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「石川九楊大全」

開催中〜2024/07/28

上野の森美術館

東京都・台東区

カルティエと日本 半世紀のあゆみ 『結 MUSUBI』

開催中〜2024/07/28

東京国立博物館

東京都・台東区

トーキョーアーツアンドスペースレジデンス2024 成果発表展「微粒子の呼吸」第1期

開催中〜2024/08/04

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

おとなとこどもの自由研究 工芸の光と影展

開催中〜2024/08/18

国立工芸館

石川県・金沢市

新紙幣発行記念 北斎進化論

開催中〜2024/08/18

北斎館

長野県・小布施町

大川美術館コレクションによる20世紀アートセレクション ―ピカソ、ベン・シャーンからポップ・アートまで

開催中〜2024/08/18

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界

開催中〜2024/08/25

東京都庭園美術館

東京都・港区

特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト —神奈川沖浪 裏の誕生と軌跡—」

開催中〜2024/08/25

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション

開催中〜2024/08/25

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙

開催中〜2024/08/25

国立西洋美術館

東京都・台東区

超・日本刀入門 revive―鎌倉時代 の名刀に学ぶ

開催中〜2024/08/25

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

「-没後100年-富岡鉄斎 鉄斎と文人書画の優品」(仮称)

開催中〜2024/08/25

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

企画展「旅するピーナッツ。」

開催中〜2024/09/01

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝

開催中〜2024/09/01

森美術館

東京都・港区

AOMORI GOKAN アートフェス 2024 「つらなりのはらっぱ」

開催中〜2024/09/01

アートフェス(芸術祭)( 青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館、十和田市現代美術館)

青森県

伊藤潤二展 誘惑

開催中〜2024/09/01

世田谷文学館

東京都・世田谷区

音を観る ―変化観音と観音変化身―

開催中〜2024/09/01

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

エドワード・ゴーリーを巡る旅

開催中〜2024/09/01

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

ルーヴル美術館の銅版画展

開催中〜2024/09/01

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

ザ・キャビンカンパニー 大絵本美術展〈童堂賛歌〉

開催中〜2024/09/01

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

「ヨシタケシンスケ展かもしれない」

開催中〜2024/09/02

そごう美術館

神奈川県・横浜市

カルダー:そよぐ、感じる、日本

開催中〜2024/09/06

麻布台ヒルズ ギャラリー

東京都・港区

市制施行70周年記念 自然、生命、平和 私たちは見つめられている 吉田遠志展

開催中〜2024/09/06

府中市美術館

東京都・府中市

日本のまんなかでアートをさけんでみる

開催中〜2024/09/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

企画展「未来のかけら 科学とデザインの実験室」

開催中〜2024/09/08

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2

東京都・港区

特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」

開催中〜2024/09/08

東京国立博物館

東京都・台東区

須田国太郎の芸術――三つのまなざし

開催中〜2024/09/08

世田谷美術館

東京都・世田谷区

聖書の世界〜伝承と考古学〜/古代オリエントをたのしむ!子どもミュージアム

開催中〜2024/09/08

古代オリエント博物館

東京都・豊島区

慰問 銃後からのおくりもの

開催中〜2024/09/08

昭和館

東京都・千代田区

開館20周年記念 山梨放送開局70周年 平山郁夫 -仏教伝来と旅の軌跡

開催中〜2024/09/09

平山郁夫シルクロード美術館

山梨県・北杜市

織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム

開催中〜2024/09/16

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

トーキョーアーツアンドスペース レジデンス2024 成果発表展 『微粒子の呼吸』第2期

2024/08/17〜2024/09/22

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線

開催中〜2024/09/23

SOMPO美術館

東京都・新宿区

空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン

開催中〜2024/09/23

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

吉田克朗展 ものに、風景に、世界に触れる

開催中〜2024/09/23

埼玉県立近代美術館

埼玉県・さいたま市

島袋道浩 : 音楽が聞こえてきた

開催中〜2024/09/23

BankART Station

神奈川県・横浜市

「人間×自然×技術=未来展(ひと かける しぜん かける ぎじゅつ は みらい てん) – Well-being for human & nature – 」

開催中〜2024/09/23

SusHi Tech Square内1F Space

東京都・千代田区

つくる展 TASKOファクトリーのひらめきをかたちに

開催中〜2024/09/23

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

和のあかり×百段階段2024 ~妖美なおとぎはなし~

開催中〜2024/09/23

ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」

東京都・目黒区

平田晃久―人間の波打ちぎわ

2024/07/28〜2024/09/23

練馬区立美術館

東京都・練馬区

【特別展】没後25年記念 東山魁夷と日本の夏

開催中〜2024/09/23

山種美術館

東京都・渋谷区

令和6年度夏季展「Come on! 九曜紋―見つけて楽しむ細川家の家紋―」

開催中〜2024/09/23

永青文庫

東京都・文京区

夏の特集展示2024「戦争の時代 日本における藤田嗣治 日常から戦時下へ」

開催中〜2024/09/24

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵

開催中〜2024/09/29

東京富士美術館

東京都・八王子市

昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界

2024/08/31〜2024/09/29

泉屋博古館東京

東京都・港区

梅津庸一 クリスタルパレス

開催中〜2024/10/06

国立国際美術館

大阪府・大阪市

大地に耳をすます 気配と手ざわり

開催中〜2024/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

レガシー ―美を受け継ぐ モディリアーニ、シャガール、ピカソ、フジタ

開催中〜2024/10/13

松岡美術館

東京都・港区

GO FOR KOGEI 2024「くらしと工芸、アートにおける哲学的なもの」

2024/09/14〜2024/10/20

富山県富山市/岩瀬エリア、石川県金沢市/東山エリア

富山県・富山市、石川県・金沢市

令和6年度第2期所蔵品展 「特集 新恵美佐子 祈りの花」

開催中〜2024/10/20

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

令和6年度第2期所蔵品展  特集:生誕100年 芥川紗織

開催中〜2024/10/20

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

彫刻の森美術館 開館55周年記念 舟越桂 森へ行く日

開催中〜2024/11/04

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

北アルプス国際芸術祭 2024

2024/09/13〜2024/11/04

芸術祭(長野県大町市)

長野県・大町市

特別展「眼福―大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋」

2024/09/10〜2024/11/04

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

瑛九 ―まなざしのその先に―

2024/09/14〜2024/11/04

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

MOTコレクション 竹林之七妍/特集展示 野村和弘/Eye to Eye-見ること

2024/08/03〜2024/11/10

東京都現代美術館

東京都・江東区

ICC アニュアル 2024 とても近い遠さ

開催中〜2024/11/10

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

東京都・新宿区

没後300年記念 英一蝶 ―風流才子、浮き世を写す―

2024/09/18〜2024/11/10

サントリー美術館

東京都・港区

日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション

2024/08/03〜2024/11/10

東京都現代美術館

東京都・江東区

企画展「作家の視線― 過去と現在、そして…」

開催中〜2024/11/11

ホキ美術館

千葉県・千葉市

田名網敬一 記憶の冒険

2024/08/07〜2024/11/11

国立新美術館

東京都・港区

特別展 文明の十字路  バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰 ―ガンダーラから日本へ―

2024/09/14〜2024/11/12

三井記念美術館

東京都・中央区

森の芸術祭 晴れの国・岡山

2024/09/28〜2024/11/24

芸術祭(岡山県北部12市町村、津山市、新見市、真庭市、鏡野町、奈義町など))

岡山県・北部12市町村

大正・昭和のモダニスト 蕗谷虹児展

2024/10/05〜2024/11/24

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

フィリップ・パレーノ:この場所、あの空

開催中〜2024/12/01

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

心象工芸展

2024/09/06〜2024/12/01

国立工芸館

石川県・金沢市

田中一村展 奄美の光 魂の絵画

2024/09/19〜2024/12/01

東京都美術館

東京都・台東区

挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展『はにわ』

2024/10/16〜2024/12/08

東京国立博物館

東京都・台東区

ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に

2024/10/05〜2024/12/15

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

コスチュームジュエリー ―美の変革者たち― シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより

2024/09/08〜2024/12/15

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

特別展 オタケ・インパクト ―越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム―

2024/10/19〜2024/12/15

泉屋博古館東京

東京都・港区

おしゃべり美術館 ひらビあーつま~れ10年記念展

2024/09/21〜2025/02/16

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

Exhibitions

ラファエル前派の軌跡

ターナー、ラファエル前派、そしてモリス。
三菱一号館美術館で6月9日まで。
久留米市美術館、あべのハルカス美術館に巡回。

 ■本展の軸は、美術批評家ラスキン
 本展覧会を一巡すると、ちょっと不思議な感じがする。風景画に始まり、それとは様相の異なる独特の物語画や人物画がめくるめく展開し、最後に家具や壁紙なども見る。実に多彩なのだ。これらをつなぐのは、19世紀後半のイギリスを代表する美術・建築批評家のジョン・ラスキン(1819~1900年)だ。彼は『現代画家論』(全5巻)、『ヴェツィアの石造建築』などを著し、精力的に活動した。当時の英国は絶頂期のヴィクトリア朝(1837~1901年)。世界に先駆けた産業革命で繁栄を謳歌したが、貧富の差が拡大した時代でもあった。今年2019年はラスキンの生誕200周年だ。

 本展は、ラスキンが「新しい芸術」として擁護したターナーの風景画やラファエル前派の画家たちの作品、またラスキンが大きな影響を与えたモリスの装飾芸術などを、約150点の作品により紹介するものだ。中心となるラファエル前派を大きな視座で俯瞰できる。監修は、美術史家クリストファー・ニューオル氏と、スティーヴン・ワイドルマン氏(元ランカスター大学ラスキン・ライブラリー館長)。さて、ジョン・ラスキンは何を「新しい芸術」と、とらえたのだろう。

 ■展覧会構成
 本展覧会は、次の5つの章から構成されている。
 Ⅰラスキンとターナー/Ⅱラファエル前派/Ⅲラファエル前派周縁/Ⅳバーン=ジョーンズ/Ⅴウィリアム・モリスと装飾芸術

 ■風景画家ターナーとラスキン
 三菱一号館の最初の部屋にある《カレの砂浜――引き潮時の餌採り》(1830年、油彩/カンヴァス、ベリ美術館)を見ていると、画面に引き込まれそうになる。海に沈むオレンジ色の太陽の光が空にも海にも広がり、海も雲も手前で潮干狩りする人々も溶かし、黄色系の世界に一体化される。大気の呼吸も感じとれる。抽象画のごとき風景画ともいえよう。本作は英国最大の風景画家ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー(1775~1851年)がフランスのカレの海岸を描いた傑作。この海の向こうは、すぐイギリスだ。

 ターナーは晩年になると、光の効果、雨や霧などの自然現象を探求し、実験的に風景画に取り入れたが、抽象性の強い表現が激しい非難を浴びた。そのターナーを擁護したのが、新進気鋭の批評家ラスキンだった。ラスキンは13歳のとき、父からターナーの挿絵版画が入った詩集『イタリア』(詩:サミュエル・ロジャーズ)を贈られ、挿絵に魅了されて夢中で模写した。この詩集も会場に置かれている。ラスキン父子はターナーを敬愛し、作品を蒐集した。そして1843年、ラスキンはターナー擁護のために『現代画家論』第1巻を著し(全5巻は1860年に完結)、風景画家は真実性を求めるターナーに倣うべきだ、と説いた。ターナーの表現は多様に変化する自然の真実の姿を観察した結果であり、新しい芸術表現だ、とラスキンは訴え、それはターナーの再評価に大きな影響を与えることになった。

 ●ラスキンの素描 ラスキンは批評家だが優れた素描も残した。会場に木、山の岩肌、アルプスの山々や滝、建築物、建築装飾などを描いた水彩画や素描が展示されている。ラスキンが、自然やあらゆるものを愛情を込め細やかに観察し、表現したことが伝わる。彼は科学的精神の持ち主だった。

 ■芸術の刷新を目指すラファエル前派/ラスキンの「自然に忠実に」の教え
 1848年の秋、ラファエル前派同盟(プレ・ラファエライト・ブラザーフッドPre- Raphaelite Brotherhood:P.R.B.)という奇妙な名前の前衛芸術家集団が、ロンドンで結成された。ロイヤル・アカデミーの美術学校で学んでいたハント、ミレイ、ロセッティら20歳前後の若者7人が、形骸化したロイヤル・アカデミーの教育と保守性に異議を唱えたのだ。このままでは駄目だ! 絵画に美と真の感情の表現を取り戻そう、と。そのために、ロイヤル・アカデミーが伝統的に理想としたラファエロ(英語名はラファエル)以降の芸術ではなく、ラファエロ以前の初期ルネサンス美術や中世の美術のような素朴で誠実な表現を規範として芸術の刷新を図ろう、と。

 彼らの活動の拠り所となったのは、ラスキンの著作『現代画家論』第1巻に書かれた「自然に忠実にtrue to nature」という思想だった。細心の観察力によって自然を写しとるようにと、ラスキンは記した。ラファエル前派の画家たちは屋外での制作も行い、徹底した観察による独自のリアリズムを生み出した。しかし、遠近法の軽視などと批判される。1851年、彼らの可能性を感じたラスキンが『タイムズ』に投稿するなど支援し、ラファエル前派は社会に受容されるようになってゆく。

 ●ミレイ ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829~96年)は、11歳でロイヤル・アカデミーに入学した天才。今回出品されていないが、緑深い森の小川で仰向けに流れゆく美少女を1851~52年に描いた油彩画《オフィーリア》(テイト・ブリテン)が、最も知られているだろう。シェイクスピアの『ハムレット』を主題にしたもので、夏目漱石の小説『草枕』にも言及がある作品だ。本展では、ミレイが描いた《滝》(1853年、油彩/板、デラウェア美術館、サミュエル&メアリ・R・バンクロフト・メモリアル、1935年)が出品。ラスキンの肖像画を描くために夫妻とともに旅行した際に制作した。ミレイは画面右端にラスキン夫人エフィを描き入れている。岩、水の流れ、岸辺の草木や人物も写実的に鮮やかに描写。なお、その後ミレイはラスキンと離婚したエフィと結婚した。

 ●ロセッティ ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(1828~82年)は、詩人としても有名だった。水彩画である《ボルジア家の人々》(1851~59年〈実際は1850年代末に制作〉、水彩/紙、タリ―・ハウス美術館(カーライル、英国))は、シェイクスピアの『リチャード三世』の挿絵の予定だったが、主題を変えた。小さいサイズであるが精緻な構成。楽器を奏でるルクレツィアを中心とした人々の表情やしぐさの描写が見事だ。

 《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》(1863~68年頃、油彩/カンヴァス、ラッセル=コーツ美術館(ボーンマス))は、神話上のヴィーナスの上半身の裸体が、赤と黄色のスイカズラやピンクのバラに囲まれて大きく描かれる。ヴィーナスはリンゴと矢を手にし、こちらを直視する。その黄金の光輪や手元には蝶が舞い、あでやかさを増す。ラスキンは1854年にロセッティに手紙を書き、交流が始まった。しかし本作についてラスキンは、「粗雑だ」と批判した。全体を見てみると花々なども一つ一つ丁寧に描かれている。ロセッティは批判を受けた後に描き直したようだ。

 《祝福されし乙女》(1875~81年、油彩/カンヴァス、リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー(ポートサンライト))は、ロセッティ作の同名の詩を絵画化した作品。上下二つに分かれ、上部の天国に豊かな赤毛の個性的な風貌の女性が、プレデッラ(裾絵)には現世で彼女を想う若者が濃厚な色彩で描かれ、見つめあう。神秘的である。ロセッティは、物語性を排し美のみを追求する唯美主義に接近してゆく。

 ●ハント ウィリアム・ホルマン・ハント(1827~1910年)は生涯、ラファエル前派が原則とした描法を貫いた。信仰心が深く、宗教画題を多く描いた。本展では女性像などが出品されている。《甘美なる無為》(1866年、油彩/カンヴァス、個人像(リヴァプール、ウォーカー・アート・ギャラリーに寄託))は強い存在感の華やかな若い女性の姿や室内を克明に描写。また、画家の妹を描いた《誠実に励めば美しい顔になる》(1866年、油彩/板、個人蔵)は小品ながら、優しく温かな表情が魅力的だ。

 ●ヒューズ ラファエル前派の創立メンバーではないが、行動をともにしたアーサー・ヒューズ(1832~1915年)の作品群は、柔らかな印象だ。《リュートのひび》(1861~62年、油彩/カンヴァス、タリ―・ハウス美術館(カーライル、英国))は、アーサー王伝説を題材とするテニスンの詩に想を得た作品。森の樹の根元に寝そべり、物思いにふける紫の衣装の女性の優美な姿が描かれる。暗い森に目を凝らすと、猟犬を連れた若者の姿が浮かぶ。

 ■ラファエル前派の第二世代 
 ラファエル前派の創始者たちの活動は、ミレイがロイヤル・アカデミーの准会員となり、ハントが旅に出立するなどにより5年ほどで自然壊滅したが、バーン=ジョーンズやモリスらがその第二世代とされる。両者は聖職者を目指してオクスフォード大学に入学したが、ラスキンの著作に学び、影響を受け、画家・デザイナーに転向した。
 
 ●バーン=ジョーンズ エドワード・バーン=ジョーンズ(1833~98年)が描いた《嘆きの歌》(1865~66年、水彩、ボディカラー/カンヴァスに貼った紙、ウィリアム・モリス・ギャラリー、ブラングィン寄贈品(ウォルサム・フォレスト・ロンドン特別区))では、ゆったりした赤と青の衣装をまとう男女が石のベンチに腰掛け、女は楽器のダルシマーの演奏を止め、男は頭をたれている。どんな物語なのだろう。見る者に想像を喚起する美しい作品だ。人物も石造りの部屋や男の背後のバラの花も精緻に描かれる。本作は、独学だった画家にラスキンが古代彫刻を素描するようにと忠告し、その実践の成果を示すものだ。

 《赦しの樹》(1881~82年、油彩/カンヴァス、リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー(ポートサンライト))は縦が2m近い大作。主題はオウィディウスの『ヘロイーデス』から取られ、花咲くアーモンドの樹の中から飛び出した女性が、自分を捨てた男性を赦し駆け寄る劇的な場面だ。堂々たる体格の二人の動勢に目を奪われる。バーン=ジョーンズは度々イタリアを訪れ、ラスキンとも同行したこともあった。本作は、イタリア盛期ルネサンスの巨匠ミケランジェロの影響が色濃い。

 ●モリス ウィリアム・モリス(1834~96年)は、ラファエル前派の活動を装飾美術の分野へ押し広げた。デザイナーであり、詩人であり、社会活動家であった。モリスはラスキンが著書『ヴェネツィアの石造建築』の「ゴシックの本質」の章で、中世は創造と労働が同じレベルにあり人々が労働に喜びを感じていた、との記述に深く共感し、産業革命がもたらした機械化や量産化に反発して、手仕事を重んじた実践を行った。

 会場には、イグサの座部と黒檀の枠組みをもつシンプルな椅子、清々しい模様の布張りのソファ、バラの垣根に鳥や虫を描いた明るい色彩の壁紙、チェリーの実と花の刺繍、シンデレラの物語を描いたタイルや聖人を配したステンドグラスなどが展示されている。いずれもモリスが1861年に設立したモリス・マーシャル・フォークナー商会(1875年からモリス商会)で制作された。タイルの原画など多くにバーン=ジョーンズらが関わっている。

 1891年、モリスはケルムスコット・プレスを設立し、ブックデザインを建築となぞらえながら美しい書物を生み出した。ラスキン著『ゴシックの本質』、モリスが理想的と考えるユートピア的社会主義を叙述した『ユートピア便り』、また挿絵をバーン=ジョーンズ描いた『チョーサー作品集』などのケルムスコット刊本は、活字・挿絵・レイアウトの統一感と美しさに息をのむ。モリスの活動は、手仕事による工芸復興を目指すアーツ&クラフツの先駆けとなった。

 なお、モリスは若いときにロセッティに絵を学び、ロセッティが主導したオックスフォード大学ユニオン・ビルでの「アーサー王物語」の天井壁画制作にバーン=ジョーンズとともに参加するなど、ロセッティと深く交流。しかし、ロセッティがモリス夫人に愛情を抱いて生じた複雑な人間関係に長く苦しんだ。

 ■興味が尽きない  
 ラスキンが擁護したターナーとラファエル前派の描法は、全く違う。ラファエル前派の画家たちは、精密な描写や文学への深い傾倒などの共通点もあったが、それぞれの独自の表現へ向かう。モリスは装飾芸術や社会運動に踏み出した。本展では、彼らに影響を与えたラスキンの思想の深さを感受させられる。また、19世紀後半の英国でアカデミーの保守性に反発した美術の革命者たちが、フランスの自然主義とは異なる美術の世界を創造したことが見てとれる。さらに多くのことを知りたくなる。興味が尽きない展覧会である。


【参考文献】
1) クリストファー・ニューオル、スティーヴン・ワイドルマン、河村錠一郎=監修:『ラフェル前派の軌跡』、クリストファー・ニューオル、河村錠一郎、加藤明子、佐々木奈美子=執筆、株式会社アルティス=編集、株式会社アルティス・一般社団法人インディペンデント=発行、2019年。
2) 荒川裕子:『もっと知りたい ラファエル前派』、東京美術、2019年。
3) 藤田治彦:『もっと知りたい ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ』、東京美術、2009年。
4) 高橋裕子:『イギリス美術』、岩波書店(岩波新書)、1998年

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2019年5月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。



写真1 三菱一号館美術館の会場風景(以下、同様)。
手前は、ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー《カレの砂浜――引き潮時の餌採り》、
1830年、油彩/カンヴァス、ベリ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真2 会場風景。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》、
1863~68年頃、油彩/カンヴァス、ラッセル=コーツ美術館(ボーンマス)。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真3 会場風景。
手前は、ウィリアム・ホルマン・ハント《甘美なる無為》、
1866年、油彩/カンヴァス、個人像(リヴァプール、ウォーカー・アート・ギャラリーに寄託))。
右奥は、ウィリアム・ホルマン・ハント《誠実に励めば美しい顔になる》、
1866年、油彩/板、個人蔵。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真4 会場風景。
左から、アーサー・ヒューズ《ブラッケン・ディーンのクリスマス・キャロル―ジェイムス・リサート家》、1878~79年、油彩/カンヴァス、バーミンガム美術館(寄託)。
アーサー・ヒューズ《リュートのひび》、
1861~62年、油彩/カンヴァス、タリー・ハウス美術館(カーライル、英国)。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真5 会場風景。
左から、エドワード・バーン=ジョーンズ《ピュラモスとティスベー》、
1872~76年、水彩、ボディカラー/ヴェラム紙、ウィリアムスン美術館。
エドワード・バーン=ジョーンズ《嘆きの歌》、
1865~66年、水彩、ボディカラー/カンヴァスに貼った紙、
ウィリアム・モリス・ギャラリー、ブラングィン寄贈品(ウォルサム・フォレスト・ロンドン特別区)。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真6 会場風景。
右手前が、モリス・マーシャル・フォークナー商会(1875年以降はモリス商会)《3人掛けソファ》、
1880年頃、クルミ材、毛織生地、リヴァプール国立美術館、ウォーカー・アート・ギャラリー。
奥は、モリス・マーシャル・フォークナー商会(1875年以降はモリス商会)《チェリー》
1895年頃、シルク刺繍(デザイン:J.H.ダール、制作:ヘレン・ルーカス・トゥース)、
ルーカス・トゥース婦人の令嬢デュランド婦人より寄贈(1952年)、
ウィリアム・モリス・ギャラリー(ウォルサム・フォレスト・ロンドン特別区)。
(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会名】
ラファエル前派の軌跡展
Parabola of Pre-Raphaelitism
【会期・会場】
[東京会場]
2019年3月14日~6月9日 三菱一号館美術館 
電話:ハローダイヤル 03-5777-8600
展覧会HP http://mimt.jp/ppr
[久留米会場]
2019年6月20日~9月8日 久留米市美術館 
電話:0942-39-1131
[大阪会場]
2019年10月5日~12月15日 あべのハルカス美術館 
電話:06-4399-9050

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