。本記事は東京のパナソニック汐留美術館で取材した。
会場をまず足速に廻ってみる
内容の濃い展覧会だ。まずはさっと会場全体を廻ってみた。ライトによる精緻で美しいドローイングが多数展示され、建築模型、家具、書籍なども見える。正円のデザインをいくつか発見。洗練されていて楽しげだ。水平のイメージが強いライト建築だが、驚くべき超高層も!
以下、帝国ホテルを中心に紹介したい。
熱心な浮世絵コレクター/建築ドローイングへの影響
米国ウィスコンシン州で生まれ育ったライトは、長じてシカゴのアドラー&サリヴァン事務所で修業し、その後独立。1893年に開催されたシカゴ万博の日本館「鳳凰殿」は平等院鳳凰堂を模したもの。ライトはその建築現場を時々訪れたとされる。彼にとって初めての海外は1905年の日本旅行だった。浮世絵を多数入手し、帰国後浮世絵展を開催し、解説を出版。ライトは熱心な浮世絵のコレクター、ディーラーであり、日本美術や建築に親しんだ。本展会場でライトの建築ドローイングが歌川広重の浮世絵と並び、影響が読み取れる。手前に大きく植栽を描き、建築と自然との調和を主張。それは彼のドローイングの特徴となる。
帝国ホテル二代目本館:大谷石/すだれ煉瓦/浮き筏基礎/総合芸術
1913年、ライトは帝国ホテル支配人 林愛作と会い、2回目の訪日を果した。その後ライトは1922年まで延べ3年間日本に滞在し、帝国ホテルを設計。生涯で最も大規模な建築となる。ライトは「自分では成功したと思っている。あの時点でできたことは、すべてあの作品に込められている」と記した(※文献2『自然の家』266頁)。
全体構成は日本の寺院建築から影響が指摘されるが、本展では帝国ホテルに、メソアメリカやアジアを含む広い世界の交差を見る。ライトは第一案を練ったあと、素材を変換した。鉄筋コンクリートの上に張る中空のタイル「すだれ煉瓦」を開発し、これを日本でありふれた、しかし変幻自在の大谷石によって補強する第2案を考案し、実施した。
筆者は以前、愛知県犬山市の博物館明治村で、一部だけ移築された帝国ホテルを見学した。大谷石でおおわれた重厚な外観にもまた内部にも圧倒され、そして心踊った。正面玄関を入ると、吹き抜けロビーの空間が広がり、幾何学文様の装飾に満たされていた。
館内には日本初のホテル内アーケードが設置され、最上階は宴会場「孔雀の間」を設け、全体にわたって相当複雑な空間だったようだ。ライトは椅子やテーブル、食器もデザインし、総合芸術としての建築を実現させた。電気設備の充実も特筆される。
1923年9月1日の竣工披露式典当日、関東大震災が起こった。ホテルは奇跡的に倒壊を免れた。ライトは設計に当たって、ホテルを、もと入江だった日比谷の軟弱地盤の「海に浮かぶ船」と考え、基礎の杭を短くし、建物20mごとに伸縮継ぎ手をつくる「浮き筏基礎」という耐震構造を考案していたのだ。シカゴの湿地での建築設計で学んだ成果だった。
ライトによる帝国ホテル二代目本館は、「東洋の宝石」と称され、親しまれたが、1970年大阪万博を見据え、玄関ロビー部分のみ博物館明治村に移築し、他は解体された。なお初代帝国ホテルは1890年開業。現在建つ帝国ホテルは三代目で、高橋貞太郎(1892~1970)の設計。
そして四代目の帝国ホテル新本館が、2036年完成を目指して進行中である。設計者に活躍中の田根剛(1979~)が選ばれ、2022年にイメージパースが発表された。
水平性と垂直性/農業を重視する未来構想
ライトの初期のプレイリー・ハウスは、水平に広がる近代的な住宅群。低層で広々として、各部屋が貫入しあい、テラスは庭に溶け込み、屋根が張り出す。一方、ライトは垂直方向へ向かう優れた高層建築も設計した。《ジョンソン・ワックス・ビル》では樹状柱を考案。《ジョンソン・ワックス研究タワー》は、エレベーター・階段・水回りの構造コアを地中に伸ばした主根構造で支えて、内部仕切りをなくし、カーテンウォールによって日照を確保した。
ライトは未来構想も描いた。セピア色インクで描かれた《リヴィング・シティ構想》は細部まで面白い。蜂のような形の乗り物が空中を飛びかう先に高層ビルが見える。ライトに特徴的なのは高層ビルが田園地帯に在ること。あくまで農業と共存する。手前にやはり植栽が描かれる。《ブロードエーカー・シティ》については、ディヴィド・ロメロ氏による新映像が見られる。
【参考文献】
1)ケン・タダシ・オオシマ、ジェニファー・グレイ 監修・著、豊田市美術館、パナソニック汐留美術館、青森県立美術館 編集:『帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト―世界を結ぶ建築』、マシュー・スコンスバーグ、田中厚子、田根剛、水上優 執筆、鹿島出版会、2023年
2)フランク・ロイド・ライト著、富岡義人 訳:『自然の家』、ちくま学芸文庫、筑摩書房、2010年
執筆・撮影:細川いづみ(HOSOKAWA Fonte Idumi)
(2024年1月)
※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。
※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。
帝国ホテル二代目本館100周年
フランク・ロイド・ライト―世界を結ぶ建築
The Wright Imperial Hotel at 100: Frank Lloyd Wright and the World
【会期・会場】
2023年10月21日(土)~12月24日(日) 豊田市美術館(愛知県・豊田市)
2024年1月11日(木)~3月10日(日) パナソニック汐留美術館(東京・港区)
★2月17日(土)以降の土曜日・日曜日・祝日、及び3月1日(金)以降は、
日時指定予約が必要になります。ご注意ください。当館ウェブサイトからご予約ください。
(なお、当日空きがあれば指定予約なしで入場可)
★3月4日(月)~3月9日(土)は開館時間を10:00~20:00に延長。(3月6日は開館)
(最終入館は閉館時間の30分前)
※詳細は公式サイトでご確認ください。
パナソニック汐留美術館公式サイト https://panasonic.co.jp/ew/museum/
2024年3月20日(水・祝)~5月12日(日) 青森県立美術館(青森県・青森市)