詳細はミュージアムのオフィシャルサイトなどでご確認ください。

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エルマーのぼうけん展

開催中〜2023/10/01

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ

開催中〜2023/10/02

国立新美術館

東京都・港区

モネ、ルノワール 印象派の光

開催中〜2023/10/09

松岡美術館

東京都・港区

名作展 画家と生活—川端龍子の晩年の作品から

開催中〜2023/10/09

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展

開催中〜2023/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

中之条ビエンナーレ2023

開催中〜2023/10/09

芸術祭(群馬県中之条町)

群馬県・中之条町

特別展「海ー生命のみなもとー」

開催中〜2023/10/09

国立科学博物館

東京都・台東区

企画展 楽しい隠遁生活 文人たちのマインドフルネス

開催中〜2023/10/15

泉屋博古館東京

東京都

企画展 甲冑・刀・刀装具 光村コレクション・ダイジェスト

開催中〜2023/10/15

根津美術館

東京都・港区

北島敬三「UNTITLED RECORDS : REVISITED + PORTRAITS」展

開催中〜2023/10/22

BankART Station

神奈川県・横浜市

北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023「物質的想像力と物語の縁起― マテリアル、データ、ファンタジー」

開催中〜2023/10/29

芸術祭(富山県富山市富岩運河沿い)

富山県・富山市

瞳の奥にあるもの -表情でみる人物画展-

開催中〜2023/11/05

ホキ美術館

千葉県・千葉市

堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春

開催中〜2023/11/05

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室

開催中〜2023/11/05

DIC川村記念美術館

千葉県・佐倉市

MOTコレクション 被膜虚実/特集展示 横尾忠則―水のように/生誕100年 サム・フランシス

開催中〜2023/11/05

東京都現代美術館

東京都・江東区

宇川直宏展 FINAL MEDIA THERA PIST @DOMMUNE

開催中〜2023/11/05

練馬区立美術館

東京都・練馬区

九谷焼の芸術祭 KUTANism 2023

2023/10/06〜2023/11/05

芸術祭(石川県小松市・能美市各所)

石川県・小松市、能美市

土方久功と柚木沙弥郎――熱き体験と創作の愉しみ

開催中〜2023/11/05

世田谷美術館

東京都・世田谷区

テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本

開催中〜2023/11/05

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展「めぐりあう大津絵―笠間日動美術館・小絲源太郎コレクションと 神戸女子大学古典芸能研究センター・志水文庫の大津絵」

開催中〜2023/11/05

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2023/11/05

そごう美術館

神奈川県・横浜市

東京の地場に発する国際芸術祭 東京ビエンナーレ2023

開催中〜2023/11/05

芸術祭(東京都心北東エリア〔千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア〕 、歴史的建築物、公共空間、学校、店舗屋上、遊休化した建物等)

東京都・千代田区、中央区、文京区、台東区

春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ

開催中〜2023/11/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館

開催中〜2023/11/12

芸術祭(奈良県 吉野町、下北山村、ほか予定)

奈良県・吉野町、下北山村、ほか予定

奥能登国際芸術祭2023

開催中〜2023/11/12

芸術祭(石川県珠洲市)

石川県・珠洲市

TOKAS Project Vol. 6 『凪ぎ、揺らぎ、』

2023/10/07〜2023/11/12

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

松本秋則+松本倫子「惑星トラリス」展

開催中〜2023/11/12

BankART KAIKO

神奈川県・横浜市

浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」

開催中〜2023/11/12

東京国立博物館

東京都・台東区

第75回 正倉院展

2023/10/28〜2023/11/13

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

北斗の拳40周年大原画展 ~愛をとりもどせ!!~

2023/10/07〜2023/11/19

森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)

東京都・港区

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

創造の現場― 映画と写真による芸術家の記録

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

秋の特別展「おまもりとハンコとコイン -古代オリエントの偉大なる小さきものたち-」

開催中〜2023/11/19

古代オリエント博物館

東京都・豊島区

六甲ミーツ・アート芸術散歩 2023 beyond

開催中〜2023/11/23

芸術祭(神戸・六甲山上)

兵庫県・神戸市

美しき時代(ベル・エポック)と異彩のジュエリー

開催中〜2023/11/26

箱根ラリック美術館

神奈川県・箱根町

企画展「北斎のまく笑いの種」

開催中〜2023/11/26

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

横山美術館名品展 明治・大正の輸出陶磁器 技巧から意匠へ

2023/10/07〜2023/11/26

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

皇居三の丸尚蔵館収蔵品展 皇室と石川 —麗しき美の煌めき—

2023/10/14〜2023/11/26

国立工芸館(石川県立美術館との共催)

石川県・金沢市

開館20周年 & 富士山世界遺産登録10周年記念 後期「フジヤマミュージアム名品展」

開催中〜2023/11/26

フジヤマミュージアム

山梨県・富士吉田市

特別展「日本画聖地巡礼 ー東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門ー」

2023/09/30〜2023/11/26

山種美術館

東京都・渋谷区

特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」

開催中〜2023/11/26

三井記念美術館

東京都・中央区

関東大震災100年企画展 「震災からのあゆみ —未来へつなげる科学技術—」

開催中〜2023/11/26

国立科学博物館

東京都・台東区

シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、 杉山寧から現代の作家まで

開催中〜2023/12/03

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ

2023/10/06〜2023/12/03

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

「横尾忠則 寒山百得」展

開催中〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

特別展「北宋書画精華」

2023/11/03〜2023/12/03

根津美術館

東京都・港区

特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」

2023/10/11〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

日中平和友好条約45周年記念「世界遺産 大シルクロード展」

開催中〜2023/12/10

東京富士美術館

東京都・八王子市

さいたま国際芸術祭2023

2023/10/07〜2023/12/10

芸術祭(さいたま市・旧市民会館おおみや(メイン会場)ほか)

埼玉県・さいたま市

永遠の都ローマ展

開催中〜2023/12/10

東京都美術館

東京都・台東区

イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル

開催中〜2023/12/11

国立新美術館

東京都・港区

コスチュームジュエリー美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより

2023/10/07〜2023/12/17

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

布の芸術祭『FUJI TEXTILE WEEK 2023(フジテキスタイルウィーク)』

2023/11/23〜2023/12/17

芸術祭(山梨県富士吉田市)

山梨県・富士吉田市

特別企画展 日本画の棲み家

2023/11/02〜2023/12/17

泉屋博古館東京

東京都・港区

開館1周年記念特別展 二つの頂 —宋磁と清朝官窯—

2023/10/07〜2023/12/17

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

国吉康雄展 ~安眠を妨げる夢~ 福武コレクション・岡山県立美術館のコレクションを中心に

2023/10/24〜2023/12/24

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

ヨシタケシンスケ展かもしれない

2023/10/15〜2023/12/24

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

2023/11/01〜2023/12/25

国立新美術館

東京都・港区

「今こそ、ルーシー!」LUCY IS HERE

開催中〜2024/01/08

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

「青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション」第2期(秋冬季)

開催中〜2024/01/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」

2023/11/16〜2024/01/08

東京都美術館

東京都・台東区

「鹿児島睦 まいにち」展

2023/10/07〜2024/01/08

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

111年目の中原淳一展

2023/11/18〜2024/01/10

そごう美術館

神奈川県・横浜市

ICCアニュアル 2023 ものごとのかたち

開催中〜2024/01/14

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

東京都・新宿区

企画展「ある従軍カメラマンの追憶 義烈空挺隊員と家族の片影」

2023/10/03〜2024/01/14

平和祈念展示資料館

東京都・新宿区

佐野史郎写真展 瞬間と一日

2023/10/14〜2024/01/14

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

ゴッホと静物画―伝統と革新へ

2023/10/17〜2024/01/21

SOMPO美術館

東京都・新宿区

モネ 連作の情景

2023/10/20〜2024/01/28

上野の森美術館

東京都・台東区

倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙

2023/11/18〜2024/01/28

世田谷美術館

東京都・世田谷区

江口寿史展 ノット・コンプリーテッド

2023/09/30〜2024/02/04

世田谷文学館

東京都・世田谷区

アメイジング・チャイナ 深淵なる中国美術の世界

2023/10/24〜2024/02/11

松岡美術館

東京都・港区

みちのく いとしい仏たち

2023/12/02〜2024/02/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

1周年記念特別企画「ようこそ藤田嗣治のお家へ」

開催中〜2024/02/20

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

生誕120年 古賀忠雄展 塑造(像)の楽しみ

2023/11/17〜2024/02/25

練馬区立美術館

東京都・練馬区

森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

2023/10/18〜2024/03/31

森美術館

東京都・港区

tupera tupera + 遠藤幹子 しつもんパーク in 彫刻の森美術館

開催中〜2024/03/31

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

岡田健太郎―重なる景体

2023/12/05〜2024/04/07

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

Exhibitions

エミール・ガレ ― 自然の蒐集

ガレの創造の源泉とは? 箱根のポーラ美術館で7月16日まで。

 ■ヘッケル博士
 (( ヘッケル博士! 
    わたくしがそのありがたい証明の
    任にあたつてもよろしうございます))
 これは、宮沢賢治(1896~1933年)が1924年に発表した詩集「春と修羅」のなかの「青森晩歌」にある言葉だ。この部分だけだとわかりにくいが、亡くなった妹に対面する賢治の悲痛な思いが伝わってくる。このヘッケル博士とは、ドイツの有名な生物学者エルンスト・ヘッケル(1834~1919年)のこと。ヘッケルの著作は、エミール・ガレ(1846~1904年)にも多大な影響を与え、ガレに新しい世界を開かせることになる。

 ■ガレと自然、ガレの多面性/光る会場構成
 フランスのアール・ヌーヴォーを代表する工芸作家エミール・ガレ。そのガラス工芸の全貌を紹介する展覧会が、自然に囲まれた箱根のポーラ美術館で開催中だ。モネ、ルノワール、ピカソなどの名作を所蔵することで知られるポーラ美術館は、ガレの作品も多数所蔵する。そのなかから厳選した60点を含め、総数約130点のガレのガラス工芸の傑作が、本展に出品されている。ガレは植物や昆虫や水生動物などをモティーフとし、高度な技術の粋を尽くし、工芸を卓抜なる芸術作品に昇華させた。そして万博でグランプリを受賞するなど、当時から高い評価を得た。

 本展覧会は、ガレの創造の源泉である自然を森と海からアプローチし、ガレと博物学の関係に注目する。そして彼の初期から晩年までの作品の変遷を追う。巧みな会場構成が光る。会場ではガレの生命感あふれる繊細な芸術を満喫できるとともに、それらが学術的基盤、文学の教養、また優れた経営手腕などガレの多面性の産物であることを教えられる。

 なお、アール・ヌーヴォーとは「新しい芸術」の意で、19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパを中心に開花した芸術運動・様式である。建築、絵画、彫刻、工芸の領域に共通して展開し、装飾と美術の融合を目指した。名称の由来は1895年にパリに開店した美術商ジークフリート・ビングの店の名だ。その表現の特徴は、自然界の動植物のもつ流麗な有機的曲線の再構成である。象徴主義や唯美主義への傾倒がみられる。アール・ヌーヴォーはそれまでの異国の美術や過去の芸術の模倣が乱立する状況に抗おうとするものだった。

 ●展覧会構成 本展の構成は、以下のように四つの章ともう一つからなる。
 第1章 初期―エナメル彩の魅力/第2章 神秘の森/第3章 驚異の海/自然の蒐集―ガレと博物学/第4章 晩年―象徴主義を超えて

 ■初期のエナメル彩の作品
 展覧会場入り口前で、ガレが制作した奇妙な魅力をもつ陶器の犬(《犬型陶器》、1865~1890年代、ポーラ美術館)が迎えてくれた。会場にはいると、ガレの初期のガラスの器が整然と並んでいる。フランス東部のナンシーに生まれ、同地で活躍したガレは、1867年に21歳で父のガラス業・製陶業に正式に加わり、1877年に事業を受け継いだ。初期の仕事の特徴は、透明ガラスに練り絵具を筆で彩色したエナメル彩である。イスラム文化圏でみられるアラベスク文様や、生涯を通してモティーフとした植物や昆虫も多く描かれている。

 《バッタ文花器》(エミール・ガレ、1878年頃、サントリー美術館)(※工芸作品の作者は全てエミール・ガレ。以下、略)は、下部が球形の器。涼し気な淡青色の透明ガラスに、バッタが生き生きと、また白菊が流れるように描かれ、口縁に唐草模様が取り巻く。金彩の部分は日本の蒔絵のようだ。素地には斜めに凹凸の畝が走り、輝く様子は水中を思わせる。これはガレが自ら開発した技術による月光色ガラスで、大変な人気を博した。1878年のパリ万博に出品した《鯉文花器》は、『北斎漫画』から図案を借用したものだが、これも月光色ガラスの作品でパリ装飾美術館の買い上げとなった。

 《菊花文花器》(1900年頃、ポーラ美術館)はカラフルだ。上に向かってやや細くなる形の器に、黄色と青色の大輪の菊が繊細に描き分けられ、上部に蝶が舞う。口縁にも蝶が連なる。背景には霞がたなびき、その間にひび割れのような文様が広がる。本作もエナメル彩と金彩を併用。ガレは日本の造形の特質を取り入れるジャポニスムの代表的な芸術家としても知られる。彼は日本を「キクの国」と称したが、菊の花は百合などともに日本趣味を示す代表的な植物だった。ガレは、ナンシーに1885年から3年間農商務省の技師として日本から留学していた高島北海(1850~1931年)と親交をもち、彼から日本の植物について教示を受けた。

 ■ガレの森/「わが根源は森の奥にあり」
 「わが根源は森の奥にあり」とのガレの言葉は、その工房の木製門扉に彫りこまれていた。これは自身の創造の源を示すとともに、循環する生態系をも意味するといわれる。

 《昆虫文脚付杯》(1889年、個人蔵)は、「悲しみの花瓶」として1889年のパリ万博に出品したシリーズの一つ。すすけたような黒ガラスが独特の趣だ。透明ガラスに2つの暗色のガラスを被せている。正面に天に向かうスズメバチが、また他にも昆虫が描かれ、底面にはウィリアム・シェイクスピア(1564~1616年)の『真夏の夜の夢』からの引用が刻まれている。ガレは工芸と文学を繋ぎ、その世界を広げ、高めた。また彼は1885年、中国の玉や清朝のガラス作品をベルリンで詳しく調査した。清朝乾隆帝時代の被せガラス製鼻煙壺を蒐集も行っている。ガレの黒ガラスシリーズは、中国のガラスの影響の可能性が指摘されている。

 《ケシ文花器》(1900年頃、ポーラ美術館)では、器の形態がケシの実を表す。白い素地に伸びていくケシの蕾や葉の緑色が映える。さらに暗色で枯れ落ちる花びらが重なる。植物の生涯を一つの花器に結晶させた。花びらの彫刻的な表現は、ガレが寄木細工に倣って考案したガラスでの象嵌技法マルケトリーによるもの。ガレは特許を取得し、1900年のパリ万博での作品でも使用し、1889年のパリ万博に続いて2回目のグランプリを受賞した。

 ガレの活躍の地ロレーヌ地方のナンシーは園芸が盛んだった。その契機となったのは1830年代に著名な植物学者ドミニク=アレクサンドル・ゴドロン博士が赴任したこと。ガレは少年期にゴドロンと知り合い、その指導のもとに植物学にのめりこんだ。1873年に自宅の庭園造営を父に任されたが、1万平方メートルの面積の庭園はガレ没後には2500種の植物が蒐集されていた。これらは作品の生きたモティーフだった。ガレは芸術家であるとともに植物学者でもあった。ロレーヌ地方の野生ランの進化の研究を行い、1900年の万博の際に開催された国際植物学会で発表している。植物に関する専門的著作も多く執筆した。

 ■ガレの海/ヘッケルの著作
 生涯にわたって森の生き物や生態を主題としたガレだったが、1899年から亡くなるまでの最晩年の5年間は海の生き物や生態に興味をもち、作品に取り入れた。なんと、クラゲもある。《くらげ文大杯》(1898~1900年、サントリー美術館〈菊池コレクション〉)は、上部には被せガラスによりクラゲと海藻を、下部には渦巻く深海の海流を、色を曇らせるパティネの技法で表現している。《クラゲ文花瓶》(1900~04年、北澤美術館)は、明るい色彩だ。大きなクラゲが花瓶一杯に身体を広げてユラユラしている。また、《海藻と海馬文花器》(1905年頃、ポーラ美術館)は、透明ガラスと赤の被せガラスの間に緑色で海藻を示す帯を入れ、表面にエッチングで海馬(タツノオトシゴ)が彫られている。海馬は海中で潮に流れされないよう海藻に尾を巻きつけているそうだ。その生態をガレは熟知していた。本作の口縁部にシャルル・ボードレール(1821~67年)による『悪の華』のなかの「人間と海」の詩文が彫られている。

 ガレのこのような海への好奇心を直接刺激したのは、ドイツの生物学者で進化論者であったエルンスト・ヘッケル(1834~1919年)が著わした『自然の芸術形態』(1899~1904年に配本)だと考えられている。ガレはこの著作を所有していた。本記事の冒頭に記したヘッケル博士の著作である。ヘッケルはここに鉢クラゲなど有機的な曲線をもつ海生無脊椎動物の姿を多数掲載した。対称性を重視して構成し配置した見事な図版だ。本展ではその図版が50点展示されている。

 ■博物標本とともに/同時代の絵画とともに見る
 ガレの工芸作品と、モティーフとなった植物や昆虫や貝や鉱物などの博物標本が並ぶ展示は壮観である。このアイデアには脱帽した。ガレが作品に取り入れた生き物は同定できるようだ。例えば、流麗になびく草花の上に蝶が舞う様子を表現した《草花文耳付花器》(1895年頃、ポーラ美術館)の前に、東京大学総合研究博物館所蔵のアオタテハモドキなどの美しい蝶の標本が置かれている。比べてみると、ガレは蝶を正確に描写していたことがわかる。工房の弟子たちにもそのことを厳しく指導していたそうだ。しかしながら、両者が全く同じではないことも確かだ。ガレの器にある蝶は動いている。ひらひらと空を舞っているように見える。

 また、ガレと同時代に同じモティーフを描いた絵画とも並べての展示も行われており、興味深い。時代背景も浮かび上がる。驚かされたことの一つは、ポーラ美術館が誇るクロード・モネ(1840~1926年)の二つの絵画《睡蓮の池》(1899年、油彩/カンヴァス、ポーラ美術館)と《睡蓮》(1907年、油彩/カンヴァス、ポーラ美術館)の間に、ガレの睡蓮の花瓶と杯が挟まれて展示されている。なんと贅沢なことだろう。

 ■晩年の生と死を暗示する作品/装飾の立体化
 《蘭文八角扁壺》(1900年頃、北澤美術館)は、桃色のカトレアの花がそのまま壺に貼りついたようだ。圧倒的な立体感。裏には朽ちたカトレアが表現されている。花の部分はアプリカシオンの技法によるものだ。一つの壺に生と死を込めている。独特の色彩や立体的な表現は、中国清朝のガラス工芸の影響もあるのだろうか。《蜻蛉文脚付杯》(1904年頃、ヤマザキマザック美術館)は、宇宙をも思わせる深い青色の地に蜻蛉(トンボ)が浮かぶ。よく見るともう一匹蜻蛉がグラヴュールの技法で彫り出されている。最晩年に制作された本作は、格別の詩情がある。ガレは生涯にわたり、はかないものとしての蜻蛉を好み、数多の作品の主題とした。『北斎漫画』の蜻蛉の図版や、山本芳翠(1850~1906年)がジュディト・ゴーチエの和歌の訳に挿絵を描いた『蜻蛉集』(1885年)の影響も考えられる。ガレは1904年に白血病で亡くなったが、死期を前にした最晩年、親しい人たちに蜻蛉の脚付杯を形見として贈っていたという。
 本展を巡り、箱根の自然の森を散策したくなった。

 ※ピカソ作《海辺の母子像》に関する新発見 なお、ポーラ美術館所蔵のパブロ・ピカソ(1881~1973年)の青の時代の代表作《海辺の母子像》(1902年、油彩・カンヴァス、ポーラ美術館)について、新しい発見があったことが、先日発表された。ポーラ美術館は、 米国のワシントン・ナショナル・ギャラリー、 カナダのアートギャラリー・オブ・オンタリオとの共同調査を行い、ハイパースペクトル・イメージングによる調査で、作品の下層部に1902年1月18日のフランスの新聞紙の貼り付けがあることを発見した。本作は同館の常設展示会場で8月中旬まで展示されている。


【参考文献】
1) ポーラ美術館学芸部(担当:工藤弘二・山塙菜未)編集:『エミール・ガレ―自然の蒐集』(展覧会カタログ)、西野嘉章・大澤啓・佐藤恵子・池田まゆみ・工藤弘二・山塙菜未 執筆、ポーラ美術館 発行、2018年。
2) 天沢退二郎 編:『新編 宮沢賢治詩集』、岩波書店(岩波文庫)、1991年。

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2018年6月)


※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。



写真1 会場風景。
左手前は、エミール・ガレ《蜻蛉文脚付杯》、1904年頃、ヤマザキマザック美術館。
最晩年の作品である。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真2 会場風景。
エミール・ガレ《ケシ文花器》、1900年頃、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真3 会場風景。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真4 会場風景。
右は、エミール・ガレ《クラゲ文花瓶》、1900~04年、北澤美術館。
左は、エルンスト・ヘッケル著『自然の芸術形態』より「鉢クラゲ類」、1899~1904年、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真5 会場風景。
エミール・ガレ《蘭文八角扁壺》1900年頃、北澤美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真6 展覧会会場の入り口にて。
エミール・ガレ《犬型陶器》、1865~1890年代、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会名】
エミール・ガレ ― 自然の蒐集
Emile Gallé:Collecting Nature
【会期・会場】

2018年3月17日 ~ 7月16日 ポーラ美術館
電話:0460-84-2111(代表)
[展覧会詳細]http://www.polamuseum.or.jp/sp/emile_galle/
[ポーラ美術館HP]http://www.polamuseum.or.jp/

※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。