詳細はミュージアムのオフィシャルサイトなどでご確認ください。

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TOKAS-Emerging

開催中〜2025/05/04

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

百花ひらく-花々をめぐる美-

開催中〜2025/05/06

皇居三の丸尚蔵館

東京都・千代田区

近藤亜樹:我が身をさいて、みた世界は

開催中〜2025/05/06

水戸芸術館現代美術センター

茨城県・水戸市

hideって誰?FINAL PSYCHOVISION hide MUSEUM Since 2000

開催中〜2025/05/07

そごう美術館

神奈川県・横浜市

【特別展】桜 さくら SAKURA 2025 ―美術館でお花見!

開催中〜2025/05/11

山種美術館

東京都・渋谷区

松山智一展 FIRST LAST

開催中〜2025/05/11

麻布台ヒルズ ギャラリー(麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階)

東京都・港区

「この、原美術館ARCという時間芸術」第1期

開催中〜2025/05/11

原美術館ARC

群馬県・渋川市

春の江戸絵画まつり 司馬江漢と亜欧堂田善 かっこいい油絵

開催中〜2025/05/11

府中市美術館

東京都・府中市

特別展 はにわ

開催中〜2025/05/11

九州国立博物館

福岡県・太宰府市

特別展「国宝・燕子花図屏風-デザインの日本美術-」

開催中〜2025/05/12

根津美術館

東京都・港区

特別展「学習院コレクション 華族文化 美の玉手箱 芸術と伝統文化のパトロネージュ」

開催中〜2025/05/17

霞会館記念学習院ミュージアム

東京都・豊島区

カラーズ — 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ

開催中〜2025/05/18

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

企画展「ライトアップ木島櫻谷II― おうこくの線をさがしに 併設四季連作屏風」

開催中〜2025/05/18

泉屋博古館東京

東京都・港区

略画 — はずむ筆、おどる線—

開催中〜2025/05/18

北斎館

長野県・小布施町

戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見

開催中〜2025/05/18

東京都庭園美術館

東京都・港区

三鷹天命反転中!!──荒川修作+マドリン・ギンズの死なないためのエクササイズ

開催中〜2025/05/18

三鷹市美術ギャラリー

東京都・三鷹市

開館30周年記念展 ブラチスラバからやってきた!世界の絵本パレード

開催中〜2025/05/18

千葉市美術館

千葉県・千葉市

生誕100年 中村正義展-その熱と渦-

開催中〜2025/05/18

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

手塚治虫「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-

開催中〜2025/05/25

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)

東京都・港区

没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園

開催中〜2025/05/25

太田記念美術館

東京都・渋谷区

アート・アーカイヴ資料展XXVII 「交信詩あるいは書簡と触発:瀧口修造と荒川修作/マドリン・ギンズ」

開催中〜2025/05/30

慶應義塾大学アート・センター(三田キャンパス 南別館 1階)

東京都・港区

開館50周年記念「1975 甦る 新橋 松岡美術館 ―大観・松園・東洋陶磁―」

開催中〜2025/06/01

松岡美術館

東京都・港区

ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ

開催中〜2025/06/01

アーティゾン美術館

東京都・中央区

すべてを描く萬(よろず)絵師 暁斎 ―河鍋暁斎記念美術館所蔵

2025/04/26〜2025/06/01

中之島 香雪美術館

大阪府・大阪市

イメージの魔術師 エロール・ル・カイン展

開催中〜2025/06/01

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

皇室の美と山梨~皇居三の丸尚蔵館の名品~

2025/04/26〜2025/06/01

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展 ノー・バウンダリーズ

開催中〜2025/06/01

国立国際美術館

大阪府・大阪市

横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」

開催中〜2025/06/02

横浜美術館

神奈川県・横浜市

ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ

開催中〜2025/06/03

CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京・京橋TODA BUILDING 6階)

東京都・中央区

「総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」展

開催中〜2025/06/08

東京都写真美術館

東京都・目黒区

マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート

開催中〜2025/06/08

森美術館

東京都・港区

西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館

開催中〜2025/06/08

国立西洋美術館

東京都・台東区

企画展示「20世紀イタリアの巨匠 マリノ・マリーニ 新収蔵の版画作品を中心に」

開催中〜2025/06/08

群馬県立近代美術館

群馬県・高崎市

遥かなるイタリア 川村清雄と寺崎武男

開催中〜2025/06/08

目黒区美術館

東京都・目黒区

特別展「古代DNA―日本人のきた道―」

開催中〜2025/06/15

国立科学博物館

東京都・台東区

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

開催中〜2025/06/15

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」

開催中〜2025/06/15

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」

開催中〜2025/06/15

京都国立博物館

京都府・京都市

国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示 三井家の五月人形

開催中〜2025/06/15

三井記念美術館

東京都・中央区

ラーメンどんぶり展 「器」からはじめるラーメン×デザイン考

開催中〜2025/06/15

21_21 DESIGN SIGHT

東京都・港区

特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」

2025/04/22〜2025/06/15

東京国立博物館

東京都・台東区

春の特別展「食の器と道具」

開催中〜2025/06/20

国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館(ICU湯浅八郎記念館)

東京都・三鷹市

花と暮らす展

開催中〜2025/06/22

国立工芸館

石川県・金沢市

横尾忠則 連画の河

2025/04/26〜2025/06/22

世田谷美術館

東京都・世田谷区

総合開館30周年記念 TOPコレクション 不易流行

開催中〜2025/06/22

東京都写真美術館

東京都・目黒区

初夏展「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻『領内名勝図巻』―」

2025/04/26〜2025/06/22

永青文庫

東京都・文京区

藤田嗣治 ―7つの情熱

開催中〜2025/06/22

SOMPO美術館

東京都・新宿区

名作展「川端龍子の描き出した世界 生誕140年を迎えて」

開催中〜2025/06/22

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

篠原一男 空間に永遠を刻む——生誕百年 100の問い

開催中〜2025/06/22

TOTOギャラリー・間

東京都・港区

黒の奇跡・曜変天目の秘密

開催中〜2025/06/22

静嘉堂文庫美術館@丸の内

東京都・千代田区

箱根-横須賀連携企画第3弾 アートでつなぐ山と海 箱根・芦ノ湖 成川美術館コレクション展 海辺のミュージアムで楽しむ日本画のきらめき

開催中〜2025/06/22

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

石田尚志 絵と窓の間

開催中〜2025/06/22

アーツ前橋 ギャラリー

群馬県・前橋市

特別企画展「めぐる いのち 熊谷守一美術館40周年展」

開催中〜2025/06/29

豊島区立 熊谷守一美術館

東京都・豊島区

ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展

2025/04/26〜2025/06/29

森アーツセンターギャラリー

東京都・港区

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2025/06/29

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

まど・みちおのうちゅう―うちゅうの あんなに とおい あそこに さわる―

2025/04/27〜2025/06/29

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス

2025/04/26〜2025/06/29

東京都現代美術館

東京都・江東区

MOT Plus ハン・ネフケンス財団との共同プロジェクト シャハナ・ラジャニ

2025/04/29〜2025/06/29

東京都現代美術館

東京都・江東区

日本画コレクション再発見と 片岡球子「蔦屋重三郎の浮世絵師たち」

開催中〜2025/06/29

神奈川県立近代美術館 葉山

神奈川県・葉山町

民藝 MINGEI–美は暮らしのなかにある

2025/04/22〜2025/06/29

千葉県立美術館

千葉県・千葉市

鹿島茂コレクション フランスのモダングラフィック展 —20世紀初頭の風刺画からアール・デコ挿絵本、1930年代グラフィック雑誌まで

2025/04/26〜2025/06/29

群馬県立館林美術館

群馬県・館林市

リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s

開催中〜2025/06/30

国立新美術館

東京都・港区

「この、原美術館ARCという時間芸術」第2期

2025/05/16〜2025/07/06

原美術館ARC

群馬県・渋川市

どうぶつ展 わたしたちはだれ? どこへむかうの?

開催中〜2025/07/06

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

橋口五葉のデザイン世界

2025/05/25〜2025/07/13

府中市美術館

東京都・府中市

岡崎乾二郎 而今而後 ジコンジゴ Time Unfolding Here

2025/04/29〜2025/07/21

東京都現代美術館

東京都・江東区

開館30周年記念 MOTコレクション 9つのプロフィール 1935→2025

2025/04/29〜2025/07/21

東京都現代美術館

東京都・江東区

企画展「死と再生の物語(ナラティヴ)―中国古代の神話とデザイン―」

2025/06/07〜2025/07/27

泉屋博古館東京

東京都・港区

【特別展】生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち

2025/05/17〜2025/07/27

山種美術館

東京都・渋谷区

士郎正宗の世界展~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~

開催中〜2025/08/17

世田谷文学館

東京都・世田谷区

ほとけに随侍するもの

2025/04/23〜2025/08/31

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金

開催中〜2025/09/07

ラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyo

東京都・江東区

オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ—モダンを拓いた2人の巨匠

2025/05/29〜2025/09/07

三菱一号館美術館

東京都・千代田区

高畑勲展 ̶日本のアニメーションを作った男。

2025/06/27〜2025/09/15

麻布台ヒルズ ギャラリー

東京都・港区

小湊鉄道開業 100 周年記念展「古往今来・発車オーライ!」

2025/04/26〜2025/09/15

市原湖畔美術館

千葉県市原市

藤田嗣治 猫のいる風景

開催中〜2025/09/28

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

知られざる秀逸コレクション 東京・足立区立郷土博物館所蔵浮世絵名品展

2025/05/24〜2025/10/05

北斎館

長野県・小布施町

開館50周年記念 おいでよ!松岡動物園

2025/06/17〜2025/10/13

松岡美術館

東京都・港区

企画展「ゴッホ・インパクト—生成する情熱」

2025/05/31〜2025/11/30

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

Exhibitions

国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展   

モネ、ルノワール、ゴッホ、ロダン…。
実業家・松方幸次郎が収集した西洋美術の名作の数々。
その100年の流転の運命を知る。

 東京・上野の国立西洋美術館は1959年6月10日に開館し、本年が60周年。人間でいうと還暦だ。松方コレクションを中心とする所蔵作品の質の高さは広く知られ、20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエ(1887~1965年)の設計によるその建築は2016年に世界遺産に指定された。通常、所蔵品は常設展で展示されている。名建築での名品揃いの常設展を好む方も多いのではないだろうか。9月23日まで国立西洋美術館で開催中の企画展である本展は、初めての方にも常設展を見慣れている方にも、楽しめる優れた内容だ。

 ■「ヨーロッパの油画の本物を集めて、日本に送って見せてやろう」
 国立西洋美術館の所蔵品の核は、神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いた松方幸次郎(まつかたこうじろう)(1866~1950年)が、渡欧中に収集してパリに残されていた西洋美術375点である。これらは、第二次世界大戦末期にフランス政府によって接収され、大戦後の1959年に一部を除いて日本に寄贈返却された。この時のフランス側の返却条件が、この松方のコレクションを保管し、展示するための美術館の設立だった。

 松方には、日本の多くの画家や人々のために美術館をつくりたい、との思いがあった。それは、国家的な大きな視野に立つものだった。当時、松方と共に画廊巡りをした若い美術史家の矢代幸雄(1890~1975年)が、著書『藝術のパトロン』(1958年)で、松方の次の言葉を紹介している。「日本に何千人の油画描きがいながら、その人たちはみんな本物のお手本を見ることもできずに、油画を一生懸命に描いて展覧会に出している。私はそれが気の毒なので、ひとつわしがヨーロッパの油画の本物を集めて、日本に送って見せてやろうと思っている」(※参考文献2の25頁)。そして松方は第一次世界大戦中の1916年からわずか10年ほどの間に、ロンドンやパリ、ベルリン、ミラノなどで西洋美術を約3000点収集。加えて約8000点の浮世絵をフランスから買い戻し、松方コレクションは総数1万点を超えた。しかし激動の時代のなかでその多くが散逸。焼失したものもあり、接収もされた。フランスから松方コレクションが寄贈返却され、国立西洋美術館が開館したのは、松方の没後から9年が経った年だった。

 松方コレクションを紹介する本展は、近年の新発見により深まった研究成果を踏まえ、海外の所蔵品も含めた約160作品、及び資料から、その形成と散逸の歴史をたどるものだ。

 ■展覧会構成
 本展は、プロローグ、8つの章、エピローグから構成されている。
プロローグ/Ⅰロンドン 1916-1918/Ⅱ第一次世界大戦と松方コレクション/Ⅲ海と船/Ⅳベネディットとロダン/Ⅴパリ1921-1922/Ⅵハンセン・コレクションの獲得/Ⅶ北方への旅/Ⅷ第二次世界大戦と松方コレクション/エピローグ

 ■ブラングィンによる《松方幸次郎の肖像》及び《共楽美術館構想俯瞰図、東京》
 国際的に活躍したイギリスの画家フランク・ブラングィン(1867~1956年)が描いた《松方幸次郎の肖像》(1916年、油彩・カンヴァス、国立西洋美術館)が、本展の最初の部屋に展示されている。打ち解けた様子の50歳頃の松方が、素早い筆致で描かれる。政府の要職にあった松方正義の三男として1866年に鹿児島に生まれた松方幸次郎は、アメリカ留学を経て30歳で神戸の川崎造船所社長となり、成功を遂げた。造船は通常は注文が来てから行うが、松方は第一次世界大戦による船舶需要の拡大を見越して、予めつくっておく「ストックボート」の大量生産を行った。彼は大戦中の1916年から2年間渡欧し、ロンドンを拠点に自社のストックボートの売り込みなどを行うと同時に、美術品の収集を開始した。この肖像画はその頃に制作された。

 ブラングィンは海や船、造船所などを主題とする絵画を得意とし、本展にも出品。松方とブラングィンは「船」という共通の興味でも固いつながりをもったようだ。矢代幸雄が、二人は「仲良さそうであった」と、上述書で記す。松方はブラングィン作品を多数所蔵したが、大部分は1939年のロンドンの倉庫火災により焼失してしまった。なお、このときに焼失した全作品のリストが近年発見された。

 松方は、美術館を設立したいとの構想をもっていた。彼は美術館のデザインをブラングィンに依頼していた。《共楽美術館構想俯瞰図、東京》(水彩・鉛筆、紙、国立西洋美術館)は、その図面の一枚だ。手前に噴水のある中庭を囲む本館が、奥に別館が見える。建設予定地は東京の麻布の松方家の所有地だった。設計図は1919年に日本に送られ、松方家の人々と油彩画家の黒田清輝(1866~1924年)らがこの美術館構想について話し合いをもったという。幻となった構想だが、ここまで具体的だったことに驚かされた。

 会場を進むと、松方がロンドンを拠点とする滞欧中に収集した絵画を上下2段・3段で展示する大空間に入る。イタリア・ルネサンス期の作品から、ラファエル前派、スイスのジョヴァンニ・セガンティーニ(1858~99年)の大作など。壮観である。

 ■ロダン芸術の集大成《地獄の門》:松方がブロンズ鋳造を初めて注文
 本展で、近代彫刻の巨匠オーギュスト・ロダン(1840~1917年)の彫刻作品が多数出品されている。松方は1918年、ロダン美術館館長を務めるレオンス・ベネディット(1859~1925年)を通してロダン美術館と契約を結び、ロダン彫刻を精力的に収集した。ベネディットは、松方の絵画収集にも協力。そして約400点の松方コレクションの絵画や彫刻作品群は、第二次世界大戦までロダン美術館の旧礼拝堂に保管された。

 国立西洋美術館の前庭の、向かって右側に設置されているロダン作《地獄の門》(1880~90年頃/1917年〈原型〉、1930~33年〈鋳造〉、ブロンズ、国立西洋美術館)も、本展の出品作品だ。高さ5m40㎝、幅4m近くの巨大サイズである。矩形内に苦悩する数多の人々を渦巻くように表現。ダンテの「神曲」を主題とするロダン芸術の集大成であり、本作から、やはり国立西洋美術館の前庭に設置されている《考える人》(1881~82年、ブロンズ、国立西洋美術館、※本作は拡大作である)などの単独像が生まれた。《地獄の門》は、建設が予定されていたフランスの装飾美術館の門の浮き彫として、1880年に制作が開始された。ブロンズ鋳造はロダンの生前には実現せず、1920年に松方が注文を出したことで初めて実現。しかし最初のブロンズは別の発注者の元に渡り、松方が入手したのは再鋳造のものだった。

 ■モネの《睡蓮》:モネから直接購入
 松方は1921年から22年、今度はパリを拠点にヨーロッパに滞在して作品収集を行った。重要作品が多く含まれる。印象派の巨匠クロード・モネ(1840~1926年)による《睡蓮》(1916年、油彩・カンヴァス、国立西洋美術館)は、松方が1921年にジヴェルニーにあるモネのアトリエを少なくとも二度訪れてモネから直接購入した十数点の作品の一つである。約2mの正方形に近い画面。池に浮かぶ睡蓮と水面に映る情景が混然一体となって描かれる。一見すると平面的だが、垂直の線が多数描かれ、次第に重層する姿が見えてきて、光や影が感じられ、絵の中に引き込まれる。これは現在、パリのオランジュリー美術館の二つの楕円形の部屋に展示されているモネ畢生の大装飾画の、関連作品に当たる。モネは、この大装飾画に関わる作品はいっさい手放さなかったのだが、本作は例外だった。松方のモネのアトリエへ訪問に、油彩画家の和田英作(1874~1959年)と共に同行した矢代幸雄は、80代の老モネと、松方との間の「親しみのある態度」を感じとったことを記している。

 ■モネの大作《睡蓮、柳の反映》:60年ぶりの発見。修復して公開
 松方は1921年、大装飾画に関連するもう一つの重要な作品を、モネから直接購入していた。縦約2m、横4m超の大作の《睡蓮、柳の反映》(1916年、油彩・カンヴァス、国立西洋美術館)である。この作品は長らく行方不明だったが、2016年にフランスのルーヴル美術館で60年ぶりに発見された。翌年にフランス政府から松方家に返還され、そして松方家より国立西洋美術館に寄贈された。しかし本作は発見時、劣化が激しく、カンヴァスの上部が欠失した無残な状態だった。これは他の松方コレクションと一緒にパリのロダン美術館旧礼拝堂に保管されていたが、第二次世界大戦が始まりドイツ軍の侵攻が迫るなか、保管を任されていた日置釭三郎が、郊外の村アボンダンの自宅に絵画群を疎開させた。本作の損傷は、その際に水や湿気によるものと推測されている。1944年、日置は松方コレクションを再びパリへ戻したが、終戦後にそれらは敵国人財産としてフランス政府に接収された。

 《睡蓮、柳の反映》が2016年に再発見されたことに重ねて、2017年7月にも驚くべきことが起こった。ロダン美術館に保管されていた松方コレクションの内348点を撮影した白黒のガラス乾板365枚が見つかったのだ。そこに《睡蓮、柳の反映》の作品全体を写したガラス乾板も含まれた。本展では、現存部分を修復した《睡蓮、柳の反映》が出品されている。なお、ガラス乾板をもとに作品全体を推定復元という方法によってデジタル復元したものも、会場入り口の前に展示。会場内でガラス乾板十数点も見られる。よくぞ撮影しておいてくれた、と思う。そして一連の発見。胸が熱くなる。

 ■ゴッホの傑作《アルルの寝室》:フランスから日本に返却されず
 フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90年)の傑作である《アルルの寝室》(1889年、油彩・カンヴァス、オルセー美術館)も出品されている。これは松方コレクションの白眉だったが、フランス政府に接収されたまま留め置かれ、現在はパリのオルセー美術館の所蔵である。本作は、ゴッホがアルル時代に住んだ「黄色い家」の寝室を描いたものだ。人物画などが架かる水色の壁や青色の扉に囲まれた部屋に、木製のがっしりしたベッドや机や椅子が置かれている。机の上には洗面器もある。明るく豊かな色彩の本作の前に立つと、力強い一筆一筆から画家の息づかいや意志が伝わってくる。本作は、ほぼ同じ3ヴァージョンのうちの最後のもの。ポール・ゴーガン(1848~1903年)との関係が破綻し、ゴッホがサン・レミの精神療養院への入院後、母のために描いた作品だった。

 松方は本作をパリのローザンベール画廊で入手したようだ。同行した矢代幸雄はこの稀代の傑作を見て興奮し、松方に入手するよう執拗にせがんだため、松方はうるさがる様子を見せた。しかし松方は後から買っておいてくれた。矢代は、こんな内容の記述を残している(参考文献2の41~44頁)。

 ■ルノワールの《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》:交渉により日本に返還
 松方はローザンベール画廊で、ピエール=オーギュスト・ルノワール(1841~1919年)の初期の代表作の一つである《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》(1872年、油彩・カンヴァス、国立西洋美術館)も購入した。本作は、フランスが接収後も留め置くことを主張したが、粘り強い交渉の結果、日本に返還された。

 縦1m56㎝、横約1m28㎝の大画面に、赤系の色の織物に座る薄い衣をまとった金髪の女性を中心とする3人の女性を斜めに配し、異国のハーレム(後宮)の情景を描く。しかし、モデルはパリジェンヌである。中央の女性はルノワールの恋人だった。この作品を制作した2年後にルノワールは印象派の仲間たちと活動を開始。そして彼が実際にアルジェリアを訪れたのは、その数年先のことだった。

 なお、松方の1921年からの滞欧については、ドイツの潜水艦の建造技術導入のための設計図入手という使命を密かに帯びていたといわれる。松方はその夏、ドイツやスイスを訪れ、フランス近代絵画のほかにエドヴァルド・ムンク(1863~1944年)などの作品を購入し、日本へ送っている。

 ■松方コレクションのゆくえ
 松方コレクションはその後、流転の運命をたどる。1927年、川崎造船所は昭和金融恐慌のあおりを受けて経営が破綻し、翌年に松方は社長を辞任。日本に送られ保管されていた松方コレクションは売り立てが始まり、散逸した。また1939年にはロンドンに保管していた収集作品が倉庫火災で灰燼に帰してしまった。

 最後に、松方コレクションの全体像を振り返ってみよう。松方が収集した美術品は、1910年代半ばから20年代半ばに購入され、1万点を超えるものだった。①ロンドンに預けていた約900点は、1939年の倉庫火災でほとんどが焼失。②パリで保管されていた約400点は、フランス政府に接収された。その内375点が日本に寄贈返還されて国立西洋美術館の所蔵となったが、20点はフランス政府が返還を拒否し、フランスに留め置かれた。少数だが、売却された作品もあった。③日本に送られていた西洋美術約1000点は、国内外に散逸。約8000点の浮世絵版画は、当時の帝室博物館(現在の東京国立博物館)の所蔵となった。

 会場で目前にする作品は一つ一つが波乱の生涯を送り、今ここに存在しているのだ。

 また、東京国立博物館の本館では、本展と連動して9月23日まで松方コレクションの浮世絵版画を展示中だ。こちらも逸品ぞろいである。


【参考文献】
1)陳岡めぐみ=責任編集・執筆、国立西洋美術館[袴田紘代、川口雅子]・読売新聞社東京本社文化事業部=編集:『国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展』(展覧会カタログ)、国立西洋美術館・読売新聞社東京本社・NHK・NHKプロモーション=発行、2019年
2) 矢代幸雄:『藝術のパトロン ― 松方幸次郎、原三溪、大原二代、福島コレクション』(中公文庫900)、中央公論新社、2019年 (※底本は、矢代幸雄:『藝術のパトロン』、新潮社、1958年)

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2019年9月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。

写真1 国立西洋美術館の会場風景(以下、同様)。
フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの寝室》、1889年、油彩・カンヴァス、オルセー美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真2 会場風景。
左から、フランク・ブラングィン《松方幸次郎の肖像》、1916年、油彩・カンヴァス、国立西洋美術館。
フランク・ブラングィン《共楽美術館構想俯瞰図、東京》、水彩・鉛筆、紙、国立西洋美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真3 オーギュスト・ロダン《地獄の門》、
1880~90年頃/1917年(原型)、1930~33年(鋳造)、
ブロンズ、国立西洋美術館。(撮影:I.HOSOKAWA)

写真4 会場風景。
左から、ハイム・スーティン《ページ・ボーイ》、1925年、油彩・カンヴァス、
パリ国立近代美術館・ポンピドゥーセンター。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》、
1872年、油彩・カンヴァス、国立西洋美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真5 展覧会開催中の国立西洋美術館の外観。
(撮影:I.HOSOKAWA)
 

【展覧会名】
国立西洋美術館開館60周年 松方コレクション展
THE MATSUKATA COLLECTION: A One-Hundred-Year Odyssey
【会期・会場】
2019年6月11日~9月23日 国立西洋美術館 (東京、上野公園)
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
[展覧会詳細] https://artexhibition.jp/matsukata2019/

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