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エルマーのぼうけん展

開催中〜2023/10/01

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ

開催中〜2023/10/02

国立新美術館

東京都・港区

モネ、ルノワール 印象派の光

開催中〜2023/10/09

松岡美術館

東京都・港区

名作展 画家と生活—川端龍子の晩年の作品から

開催中〜2023/10/09

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展

開催中〜2023/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

中之条ビエンナーレ2023

開催中〜2023/10/09

芸術祭(群馬県中之条町)

群馬県・中之条町

特別展「海ー生命のみなもとー」

開催中〜2023/10/09

国立科学博物館

東京都・台東区

企画展 楽しい隠遁生活 文人たちのマインドフルネス

開催中〜2023/10/15

泉屋博古館東京

東京都

企画展 甲冑・刀・刀装具 光村コレクション・ダイジェスト

開催中〜2023/10/15

根津美術館

東京都・港区

北島敬三「UNTITLED RECORDS : REVISITED + PORTRAITS」展

開催中〜2023/10/22

BankART Station

神奈川県・横浜市

北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023「物質的想像力と物語の縁起― マテリアル、データ、ファンタジー」

開催中〜2023/10/29

芸術祭(富山県富山市富岩運河沿い)

富山県・富山市

瞳の奥にあるもの -表情でみる人物画展-

開催中〜2023/11/05

ホキ美術館

千葉県・千葉市

堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春

開催中〜2023/11/05

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室

開催中〜2023/11/05

DIC川村記念美術館

千葉県・佐倉市

MOTコレクション 被膜虚実/特集展示 横尾忠則―水のように/生誕100年 サム・フランシス

開催中〜2023/11/05

東京都現代美術館

東京都・江東区

宇川直宏展 FINAL MEDIA THERA PIST @DOMMUNE

開催中〜2023/11/05

練馬区立美術館

東京都・練馬区

九谷焼の芸術祭 KUTANism 2023

2023/10/06〜2023/11/05

芸術祭(石川県小松市・能美市各所)

石川県・小松市、能美市

土方久功と柚木沙弥郎――熱き体験と創作の愉しみ

開催中〜2023/11/05

世田谷美術館

東京都・世田谷区

テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本

開催中〜2023/11/05

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展「めぐりあう大津絵―笠間日動美術館・小絲源太郎コレクションと 神戸女子大学古典芸能研究センター・志水文庫の大津絵」

開催中〜2023/11/05

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2023/11/05

そごう美術館

神奈川県・横浜市

東京の地場に発する国際芸術祭 東京ビエンナーレ2023

開催中〜2023/11/05

芸術祭(東京都心北東エリア〔千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア〕 、歴史的建築物、公共空間、学校、店舗屋上、遊休化した建物等)

東京都・千代田区、中央区、文京区、台東区

春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ

開催中〜2023/11/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館

開催中〜2023/11/12

芸術祭(奈良県 吉野町、下北山村、ほか予定)

奈良県・吉野町、下北山村、ほか予定

奥能登国際芸術祭2023

開催中〜2023/11/12

芸術祭(石川県珠洲市)

石川県・珠洲市

TOKAS Project Vol. 6 『凪ぎ、揺らぎ、』

2023/10/07〜2023/11/12

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

松本秋則+松本倫子「惑星トラリス」展

開催中〜2023/11/12

BankART KAIKO

神奈川県・横浜市

浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」

開催中〜2023/11/12

東京国立博物館

東京都・台東区

第75回 正倉院展

2023/10/28〜2023/11/13

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

北斗の拳40周年大原画展 ~愛をとりもどせ!!~

2023/10/07〜2023/11/19

森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)

東京都・港区

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

創造の現場― 映画と写真による芸術家の記録

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

秋の特別展「おまもりとハンコとコイン -古代オリエントの偉大なる小さきものたち-」

開催中〜2023/11/19

古代オリエント博物館

東京都・豊島区

六甲ミーツ・アート芸術散歩 2023 beyond

開催中〜2023/11/23

芸術祭(神戸・六甲山上)

兵庫県・神戸市

美しき時代(ベル・エポック)と異彩のジュエリー

開催中〜2023/11/26

箱根ラリック美術館

神奈川県・箱根町

企画展「北斎のまく笑いの種」

開催中〜2023/11/26

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

横山美術館名品展 明治・大正の輸出陶磁器 技巧から意匠へ

2023/10/07〜2023/11/26

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

皇居三の丸尚蔵館収蔵品展 皇室と石川 —麗しき美の煌めき—

2023/10/14〜2023/11/26

国立工芸館(石川県立美術館との共催)

石川県・金沢市

開館20周年 & 富士山世界遺産登録10周年記念 後期「フジヤマミュージアム名品展」

開催中〜2023/11/26

フジヤマミュージアム

山梨県・富士吉田市

特別展「日本画聖地巡礼 ー東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門ー」

開催中〜2023/11/26

山種美術館

東京都・渋谷区

特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」

開催中〜2023/11/26

三井記念美術館

東京都・中央区

関東大震災100年企画展 「震災からのあゆみ —未来へつなげる科学技術—」

開催中〜2023/11/26

国立科学博物館

東京都・台東区

シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、 杉山寧から現代の作家まで

開催中〜2023/12/03

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ

2023/10/06〜2023/12/03

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

「横尾忠則 寒山百得」展

開催中〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

特別展「北宋書画精華」

2023/11/03〜2023/12/03

根津美術館

東京都・港区

特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」

2023/10/11〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

日中平和友好条約45周年記念「世界遺産 大シルクロード展」

開催中〜2023/12/10

東京富士美術館

東京都・八王子市

さいたま国際芸術祭2023

2023/10/07〜2023/12/10

芸術祭(さいたま市・旧市民会館おおみや(メイン会場)ほか)

埼玉県・さいたま市

永遠の都ローマ展

開催中〜2023/12/10

東京都美術館

東京都・台東区

イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル

開催中〜2023/12/11

国立新美術館

東京都・港区

コスチュームジュエリー美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより

2023/10/07〜2023/12/17

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

布の芸術祭『FUJI TEXTILE WEEK 2023(フジテキスタイルウィーク)』

2023/11/23〜2023/12/17

芸術祭(山梨県富士吉田市)

山梨県・富士吉田市

特別企画展 日本画の棲み家

2023/11/02〜2023/12/17

泉屋博古館東京

東京都・港区

開館1周年記念特別展 二つの頂 —宋磁と清朝官窯—

2023/10/07〜2023/12/17

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

国吉康雄展 ~安眠を妨げる夢~ 福武コレクション・岡山県立美術館のコレクションを中心に

2023/10/24〜2023/12/24

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

ヨシタケシンスケ展かもしれない

2023/10/15〜2023/12/24

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

2023/11/01〜2023/12/25

国立新美術館

東京都・港区

「今こそ、ルーシー!」LUCY IS HERE

開催中〜2024/01/08

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

「青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション」第2期(秋冬季)

開催中〜2024/01/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」

2023/11/16〜2024/01/08

東京都美術館

東京都・台東区

「鹿児島睦 まいにち」展

2023/10/07〜2024/01/08

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

111年目の中原淳一展

2023/11/18〜2024/01/10

そごう美術館

神奈川県・横浜市

ICCアニュアル 2023 ものごとのかたち

開催中〜2024/01/14

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

東京都・新宿区

企画展「ある従軍カメラマンの追憶 義烈空挺隊員と家族の片影」

2023/10/03〜2024/01/14

平和祈念展示資料館

東京都・新宿区

佐野史郎写真展 瞬間と一日

2023/10/14〜2024/01/14

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

ゴッホと静物画―伝統と革新へ

2023/10/17〜2024/01/21

SOMPO美術館

東京都・新宿区

モネ 連作の情景

2023/10/20〜2024/01/28

上野の森美術館

東京都・台東区

倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙

2023/11/18〜2024/01/28

世田谷美術館

東京都・世田谷区

江口寿史展 ノット・コンプリーテッド

開催中〜2024/02/04

世田谷文学館

東京都・世田谷区

アメイジング・チャイナ 深淵なる中国美術の世界

2023/10/24〜2024/02/11

松岡美術館

東京都・港区

みちのく いとしい仏たち

2023/12/02〜2024/02/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

1周年記念特別企画「ようこそ藤田嗣治のお家へ」

開催中〜2024/02/20

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

生誕120年 古賀忠雄展 塑造(像)の楽しみ

2023/11/17〜2024/02/25

練馬区立美術館

東京都・練馬区

森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

2023/10/18〜2024/03/31

森美術館

東京都・港区

tupera tupera + 遠藤幹子 しつもんパーク in 彫刻の森美術館

開催中〜2024/03/31

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

岡田健太郎―重なる景体

2023/12/05〜2024/04/07

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

Exhibitions

国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア

《忘れえぬ女(ひと)》やロシアの風景画が内包するもの

 ■19世紀後半から20世紀初頭のロシア絵画の傑作群
 19世紀後半から20世紀はじめに描かれたロシア絵画を紹介する展覧会「国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア」が開催中だ。ロシアの広大な大地や深い森の空気を吸い、ロシアに暮らす人々の物語に触れたような独特の感慨をもたらしてくれる。ロシアを代表する画家たちが描いた風景画、肖像画や風俗画などの油彩画72点が出品。全てがロシアの四大美術館の一つ、モスクワにある国立トレチャコフ美術館が所蔵する名作である。東京のBunkamuraザ・ミュージアムを皮切りに、2019年11月初めまで岡山県立美術館、山形美術館、愛媛県美術館を巡回する。同時代のフランスではアカデミックな絵画への抵抗として印象派が起こり、ポスト印象派や新印象派が続き、20世紀になるとフォーヴィスムなどが生まれた。しかし、ロシア絵画はまた別の様相をもつ。

 ●展覧会構成 本展の構成は以下の4つの章からなる。
 第1章 ロマンティックな風景(1-1春、1-2夏、1-3秋、1-4冬)/第2章 ロシアの人々(2-1ロシアの魂、2-2女性たち)/第3章 子供の世界/第4章 都市と生活(4-1都市の風景、4-2日常と祝祭)

 ■ロシアの四季をめぐる
 Bunkamuraザ・ミュージアムの会場を入ると、まずロシアの春を感じる。そして夏、秋、冬をめぐる。本展ではロシアを描いた風景画の章が大きな部分を占めるが、その繊細な季節感覚に日本と通ずるものも感受した。

 ●レヴィタンやサヴラーソフの風景画 さて、春の情景だが、風景画家イサーク・イリイチ・レヴィタン(1860~1900年)は、透明感のある水彩画のような色調で《春、大水》(1897年、油彩・キャンヴァス、国立トレチャコフ美術館蔵)(本文中の全作品は、油彩・キャンヴァス、同美術館蔵。以下、略)を描いた。まだ新芽をつけていない真っ白で華奢な裸の白樺の樹々が、水面に根元を浸しながら空を仰ぐ。早春の水色の空には軽やかに雲が移ってゆく。雪解けによる大水の広い水面が空と樹々を映し出す。空、森、水面、そして遠くの家々、手前から伸びる土手。全てが一体となって春の訪れに目覚める情景には、自然と響き合い高揚する画家の心が感じられる。柔らかな音楽も聞こえてくるようだ。

 レヴィタンはモスクワ絵画彫刻建築学校で学び、アレクセイ・コンドラーチエヴィチ・サヴラーソフ(1830~97年)らに学んだ。師サヴラーソフは春になると弟子たちを外に連れ出したという。サヴラーソフが描いた、祖国の自然への愛情にあふれた《田園風景》(1867年)も出品されている。サヴラーソフは、叙情的風景画と呼ばれる新しいリアリスム絵画を確立した画家であり、レヴィタンらがそれを継承したのだった。

 ●シーシキンの風景画 風景画家の巨匠イワン・イワーノヴィチ・シーシキン(1832~98年)による《正午、モスクワ郊外》(1869年)は、驚くべき広大な空間を感受できる作品だ。画面の四分の三を夏の空が占める。太陽を抱え込んだような夏の雲が内部から光を放っている。下方に燃えるような黄金色のライ麦畑が広がり、はるか彼方に村の聖堂が見える。カーブした畑の間の道を歩む農民の後ろ姿が溌剌としている。野草などは丹念に写実的に描かれている。自然と労働の描写に清々しさと安らぎがある。本作は、トレチャコフ美術館を創立したモスクワの豪商パーヴェㇽ・トレチャコフ(1832~98年)の心をとらえ、彼が購入したシーシキン作品の最初のものとなった。

 一方、《雨の樫林》(1891年)でシーシキンは霧雨の林を描いた。夏の長雨でぬかるんだ樫林のなかの道を、男女が傘をさして向こうへ歩みを進める。霧雨に煙る林と大気の描写が見事だ。映画のシーンにも見えてくる。中景から遠景の人物や樹々の輪郭はあいまいに、手前の植物などは細部まで綿密な描写がなされる。写実的でありながら夢のようでもある。

 シーシキンはモスクワ絵画彫刻建築学校とサンクトペテルブルクの美術アカデミーの風景画クラスで学んだ。彼はロシアの広大な自然のなかに普遍的なるものを追求した。習作や小品をつくり、構成して大作を仕上げる方法を徹底して行った。

 ■ロシアの人々を描く
 ●レーピンによる肖像画 黒い燕尾服を身につけ、腕を組んでこちらを見つめる男の半身像が、暗赤色を背景に浮かぶ。髪はライオンのたてがみようだ。眉間に少し皺を寄せている。何か言いたげな口元。力強い筆致で描かれた肖像画は、この人物の自信、鷹揚さ、底知れぬ情熱などが感じられる。これは、イリヤ・エフィーモヴィチ・レーピン(1844~1930年)による《ピアニスト・指揮者・作曲家アントン・ルビンシュテインの肖像》(1881年)である。ルビンシュテインは当時の音楽界で傑出した人物だった。幼くしてピアニストとなりショパンやリストをも驚嘆させ、長じてピアノ音楽の発展を通史的に表現するという画期的な演奏会も行った。レーピンは本作で音楽家の人間性を十全に描写した。これはパーヴェル・トレチャコフからの注文によって制作した作品だった。トレチャコフは、当時のロシアの各界で活躍する重要人物の肖像画制作を画家たちに依頼していた。

 レーピンはロシア的リアリスム絵画を代表する巨匠の一人。サンクトペテルブルクの美術アカデミーの歴史画クラスで学び、のちに教授をつとめた。彼は初期の《ヴォルガの舟曳き》(ロシア美術館蔵)(※出品無し)を初め、広いジャンルにわたる傑作を多数制作。本作は彼の円熟期の代表作だ。

 ●クラムスコイの女性像 レーピンの最初の師がイワン・ニコラエヴィチ・クラムスコイ(1837~87年)だった。クラムスコイの代表作《忘れえぬ女(ひと)》(1883年)は、タイトルのとおり、一度目にしたら忘れられない。19世紀のロシア美術のなかで最も人気が高い作品だ。霧のかかった冬のサンクトペテルブルクの大通りを背にして、若く麗しい女性が大きな瞳をこちらに向けている。黒テンの毛皮に縁取られたベルベットの外套をまとい、帽子には大きな羽根飾り。女性は幌を上げた馬車に一人で乗っているが、当時では珍しいことという。印象的なのはなんといっても彼女の強い眼差しだ。観る者の心に矢の如く挑んでくるよう。クラムスコイの優れた写実的な筆で綿密に描かれた、迫力ある傑作だ。

 本作の原題は《見知らぬ女(ひと)》だった。1883年の発表当時から、この絵のモデルは誰かという議論が巻き起こった。トルストイの小説の主人公アンナ・カレーニナではないか、いや、ドストエフスキーの小説『白痴』の登場人物ナスターシャでは、などの意見も出た。同時代のロシアはトルストイやドフトエフスキー、またチャイコフスキーやムソルグスキーが活躍し、文学も音楽も活気を呈した。絵画も文学的であるとも言えるかもしれない。しかし一筋縄ではいかないのが本作だ。絵に物語が秘められ、観る者の創造力を刺激するが、謎は解けない。そしてそのことが作品の魅力をさらに増強する。クラムスコイは、本作の制作過程で複数の人物の描写を重ね、普遍的な造形を追求したとされる。

 ロシア的リアリスム絵画を代表する巨匠クラムスコイは、画家であり、著名な美術批評家であり、社会活動家でもあった。サンクトペテルブルクの写真工房で働き、同地の美術アカデミーの歴史画クラスで学ぶが、1863年に「14人の反乱」のリーダーとなり、アカデミーを退学。1870年からは移動展覧会協会の創立者の一人として指導的立場で活動した。彼は移動展覧会で、苦悩する知識人をキリストに重ねて表現した《荒野のキリスト》(トレチャコフ美術館蔵)(※出品なし)を初めとする、自身の最良の作品を発表した。

 ■子供たちや夫婦や都市の姿
 本展では人々の生活を描いた風俗画も多数出展。南の空に飛んでいく鶴の群れを見つめる子供たちの後ろ姿が心に残るのは、アレクセイ・ステパーノヴィチ・ステパーノフ(1858~1923年)の《鶴が飛んでいく》(1891年)である。風俗画の巨匠として人気を博したウラジーミル・エゴーロヴィチ・マコフスキー(1846~1920年)による《大通りにて》(1886~87年)は、農村から都会へ出稼ぎにきた夫と、妻との行き違う心を描いた彼の代表作だ。ニコライ・ニコラヴィチ・グリツェンコ(1856~1900年)は《イワン大帝の鐘楼からモスクワの眺望》(1896年)で、玉ネギ型ドームをもつクレムリンの建築群の威容を描写した。

 ■移動展覧会とは
 クラムスコイの箇所で触れた移動展覧会について加筆しておきたい。「ロマンティック・ロシア」の展覧会に出品されている作品は、多くは美術史の上でロシアのリアリスム絵画と呼ばれるものだが、それを1870年代から80年代に開花させたのが、移動展覧会を行った移動展覧会協会の画家たちだった。契機は1863年のサンクトペテルブルクの美術アカデミーで起こった「14人の反乱」だった。これは14人の学生が卒業制作のテーマを学校から与えられたものでなく自由に選ぶことを要求したが、許可されず、退学した事件である。クラムスコイが率いたものだった。その後、彼らは進歩的な画家たちとともに芸術家協同組合を結成し、1870年には移動展覧会協会を創設する。移動展覧会協会は、ロシア美術に接したいと希望する人々に機会を提供することなどを目的に掲げて、ロシア各地を移動する展覧会を開催した。上記のサヴラーソフも、クラムスコイと同様に移動展覧会協会の創設者の一人であり、シーシキン、レーピン、ステパーノフ、マコフスキーも会員だった。

 またパーヴェル・トレチャコフは移動展覧会協会の活動を積極的に支援し、画家たちと深く交流した。そして同時代である彼らの作品を中心にロシア絵画収集を開始するのだが、これが現在の国立トレチャコフ美術館の20万点のコレクションの礎となった。

 ■ロシアの歴史と美術の流れ
 ここでごく簡単にロシアの歴史と美術の流れを振り返ってみよう。ロシアの最初の統一国家は、8世紀に誕生したキエフ・ルーシだ。そして15世紀にモスクワ大公国が発展し、ギリシャ正教が信仰され、イコンなど独自の宗教美術が盛んになった。1613年にロマノフ王朝が成立し、1917年のロシア革命まで300年間ロシアを支配する。17世紀後期から長く在位したピョートル大帝はロシアの近代化・西欧化を強力に推進し、18世紀初めにサンクトペテルブルクを新たに西欧風に建設し、首都をモスクワからここに移した。そして18世紀後半にはエカテリーナ2世がやはり長く在位する。18世紀を通してロシアは特にフランス文化を敬愛し、ロココや新古典主義、ロマン主義を取り入れ、華やかな文化が栄えた。なお1757年にサンクトペテルブルクに美術アカデミーが創立。アカデミーでは歴史画が重視された。

 19世紀初頭、ロシアはナポレオン軍を破るが、1856年にクリミア戦争に敗北。1861年に農奴解放令が公布されるが、各地で暴動が続いた。1917年に革命が起こり、ロマノフ王朝が終焉を迎えた。19世紀以降、ロシアの美術は独自の道を歩み始め、ロマン主義から写実主義に向かう。19世紀後半には、保守的なアカデミーと訣別した移動展覧会協会の画家たちが、ロシア的リアリスムの絵画を創出する。

 ■「ロマンティック・ロシア」という言葉に込める
 本展で紹介する19世紀後半から20世紀初頭のロシア絵画は、ロシア的リアリスムと呼ばれ、ロシア美術史上の一つの達成とされる。リアリスムとは、理想主義に対する概念であり、客観的現実を尊重し、あるがままに描写する態度や方法のこと。しかしロシア・リアリスムの絵画は、フランスのギュスターヴ・クールベ(1819~77年)らのリアリスム絵画とも異なり、独特なのである。

 本展のキュレーターであるガリーナ・チュラク氏(国立トレチャコフ美術館 19世紀後半・20世紀初頭絵画部シニア・キュレーター)は、本展開幕前日のプレス内覧会で次のように話された。「ロシア絵画をどうしたらわかっていただけるか。それを考えて展覧会を構成しました。展覧会タイトルの「ロマンティック」には、高まる気持ち、清らかなもの、神秘性、言葉にできないもの、などの意味を含んでいます」と。写実主義とロマンティックの重層。自然との深い関わり。この時代のロシア絵画の魅力を会場で味わってほしい。


【参考文献】
1) 宮澤政男・新倉慎右・橋村直樹・岡部信幸・武田信孝・市川飛砂・野本美咲・鈴木彩希 編集:『国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア』(展覧会カタログ)、ガリーナ・チュラク・亀山郁夫ほか執筆、アートインプレッション 発行、2018年。
2) 新田喜代見 執筆:ロシアのレアリスム美術、『世界美術全集 第21巻 レアリスム』(馬渕明子 責任編集)、小学館 発行、1993年。

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2018年12月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。


写真1  Bunkamura ザ・ミュージアムの会場風景(以下同様)。
右から、イワン・ニコラエヴィチ・クラムスコイ《忘れえぬ女(ひと)》、
1883年、油彩・キャンヴァス、国立トレチャコフ美術館蔵。
ヴィクトル・ミハイロヴィチ・ワスネツォオフ《タチアーナ・マーモントワの肖像》、
油彩・キャンヴァス、1884年、国立トレチャコフ美術館蔵。
撮影:I.HOSOKAWA)


写真2 会場風景。
右から、イサーク・イリイチ・レヴィタン《春、大水》、
1897年、油彩・キャンヴァス、国立トレチャコフ美術館蔵。
イリヤ・セミョーノヴィチ・オストロウーホフ《芽吹き》、
1887年、油彩・キャンヴァス、国立トレチャコフ美術館蔵。
(撮影:I.HOSOKAWA)


写真3 会場風景。
右から、イワン・イワノーヴィチ・シーシキン《雨の樫林》、
1891年、油彩・キャンヴァス、国立トレチャコフ美術館蔵。
イワン・イワノーヴィチ・シーシキン《樫の木、夕方》、
1887年、油彩・キャンヴァス、国立トレチャコフ美術館蔵。
(撮影:I.HOSOKAWA)


写真4 会場風景。
右から、イリヤ・エフィーモヴィチ・レーピン《画家イワン・クラムスコイの肖像》、
1882年、油彩・キャンヴァス、国立トレチャコフ美術館蔵。
イリヤ・エフィーモヴィチ・レーピン《ピアニスト・指揮者・作曲家アントン・ルビンシュテインの肖像》、
1881年、油彩・キャンヴァス、国立トレチャコフ美術館蔵。
(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会名】
Bunkamura 30周年記念
国立トレチャコフ美術館所蔵
ロマンティック・ロシア

Bunkamura’s 30th Anniversary
Romantic Russia
from the Collection of The State Tretyakov Gallery

【会期・会場】
[東京会場]

2018年11月23日 ~2019年1月27日  Bunkamura ザ・ミュージアム
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会HP
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_russia/
[岡山会場]
2019年4月27日 ~6月16日  岡山県立美術館
電話:086-225-4800
[山形会場]
2019年7月19日 ~8月25日  山形美術館
電話:023-622-3090
[愛媛会場]
2019年9月7日 ~11月4日 愛媛県美術館
電話:089-932-0010

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