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「石川九楊大全」

開催中〜2024/07/28

上野の森美術館

東京都・台東区

カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』

開催中〜2024/07/28

東京国立博物館

東京都・台東区

トーキョーアーツアンドスペースレジデンス2024 成果発表展「微粒子の呼吸」第1期

開催中〜2024/08/04

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

おとなとこどもの自由研究 工芸の光と影展

開催中〜2024/08/18

国立工芸館

石川県・金沢市

新紙幣発行記念 北斎進化論

開催中〜2024/08/18

北斎館

長野県・小布施町

大川美術館コレクションによる20世紀アートセレクション ―ピカソ、ベン・シャーンからポップ・アートまで

開催中〜2024/08/18

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界

開催中〜2024/08/25

東京都庭園美術館

東京都・港区

特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト —神奈川沖浪 裏の誕生と軌跡—」

開催中〜2024/08/25

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

開催中〜2024/08/25

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙

開催中〜2024/08/25

国立西洋美術館

東京都・台東区

超・日本刀入門 revive―鎌倉時代 の名刀に学ぶ

開催中〜2024/08/25

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

「-没後100年-富岡鉄斎 鉄斎と文人書画の優品」(仮称)

開催中〜2024/08/25

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

企画展「旅するピーナッツ。」

開催中〜2024/09/01

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝

開催中〜2024/09/01

森美術館

東京都・港区

AOMORI GOKAN アートフェス 2024 「つらなりのはらっぱ」

開催中〜2024/09/01

アートフェス(芸術祭)( 青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館、十和田市現代美術館)

青森県

伊藤潤二展 誘惑

開催中〜2024/09/01

世田谷文学館

東京都・世田谷区

音を観る ―変化観音と観音変化身―

開催中〜2024/09/01

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

エドワード・ゴーリーを巡る旅

開催中〜2024/09/01

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

ルーヴル美術館の銅版画展

開催中〜2024/09/01

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

ザ・キャビンカンパニー 大絵本美術展〈童堂賛歌〉

開催中〜2024/09/01

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

「ヨシタケシンスケ展かもしれない」

開催中〜2024/09/02

そごう美術館

神奈川県・横浜市

カルダー:そよぐ、感じる、日本

開催中〜2024/09/06

麻布台ヒルズ ギャラリー

東京都・港区

市制施行70周年記念 自然、生命、平和 私たちは見つめられている 吉田遠志展

開催中〜2024/09/06

府中市美術館

東京都・府中市

日本のまんなかでアートをさけんでみる

開催中〜2024/09/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

企画展「未来のかけら 科学とデザインの実験室」

開催中〜2024/09/08

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2

東京都・港区

特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」

開催中〜2024/09/08

東京国立博物館

東京都・台東区

須田国太郎の芸術――三つのまなざし

開催中〜2024/09/08

世田谷美術館

東京都・世田谷区

聖書の世界〜伝承と考古学〜/古代オリエントをたのしむ!子どもミュージアム

開催中〜2024/09/08

古代オリエント博物館

東京都・豊島区

慰問 銃後からのおくりもの

開催中〜2024/09/08

昭和館

東京都・千代田区

開館20周年記念 山梨放送開局70周年 平山郁夫 -仏教伝来と旅の軌跡

開催中〜2024/09/09

平山郁夫シルクロード美術館

山梨県・北杜市

織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム

開催中〜2024/09/16

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

トーキョーアーツアンドスペース レジデンス2024 成果発表展 『微粒子の呼吸』第2期

2024/08/17〜2024/09/22

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線

開催中〜2024/09/23

SOMPO美術館

東京都・新宿区

空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン

開催中〜2024/09/23

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

吉田克朗展 ものに、風景に、世界に触れる

開催中〜2024/09/23

埼玉県立近代美術館

埼玉県・さいたま市

島袋道浩 : 音楽が聞こえてきた

開催中〜2024/09/23

BankART Station

神奈川県・横浜市

「人間×自然×技術=未来展(ひと かける しぜん かける ぎじゅつ は みらい てん) – Well-being for human & nature – 」

開催中〜2024/09/23

SusHi Tech Square内1F Space

東京都・千代田区

つくる展 TASKOファクトリーのひらめきをかたちに

開催中〜2024/09/23

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

和のあかり×百段階段2024 ~妖美なおとぎはなし~

開催中〜2024/09/23

ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」

東京都・目黒区

平田晃久―人間の波打ちぎわ

2024/07/28〜2024/09/23

練馬区立美術館

東京都・練馬区

【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏

開催中〜2024/09/23

山種美術館

東京都・渋谷区

令和6年度夏季展「Come on! 九曜紋―見つけて楽しむ細川家の家紋―」

開催中〜2024/09/23

永青文庫

東京都・文京区

夏の特集展示2024「戦争の時代 日本における藤田嗣治 日常から戦時下へ」

開催中〜2024/09/24

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵

開催中〜2024/09/29

東京富士美術館

東京都・八王子市

昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界

2024/08/31〜2024/09/29

泉屋博古館東京

東京都・港区

梅津庸一 クリスタルパレス

開催中〜2024/10/06

国立国際美術館

大阪府・大阪市

大地に耳をすます 気配と手ざわり

開催中〜2024/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

レガシー ―美を受け継ぐ モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ

開催中〜2024/10/13

松岡美術館

東京都・港区

GO FOR KOGEI 2024「くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの」

2024/09/14〜2024/10/20

富山県富山市/岩瀬エリア、石川県金沢市/東山エリア

富山県・富山市、石川県・金沢市

令和6年度第2期所蔵品展 「特集 新恵美佐子 祈りの花」

開催中〜2024/10/20

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

令和6年度第2期所蔵品展  特集:生誕100年 芥川紗織

開催中〜2024/10/20

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

彫刻の森美術館 開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日

開催中〜2024/11/04

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

北アルプス国際芸術祭 2024

2024/09/13〜2024/11/04

芸術祭(長野県大町市)

長野県・大町市

特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」

2024/09/10〜2024/11/04

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

瑛九 ―まなざしのその先に―

2024/09/14〜2024/11/04

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

MOTコレクション 竹林之七妍/特集展示 野村和弘/Eye to Eye-見ること

2024/08/03〜2024/11/10

東京都現代美術館

東京都・江東区

ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ

開催中〜2024/11/10

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

東京都・新宿区

没後300年記念 英一蝶 ―風流才子、浮き世を写す―

2024/09/18〜2024/11/10

サントリー美術館

東京都・港区

日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション

2024/08/03〜2024/11/10

東京都現代美術館

東京都・江東区

企画展「作家の視線― 過去と現在、そして…」

開催中〜2024/11/11

ホキ美術館

千葉県・千葉市

田名網敬一 記憶の冒険

2024/08/07〜2024/11/11

国立新美術館

東京都・港区

特別展 文明の十字路  バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰 ―ガンダーラから日本へ―

2024/09/14〜2024/11/12

三井記念美術館

東京都・中央区

森の芸術祭 晴れの国・岡山

2024/09/28〜2024/11/24

芸術祭(岡山県北部12市町村、津山市、新見市、真庭市、鏡野町、奈義町など))

岡山県・北部12市町村

大正・昭和のモダニスト 蕗谷虹児展

2024/10/05〜2024/11/24

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

フィリップ・パレーノ:この場所、あの空

開催中〜2024/12/01

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

心象工芸展

2024/09/06〜2024/12/01

国立工芸館

石川県・金沢市

田中一村展 奄美の光 魂の絵画

2024/09/19〜2024/12/01

東京都美術館

東京都・台東区

挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展『はにわ』

2024/10/16〜2024/12/08

東京国立博物館

東京都・台東区

ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に

2024/10/05〜2024/12/15

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

コスチュームジュエリー ―美の変革者たち― シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより

2024/09/08〜2024/12/15

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

特別展 オタケ・インパクト ―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―

2024/10/19〜2024/12/15

泉屋博古館東京

東京都・港区

おしゃべり美術館 ひらビあーつま~れ10年記念展

2024/09/21〜2025/02/16

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

Exhibitions

ルドン―秘密の花園

ルドンが描いた花と樹と夢想の世界。三菱一号館美術館にて、5月20日まで。

 ■不思議な《グラン・ブーケ(大きな花束)》
 東京・丸の内にある三菱一号館美術館が所蔵するオディロン・ルドン(1840~1916年)作《グラン・ブーケ(大きな花束)》(1901年、パステル/カンヴァス、三菱一号館美術館)は、画家60歳頃の作品。ルドン後半生の代表作だ。不思議な絵である。縦が約2.5m、横1.6m超という巨大サイズの画面いっぱいに、大きな青色の花瓶に入った多数の花が色鮮やかに描かれる。花は自ら発光しているようだ。花のなかに目や微生物のような不可解な造形が混在。浮遊感があり、現実と夢想が一体になったような印象を受ける。右下に蟻のような小さな文字で画家の署名が入る。つかみたいのにつかめない。だが、底知れぬ大きな世界の存在を感じさせる。

 《グラン・ブーケ》の運命も数奇である。なぜ東京にあるのか。本作は、ルドンの作品を気に入ったロベルト・ド・ドムシー男爵(1862~1946年)の注文により、フランスのブルゴーニュ地方にある男爵の城館の食堂を装飾する壁画として、他の15点とともに1900年から1901年に制作された。1988年、他の15点は相続税の代物弁済としてフランスが取得しオルセー美術館所蔵となるが、本作だけは100年以上もの間ひっそりと同城館食堂に飾られていた。しかし2008年、三菱一号館美術館の高橋明也館長が、その写真や資料を見る機会を得る。驚いた高橋館長はドムシー男爵の城館に出向く。そして、本作は2010年に三菱一号館美術館の所蔵となった。

 ■本展の趣旨:ドムシー男爵城館の食堂壁画を中心に。植物と装飾画をテーマに。
 その後、高橋館長と安井裕雄氏(同館 学芸グループ副グループ長)は、いつか三菱一号館美術館でドムシー男爵の城館食堂壁画すべてを展示したいと思い続けた。本展「ルドン―秘密の花園」は、その10年越しの熱い思いが実現したものだ。本展では、「植物」が多く描かれた「装飾画」である《グラン・ブーケ》および15点の壁画を中心に据えて、植物と装飾画をテーマとしてルドンの画業を90点余の作品により紹介する。プレス内覧会などでの安井氏のお話によると、①植物は、ルドンの画業の初期から晩年までにわたり途切れることのないモティーフであり、②ルドンの装飾画は、ナビ派の画家たちの装飾画と、クロード・モネ(1840〜1926年)によるオランジュリー美術館所蔵の睡蓮の大装飾画(1920~26年)との間に、位置付けられるもの、とのことだ。

 ●展覧会構成 本展の構成は、以下の八つの部分からなる。1コローの教え、ブレスダンの指導/2人間と樹木/3植物学者アルマン・クラヴォ―/4ドムシー男爵の食堂装飾/5「黒」に棲まう動植物/6蝶の夢、草花の無意識、水の眠り/7再現と想起という二つの岸の合流点にやってきた花ばな/8装飾プロジェクト

 ■ドムシー男爵の城館の食堂壁画
 ドムシー男爵の城館食堂の天井高は4mとも4.5mともいわれる。展覧会会場では高さは足りないものの、食堂壁画全16点が長方形の食堂の4面にどう配置されていたのか、観る者がつかめるように展示されている。

 現在オルセー美術館が所蔵する15点(1900~1901年、木炭、油彩、デトランプ/カンヴァス)は、《グラン・ブーケ》に比べて、マットで落ち着いた色調だ。デトランプという画材を使っているためである。画面サイズは、《グラン・ブーケ》よりやや大きいものから細長いものまで様々であり、描かれた内容は自然のなかに息づく花や樹々が主だが、実に多様。強い黄色の背景に大樹と多くの花が咲き乱れる情景、雪景色のような白い背景に黄葉する樹と不思議な形態の花が浮遊する有様、樹木とその横に立つ人間を描いたもの、また、大きなひな菊がいくつも浮かんでいたり、ナナカマドの実が文様のように並んでいたりもする。ひな菊やナナカマドの実は、別の場所にも描写され、呼応する。煙がかかったような背景描写やあいまいな物の輪郭が、観る者の創造力を喚起する。描写法は平坦である。

 《グラン・ブーケ》は食堂の装飾壁画全体から見ると、特別な印象を受ける。他の15点は黄色か白色を基本色としているのに対して本作では青色や鮮やかな色彩を多用しており、デトランプではなくパステル画であり、また、花瓶に入った花を描いている点などである。食堂で《グラン・ブーケ》は、左右両側の窓の間の壁に設置されていた。教会の祭壇を連想させる。窓を開くと、絵はどのように見えたのだろう。他の15点についても気になる。

 ドムシー男爵は熱心な注文主だった。ルドンの制作の役に立つように、彼をイタリア旅行や南仏旅行に同行させている。ルドンはミラノでレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519年)の《最後の晩餐》に感動し、南仏ではピエール=オーギュスト・ルノワール(1841~1919年)を訪問したという。旅の途中でルドンは、エドゥアール・ヴュイヤ―ル(1868~1940年)の名をメモに記した。彼はナビ派の画家でデトランプでの装飾画連作を描いている。ルドンは南仏でミモザに感銘を受けたと伝わる。旅行は制作に影響しているようである。

 ■ルドンの生涯と画業をたどる
 ●故郷ペイルルバード オディロン・ルドンの本名は、ベルトラン=ジャン・ルドン。1840年にフランスの南西部のボルドーに生れた。モネと同年生まれだ。病弱だったルドンは生後すぐに近郊のペイルルバード荘園に乳母とともに移り、11歳まで過ごした。ここは葡萄畑があるだけの荒地だが、ルドンは深く愛し、後年パリに在住してからも度々滞在した。《ペイルルバードの小道》(制作年不詳、油彩/紙(厚紙に貼付)、オルセー美術館)は、ルドンがこの地を描き、発表せずに大切に保管していた油彩画の小品群の一つである。空の青さと樹々の黄葉が心に浸みる。彼は樹木や植物に囲まれて育ったのだった。

 ●長い修業時代:師や仲間たちとの深い交流 ルドンの画家としてのデビューは遅く、39歳のときだった。孤高の画家のイメージがあるが、ルドンは長い修業時代から何人かの師を持って深く交流し、また芸術仲間とも親しく付き合い、多くを学んだ画家であった。

 15歳のルドンは、ボルドーの画家スタニスラス・ゴラン(1824~74年)のもとでデッサンを学んだ。彼に連れられてボルドーの展覧会で目にしたロマン主義の代表的画家ウジェーヌ・ドラクロワ(1798~1863年)に傾倒した。17歳の頃、博識だった在野の植物学者アルマン・クラヴォ―(1828~90年)と出会い、顕微鏡の世界、インドの詩やフランス現代文学、哲学などを教えられた。彼はルドンを目に見えない世界へと導いた。父母の勧めでパリの国立美術学校建築科を受験するが、失敗してボルドーに戻ったルドンは、放浪の版画家ロドルフ・ブレスダン(1822~85年)にエッチングの手ほどきを受ける。また、自然と人物を描いた巨匠ジャン=バティスト=カミーユ・コロー(1796~1875年)との知己を得て、「不確かなものの傍には、確かなものをおいてごらん」「毎年同じ場所へ行って、木を描くといい」との指導を受けたことが知られている。

 その後ルドンは32歳でパリに転居。ベルト・ド・レイサック夫人のサロンに通い、知り合ったアンリ・ファンタン=ラトゥール(1836~1904年)より、木炭画からリトグラフ(石版画)への転写法を教わり、描きためていた木炭画をもとにリトグラフの制作をすることを思いついた。兄が作曲家だったルドンは自らもヴァイオリンに秀で、レイサック夫人のサロンで作曲家エルネスト・ショーソン(1855~99年)との演奏を楽しんだ。ルドンは1902年、ショーソン夫人のために装飾壁画を制作している。

 ●「黒」の時代 ルドンの画業は、主に木炭画の「黒」の時代と、「色彩」の時代の、二つに分かれる。39歳の年に刊行した石版画集『夢のなかで』(1879年、リトグラフ/紙(シーヌ・アプリケ)、三菱一号館美術館)がルドンの画家としてのデビューであり、ここから「黒」の時代が始まった。この版画集では扉などに、樹木と人間が描かれている。木炭画の《植物人間》(1880年頃、木炭/紙、シカゴ美術館)は、大樹に光輝く人間の顔が浮かぶ奇妙な絵だ。

 また、石版画集『起源』(1883年、リトグラフ/紙(シーヌ・アプリケ)、岐阜県美術館)の第2葉《おそらく花の中に最初の視覚が試みられた》は、人間の目玉が上目使いをしているような花で、ぎょっとさせられる。クラヴォ―が研究していた「植物と動物の中間の生命」はこのようなものなのだろうか。本作を、ルドンの作品を好み彼とも交流があったポール・ゴーギャン(1848~1903年)は、自作のひまわりの作品に描き込んでいる。同版画集の第3葉《不格好なポリープは薄笑いを浮かべた醜い一つ目巨人のように岸辺を漂っていた》は、ギリシャ神話の一つ目巨人キュプクロスを表しているのだろうが、一度目にしたら忘れられない衝撃的な造形だ。

 ●「色彩」の時代 「色彩」の時代への移行は、1890年代にルドンの50代から60代に徐々に行われた。ドムシー男爵の城館の食堂壁画は、「色彩」の時代の最初期の代表作に当たる。《目を閉じて》(1900年以降、油彩/カンヴァス、岐阜県美術館)は、目を閉じた女性が美しい青色を背景に、たくさんの鮮やかな花に取り巻かれている情景。彼女の瞑想や夢のなかに誘い込まれるような気分になる。仏教の観音菩薩像や花散華も連想させる。《若き日のブッダ》(1905年、油彩/カンヴァス、京都国立近代美術館)は、京都画壇の土田麦僊(1887~1936年)がフランスで購入し所蔵していた作品。若いブッダの思索に思いを馳せたくなる。《蝶と花》(1910~14年、水彩/紙、プティ・パレ美術館)は、軽やかに空を舞う蝶や蛾が白い花と向き合う。蝶と花の形態の類似を暗示しているのだろか。

 一方、《ステンドグラス》(1907年、油彩/カンヴァス、ニューヨーク近代美術館(MoMA))は、上記の作品とは別の趣がある。本作に関してルドンの解説が残る。要約すると、ゴシックの大窓を描いたもので、巨大な植物からやってきた花や果物が雪崩のように白い雲と混ざり、両側には奇妙な人間がいる、(人物については)意味はなくただ暗示的、とのことだ。「色彩」の時代の作品は華やかであるが、さらに謎めいているのではないだろうか。それにしても、ルドンはなぜ「黒」を完全に止めたのだろう。

 なお、ルドンは装飾画を1900年以降の短い時期に集中して制作。展覧会場の最後に、草花を軽快に描いた《オリヴィエ・サンセールの屏風》(1903年、テンペラ、油彩等/カンヴァス、岐阜県美術館)なども展示されている。

 ■目に見えないものを表現 
 ルドンはフランス象徴主義の画家とされる。象徴主義とは、19世紀後半に文学や美術の分野で起こった概念で、人間の観念世界を表現する。象徴主義は当時、台頭した理性や理論を重視する実証主義や、写実主義に反発するものだった。印象派は目に見える現実を描く写実主義の系譜にあるが、ルドンは目に見えないものや人間の内面を描こうとする。

 ルドンは自伝的著作『私自身に』を著わしたが、そのなかの「芸術家の打ち明け話」に次のような記述がある。「暗示の芸術は、ものが夢に向かって光を放ち、思想がそこに向かうようなものです。(中略)このような芸術は、音楽という感情高揚を伴った芸術において、より自由に、輝くばかりに完全に見られます。私の絵もまた、種々の要素を組み合わせ、かたちを移し変えたりして、偶然の結果ではなく、論理によって暗示の芸術となっています。」★(★は、参考文献2)の29頁より)

 「ルドン―秘密の花園」展にて、尽きないルドンの魅力をご堪能ください。


【参考文献】
1) 安井裕雄 編集、高橋明也・安井裕雄 執筆:『ルドン―秘密の花園』(展覧会カタログ)、三菱一号館美術館、2018年。
2) オディロン・ルドン著、池辺一郎 訳:『ルドン 私自身に』、みすず書房、1983年。(原著 1961年)
3) 高橋明也 監修、山本敦子 著:『もっと知りたい ルドン 生涯と作品』、東京美術、2011年。
4) 高階秀爾:『世紀末美術』、筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2008年。

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2018年5月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。



写真1 三菱一号館美術館の入り口風景。(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会名】
ルドン―秘密の花園
FLORE D’ODILON REDON
【会期・会場】
2018年2月8日 ~ 5月20日 三菱一号館美術館
電話:03‐5777‐8600(ハローダイヤル)
[展覧会詳細] http://mimt.jp/parigura/

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