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エルマーのぼうけん展

開催中〜2023/10/01

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ

開催中〜2023/10/02

国立新美術館

東京都・港区

モネ、ルノワール 印象派の光

開催中〜2023/10/09

松岡美術館

東京都・港区

名作展 画家と生活—川端龍子の晩年の作品から

開催中〜2023/10/09

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展

開催中〜2023/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

中之条ビエンナーレ2023

開催中〜2023/10/09

芸術祭(群馬県中之条町)

群馬県・中之条町

特別展「海ー生命のみなもとー」

開催中〜2023/10/09

国立科学博物館

東京都・台東区

企画展 楽しい隠遁生活 文人たちのマインドフルネス

開催中〜2023/10/15

泉屋博古館東京

東京都

企画展 甲冑・刀・刀装具 光村コレクション・ダイジェスト

開催中〜2023/10/15

根津美術館

東京都・港区

北島敬三「UNTITLED RECORDS : REVISITED + PORTRAITS」展

開催中〜2023/10/22

BankART Station

神奈川県・横浜市

北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023「物質的想像力と物語の縁起― マテリアル、データ、ファンタジー」

開催中〜2023/10/29

芸術祭(富山県富山市富岩運河沿い)

富山県・富山市

瞳の奥にあるもの -表情でみる人物画展-

開催中〜2023/11/05

ホキ美術館

千葉県・千葉市

堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春

開催中〜2023/11/05

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室

開催中〜2023/11/05

DIC川村記念美術館

千葉県・佐倉市

MOTコレクション 被膜虚実/特集展示 横尾忠則―水のように/生誕100年 サム・フランシス

開催中〜2023/11/05

東京都現代美術館

東京都・江東区

宇川直宏展 FINAL MEDIA THERA PIST @DOMMUNE

開催中〜2023/11/05

練馬区立美術館

東京都・練馬区

九谷焼の芸術祭 KUTANism 2023

2023/10/06〜2023/11/05

芸術祭(石川県小松市・能美市各所)

石川県・小松市、能美市

土方久功と柚木沙弥郎――熱き体験と創作の愉しみ

開催中〜2023/11/05

世田谷美術館

東京都・世田谷区

テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本

開催中〜2023/11/05

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展「めぐりあう大津絵―笠間日動美術館・小絲源太郎コレクションと 神戸女子大学古典芸能研究センター・志水文庫の大津絵」

開催中〜2023/11/05

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2023/11/05

そごう美術館

神奈川県・横浜市

東京の地場に発する国際芸術祭 東京ビエンナーレ2023

開催中〜2023/11/05

芸術祭(東京都心北東エリア〔千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア〕 、歴史的建築物、公共空間、学校、店舗屋上、遊休化した建物等)

東京都・千代田区、中央区、文京区、台東区

春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ

開催中〜2023/11/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館

開催中〜2023/11/12

芸術祭(奈良県 吉野町、下北山村、ほか予定)

奈良県・吉野町、下北山村、ほか予定

奥能登国際芸術祭2023

開催中〜2023/11/12

芸術祭(石川県珠洲市)

石川県・珠洲市

TOKAS Project Vol. 6 『凪ぎ、揺らぎ、』

2023/10/07〜2023/11/12

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

松本秋則+松本倫子「惑星トラリス」展

開催中〜2023/11/12

BankART KAIKO

神奈川県・横浜市

浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」

開催中〜2023/11/12

東京国立博物館

東京都・台東区

第75回 正倉院展

2023/10/28〜2023/11/13

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

北斗の拳40周年大原画展 ~愛をとりもどせ!!~

2023/10/07〜2023/11/19

森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)

東京都・港区

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

創造の現場― 映画と写真による芸術家の記録

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

秋の特別展「おまもりとハンコとコイン -古代オリエントの偉大なる小さきものたち-」

開催中〜2023/11/19

古代オリエント博物館

東京都・豊島区

六甲ミーツ・アート芸術散歩 2023 beyond

開催中〜2023/11/23

芸術祭(神戸・六甲山上)

兵庫県・神戸市

美しき時代(ベル・エポック)と異彩のジュエリー

開催中〜2023/11/26

箱根ラリック美術館

神奈川県・箱根町

企画展「北斎のまく笑いの種」

開催中〜2023/11/26

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

横山美術館名品展 明治・大正の輸出陶磁器 技巧から意匠へ

2023/10/07〜2023/11/26

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

皇居三の丸尚蔵館収蔵品展 皇室と石川 —麗しき美の煌めき—

2023/10/14〜2023/11/26

国立工芸館(石川県立美術館との共催)

石川県・金沢市

開館20周年 & 富士山世界遺産登録10周年記念 後期「フジヤマミュージアム名品展」

開催中〜2023/11/26

フジヤマミュージアム

山梨県・富士吉田市

特別展「日本画聖地巡礼 ー東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門ー」

開催中〜2023/11/26

山種美術館

東京都・渋谷区

特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」

開催中〜2023/11/26

三井記念美術館

東京都・中央区

関東大震災100年企画展 「震災からのあゆみ —未来へつなげる科学技術—」

開催中〜2023/11/26

国立科学博物館

東京都・台東区

シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、 杉山寧から現代の作家まで

開催中〜2023/12/03

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ

2023/10/06〜2023/12/03

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

「横尾忠則 寒山百得」展

開催中〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

特別展「北宋書画精華」

2023/11/03〜2023/12/03

根津美術館

東京都・港区

特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」

2023/10/11〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

日中平和友好条約45周年記念「世界遺産 大シルクロード展」

開催中〜2023/12/10

東京富士美術館

東京都・八王子市

さいたま国際芸術祭2023

2023/10/07〜2023/12/10

芸術祭(さいたま市・旧市民会館おおみや(メイン会場)ほか)

埼玉県・さいたま市

永遠の都ローマ展

開催中〜2023/12/10

東京都美術館

東京都・台東区

イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル

開催中〜2023/12/11

国立新美術館

東京都・港区

コスチュームジュエリー美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより

2023/10/07〜2023/12/17

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

布の芸術祭『FUJI TEXTILE WEEK 2023(フジテキスタイルウィーク)』

2023/11/23〜2023/12/17

芸術祭(山梨県富士吉田市)

山梨県・富士吉田市

特別企画展 日本画の棲み家

2023/11/02〜2023/12/17

泉屋博古館東京

東京都・港区

開館1周年記念特別展 二つの頂 —宋磁と清朝官窯—

2023/10/07〜2023/12/17

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

国吉康雄展 ~安眠を妨げる夢~ 福武コレクション・岡山県立美術館のコレクションを中心に

2023/10/24〜2023/12/24

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

ヨシタケシンスケ展かもしれない

2023/10/15〜2023/12/24

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

2023/11/01〜2023/12/25

国立新美術館

東京都・港区

「今こそ、ルーシー!」LUCY IS HERE

開催中〜2024/01/08

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

「青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション」第2期(秋冬季)

開催中〜2024/01/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」

2023/11/16〜2024/01/08

東京都美術館

東京都・台東区

「鹿児島睦 まいにち」展

2023/10/07〜2024/01/08

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

111年目の中原淳一展

2023/11/18〜2024/01/10

そごう美術館

神奈川県・横浜市

ICCアニュアル 2023 ものごとのかたち

開催中〜2024/01/14

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

東京都・新宿区

企画展「ある従軍カメラマンの追憶 義烈空挺隊員と家族の片影」

2023/10/03〜2024/01/14

平和祈念展示資料館

東京都・新宿区

佐野史郎写真展 瞬間と一日

2023/10/14〜2024/01/14

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

ゴッホと静物画―伝統と革新へ

2023/10/17〜2024/01/21

SOMPO美術館

東京都・新宿区

モネ 連作の情景

2023/10/20〜2024/01/28

上野の森美術館

東京都・台東区

倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙

2023/11/18〜2024/01/28

世田谷美術館

東京都・世田谷区

江口寿史展 ノット・コンプリーテッド

開催中〜2024/02/04

世田谷文学館

東京都・世田谷区

アメイジング・チャイナ 深淵なる中国美術の世界

2023/10/24〜2024/02/11

松岡美術館

東京都・港区

みちのく いとしい仏たち

2023/12/02〜2024/02/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

1周年記念特別企画「ようこそ藤田嗣治のお家へ」

開催中〜2024/02/20

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

生誕120年 古賀忠雄展 塑造(像)の楽しみ

2023/11/17〜2024/02/25

練馬区立美術館

東京都・練馬区

森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

2023/10/18〜2024/03/31

森美術館

東京都・港区

tupera tupera + 遠藤幹子 しつもんパーク in 彫刻の森美術館

開催中〜2024/03/31

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

岡田健太郎―重なる景体

2023/12/05〜2024/04/07

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

Exhibitions

プラド美術館展 
―スペイン宮廷 美への情熱

小作品を選りすぐった本展。なぜこんなに魅惑的なのか。

  会場の最初の部屋で、なんとも清らかで豊かな印象を残す聖母子像に出合った。青の衣装と赤いマントを装い、幼子イエスを抱く長い金髪の聖母マリア。伏し目がちに斜め前に視線を向ける。あどけない表情の幼子も同じ方向を見ている。その先に何があるのか。両脇にも愛らしい白い衣装の天使がいて、向かって左の天使はイエスにリンゴを手渡し、右の天使はヴィオラを奏でる。背景には美しい緑の庭園が広がり、赤と白の花が咲き誇る。楽器の響きがその風景に重なるよう。奥には繁る樹木や堅固な建築物が、さらに遠くに薄い青色で山並みが描かれる。優れた構図、色彩の調和、左からの光の表現や全体にわたる緻密な描写が、優美で甘美な世界を創出。驚くべきは、絵のサイズが36×26cmの小ささであること。絵にもう少し近づいてみる。見れば見るほど絵の前を離れがたくなる。

  これは、15世紀にブルージュで活躍した初期フランドル絵画の巨匠の一人ハンス・メムリンク(1433頃~94年)が描いた宗教画《聖母子と二人の天使》(1480~90年)(※以下、出品作品はすべてプラド美術館蔵)である。画家の個性とフランドル絵画の厳格なまでの写実性とを両方とも表現することに成功。なお、リンゴはマリアの憂いの表情などともにイエスの受難を暗示。庭園はマリアの処女性を象徴する閉じられた庭を示す。

  ■展覧会の趣旨
  東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の本展には際立った特徴がある。「小作品」が研ぎ澄まされた感性で選ばれていることだ。15世紀から19世紀までの102作品が出品。「小さいサイズの作品」が意味するものは何か。第一に、小さい作品ほど画家自身が描き、品質が高い作品であること。美術作品にはそれぞれの価値がある。ルネサンス以降は大作制作の場合、弟子や協力者に任せることも多いが、本展に出品された作品は画家自身がすべてを描いており、構図、色彩、テクニックともに画家の明確な意図が表れている。第2には、小作品のため画家と鑑賞者の間の近さから、画家への親近性が強く感じられることである。上述したメムリンクの作品から筆者が受けた感銘も、小作品がゆえメムリンクの実力が如何なく発揮された作品だから、と納得できる。また、輸送や公開が難しい板絵作品が三分の一を占めることも注目したい。

  本展はマヌエラ・B.メナ・マルケース国立プラド美術館18世紀・ゴヤ絵画部長の監修による。彼女は1993年にゴヤ作品のみの小作品の展覧会を企画し、ゴヤの優れた技巧を見い出し、小作品の特別の魅力を明らかにした。そしてプラド美術館所蔵の小さいサイズの作品で構成した「閉じこめられた美」展を2013年にマドリードの同館、2014年にバルセロナにて開催。本展はそれらの展覧会を再構成したものである。

  スペインのマドリードにあるプラド美術館は、1819年に王立美術館として開館した。15世紀にカトリック両王がフランドル美術を愛好し所蔵したことを起源とし、ハプスブルグ家やブルボン家など歴代の王族がその好みを強く反映させて蒐集した作品を所蔵する。現在、約7600点の絵画をはじめとする2万点を超える芸術作品を所蔵。

  ■展覧会構成
  本展は、主に時代の流れに沿いながら以下の7つの章から構成される。
  Ⅰ 中世後期と初期ルネサンスにおける宗教と日常生活/Ⅱ マニエリスムの世紀:イタリアとスペイン/Ⅲ バロック:初期と最盛期/Ⅳ 17世紀の主題:現実の生活と詩情/Ⅴ 18世紀ヨーロッパの宮廷の雅/Ⅵ ゴヤ/Ⅶ 19世紀:親密なまなざし、私的な領域

  ■宗教画の小作品
  日常生活も美術表現も、中世後期と初期ルネサンスの時代は宗教が主であった。宗教画の小作品は祭壇画の最下部の小パネルとして描かれたプレデッラ、携帯用の祭壇画や私的な礼拝堂にかけるために描かれた。その後も書斎など私的な場所に飾られ、信仰のための絵画の伝統は19世紀まで続く。また、肖像画の小作品も早い時期から描かれてきた。

  《トビアスと天使》(1787年頃)は、主に18世紀に活躍したスペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(1746~1828年)の宗教画の代表作。個人の礼拝のために描いたとされる、ゴヤには珍しい例である。画面中央に白い羽を広げて光を放つ大天使ラファエルが、魚を手にするトビアスの前に立つ。新古典様式の理想美を描き、背筋が伸びるような崇高さと調和をもつ作品。画題は、旅をするトビアスが天使の言葉に従って捕った大魚の胆嚢で父トビトの失明が治癒したとの旧約聖書『トビト記』の物語。危険な旅をする商人たちに好まれてきた画題だ。

  ■キャビネット・ペインティング
  16世紀頃から、またネーデルランドでは17世紀に発展したキャビネット・ペインティングは、富裕層の館に設けた小部屋を飾るための小さなサイズの絵画である。さまざまな主題を含むが、この時期は風刺をこめた寓話や奇想の絵画が好まれたようだ。

  15~16世紀に活躍したヒエロニムス・ボス(1450頃~1516年)の《愚者の石の除去》(1500~10年頃)は個性的な油彩画だ。本展で最も注目される作品の一つである。画面上下に「先生、どうか石を取り除いておくんなさい」などの金色の銘文。画面には奇妙な雰囲気の4人の人物が描かれる。手術中らしい。患者の頭上からニセ外科医が石ではなく花を取り出す。見守るのは司祭と患者の妻。人物や風景に緻密な描写がなされる。「愚者の石」とは錬金術「賢者の石」のパロディで、頭がおかしいのを治すための手術のようだが、主人公は3人に騙されているのは明らか。教化的な意味を込めた風俗画のようだ。スペイン王フェリペ2世が購入した作品である。ボスの現存する真筆は20点ほどであり、本作はボス作品の初来日である。なおボスの作品の多くはグロテスクで異教的な印象も受けるが、実は伝統的主題を扱っており、本人も熱心なカトリック信者。絵の注文主は教会と富裕層で、彼の作品は当時きちんと理解され好評を得て、ボスは成功した画家だった。

  一方、17世紀にアントウェルペンで活動したヤン・ファン・ケッセル(1世)(1626~79年)の《アジア》(1660年)では、極小サイズの銅板絵11点が組み合わさって展示されている。鎧を装着したような犀や相撲をとっているような蛙、脚がはえた鯨など、空想と実在の動物や海の生き物たちが、都市の景観を背景に細かく描かれ、奇妙な魅力がある。世界の4大陸を表した連作86点の一部で、プラド美術館が39点を所蔵。ヨーロッパの覇権意識を表したものとされる。また、動物や鳥が緑なす森の中に色鮮やかに沢山描きこまれた、ヤン・ブリューゲル(2世)(1601~78年)銅板絵《地上の楽園》(1626年頃)も見飽きることがない。細密描写の見事さと画面全体に広がる楽しげな雰囲気。主人公であるアダムとイヴは画面の左奥に小さく描かれている。

  主に18世紀に活躍したゴヤの場合、小作品である下絵や宗教画をキャビネット・ペインティングとして求められたが、同時に彼は1783年から「注文品では通常とりえないような物の見方」が可能だからとの理由で、キャビネット・ペインティングを自主制作していった。《アルバ女公爵とラ・ベアタ》(1795年)はその一例。アルバ女公爵が召使いの迷信を嘲笑する意味をもつ独特の作品だが、ゴヤは女公爵の迫力ある激しい動きとしなやかな魅力を描き切っている。

  ■大作の下絵
  大作の下絵の小作品は、画家の制作意図を明確に示すものとして高い評価を得た。17世紀に活躍し、巨大な作品を多く残したバロックの巨匠ペーテル・パウル・ルーベンス(1577~1640年)の《狩りをするディアナとニンフたち》《デウカリオンとビュラ》《アポロンと大蛇ピュトン》(3点とも1636~37年)が出品されている。いずれもスペイン王フェリペ4世がマドリード郊外のエル・パルドにある狩猟休憩塔(トーレ・デ・ラ・パラーダ)のために注文した神話画連作の下絵である。ルーベンスは横長の小さい画面に、素速い筆さばきで構図、色彩、人物、明暗を的確に描き、指示を示しているわけだが、その動きのある瑞々しい描写に、ルーベンスその人を間近に感じることができる。

  ■風景画
  セビーリャに生まれ、17世紀にフィリペ4世の宮廷画家として重用されたディエゴ・ベラスケス(1599~1660年)の代表的な風景画《ローマ、ヴィラ・メディチの庭園》(1629~30年)も特筆される。1630年の夏、ローマで描かれた本作は、緑、白、茶色など限られた色数で午後の光を確実にとらえ、印象主義を先取りしたともいわれる。当時は背景とされる風景を主題としている点でも異例だ。絵具を屋外に持ち出して描いたとの説もある。

  ■親密な19世紀絵画
  19世紀前半にロマン主義が盛んになり、個人のプラバシーを重んじるようになる。19世紀の貴族やブルジョワの館の私的な部屋に飾られる小作品は、より親密な画題が好まれたようだ。スペインの画家マリアノ・フォルトゥーニ・イ・マルサル(1834~74年)の《日本式広間にいる画家の子供たち》(1874年)は横長の画面に画家自身の子供たちが長椅子に居る。強烈な白い外光と、日本趣味の扇、梅の枝や蝶などの装飾が印象的な独特の境地。画家の急逝により未完成となったが、彼の最高傑作の一つだ。またわずか直径15cmの円に描かれた、赤い布の上ですやすや眠る猫を描いた《眠る猫の頭部》(1885年頃)は、力強い筆致でその可愛らしさを見事に表現。画家はマリアノ・フォルトゥーニの知遇を得て活躍したフランシスコ・ドミンゴ・マルケース(1842~1920年)。猫好きにはたまらないだろう。

  三菱一号館美術館は部屋が連続する空間なので、本展の趣旨にぴったり合う。
  スペイン、フランドル、イタリア、オランダ、フランスの幅広い画家による宝石のような小さな作品群。心行くまでお楽しみください。できれば単眼鏡を携えて。


【参考文献】
1)三菱一号館美術館・読売新聞社 編集:『プラド美術館展―スペイン宮廷 美への情熱』(カタログ)、読売新聞東京本社 発行、2015年。

執筆:細川いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2015年12月)


※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。

写真1 会場風景。ハンス・メムリンク、《聖母子と二人の天使》、
1480~90年、プラド美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真2 会場風景。左から、フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス、《トビアスと天使》、
1787年頃、プラド美術館。
フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス、《レオカディア・ソリーリャ?》、
1814~16年、プラド美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真3 会場風景。ヤン・ブリューゲル(2世)、《地上の楽園》、
1626年頃、プラド美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真4 会場風景。ディエゴ・ベラスケス、《ローマ、ヴィラ・メディチの庭園》、
1629~30年、プラド美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会英語表記】
CAPTIVE BEAUTY―TREASURES FROM THE PRADO MUSEUM
【会期・会場】

2015年10 月10日~2016年1月31日  三菱一号館美術館(東京・丸の内)
<電話> 03-5777-8600(ハローダイヤル) 
【展覧会詳細】http://mimt.jp/prado


※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。

2015年12月24日