小部屋を回遊しながら、発見の喜びに浸る。
大多数が初来日の傑作群
三菱一号館美術館で、エルサレムにあるイスラエル博物館の所蔵品による「印象派・光の系譜-モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」展が開催中だ(2022年1月16日まで。1月28日より大阪に巡回)。本展では、印象派とその前後の作品を「光」を手掛かりに紹介し、印象派とは何かを探る。出品69点のうち59作品が初来日。イスラエル博物館というと、最も有名な所蔵品は「死海文書」である。美術品については馴染みが薄いかもしれないが、1965年に開館した同館はロスチャイルド基金からの寄贈などにより50万点ものコレクションを築き上げ、近現代絵画でも世界的な傑作を有する。日本にまとめて紹介される機会が殆どなかった。
本展覧会の特徴
本展では底知れぬ満足感が連続する。コローの静謐な風景画から、うつろう光をとらえた印象派のモネやルノワール、ピサロらの作品を経て、印象派に学びつつ独自の絵画に進んだポスト印象派のセザンヌ、ゴッホ、ゴーガン、そして最後の部屋にあるナビ派のボナールが描いた輝くばかりの室内画に至るまで、である。
その理由は、①出品作品一つ一つの質の高さ、②「水の風景と反映」「自然と人のいる風景」「都市の情景」「人物と静物」という優れた四章構成によるものであり、また③「この画家にこんな作品があったのか」「このような画家がいたのか」と驚きの発見があることだ。そして④東京会場の三菱一号館美術館では、小部屋や通路を回遊しながらの鑑賞という、建物と展覧会との相性の良さが加わる。
水の風景と反映:先達から、印象派のモネへ
会場ではまず、水のある風景を描いた絵画と光の関係を追い、変遷を見てゆく。最初に出会うのがジャン=バティスト・カミーユ・コロー(1796~1875)による森や池の抒情的な風景画。内部から淡い光を放っているようだ。コローは自然から直接学んだ画家である。ギュスターヴ・クールベ(1819~77)の《海景色》(1869)は太い筆で怒涛の大波に迫る。彼は力強いレアリズムを確立した近代絵画の先駆者だ。
ウジェーヌ・ブーダン(1824~98)の《海に近づくフリゲート艦》(1894)に相対すると、絶対の青空、緑の海と白い帆船の海景にこの上ない開放感と太陽の光を感じる。ブーダンはモネに戸外での写生の重要性を説き、印象派の活動に大きな影響を与えた。なお、三菱一号館美術館は2010年に三菱一号館を復元して開館したが、本作が制作された1894年は三菱一号館の竣工年。またこの作品が架かる下の暖炉は、三菱一号館で実際に使用されていた。
そしてクロード・モネ(1840~1926)が特徴ある海岸風景を描いた《エトルタ、アヴァルの崖》(1885)では、太陽の光が明るさを増してキラキラと画面全体に届く。
モネが描いた《睡蓮の池》
モネは「自分は小鳥が歌うように描く」との言葉を残し、うつろう光と自然の様相を観察し再現した。86年の生涯の後半生はパリ近郊の自然豊かな小村ジヴェルニーで過ごし、積みわら、ポプラ並木、睡蓮など同一主題による連作を生み出したが、なかでも数多く描いたのが睡蓮である。モネによる睡蓮の作品は200点ほど残る。
本展に出品された《睡蓮の池》(1907)は、水面に浮かぶ睡蓮を、水面に映る空、雲、樹々、そして光の反映と共に描写した、夢のような絵画だ。睡蓮第二連作の代表的な作品で、1909年の個展で48点の連作として発表された。どんな展覧会だったのだろう。本展では同時に展示された国内所蔵作品も別室で特別展示され、表現の違いを知ることができる。
モネにとって睡蓮というモチーフは、最晩年の有名な《睡蓮》大装飾画にまで続くわけだが、筆者が興味深く思うのは、それをモネ自身が創り出したことである。彼はジヴェルニーの自邸に川から水を引き、池を拡張して「水の庭」を整備し、睡蓮を育てたのだった。
印象派とは
そもそも印象派とは何か。それは1874年に若い画家たちが画壇の権威であるアカデミーのサロンに対抗して開いた独立展に始まる。印象派という名称は、モネの作品について、「絵画でなく、印象を描いただけ」と揶揄する批評家ルイ・ルロワの言葉からとられた。1886年まで計8回開催された独立展で共通するのは、目に見えるものを純粋に表現すること。つまり自分たちが生きる現実の風俗や自然の姿をありのままに見て描くことだ。
印象派の画家たちは、歴史画や神話画を、遠近法や明暗法を駆使して滑らな筆致で描かなければならぬ、というそれまでの絵画から、近代絵画への扉を開き、絵画を革新させた。明るい画面をつくるため色彩を混色せずに純色を並置する筆触分割を行った
「この画家にこんな作品があったのか」
本展では多くの発見があった。例えばフィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90)の《アニエールのヴォワイエ=ダルジャンソン公園の入り口》(1887)。長い筆触で女性二人をも入れて描かれた、パリ時代の印象派の影響が強い時期の作品だ。控えめな不思議な魅力がある。アルルでの収穫の喜びが一筆一筆に溢れるゴッホらしい《プロヴァンスの収穫期》(1888年)と共に心に残った。ポール・ゴーガン(1848~1903)の《ウパウパ(炎の踊り)》(1891)は強烈である。
「このような画家がいたのか」:レッサー・ユリィの魅力
ドイツの印象派レッサー・ユリィ(1861~1931)という画家の作品にも魅せられた。4つの作品が出品。夕焼けが川に映る水辺の風景。雨に濡れた道を人々が行きかうベルリンの都市風景など。硬質な透明さをもって心の奥底にまで響く。力強い筆はクールベを思わせる。
コロナ禍のなか、遠くエルサレムからやってきてくれた名作たち。心ゆくまで楽しみたい。
(参考文献)
1)産経新聞社 編集:『イスラエル博物館所蔵「印象派・光の系譜」』(展覧会図録)、産経新聞社 発行、2021-2022年。
2)高橋明也 監修、安井裕雄 著:『もっと知りたい モネ 生涯と作品』、東京美術、2010年。
執筆・写真撮影 細川いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi)
(2021年11月)
※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。
※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。
イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜-モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン
THE GENEALOGY OF LIGHT
Impressionist Masterworks from The Israel Museum, Jerusalem
【会期・会場】
2021年10月15日~2022年1月16日 三菱一号館美術館 (東京・千代田区)
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
美術館HP:https://mimt.jp/israel/
2022年1月28日~4月3日 あべのハルカス美術館(大阪府・大阪市)
電話:06-4399-9050
美術館HP:https://www.aham.jp/exhibition/future/hikarinokeihu/