詳細はミュージアムのオフィシャルサイトなどでご確認ください。

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TOKAS-Emerging

開催中〜2025/05/04

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

百花ひらく-花々をめぐる美-

開催中〜2025/05/06

皇居三の丸尚蔵館

東京都・千代田区

近藤亜樹:我が身をさいて、みた世界は

開催中〜2025/05/06

水戸芸術館現代美術センター

茨城県・水戸市

hideって誰?FINAL PSYCHOVISION hide MUSEUM Since 2000

開催中〜2025/05/07

そごう美術館

神奈川県・横浜市

【特別展】桜 さくら SAKURA 2025 ―美術館でお花見!

開催中〜2025/05/11

山種美術館

東京都・渋谷区

松山智一展 FIRST LAST

開催中〜2025/05/11

麻布台ヒルズ ギャラリー(麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階)

東京都・港区

「この、原美術館ARCという時間芸術」第1期

開催中〜2025/05/11

原美術館ARC

群馬県・渋川市

春の江戸絵画まつり 司馬江漢と亜欧堂田善 かっこいい油絵

開催中〜2025/05/11

府中市美術館

東京都・府中市

特別展 はにわ

開催中〜2025/05/11

九州国立博物館

福岡県・太宰府市

特別展「国宝・燕子花図屏風-デザインの日本美術-」

開催中〜2025/05/12

根津美術館

東京都・港区

特別展「学習院コレクション 華族文化 美の玉手箱 芸術と伝統文化のパトロネージュ」

開催中〜2025/05/17

霞会館記念学習院ミュージアム

東京都・豊島区

カラーズ — 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ

開催中〜2025/05/18

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

企画展「ライトアップ木島櫻谷II― おうこくの線をさがしに 併設四季連作屏風」

開催中〜2025/05/18

泉屋博古館東京

東京都・港区

略画 — はずむ筆、おどる線—

開催中〜2025/05/18

北斎館

長野県・小布施町

戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見

開催中〜2025/05/18

東京都庭園美術館

東京都・港区

三鷹天命反転中!!──荒川修作+マドリン・ギンズの死なないためのエクササイズ

開催中〜2025/05/18

三鷹市美術ギャラリー

東京都・三鷹市

開館30周年記念展 ブラチスラバからやってきた!世界の絵本パレード

開催中〜2025/05/18

千葉市美術館

千葉県・千葉市

生誕100年 中村正義展-その熱と渦-

開催中〜2025/05/18

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

手塚治虫「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-

開催中〜2025/05/25

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)

東京都・港区

没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園

開催中〜2025/05/25

太田記念美術館

東京都・渋谷区

アート・アーカイヴ資料展XXVII 「交信詩あるいは書簡と触発:瀧口修造と荒川修作/マドリン・ギンズ」

開催中〜2025/05/30

慶應義塾大学アート・センター(三田キャンパス 南別館 1階)

東京都・港区

開館50周年記念「1975 甦る 新橋 松岡美術館 ―大観・松園・東洋陶磁―」

開催中〜2025/06/01

松岡美術館

東京都・港区

ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ

開催中〜2025/06/01

アーティゾン美術館

東京都・中央区

すべてを描く萬(よろず)絵師 暁斎 ―河鍋暁斎記念美術館所蔵

2025/04/26〜2025/06/01

中之島 香雪美術館

大阪府・大阪市

イメージの魔術師 エロール・ル・カイン展

開催中〜2025/06/01

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

皇室の美と山梨~皇居三の丸尚蔵館の名品~

2025/04/26〜2025/06/01

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展 ノー・バウンダリーズ

開催中〜2025/06/01

国立国際美術館

大阪府・大阪市

横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」

開催中〜2025/06/02

横浜美術館

神奈川県・横浜市

ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ

開催中〜2025/06/03

CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京・京橋TODA BUILDING 6階)

東京都・中央区

「総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」展

開催中〜2025/06/08

東京都写真美術館

東京都・目黒区

マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート

開催中〜2025/06/08

森美術館

東京都・港区

西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館

開催中〜2025/06/08

国立西洋美術館

東京都・台東区

企画展示「20世紀イタリアの巨匠 マリノ・マリーニ 新収蔵の版画作品を中心に」

開催中〜2025/06/08

群馬県立近代美術館

群馬県・高崎市

遥かなるイタリア 川村清雄と寺崎武男

開催中〜2025/06/08

目黒区美術館

東京都・目黒区

特別展「古代DNA―日本人のきた道―」

開催中〜2025/06/15

国立科学博物館

東京都・台東区

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

開催中〜2025/06/15

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」

開催中〜2025/06/15

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」

開催中〜2025/06/15

京都国立博物館

京都府・京都市

国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示 三井家の五月人形

開催中〜2025/06/15

三井記念美術館

東京都・中央区

ラーメンどんぶり展 「器」からはじめるラーメン×デザイン考

開催中〜2025/06/15

21_21 DESIGN SIGHT

東京都・港区

特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」

2025/04/22〜2025/06/15

東京国立博物館

東京都・台東区

春の特別展「食の器と道具」

開催中〜2025/06/20

国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館(ICU湯浅八郎記念館)

東京都・三鷹市

花と暮らす展

開催中〜2025/06/22

国立工芸館

石川県・金沢市

横尾忠則 連画の河

2025/04/26〜2025/06/22

世田谷美術館

東京都・世田谷区

総合開館30周年記念 TOPコレクション 不易流行

開催中〜2025/06/22

東京都写真美術館

東京都・目黒区

初夏展「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻『領内名勝図巻』―」

2025/04/26〜2025/06/22

永青文庫

東京都・文京区

藤田嗣治 ―7つの情熱

開催中〜2025/06/22

SOMPO美術館

東京都・新宿区

名作展「川端龍子の描き出した世界 生誕140年を迎えて」

開催中〜2025/06/22

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

篠原一男 空間に永遠を刻む——生誕百年 100の問い

開催中〜2025/06/22

TOTOギャラリー・間

東京都・港区

黒の奇跡・曜変天目の秘密

開催中〜2025/06/22

静嘉堂文庫美術館@丸の内

東京都・千代田区

箱根-横須賀連携企画第3弾 アートでつなぐ山と海 箱根・芦ノ湖 成川美術館コレクション展 海辺のミュージアムで楽しむ日本画のきらめき

開催中〜2025/06/22

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

石田尚志 絵と窓の間

開催中〜2025/06/22

アーツ前橋 ギャラリー

群馬県・前橋市

特別企画展「めぐる いのち 熊谷守一美術館40周年展」

開催中〜2025/06/29

豊島区立 熊谷守一美術館

東京都・豊島区

ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展

2025/04/26〜2025/06/29

森アーツセンターギャラリー

東京都・港区

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2025/06/29

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

まど・みちおのうちゅう―うちゅうの あんなに とおい あそこに さわる―

2025/04/27〜2025/06/29

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス

2025/04/26〜2025/06/29

東京都現代美術館

東京都・江東区

MOT Plus ハン・ネフケンス財団との共同プロジェクト シャハナ・ラジャニ

2025/04/29〜2025/06/29

東京都現代美術館

東京都・江東区

日本画コレクション再発見と 片岡球子「蔦屋重三郎の浮世絵師たち」

開催中〜2025/06/29

神奈川県立近代美術館 葉山

神奈川県・葉山町

民藝 MINGEI–美は暮らしのなかにある

2025/04/22〜2025/06/29

千葉県立美術館

千葉県・千葉市

鹿島茂コレクション フランスのモダングラフィック展 —20世紀初頭の風刺画からアール・デコ挿絵本、1930年代グラフィック雑誌まで

2025/04/26〜2025/06/29

群馬県立館林美術館

群馬県・館林市

リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s

開催中〜2025/06/30

国立新美術館

東京都・港区

「この、原美術館ARCという時間芸術」第2期

2025/05/16〜2025/07/06

原美術館ARC

群馬県・渋川市

どうぶつ展 わたしたちはだれ? どこへむかうの?

開催中〜2025/07/06

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

橋口五葉のデザイン世界

2025/05/25〜2025/07/13

府中市美術館

東京都・府中市

岡崎乾二郎 而今而後 ジコンジゴ Time Unfolding Here

2025/04/29〜2025/07/21

東京都現代美術館

東京都・江東区

開館30周年記念 MOTコレクション 9つのプロフィール 1935→2025

2025/04/29〜2025/07/21

東京都現代美術館

東京都・江東区

企画展「死と再生の物語(ナラティヴ)―中国古代の神話とデザイン―」

2025/06/07〜2025/07/27

泉屋博古館東京

東京都・港区

【特別展】生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち

2025/05/17〜2025/07/27

山種美術館

東京都・渋谷区

士郎正宗の世界展~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~

開催中〜2025/08/17

世田谷文学館

東京都・世田谷区

ほとけに随侍するもの

2025/04/23〜2025/08/31

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金

開催中〜2025/09/07

ラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyo

東京都・江東区

オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ—モダンを拓いた2人の巨匠

2025/05/29〜2025/09/07

三菱一号館美術館

東京都・千代田区

高畑勲展 ̶日本のアニメーションを作った男。

2025/06/27〜2025/09/15

麻布台ヒルズ ギャラリー

東京都・港区

小湊鉄道開業 100 周年記念展「古往今来・発車オーライ!」

2025/04/26〜2025/09/15

市原湖畔美術館

千葉県市原市

藤田嗣治 猫のいる風景

開催中〜2025/09/28

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

知られざる秀逸コレクション 東京・足立区立郷土博物館所蔵浮世絵名品展

2025/05/24〜2025/10/05

北斎館

長野県・小布施町

開館50周年記念 おいでよ!松岡動物園

2025/06/17〜2025/10/13

松岡美術館

東京都・港区

企画展「ゴッホ・インパクト—生成する情熱」

2025/05/31〜2025/11/30

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

Exhibitions

シャヴァンヌ展
水辺のアルカデイア
ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの神話世界

白く霞む古典的世界に潜む革新性

  フランス19世紀を代表する壁画家であり、目に見えないものを顕在化する象徴主義の先駆けとされる巨匠ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ(1824~98)。その全貌を日本で初めて紹介する興味深い展覧会が開催中だ。日本初公開作品を多く含む。東京のBunkamuraザ・ミュージアムと島根の島根県立美術館の2会場を巡回。(【注】両展の出品作は一部異なる)

淡い色彩/単純な形態/新しい何か
  展覧会では年代順に作品を紹介している。東京会場のBunkamuraザ・ミュージアムに入り、まず足早に一巡してみた。古代ギリシアの衣装をまとった人々が丘や森に囲まれた平地や水辺に集う、平和で静謐な情景が多い。年を経るごとに画面が明るくなり、形態が単純化され、画面が平坦になっていくようだ。全体を通して最も印象的なのは、白い霧がかかったような薄緑、水色、ピンク、グレーなどの色づかいの美しさ。油彩に特有の艶が消されている。格調高い絵の内容と淡い色彩があいまって、晴朗な気分になる。そして、新しさの気配がある。

ピュヴィス・ド・シャヴァンヌとは
  日本でシャヴァンヌと呼ばれることが多いが、姓は「ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ」。西洋では通常「ピュヴィス」や「ピュヴィ」と呼ばれる。

  ピュヴィスは1824年にフランス第2の都市リヨンの裕福な一家に生まれた。30代から生涯の友となる象徴主義の画家ギュスターヴ・モロー(1826~98)と同世代だ。シャヴァンヌは理工科学校に行く予定だったが病になり2年療養。回復後のイタリアを旅行で、ピエロ・デッラ・フランチェスカ(1415/20~92)らによるルネサンスのフレスコ壁画に深く感銘を受け、画家を目指すことになる。短期間ながらパリでアンリ・シェフェール、ロマン主義の画家ウジェーヌ・ドラクロワに、次いでのちにエドゥアール・マネの最初の師となるアカデミスムの画家トマ・クチュールに絵を学ぶ。個人的には、ロマン主義とギリシア的な格調の高さを融合した夭折の画家テオドール・シャセリオー(1819~56)の影響を強く受けた。1848年完成のシャセリオーによる会計監査院の壁画装飾に衝撃を受けたという。また彼は自作に、イタリア旅行で心酔したイタリアのフレスコ壁画の古典的構成や色彩をとり入れていく。

  1850年、26 歳でサロン(官展)に初入選。1861年に≪コンコルデイア(平和)≫が国家買い上げとなる。30歳の頃、兄の邸宅の壁画装飾を行ったことがきっかけで壁画家としての才能が評価されるようになり、1860年代半ば頃からアミアン・ピカルディ美術館をはじめ、リヨン美術館、パンテオン、ソルボンヌ大学、パリ市庁舎など、フランスの主要な公共建築の壁画装飾を手がけた。同時に≪貧しき漁夫≫(1881、パリ、オルセー美術館所蔵)など優れたイーゼル画を多数描いた。1890年、フランス・アカデミーから分離した国民美術協会設立に関わり、翌年会長に就任。1895年には「シャヴァンヌ70歳を祝う大祝宴」がオーギュスト・ロダン(1840~1917)主宰により開かれ、600人が集った。1998年、74歳で没した。

  このように生前十分に名声を持った画家であったシャヴァンヌだが、その作品はアカデミスム側からは批判を蒙り、当時活気を放ったギュスターヴ・クールベ(1819~77)らのレアリスム絵画とも、また印象派ともまったく異なった。
彼の作品は、ポスト印象派やジョルジュ・スーラ(1859~91)、ナビ派の画家たち、またアンリ・マティス(1869~1954)、パブロ・ピカソ(1881~1973)ら、新しい絵画を模索し切り拓いた後進の画家たちに多大な影響を与えたことが知られる。

アルカディアを軸にした回顧展
  本展はシャヴァンヌ研究の世界的権威エメ・ブラウン・プライス氏の監修によるもので、企画の始まりは15年前。彼女が「いまや娘同様です」と話す島根県立美術館学芸員の蔦谷典子氏と、長期間準備したという。

  展覧会の趣旨は、第一に1848年の24歳時から50年にわたる創作活動を行ったシャヴァンヌの画業を回顧できる展示にする、第二に多くの絵のテーマとなる「アルカディア」を軸に展開する、というものだ。加えて、彼と日本洋画界との深い関係も紹介する。

  シャヴァンヌは壁画でその才能を発揮した画家だ。壁画は設置すると移動できないため、彼は同じ内容の「縮小画」を展覧会用に再制作し、サロンや万博に出品した。壁画の図像を多くの人に観てもらうための良い方法だった。ただし縮小画といっても「壁画の縮小画」だから驚くほど巨大なサイズのものも多い。今回の展覧会は、海外に広く分散する代表的な「壁画の縮小画」を中心に、独特な魅力のイーゼル画、油彩習作や素描なども日本に集結させ、制作のプロセスを追いながら、画業の全貌に迫る豊かな内容となった。

  なおアルカディアとは、元はギリシアの一地方名だが、古代ローマの詩人ヴェルギリウスが田園詩『牧歌』『農耕詩』の舞台をこの場所に設定して以来、自然と人間の調和する古代の理想郷を意味するようになった。シャヴァンヌは、アルカディアを継続して描くなかで、独創的な世界を創出していく。

■展覧会構成/作品の魅力
  本展の構成は、明快に区分された次の四章から成る。
最初の壁画装飾と初期作品 1850年代
公共建築の壁画装飾へ、アミアン・ピカルデイ美術館 1860年代
アルカディアの創造 リヨン美術館の壁画装飾へ 1870-80年代
アルカディアの広がり パリ市庁舎の装飾と日本への影響 1890年代

  作品のごく一部を紹介しよう。

  ≪労働≫と≪休息≫壁画の縮小画  これは、シャヴァンヌが初めての公共建築として描いたアミアン・ピカルディ美術館壁画(1863)の対作品を再制作したもの(1867頃、ナショナル・ギャラリー、ワシントンD.C.)。≪労働≫は森の一角で木を切る男たちと片隅で赤ん坊の世話する母を、≪休息≫は山々に囲まれた水辺で語り部の老人の話に熱心に聞き入る若い男女たちを穏やかに描く。≪休息≫は、日本の洋画界を率いた黒田清輝が自作≪昔語り≫を描く際に参照したとされ、第Ⅳ章に展示されている黒田作品との比較も面白い。

≪諸芸術とミューズたちの集う聖なる森≫壁画の縮小画  彼の最高傑作の一つが生まれ故郷リヨンの美術館の階段壁画(1884)だ。シャヴァンヌは設置場所の「美術館」を意識して、ミューズ(女神、美術館の意)の画題を選んだ。壁画を描く際、常に設置する場所や建築に合わせる工夫を行ったという。壁画を再制作した本作(1884~89頃)(シカゴ美術館所蔵)は9×231cmものサイズ。緑なす森に囲まれ、夕陽を浴びて金色に反射する水辺に、「諸芸術」を意味する建築・彫刻・絵画の3人の擬人像と、9人の女神が集う。構成も淡い色彩も絶妙なバランスで、平穏な静けさが安堵感をもたらす。動きのない人物群像はスーラの作品につながるようだ。

≪幻想≫  大原美術館所蔵の本作(1866)も印象的だ。青と白の色彩が際立つ。森でペガサスを捕えようとするニンフが描かれる。パリの個人宅のサロンの装飾のために4点描かれた大きな寓意画の一つ。1922年(大正11)に大原孫三郎が購入し、1930年の同館開館時に公開され、早い時期から日本で観ることができた作品だ。

≪海辺の乙女たち≫  本作(1879頃、パリ、オルセー美術館)は一度観ると忘れられない強さをもつ。奥に立ち、背を向け長い髪をかきあげる女性像を中心に、背中を向け合う美しい3人の女性像が描かれる。自分のことに集中しているのだろうか、互いに無関心でそれぞれの孤立感が伝わる。

≪貧しき漁夫≫ これは島根会場のみの展示である。国立西洋美術館所蔵の縦長の本作(1887~92)は、オルセー美術館所蔵の横長の同名作品(1881)のヴァリアント(異作)。東京に住む私には親しみ深い作品だ。小舟に佇み頭を垂れる漁夫。後ろに赤ん坊が眠る。背景には大きく湾曲する海岸線。太い丸刀で彫った木版画のような単純化された造形と平面性と、淡いグレーやピンクの色彩が印象的だ。静謐で簡素な世界から内省の感情が強く伝わる。
  なお、ピカソはシャヴァンヌに魅了され、その壁画を熱心に模写し研究した。本作≪貧しき漁夫≫と、ピカソの青の時代の作品≪海辺の母子像≫(1902、ポーラ美術館所蔵)の両作品が、3月9日まで国立西洋美術館で開催中の「モネ、風景をみる眼」展にて、並べて展示されており、強い影響関係がみてとれる。

■シャヴァンヌ作品の多面性
  シャヴァンヌは独自の創造を行い、多面的な魅力を放つ作品群を世に残した。絵画から、あるべき物語を除いたとされる。また、群像を描いた作品が多いが、登場人物の間に緊密な交流があるもの、関係性を抑えているもの、また互いの関係性を見事に排除した作品もみられる。内省的で強い感情を伝える絵画もある。描き方に関しても大胆な手法を実践した。

  本展監修者のプライス氏は「シャヴァンヌの作品は容易に分類できない」、「彼は、同時に全く別の傾向の絵を描ける、稀有な画家です」と話された。知れば知るほど興味の尽きない画家である。

  古典的な理想郷アルカディアの神話世界を描きながら、近代絵画の扉を開く鍵をたくさん生み出した画家ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ。この貴重な展覧会を多くの方々にご覧いただきたく思う。

執筆:HOSOKAWA  Fonte Izumi

(2014年2月)

 

 

【展覧会英文タイトル】ARCADIA BY THE SHORE

―THE MYTHIC WORLD OF PUVIS DE CHAVANNES―

【会期・会場】

東京:2014年1月2日~3月9日  Bunkamuraザ・ミュージアム

電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)

詳細:http://www.bunkamura.co.jp

 

島根:2014年3月20日~6月16日 島根県立美術館

電話:0852-55-4700

詳細:http://www1.pref.shimane.lg.jp

2014年3月6日