詳細はミュージアムのオフィシャルサイトなどでご確認ください。

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エルマーのぼうけん展

開催中〜2023/10/01

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ

開催中〜2023/10/02

国立新美術館

東京都・港区

モネ、ルノワール 印象派の光

開催中〜2023/10/09

松岡美術館

東京都・港区

名作展 画家と生活—川端龍子の晩年の作品から

開催中〜2023/10/09

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展

開催中〜2023/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

中之条ビエンナーレ2023

開催中〜2023/10/09

芸術祭(群馬県中之条町)

群馬県・中之条町

特別展「海ー生命のみなもとー」

開催中〜2023/10/09

国立科学博物館

東京都・台東区

企画展 楽しい隠遁生活 文人たちのマインドフルネス

開催中〜2023/10/15

泉屋博古館東京

東京都

企画展 甲冑・刀・刀装具 光村コレクション・ダイジェスト

開催中〜2023/10/15

根津美術館

東京都・港区

北島敬三「UNTITLED RECORDS : REVISITED + PORTRAITS」展

開催中〜2023/10/22

BankART Station

神奈川県・横浜市

北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023「物質的想像力と物語の縁起― マテリアル、データ、ファンタジー」

開催中〜2023/10/29

芸術祭(富山県富山市富岩運河沿い)

富山県・富山市

瞳の奥にあるもの -表情でみる人物画展-

開催中〜2023/11/05

ホキ美術館

千葉県・千葉市

堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春

開催中〜2023/11/05

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室

開催中〜2023/11/05

DIC川村記念美術館

千葉県・佐倉市

MOTコレクション 被膜虚実/特集展示 横尾忠則―水のように/生誕100年 サム・フランシス

開催中〜2023/11/05

東京都現代美術館

東京都・江東区

宇川直宏展 FINAL MEDIA THERA PIST @DOMMUNE

開催中〜2023/11/05

練馬区立美術館

東京都・練馬区

九谷焼の芸術祭 KUTANism 2023

2023/10/06〜2023/11/05

芸術祭(石川県小松市・能美市各所)

石川県・小松市、能美市

土方久功と柚木沙弥郎――熱き体験と創作の愉しみ

開催中〜2023/11/05

世田谷美術館

東京都・世田谷区

テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本

開催中〜2023/11/05

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展「めぐりあう大津絵―笠間日動美術館・小絲源太郎コレクションと 神戸女子大学古典芸能研究センター・志水文庫の大津絵」

開催中〜2023/11/05

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2023/11/05

そごう美術館

神奈川県・横浜市

東京の地場に発する国際芸術祭 東京ビエンナーレ2023

開催中〜2023/11/05

芸術祭(東京都心北東エリア〔千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア〕 、歴史的建築物、公共空間、学校、店舗屋上、遊休化した建物等)

東京都・千代田区、中央区、文京区、台東区

春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ

開催中〜2023/11/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館

開催中〜2023/11/12

芸術祭(奈良県 吉野町、下北山村、ほか予定)

奈良県・吉野町、下北山村、ほか予定

奥能登国際芸術祭2023

開催中〜2023/11/12

芸術祭(石川県珠洲市)

石川県・珠洲市

TOKAS Project Vol. 6 『凪ぎ、揺らぎ、』

2023/10/07〜2023/11/12

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

松本秋則+松本倫子「惑星トラリス」展

開催中〜2023/11/12

BankART KAIKO

神奈川県・横浜市

浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」

開催中〜2023/11/12

東京国立博物館

東京都・台東区

第75回 正倉院展

2023/10/28〜2023/11/13

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

北斗の拳40周年大原画展 ~愛をとりもどせ!!~

2023/10/07〜2023/11/19

森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)

東京都・港区

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

創造の現場― 映画と写真による芸術家の記録

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

秋の特別展「おまもりとハンコとコイン -古代オリエントの偉大なる小さきものたち-」

開催中〜2023/11/19

古代オリエント博物館

東京都・豊島区

六甲ミーツ・アート芸術散歩 2023 beyond

開催中〜2023/11/23

芸術祭(神戸・六甲山上)

兵庫県・神戸市

美しき時代(ベル・エポック)と異彩のジュエリー

開催中〜2023/11/26

箱根ラリック美術館

神奈川県・箱根町

企画展「北斎のまく笑いの種」

開催中〜2023/11/26

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

横山美術館名品展 明治・大正の輸出陶磁器 技巧から意匠へ

2023/10/07〜2023/11/26

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

皇居三の丸尚蔵館収蔵品展 皇室と石川 —麗しき美の煌めき—

2023/10/14〜2023/11/26

国立工芸館(石川県立美術館との共催)

石川県・金沢市

開館20周年 & 富士山世界遺産登録10周年記念 後期「フジヤマミュージアム名品展」

開催中〜2023/11/26

フジヤマミュージアム

山梨県・富士吉田市

特別展「日本画聖地巡礼 ー東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門ー」

開催中〜2023/11/26

山種美術館

東京都・渋谷区

特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」

開催中〜2023/11/26

三井記念美術館

東京都・中央区

関東大震災100年企画展 「震災からのあゆみ —未来へつなげる科学技術—」

開催中〜2023/11/26

国立科学博物館

東京都・台東区

シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、 杉山寧から現代の作家まで

開催中〜2023/12/03

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ

2023/10/06〜2023/12/03

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

「横尾忠則 寒山百得」展

開催中〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

特別展「北宋書画精華」

2023/11/03〜2023/12/03

根津美術館

東京都・港区

特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」

2023/10/11〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

日中平和友好条約45周年記念「世界遺産 大シルクロード展」

開催中〜2023/12/10

東京富士美術館

東京都・八王子市

さいたま国際芸術祭2023

2023/10/07〜2023/12/10

芸術祭(さいたま市・旧市民会館おおみや(メイン会場)ほか)

埼玉県・さいたま市

永遠の都ローマ展

開催中〜2023/12/10

東京都美術館

東京都・台東区

イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル

開催中〜2023/12/11

国立新美術館

東京都・港区

コスチュームジュエリー美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより

2023/10/07〜2023/12/17

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

布の芸術祭『FUJI TEXTILE WEEK 2023(フジテキスタイルウィーク)』

2023/11/23〜2023/12/17

芸術祭(山梨県富士吉田市)

山梨県・富士吉田市

特別企画展 日本画の棲み家

2023/11/02〜2023/12/17

泉屋博古館東京

東京都・港区

開館1周年記念特別展 二つの頂 —宋磁と清朝官窯—

2023/10/07〜2023/12/17

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

国吉康雄展 ~安眠を妨げる夢~ 福武コレクション・岡山県立美術館のコレクションを中心に

2023/10/24〜2023/12/24

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

ヨシタケシンスケ展かもしれない

2023/10/15〜2023/12/24

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

2023/11/01〜2023/12/25

国立新美術館

東京都・港区

「今こそ、ルーシー!」LUCY IS HERE

開催中〜2024/01/08

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

「青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション」第2期(秋冬季)

開催中〜2024/01/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」

2023/11/16〜2024/01/08

東京都美術館

東京都・台東区

「鹿児島睦 まいにち」展

2023/10/07〜2024/01/08

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

111年目の中原淳一展

2023/11/18〜2024/01/10

そごう美術館

神奈川県・横浜市

ICCアニュアル 2023 ものごとのかたち

開催中〜2024/01/14

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

東京都・新宿区

企画展「ある従軍カメラマンの追憶 義烈空挺隊員と家族の片影」

2023/10/03〜2024/01/14

平和祈念展示資料館

東京都・新宿区

佐野史郎写真展 瞬間と一日

2023/10/14〜2024/01/14

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

ゴッホと静物画―伝統と革新へ

2023/10/17〜2024/01/21

SOMPO美術館

東京都・新宿区

モネ 連作の情景

2023/10/20〜2024/01/28

上野の森美術館

東京都・台東区

倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙

2023/11/18〜2024/01/28

世田谷美術館

東京都・世田谷区

江口寿史展 ノット・コンプリーテッド

開催中〜2024/02/04

世田谷文学館

東京都・世田谷区

アメイジング・チャイナ 深淵なる中国美術の世界

2023/10/24〜2024/02/11

松岡美術館

東京都・港区

みちのく いとしい仏たち

2023/12/02〜2024/02/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

1周年記念特別企画「ようこそ藤田嗣治のお家へ」

開催中〜2024/02/20

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

生誕120年 古賀忠雄展 塑造(像)の楽しみ

2023/11/17〜2024/02/25

練馬区立美術館

東京都・練馬区

森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

2023/10/18〜2024/03/31

森美術館

東京都・港区

tupera tupera + 遠藤幹子 しつもんパーク in 彫刻の森美術館

開催中〜2024/03/31

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

岡田健太郎―重なる景体

2023/12/05〜2024/04/07

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

Exhibitions

ラファエル前派の軌跡

ターナー、ラファエル前派、そしてモリス。
三菱一号館美術館で6月9日まで。
久留米市美術館、あべのハルカス美術館に巡回。

 ■本展の軸は、美術批評家ラスキン
 本展覧会を一巡すると、ちょっと不思議な感じがする。風景画に始まり、それとは様相の異なる独特の物語画や人物画がめくるめく展開し、最後に家具や壁紙なども見る。実に多彩なのだ。これらをつなぐのは、19世紀後半のイギリスを代表する美術・建築批評家のジョン・ラスキン(1819~1900年)だ。彼は『現代画家論』(全5巻)、『ヴェツィアの石造建築』などを著し、精力的に活動した。当時の英国は絶頂期のヴィクトリア朝(1837~1901年)。世界に先駆けた産業革命で繁栄を謳歌したが、貧富の差が拡大した時代でもあった。今年2019年はラスキンの生誕200周年だ。

 本展は、ラスキンが「新しい芸術」として擁護したターナーの風景画やラファエル前派の画家たちの作品、またラスキンが大きな影響を与えたモリスの装飾芸術などを、約150点の作品により紹介するものだ。中心となるラファエル前派を大きな視座で俯瞰できる。監修は、美術史家クリストファー・ニューオル氏と、スティーヴン・ワイドルマン氏(元ランカスター大学ラスキン・ライブラリー館長)。さて、ジョン・ラスキンは何を「新しい芸術」と、とらえたのだろう。

 ■展覧会構成
 本展覧会は、次の5つの章から構成されている。
 Ⅰラスキンとターナー/Ⅱラファエル前派/Ⅲラファエル前派周縁/Ⅳバーン=ジョーンズ/Ⅴウィリアム・モリスと装飾芸術

 ■風景画家ターナーとラスキン
 三菱一号館の最初の部屋にある《カレの砂浜――引き潮時の餌採り》(1830年、油彩/カンヴァス、ベリ美術館)を見ていると、画面に引き込まれそうになる。海に沈むオレンジ色の太陽の光が空にも海にも広がり、海も雲も手前で潮干狩りする人々も溶かし、黄色系の世界に一体化される。大気の呼吸も感じとれる。抽象画のごとき風景画ともいえよう。本作は英国最大の風景画家ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー(1775~1851年)がフランスのカレの海岸を描いた傑作。この海の向こうは、すぐイギリスだ。

 ターナーは晩年になると、光の効果、雨や霧などの自然現象を探求し、実験的に風景画に取り入れたが、抽象性の強い表現が激しい非難を浴びた。そのターナーを擁護したのが、新進気鋭の批評家ラスキンだった。ラスキンは13歳のとき、父からターナーの挿絵版画が入った詩集『イタリア』(詩:サミュエル・ロジャーズ)を贈られ、挿絵に魅了されて夢中で模写した。この詩集も会場に置かれている。ラスキン父子はターナーを敬愛し、作品を蒐集した。そして1843年、ラスキンはターナー擁護のために『現代画家論』第1巻を著し(全5巻は1860年に完結)、風景画家は真実性を求めるターナーに倣うべきだ、と説いた。ターナーの表現は多様に変化する自然の真実の姿を観察した結果であり、新しい芸術表現だ、とラスキンは訴え、それはターナーの再評価に大きな影響を与えることになった。

 ●ラスキンの素描 ラスキンは批評家だが優れた素描も残した。会場に木、山の岩肌、アルプスの山々や滝、建築物、建築装飾などを描いた水彩画や素描が展示されている。ラスキンが、自然やあらゆるものを愛情を込め細やかに観察し、表現したことが伝わる。彼は科学的精神の持ち主だった。

 ■芸術の刷新を目指すラファエル前派/ラスキンの「自然に忠実に」の教え
 1848年の秋、ラファエル前派同盟(プレ・ラファエライト・ブラザーフッドPre- Raphaelite Brotherhood:P.R.B.)という奇妙な名前の前衛芸術家集団が、ロンドンで結成された。ロイヤル・アカデミーの美術学校で学んでいたハント、ミレイ、ロセッティら20歳前後の若者7人が、形骸化したロイヤル・アカデミーの教育と保守性に異議を唱えたのだ。このままでは駄目だ! 絵画に美と真の感情の表現を取り戻そう、と。そのために、ロイヤル・アカデミーが伝統的に理想としたラファエロ(英語名はラファエル)以降の芸術ではなく、ラファエロ以前の初期ルネサンス美術や中世の美術のような素朴で誠実な表現を規範として芸術の刷新を図ろう、と。

 彼らの活動の拠り所となったのは、ラスキンの著作『現代画家論』第1巻に書かれた「自然に忠実にtrue to nature」という思想だった。細心の観察力によって自然を写しとるようにと、ラスキンは記した。ラファエル前派の画家たちは屋外での制作も行い、徹底した観察による独自のリアリズムを生み出した。しかし、遠近法の軽視などと批判される。1851年、彼らの可能性を感じたラスキンが『タイムズ』に投稿するなど支援し、ラファエル前派は社会に受容されるようになってゆく。

 ●ミレイ ジョン・エヴァレット・ミレイ(1829~96年)は、11歳でロイヤル・アカデミーに入学した天才。今回出品されていないが、緑深い森の小川で仰向けに流れゆく美少女を1851~52年に描いた油彩画《オフィーリア》(テイト・ブリテン)が、最も知られているだろう。シェイクスピアの『ハムレット』を主題にしたもので、夏目漱石の小説『草枕』にも言及がある作品だ。本展では、ミレイが描いた《滝》(1853年、油彩/板、デラウェア美術館、サミュエル&メアリ・R・バンクロフト・メモリアル、1935年)が出品。ラスキンの肖像画を描くために夫妻とともに旅行した際に制作した。ミレイは画面右端にラスキン夫人エフィを描き入れている。岩、水の流れ、岸辺の草木や人物も写実的に鮮やかに描写。なお、その後ミレイはラスキンと離婚したエフィと結婚した。

 ●ロセッティ ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(1828~82年)は、詩人としても有名だった。水彩画である《ボルジア家の人々》(1851~59年〈実際は1850年代末に制作〉、水彩/紙、タリ―・ハウス美術館(カーライル、英国))は、シェイクスピアの『リチャード三世』の挿絵の予定だったが、主題を変えた。小さいサイズであるが精緻な構成。楽器を奏でるルクレツィアを中心とした人々の表情やしぐさの描写が見事だ。

 《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》(1863~68年頃、油彩/カンヴァス、ラッセル=コーツ美術館(ボーンマス))は、神話上のヴィーナスの上半身の裸体が、赤と黄色のスイカズラやピンクのバラに囲まれて大きく描かれる。ヴィーナスはリンゴと矢を手にし、こちらを直視する。その黄金の光輪や手元には蝶が舞い、あでやかさを増す。ラスキンは1854年にロセッティに手紙を書き、交流が始まった。しかし本作についてラスキンは、「粗雑だ」と批判した。全体を見てみると花々なども一つ一つ丁寧に描かれている。ロセッティは批判を受けた後に描き直したようだ。

 《祝福されし乙女》(1875~81年、油彩/カンヴァス、リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー(ポートサンライト))は、ロセッティ作の同名の詩を絵画化した作品。上下二つに分かれ、上部の天国に豊かな赤毛の個性的な風貌の女性が、プレデッラ(裾絵)には現世で彼女を想う若者が濃厚な色彩で描かれ、見つめあう。神秘的である。ロセッティは、物語性を排し美のみを追求する唯美主義に接近してゆく。

 ●ハント ウィリアム・ホルマン・ハント(1827~1910年)は生涯、ラファエル前派が原則とした描法を貫いた。信仰心が深く、宗教画題を多く描いた。本展では女性像などが出品されている。《甘美なる無為》(1866年、油彩/カンヴァス、個人像(リヴァプール、ウォーカー・アート・ギャラリーに寄託))は強い存在感の華やかな若い女性の姿や室内を克明に描写。また、画家の妹を描いた《誠実に励めば美しい顔になる》(1866年、油彩/板、個人蔵)は小品ながら、優しく温かな表情が魅力的だ。

 ●ヒューズ ラファエル前派の創立メンバーではないが、行動をともにしたアーサー・ヒューズ(1832~1915年)の作品群は、柔らかな印象だ。《リュートのひび》(1861~62年、油彩/カンヴァス、タリ―・ハウス美術館(カーライル、英国))は、アーサー王伝説を題材とするテニスンの詩に想を得た作品。森の樹の根元に寝そべり、物思いにふける紫の衣装の女性の優美な姿が描かれる。暗い森に目を凝らすと、猟犬を連れた若者の姿が浮かぶ。

 ■ラファエル前派の第二世代 
 ラファエル前派の創始者たちの活動は、ミレイがロイヤル・アカデミーの准会員となり、ハントが旅に出立するなどにより5年ほどで自然壊滅したが、バーン=ジョーンズやモリスらがその第二世代とされる。両者は聖職者を目指してオクスフォード大学に入学したが、ラスキンの著作に学び、影響を受け、画家・デザイナーに転向した。
 
 ●バーン=ジョーンズ エドワード・バーン=ジョーンズ(1833~98年)が描いた《嘆きの歌》(1865~66年、水彩、ボディカラー/カンヴァスに貼った紙、ウィリアム・モリス・ギャラリー、ブラングィン寄贈品(ウォルサム・フォレスト・ロンドン特別区))では、ゆったりした赤と青の衣装をまとう男女が石のベンチに腰掛け、女は楽器のダルシマーの演奏を止め、男は頭をたれている。どんな物語なのだろう。見る者に想像を喚起する美しい作品だ。人物も石造りの部屋や男の背後のバラの花も精緻に描かれる。本作は、独学だった画家にラスキンが古代彫刻を素描するようにと忠告し、その実践の成果を示すものだ。

 《赦しの樹》(1881~82年、油彩/カンヴァス、リヴァプール国立美術館、レディ・リーヴァー・アート・ギャラリー(ポートサンライト))は縦が2m近い大作。主題はオウィディウスの『ヘロイーデス』から取られ、花咲くアーモンドの樹の中から飛び出した女性が、自分を捨てた男性を赦し駆け寄る劇的な場面だ。堂々たる体格の二人の動勢に目を奪われる。バーン=ジョーンズは度々イタリアを訪れ、ラスキンとも同行したこともあった。本作は、イタリア盛期ルネサンスの巨匠ミケランジェロの影響が色濃い。

 ●モリス ウィリアム・モリス(1834~96年)は、ラファエル前派の活動を装飾美術の分野へ押し広げた。デザイナーであり、詩人であり、社会活動家であった。モリスはラスキンが著書『ヴェネツィアの石造建築』の「ゴシックの本質」の章で、中世は創造と労働が同じレベルにあり人々が労働に喜びを感じていた、との記述に深く共感し、産業革命がもたらした機械化や量産化に反発して、手仕事を重んじた実践を行った。

 会場には、イグサの座部と黒檀の枠組みをもつシンプルな椅子、清々しい模様の布張りのソファ、バラの垣根に鳥や虫を描いた明るい色彩の壁紙、チェリーの実と花の刺繍、シンデレラの物語を描いたタイルや聖人を配したステンドグラスなどが展示されている。いずれもモリスが1861年に設立したモリス・マーシャル・フォークナー商会(1875年からモリス商会)で制作された。タイルの原画など多くにバーン=ジョーンズらが関わっている。

 1891年、モリスはケルムスコット・プレスを設立し、ブックデザインを建築となぞらえながら美しい書物を生み出した。ラスキン著『ゴシックの本質』、モリスが理想的と考えるユートピア的社会主義を叙述した『ユートピア便り』、また挿絵をバーン=ジョーンズ描いた『チョーサー作品集』などのケルムスコット刊本は、活字・挿絵・レイアウトの統一感と美しさに息をのむ。モリスの活動は、手仕事による工芸復興を目指すアーツ&クラフツの先駆けとなった。

 なお、モリスは若いときにロセッティに絵を学び、ロセッティが主導したオックスフォード大学ユニオン・ビルでの「アーサー王物語」の天井壁画制作にバーン=ジョーンズとともに参加するなど、ロセッティと深く交流。しかし、ロセッティがモリス夫人に愛情を抱いて生じた複雑な人間関係に長く苦しんだ。

 ■興味が尽きない  
 ラスキンが擁護したターナーとラファエル前派の描法は、全く違う。ラファエル前派の画家たちは、精密な描写や文学への深い傾倒などの共通点もあったが、それぞれの独自の表現へ向かう。モリスは装飾芸術や社会運動に踏み出した。本展では、彼らに影響を与えたラスキンの思想の深さを感受させられる。また、19世紀後半の英国でアカデミーの保守性に反発した美術の革命者たちが、フランスの自然主義とは異なる美術の世界を創造したことが見てとれる。さらに多くのことを知りたくなる。興味が尽きない展覧会である。


【参考文献】
1) クリストファー・ニューオル、スティーヴン・ワイドルマン、河村錠一郎=監修:『ラフェル前派の軌跡』、クリストファー・ニューオル、河村錠一郎、加藤明子、佐々木奈美子=執筆、株式会社アルティス=編集、株式会社アルティス・一般社団法人インディペンデント=発行、2019年。
2) 荒川裕子:『もっと知りたい ラファエル前派』、東京美術、2019年。
3) 藤田治彦:『もっと知りたい ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ』、東京美術、2009年。
4) 高橋裕子:『イギリス美術』、岩波書店(岩波新書)、1998年

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2019年5月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。



写真1 三菱一号館美術館の会場風景(以下、同様)。
手前は、ジョゼフ・マラード・ウィリアム・ターナー《カレの砂浜――引き潮時の餌採り》、
1830年、油彩/カンヴァス、ベリ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真2 会場風景。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)》、
1863~68年頃、油彩/カンヴァス、ラッセル=コーツ美術館(ボーンマス)。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真3 会場風景。
手前は、ウィリアム・ホルマン・ハント《甘美なる無為》、
1866年、油彩/カンヴァス、個人像(リヴァプール、ウォーカー・アート・ギャラリーに寄託))。
右奥は、ウィリアム・ホルマン・ハント《誠実に励めば美しい顔になる》、
1866年、油彩/板、個人蔵。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真4 会場風景。
左から、アーサー・ヒューズ《ブラッケン・ディーンのクリスマス・キャロル―ジェイムス・リサート家》、1878~79年、油彩/カンヴァス、バーミンガム美術館(寄託)。
アーサー・ヒューズ《リュートのひび》、
1861~62年、油彩/カンヴァス、タリー・ハウス美術館(カーライル、英国)。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真5 会場風景。
左から、エドワード・バーン=ジョーンズ《ピュラモスとティスベー》、
1872~76年、水彩、ボディカラー/ヴェラム紙、ウィリアムスン美術館。
エドワード・バーン=ジョーンズ《嘆きの歌》、
1865~66年、水彩、ボディカラー/カンヴァスに貼った紙、
ウィリアム・モリス・ギャラリー、ブラングィン寄贈品(ウォルサム・フォレスト・ロンドン特別区)。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真6 会場風景。
右手前が、モリス・マーシャル・フォークナー商会(1875年以降はモリス商会)《3人掛けソファ》、
1880年頃、クルミ材、毛織生地、リヴァプール国立美術館、ウォーカー・アート・ギャラリー。
奥は、モリス・マーシャル・フォークナー商会(1875年以降はモリス商会)《チェリー》
1895年頃、シルク刺繍(デザイン:J.H.ダール、制作:ヘレン・ルーカス・トゥース)、
ルーカス・トゥース婦人の令嬢デュランド婦人より寄贈(1952年)、
ウィリアム・モリス・ギャラリー(ウォルサム・フォレスト・ロンドン特別区)。
(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会名】
ラファエル前派の軌跡展
Parabola of Pre-Raphaelitism
【会期・会場】
[東京会場]
2019年3月14日~6月9日 三菱一号館美術館 
電話:ハローダイヤル 03-5777-8600
展覧会HP http://mimt.jp/ppr
[久留米会場]
2019年6月20日~9月8日 久留米市美術館 
電話:0942-39-1131
[大阪会場]
2019年10月5日~12月15日 あべのハルカス美術館 
電話:06-4399-9050

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