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特別展「学習院コレクション 華族文化 美の玉手箱 芸術と伝統文化のパトロネージュ」

開催中〜2025/05/17

霞会館記念学習院ミュージアム

東京都・豊島区

カラーズ — 色の秘密にせまる 印象派から現代アートへ

開催中〜2025/05/18

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

企画展「ライトアップ木島櫻谷II― おうこくの線をさがしに 併設四季連作屏風」

開催中〜2025/05/18

泉屋博古館東京

東京都・港区

略画 — はずむ筆、おどる線—

開催中〜2025/05/18

北斎館

長野県・小布施町

戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見

開催中〜2025/05/18

東京都庭園美術館

東京都・港区

三鷹天命反転中!!──荒川修作+マドリン・ギンズの死なないためのエクササイズ

開催中〜2025/05/18

三鷹市美術ギャラリー

東京都・三鷹市

開館30周年記念展 ブラチスラバからやってきた!世界の絵本パレード

開催中〜2025/05/18

千葉市美術館

千葉県・千葉市

生誕100年 中村正義展-その熱と渦-

開催中〜2025/05/18

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

手塚治虫「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-

開催中〜2025/05/25

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)

東京都・港区

没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園

開催中〜2025/05/25

太田記念美術館

東京都・渋谷区

DESIGN MUSEUM JAPAN展 2025~集めてつなごう 日本のデザイン~

2025/05/15〜2025/05/25

国立新美術館

東京都・港区

アート・アーカイヴ資料展XXVII 「交信詩あるいは書簡と触発:瀧口修造と荒川修作/マドリン・ギンズ」

開催中〜2025/05/30

慶應義塾大学アート・センター(三田キャンパス 南別館 1階)

東京都・港区

開館50周年記念「1975 甦る 新橋 松岡美術館 ―大観・松園・東洋陶磁―」

開催中〜2025/06/01

松岡美術館

東京都・港区

ゾフィー・トイバー=アルプとジャン・アルプ

開催中〜2025/06/01

アーティゾン美術館

東京都・中央区

すべてを描く萬(よろず)絵師 暁斎 ―河鍋暁斎記念美術館所蔵

開催中〜2025/06/01

中之島 香雪美術館

大阪府・大阪市

イメージの魔術師 エロール・ル・カイン展

開催中〜2025/06/01

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

皇室の美と山梨~皇居三の丸尚蔵館の名品~

開催中〜2025/06/01

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展 ノー・バウンダリーズ

開催中〜2025/06/01

国立国際美術館

大阪府・大阪市

横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」

開催中〜2025/06/02

横浜美術館

神奈川県・横浜市

ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ

開催中〜2025/06/03

CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京・京橋TODA BUILDING 6階)

東京都・中央区

「総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―」展

開催中〜2025/06/08

東京都写真美術館

東京都・目黒区

マシン・ラブ:ビデオゲーム、AI と現代アート

開催中〜2025/06/08

森美術館

東京都・港区

西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館

開催中〜2025/06/08

国立西洋美術館

東京都・台東区

企画展示「20世紀イタリアの巨匠 マリノ・マリーニ 新収蔵の版画作品を中心に」

開催中〜2025/06/08

群馬県立近代美術館

群馬県・高崎市

遥かなるイタリア 川村清雄と寺崎武男

開催中〜2025/06/08

目黒区美術館

東京都・目黒区

特別展「古代DNA―日本人のきた道―」

開催中〜2025/06/15

国立科学博物館

東京都・台東区

タピオ・ヴィルカラ 世界の果て

開催中〜2025/06/15

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」

開催中〜2025/06/15

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」

開催中〜2025/06/15

京都国立博物館

京都府・京都市

国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示 三井家の五月人形

開催中〜2025/06/15

三井記念美術館

東京都・中央区

ラーメンどんぶり展 「器」からはじめるラーメン×デザイン考

開催中〜2025/06/15

21_21 DESIGN SIGHT

東京都・港区

特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」

開催中〜2025/06/15

東京国立博物館

東京都・台東区

開館記念展III(急) 花ひらく茶と庭園文化―即翁と、二万坪松平不昧 夢の茶苑

開催中〜2025/06/15

荏原 畠山美術館

東京都・港区

春の特別展「食の器と道具」

開催中〜2025/06/20

国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館(ICU湯浅八郎記念館)

東京都・三鷹市

花と暮らす展

開催中〜2025/06/22

国立工芸館

石川県・金沢市

横尾忠則 連画の河

開催中〜2025/06/22

世田谷美術館

東京都・世田谷区

総合開館30周年記念 TOPコレクション 不易流行

開催中〜2025/06/22

東京都写真美術館

東京都・目黒区

初夏展「くまもとの絶景―知られざる日本最長画巻『領内名勝図巻』―」

開催中〜2025/06/22

永青文庫

東京都・文京区

藤田嗣治 ―7つの情熱

開催中〜2025/06/22

SOMPO美術館

東京都・新宿区

名作展「川端龍子の描き出した世界 生誕140年を迎えて」

開催中〜2025/06/22

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

篠原一男 空間に永遠を刻む——生誕百年 100の問い

開催中〜2025/06/22

TOTOギャラリー・間

東京都・港区

黒の奇跡・曜変天目の秘密

開催中〜2025/06/22

静嘉堂文庫美術館@丸の内

東京都・千代田区

箱根-横須賀連携企画第3弾 アートでつなぐ山と海 箱根・芦ノ湖 成川美術館コレクション展 海辺のミュージアムで楽しむ日本画のきらめき

開催中〜2025/06/22

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

石田尚志 絵と窓の間

開催中〜2025/06/22

アーツ前橋 ギャラリー

群馬県・前橋市

特別企画展「めぐる いのち 熊谷守一美術館40周年展」

開催中〜2025/06/29

豊島区立 熊谷守一美術館

東京都・豊島区

ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展

開催中〜2025/06/29

森アーツセンターギャラリー

東京都・港区

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2025/06/29

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

まど・みちおのうちゅう―うちゅうの あんなに とおい あそこに さわる―

開催中〜2025/06/29

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス

開催中〜2025/06/29

東京都現代美術館

東京都・江東区

MOT Plus ハン・ネフケンス財団との共同プロジェクト シャハナ・ラジャニ

開催中〜2025/06/29

東京都現代美術館

東京都・江東区

日本画コレクション再発見と 片岡球子「蔦屋重三郎の浮世絵師たち」

開催中〜2025/06/29

神奈川県立近代美術館 葉山

神奈川県・葉山町

民藝 MINGEI–美は暮らしのなかにある

開催中〜2025/06/29

千葉県立美術館

千葉県・千葉市

鹿島茂コレクション フランスのモダングラフィック展 —20世紀初頭の風刺画からアール・デコ挿絵本、1930年代グラフィック雑誌まで

開催中〜2025/06/29

群馬県立館林美術館

群馬県・館林市

GLAM―黒柳徹子、時代を超えるスタイル―

2025/05/15〜2025/06/29

そごう美術館

神奈川県・横浜市

リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s

開催中〜2025/06/30

国立新美術館

東京都・港区

「この、原美術館ARCという時間芸術」第2期

2025/05/16〜2025/07/06

原美術館ARC

群馬県・渋川市

どうぶつ展 わたしたちはだれ? どこへむかうの?

開催中〜2025/07/06

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

橋口五葉のデザイン世界

2025/05/25〜2025/07/13

府中市美術館

東京都・府中市

岡崎乾二郎 而今而後 ジコンジゴ Time Unfolding Here

開催中〜2025/07/21

東京都現代美術館

東京都・江東区

開館30周年記念 MOTコレクション 9つのプロフィール 1935→2025

開催中〜2025/07/21

東京都現代美術館

東京都・江東区

江戸の名プロデューサー 蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ

2025/05/30〜2025/07/21

千葉市美術館

千葉県・千葉市

開館30周年記念 日本美術とあゆむ―若冲・蕭白から新版画まで

2025/05/30〜2025/07/21

千葉市美術館

千葉県・千葉市

企画展「死と再生の物語(ナラティヴ)―中国古代の神話とデザイン―」

2025/06/07〜2025/07/27

泉屋博古館東京

東京都・港区

【特別展】生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち

2025/05/17〜2025/07/27

山種美術館

東京都・渋谷区

士郎正宗の世界展~『攻殻機動隊』と創造の軌跡~

開催中〜2025/08/17

世田谷文学館

東京都・世田谷区

移転開館5周年記念 重要無形文化財指定50周年記念 喜如嘉の芭蕉布展

2025/07/11〜2025/08/24

国立工芸館

石川県・金沢市

ほとけに随侍するもの

開催中〜2025/08/31

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

藤田嗣治 絵画と写真

2025/07/05〜2025/08/31

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金

開催中〜2025/09/07

ラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyo

東京都・江東区

オランジュリー美術館 オルセー美術館 コレクションより ルノワール×セザンヌ—モダンを拓いた2人の巨匠

2025/05/29〜2025/09/07

三菱一号館美術館

東京都・千代田区

「銀河鉄道999」50周年プロジェクト 松本零士展 創作の旅路

2025/06/20〜2025/09/07

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)

東京都・港区

特集展よみがえる絵画・展示室内開催イベント「びじゅつかんであそぼ@てんじしつ」

2025/06/21〜2025/09/07

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

高畑勲展 ̶日本のアニメーションを作った男。

2025/06/27〜2025/09/15

麻布台ヒルズ ギャラリー

東京都・港区

小湊鉄道開業 100 周年記念展「古往今来・発車オーライ!」

開催中〜2025/09/15

市原湖畔美術館

千葉県市原市

原良介 サギ子とフナ子 光のそばで

2025/06/14〜2025/09/15

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

藤田嗣治 猫のいる風景

開催中〜2025/09/28

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

知られざる秀逸コレクション 東京・足立区立郷土博物館所蔵浮世絵名品展

2025/05/24〜2025/10/05

北斎館

長野県・小布施町

開館50周年記念 おいでよ!松岡動物園

2025/06/17〜2025/10/13

松岡美術館

東京都・港区

Sereneの写実 森本草介・島村信之2人展

2025/05/28〜2025/11/10

ホキ美術館

千葉県・千葉市

企画展「ゴッホ・インパクト—生成する情熱」

2025/05/31〜2025/11/30

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー

2025/05/31〜2025/11/30

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

Exhibitions

エミール・ガレ ― 自然の蒐集

ガレの創造の源泉とは? 箱根のポーラ美術館で7月16日まで。

 ■ヘッケル博士
 (( ヘッケル博士! 
    わたくしがそのありがたい証明の
    任にあたつてもよろしうございます))
 これは、宮沢賢治(1896~1933年)が1924年に発表した詩集「春と修羅」のなかの「青森晩歌」にある言葉だ。この部分だけだとわかりにくいが、亡くなった妹に対面する賢治の悲痛な思いが伝わってくる。このヘッケル博士とは、ドイツの有名な生物学者エルンスト・ヘッケル(1834~1919年)のこと。ヘッケルの著作は、エミール・ガレ(1846~1904年)にも多大な影響を与え、ガレに新しい世界を開かせることになる。

 ■ガレと自然、ガレの多面性/光る会場構成
 フランスのアール・ヌーヴォーを代表する工芸作家エミール・ガレ。そのガラス工芸の全貌を紹介する展覧会が、自然に囲まれた箱根のポーラ美術館で開催中だ。モネ、ルノワール、ピカソなどの名作を所蔵することで知られるポーラ美術館は、ガレの作品も多数所蔵する。そのなかから厳選した60点を含め、総数約130点のガレのガラス工芸の傑作が、本展に出品されている。ガレは植物や昆虫や水生動物などをモティーフとし、高度な技術の粋を尽くし、工芸を卓抜なる芸術作品に昇華させた。そして万博でグランプリを受賞するなど、当時から高い評価を得た。

 本展覧会は、ガレの創造の源泉である自然を森と海からアプローチし、ガレと博物学の関係に注目する。そして彼の初期から晩年までの作品の変遷を追う。巧みな会場構成が光る。会場ではガレの生命感あふれる繊細な芸術を満喫できるとともに、それらが学術的基盤、文学の教養、また優れた経営手腕などガレの多面性の産物であることを教えられる。

 なお、アール・ヌーヴォーとは「新しい芸術」の意で、19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパを中心に開花した芸術運動・様式である。建築、絵画、彫刻、工芸の領域に共通して展開し、装飾と美術の融合を目指した。名称の由来は1895年にパリに開店した美術商ジークフリート・ビングの店の名だ。その表現の特徴は、自然界の動植物のもつ流麗な有機的曲線の再構成である。象徴主義や唯美主義への傾倒がみられる。アール・ヌーヴォーはそれまでの異国の美術や過去の芸術の模倣が乱立する状況に抗おうとするものだった。

 ●展覧会構成 本展の構成は、以下のように四つの章ともう一つからなる。
 第1章 初期―エナメル彩の魅力/第2章 神秘の森/第3章 驚異の海/自然の蒐集―ガレと博物学/第4章 晩年―象徴主義を超えて

 ■初期のエナメル彩の作品
 展覧会場入り口前で、ガレが制作した奇妙な魅力をもつ陶器の犬(《犬型陶器》、1865~1890年代、ポーラ美術館)が迎えてくれた。会場にはいると、ガレの初期のガラスの器が整然と並んでいる。フランス東部のナンシーに生まれ、同地で活躍したガレは、1867年に21歳で父のガラス業・製陶業に正式に加わり、1877年に事業を受け継いだ。初期の仕事の特徴は、透明ガラスに練り絵具を筆で彩色したエナメル彩である。イスラム文化圏でみられるアラベスク文様や、生涯を通してモティーフとした植物や昆虫も多く描かれている。

 《バッタ文花器》(エミール・ガレ、1878年頃、サントリー美術館)(※工芸作品の作者は全てエミール・ガレ。以下、略)は、下部が球形の器。涼し気な淡青色の透明ガラスに、バッタが生き生きと、また白菊が流れるように描かれ、口縁に唐草模様が取り巻く。金彩の部分は日本の蒔絵のようだ。素地には斜めに凹凸の畝が走り、輝く様子は水中を思わせる。これはガレが自ら開発した技術による月光色ガラスで、大変な人気を博した。1878年のパリ万博に出品した《鯉文花器》は、『北斎漫画』から図案を借用したものだが、これも月光色ガラスの作品でパリ装飾美術館の買い上げとなった。

 《菊花文花器》(1900年頃、ポーラ美術館)はカラフルだ。上に向かってやや細くなる形の器に、黄色と青色の大輪の菊が繊細に描き分けられ、上部に蝶が舞う。口縁にも蝶が連なる。背景には霞がたなびき、その間にひび割れのような文様が広がる。本作もエナメル彩と金彩を併用。ガレは日本の造形の特質を取り入れるジャポニスムの代表的な芸術家としても知られる。彼は日本を「キクの国」と称したが、菊の花は百合などともに日本趣味を示す代表的な植物だった。ガレは、ナンシーに1885年から3年間農商務省の技師として日本から留学していた高島北海(1850~1931年)と親交をもち、彼から日本の植物について教示を受けた。

 ■ガレの森/「わが根源は森の奥にあり」
 「わが根源は森の奥にあり」とのガレの言葉は、その工房の木製門扉に彫りこまれていた。これは自身の創造の源を示すとともに、循環する生態系をも意味するといわれる。

 《昆虫文脚付杯》(1889年、個人蔵)は、「悲しみの花瓶」として1889年のパリ万博に出品したシリーズの一つ。すすけたような黒ガラスが独特の趣だ。透明ガラスに2つの暗色のガラスを被せている。正面に天に向かうスズメバチが、また他にも昆虫が描かれ、底面にはウィリアム・シェイクスピア(1564~1616年)の『真夏の夜の夢』からの引用が刻まれている。ガレは工芸と文学を繋ぎ、その世界を広げ、高めた。また彼は1885年、中国の玉や清朝のガラス作品をベルリンで詳しく調査した。清朝乾隆帝時代の被せガラス製鼻煙壺を蒐集も行っている。ガレの黒ガラスシリーズは、中国のガラスの影響の可能性が指摘されている。

 《ケシ文花器》(1900年頃、ポーラ美術館)では、器の形態がケシの実を表す。白い素地に伸びていくケシの蕾や葉の緑色が映える。さらに暗色で枯れ落ちる花びらが重なる。植物の生涯を一つの花器に結晶させた。花びらの彫刻的な表現は、ガレが寄木細工に倣って考案したガラスでの象嵌技法マルケトリーによるもの。ガレは特許を取得し、1900年のパリ万博での作品でも使用し、1889年のパリ万博に続いて2回目のグランプリを受賞した。

 ガレの活躍の地ロレーヌ地方のナンシーは園芸が盛んだった。その契機となったのは1830年代に著名な植物学者ドミニク=アレクサンドル・ゴドロン博士が赴任したこと。ガレは少年期にゴドロンと知り合い、その指導のもとに植物学にのめりこんだ。1873年に自宅の庭園造営を父に任されたが、1万平方メートルの面積の庭園はガレ没後には2500種の植物が蒐集されていた。これらは作品の生きたモティーフだった。ガレは芸術家であるとともに植物学者でもあった。ロレーヌ地方の野生ランの進化の研究を行い、1900年の万博の際に開催された国際植物学会で発表している。植物に関する専門的著作も多く執筆した。

 ■ガレの海/ヘッケルの著作
 生涯にわたって森の生き物や生態を主題としたガレだったが、1899年から亡くなるまでの最晩年の5年間は海の生き物や生態に興味をもち、作品に取り入れた。なんと、クラゲもある。《くらげ文大杯》(1898~1900年、サントリー美術館〈菊池コレクション〉)は、上部には被せガラスによりクラゲと海藻を、下部には渦巻く深海の海流を、色を曇らせるパティネの技法で表現している。《クラゲ文花瓶》(1900~04年、北澤美術館)は、明るい色彩だ。大きなクラゲが花瓶一杯に身体を広げてユラユラしている。また、《海藻と海馬文花器》(1905年頃、ポーラ美術館)は、透明ガラスと赤の被せガラスの間に緑色で海藻を示す帯を入れ、表面にエッチングで海馬(タツノオトシゴ)が彫られている。海馬は海中で潮に流れされないよう海藻に尾を巻きつけているそうだ。その生態をガレは熟知していた。本作の口縁部にシャルル・ボードレール(1821~67年)による『悪の華』のなかの「人間と海」の詩文が彫られている。

 ガレのこのような海への好奇心を直接刺激したのは、ドイツの生物学者で進化論者であったエルンスト・ヘッケル(1834~1919年)が著わした『自然の芸術形態』(1899~1904年に配本)だと考えられている。ガレはこの著作を所有していた。本記事の冒頭に記したヘッケル博士の著作である。ヘッケルはここに鉢クラゲなど有機的な曲線をもつ海生無脊椎動物の姿を多数掲載した。対称性を重視して構成し配置した見事な図版だ。本展ではその図版が50点展示されている。

 ■博物標本とともに/同時代の絵画とともに見る
 ガレの工芸作品と、モティーフとなった植物や昆虫や貝や鉱物などの博物標本が並ぶ展示は壮観である。このアイデアには脱帽した。ガレが作品に取り入れた生き物は同定できるようだ。例えば、流麗になびく草花の上に蝶が舞う様子を表現した《草花文耳付花器》(1895年頃、ポーラ美術館)の前に、東京大学総合研究博物館所蔵のアオタテハモドキなどの美しい蝶の標本が置かれている。比べてみると、ガレは蝶を正確に描写していたことがわかる。工房の弟子たちにもそのことを厳しく指導していたそうだ。しかしながら、両者が全く同じではないことも確かだ。ガレの器にある蝶は動いている。ひらひらと空を舞っているように見える。

 また、ガレと同時代に同じモティーフを描いた絵画とも並べての展示も行われており、興味深い。時代背景も浮かび上がる。驚かされたことの一つは、ポーラ美術館が誇るクロード・モネ(1840~1926年)の二つの絵画《睡蓮の池》(1899年、油彩/カンヴァス、ポーラ美術館)と《睡蓮》(1907年、油彩/カンヴァス、ポーラ美術館)の間に、ガレの睡蓮の花瓶と杯が挟まれて展示されている。なんと贅沢なことだろう。

 ■晩年の生と死を暗示する作品/装飾の立体化
 《蘭文八角扁壺》(1900年頃、北澤美術館)は、桃色のカトレアの花がそのまま壺に貼りついたようだ。圧倒的な立体感。裏には朽ちたカトレアが表現されている。花の部分はアプリカシオンの技法によるものだ。一つの壺に生と死を込めている。独特の色彩や立体的な表現は、中国清朝のガラス工芸の影響もあるのだろうか。《蜻蛉文脚付杯》(1904年頃、ヤマザキマザック美術館)は、宇宙をも思わせる深い青色の地に蜻蛉(トンボ)が浮かぶ。よく見るともう一匹蜻蛉がグラヴュールの技法で彫り出されている。最晩年に制作された本作は、格別の詩情がある。ガレは生涯にわたり、はかないものとしての蜻蛉を好み、数多の作品の主題とした。『北斎漫画』の蜻蛉の図版や、山本芳翠(1850~1906年)がジュディト・ゴーチエの和歌の訳に挿絵を描いた『蜻蛉集』(1885年)の影響も考えられる。ガレは1904年に白血病で亡くなったが、死期を前にした最晩年、親しい人たちに蜻蛉の脚付杯を形見として贈っていたという。
 本展を巡り、箱根の自然の森を散策したくなった。

 ※ピカソ作《海辺の母子像》に関する新発見 なお、ポーラ美術館所蔵のパブロ・ピカソ(1881~1973年)の青の時代の代表作《海辺の母子像》(1902年、油彩・カンヴァス、ポーラ美術館)について、新しい発見があったことが、先日発表された。ポーラ美術館は、 米国のワシントン・ナショナル・ギャラリー、 カナダのアートギャラリー・オブ・オンタリオとの共同調査を行い、ハイパースペクトル・イメージングによる調査で、作品の下層部に1902年1月18日のフランスの新聞紙の貼り付けがあることを発見した。本作は同館の常設展示会場で8月中旬まで展示されている。


【参考文献】
1) ポーラ美術館学芸部(担当:工藤弘二・山塙菜未)編集:『エミール・ガレ―自然の蒐集』(展覧会カタログ)、西野嘉章・大澤啓・佐藤恵子・池田まゆみ・工藤弘二・山塙菜未 執筆、ポーラ美術館 発行、2018年。
2) 天沢退二郎 編:『新編 宮沢賢治詩集』、岩波書店(岩波文庫)、1991年。

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2018年6月)


※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。



写真1 会場風景。
左手前は、エミール・ガレ《蜻蛉文脚付杯》、1904年頃、ヤマザキマザック美術館。
最晩年の作品である。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真2 会場風景。
エミール・ガレ《ケシ文花器》、1900年頃、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真3 会場風景。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真4 会場風景。
右は、エミール・ガレ《クラゲ文花瓶》、1900~04年、北澤美術館。
左は、エルンスト・ヘッケル著『自然の芸術形態』より「鉢クラゲ類」、1899~1904年、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真5 会場風景。
エミール・ガレ《蘭文八角扁壺》1900年頃、北澤美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)



写真6 展覧会会場の入り口にて。
エミール・ガレ《犬型陶器》、1865~1890年代、ポーラ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会名】
エミール・ガレ ― 自然の蒐集
Emile Gallé:Collecting Nature
【会期・会場】

2018年3月17日 ~ 7月16日 ポーラ美術館
電話:0460-84-2111(代表)
[展覧会詳細]http://www.polamuseum.or.jp/sp/emile_galle/
[ポーラ美術館HP]http://www.polamuseum.or.jp/

※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。