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「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」

2021年1月22日

俵屋宗達筆《風神雷神図屛風》などの琳派と、印象派の最高傑作が並ぶ。
アーティゾン美術館にて1月24日まで。

 ■琳派とは何か。印象派とは何か。両者を比べて見る。
 1952年1月8日に開館したブリヂストン美術館は、建て替えのため5年ほどの休館を経て、昨年の2020年1月にアーティゾン美術館(正式名称:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館)として新しく出発した。休館中に精力的に収集した作品に琳派がある。現在、開催中の「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」展は、石橋財団コレクションを代表する印象派の作品と、新収蔵となった琳派の作品、そして国内の寺社や美術館所蔵の琳派の作品によって構成されている。印象派というと、日本の浮世絵からの影響がよく知られるが、琳派と印象派の組み合わせは今までにないもので、実験的な試みともいえる。本展では、京都に生まれ、江戸でも継承された琳派と、フランスのパリを中心に起こった印象派との共通点を、都市文化が育んだ美術ととらえ、洗練された美意識の到達点を見る。前期・後期併せて、国宝2点、重要文化財7点を含む合計約100点が出品。

 ■展覧会構成
 本展は、以下の4つの章で構成されている。
序章 都市の様子 1.京、2.江戸、3.パリ/第一章 the琳派 1.花木草花、2.物語絵、3.墨の世界/第二章 琳派×印象派 1.継承、2.水の表現、3.間(ま)、4.扇形、5.注文主/第三章 the印象派 1.都市市民の肖像、2.静物への関心、3.神話的世界、4.郊外への憧憬/終章 都市を離れて(★なお、序章および第一章については、前期と後期で展示するセクションが異なる)

 本展の趣旨は、①琳派とはどういうものか、印象派とはどういうものかを名作を通して楽しみながらつかみ、さらに、②継承、水の表現、間(ま)、扇形、注文主という観点での比較などにより、両者の特徴を際立たせることである。以下、琳派作品を中心に紹介する。

 ■俵屋宗達《風神雷神図屛風》(国宝)
 なんと大らかで明るい世界なのか。約1.5m強の正方形に近い二曲一双の金地屛風。右に風袋を掲げた緑の風神が、左には太鼓を打つ白い肌の雷神が、たらし込みで描かれた薄墨色の雲に乗り、天衣を翻らせ、勢いよく馳せる。天地に轟音が響きわたるようだ。俵屋宗達(生没年不詳)が描いた国宝《風神雷神図屛風》(江戸時代 17世紀、建仁寺蔵)(※後期のみ展示:12月22日~2021年1月24日)は、日本絵画の最高傑作の一つ。とぼけたような表情の風神と雷神はいつ見てもうれしくなるが、コロナ禍の今はまた格別の感慨がわく。若者たちが「この絵、なんかいいよね」と囁き合う声が聞こえた。本展では至近距離で見られる。

 風神と雷神は仏教では千手観音の眷属(けんぞく)、つまり従者であり、また怨霊神として説話にも描かれてきた。宗達の本作は鎌倉時代の《北野天神縁起絵巻》などに倣ったとされ、また京都・三十三間堂に安置された風神と雷神の鎌倉彫刻の傑作からの影響も指摘される。しかし宗達の革新性は二神を主役とし、それまでと全く異なる開放感を授けたことだ。構図としては画面の両脇に二神を配し、空いた中央に向かう二神の対峙性が強調されている。

 ●琳派は私淑により継承 俵屋宗達は、江戸時代初期に京都で扇屋の俵屋に生まれ、主に公卿や裕福な町衆を注文主として活躍し、新しい絵画を創り出した。宗達は琳派の始祖とされるが、本人は預かり知らぬことだ。琳派とは、直接の教えによるのではなく、私淑することで継承された絵画の流れであり、後世に命名された名称だ。琳派を象徴する主題が「風神雷神」である。宗達から約100年後の江戸時代中期に、宗達に私淑した尾形光琳が本作を模写した。さらに約100年後、江戸において酒井抱一が師と仰ぐ光琳作品を写した。しかしかなり異なり三者三様である。その後、抱一の弟子・鈴木其一も同主題を描いた。

 ■俵屋宗達《舞楽図屛風》/《蔦の細道図屛風》(ともに重要文化財)
俵屋宗達の筆による重要文化財《舞楽図屛風》(江戸時代 17世紀、醍醐寺蔵)(※前期のみ展示。展示終了)は、《風神雷神図屛風》とほぼ同サイズの金地の二曲一双屛風である。極彩色の衣装の舞人たち、松と桜、太鼓や幕舎が対角線で結ばれた点対称の構図。色彩の配置も効果的である。作家の三島由紀夫が本作を「執拗に組み立てられた構成的世界」「単純化した豪奢」と評した。

 俵屋宗達重要文化財《蔦の細道図屛風》(江戸時代 17世紀、相国寺蔵)(※後期のみ展示)はさらに斬新な構図だ。六曲一双の長い画面を連続させ、緑青で土坡を、金地で空と道を描き、蔦の葉を描きこむ。左右を入れ替えることもできる驚くべきデザインだ。描かれているのは、『伊勢物語』第九段「業平東下り」の場面。空から降るように書かれた文字は、その一節だ。主題は雅な平安文学なのである。

 ■尾形光琳《孔雀立葵図屛風》(重要文化財)/《白楽天図屛風》
 尾形光琳(1658~1716年)が描いた重要文化財《孔雀立葵図屛風》(江戸時代 18世紀、石橋財団アーティゾン美術館蔵)は、アーティゾン美術館が休館中に収集した光琳の代表作。金地の二曲一双の右隻(向かって右)では、中央に雄孔雀が見事な羽を広げる。画面の右端と下面に沿って梅の太い幹が配され、鋭角に屈曲した枝が左の雌孔雀まで伸び、その視線が雄の視線につながる。綿密な構成である。一方、左隻は対照的に、真直ぐに伸びる立葵が7本装飾的に描かれる。花の赤と白、葉の緑の対比が際立つ。現在は屛風だが、本来は上級公家の九条画家のための衝立絵だった。光琳独特の明快で爽快感をもたらす絵画世界である。

 尾形光琳による《白楽天図屛風》(江戸時代 18世紀、根津美術館蔵)(※後期のみ展示)は、六曲一隻の屛風。画面右の、大波に大きく傾く小舟に驚かされる。左側の漁師と、船内の人と船頭の三角構図が大胆だ。その呼応関係が、線描きの流水表現でさらに増幅される。しかし時間が止まったような印象をもたらす。本作は謡曲「白楽天」を絵画化したもの。白楽天とは中国・唐の詩人・白居易のことで、平安時代以来、日本で最も有名な漢詩人であった。日本の知恵を試しにやってきた白楽天を、漁師姿の日本の和歌の神である住吉明神が迎え、問答後に神風で中国に返すという話である。

 尾形光琳は、弟の尾形乾山(おがたけんざん)(1663~1743年)とともに京都の呉服商・雁金屋に生まれ、光琳は絵画と蒔絵、乾山は陶磁制作に励んだ。京都の町衆、やがて二条家を通して公家衆とも交流するなかで活躍した。光琳は後年の一時期、江戸に滞在し、武家の美意識にも刺激を受けた。乾山は晩年に江戸へ下り、江戸で没した。

 ■酒井抱一《芥子藪柑子図》/鈴木其一《富士筑波山図屛風》
 琳派の作品で最も多い主題は草花図だった。酒井抱一(さかいほういつ)(1761~1828年)の筆になる《芥子藪柑子図》(江戸時代 19世紀、石橋財団アーティゾン美術館蔵)(※後期のみ展示)もその一つだが、抱一特有の洒脱さと清涼感をもつ。

 酒井抱一は、姫路藩主・酒井雅楽家に生まれ、30代で出家した。画業とともに俳諧をたしなんだ。光琳に私淑し、光琳百回忌の1815年、展覧会と『光琳百図』などの出版を行い、江戸の地で琳派を継承した。抱一作品で最も有名なものは、光琳が宗達を写した重要文化財《風神雷神図屛風》(江戸時代 18世紀、東京国立博物館蔵)(※出品無し)の裏に描いた、重要文化財《夏秋草図屛風》(1821年頃、東京国立博物館蔵)(※出品無し)であろう。

 鈴木其一(すずききいつ)(1796~1858年)は、江戸の染物屋に生まれ、抱一に直接指導を受けた絵師である。師の没後、情緒的な画趣を離脱し、独自の造形世界に向かった。本展では、江戸から西に見える富士山と、東に見える筑波山をのびのび描いた《富士筑波山図屛風》(江戸時代 19世紀、アーティゾン美術館蔵)などを見ることができる。

 琳派には金銀の絵画とともに水墨画がある。本展でも俵屋宗達筆国宝《蓮池水禽図》(江戸時代 17世紀、京都国立博物館蔵)(※前期のみ展示。展示終了)など水墨の代表作が出揃う。琳派は多様だが、やまと絵の伝統を継承し近世美意識をもって発展させたといえよう。

 ■琳派と印象派との比較
 印象派とは、19世紀後半のフランスで深く交流のある画家たちによる、美術アカデミーの「サロン」に対抗する新しい絵画運動だった。1870年代を中心に活動。その特徴は、同時代の出来事を主題とし、絵具を混ぜずに画面に並置して描く明るい絵画であることなどだ。

 本展では、琳派と印象派の作品の比較がされる。例えば、宗達筆《風神雷神図屛風》の近くに、エドガー・ドガ(1834~1917年)のパステル画《踊りの稽古場にて》(1895~98年、石橋財団アーティゾン美術館蔵)や彫刻作品が置かれ、「間(ま)」の観点でモチーフの配置を見ることを促す。また、激しい水流を、線を幾重にも重ねて表現する宗達や光琳作品(そのなかでも違いを見ながら)と、雨混じりの激しい波の動きを太い筆致で表した《クロード・モネ(1840~1926年)の《雨のベリール》(1886年、石橋財団アーティゾン美術館蔵)を比べて、両者の「水の表現」の差異を探る、などである。 

 コロナ禍で外出が難しい状況が続く。美術作品に直接向かい合えることがどんなに幸福なことか、あらためて思う。


【参考文献】
賀川恭子・平間理香 編集:『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』(展覧会カタログ)、小林忠・平間理香・賀川恭子 執筆、内田伸一 編集協力、公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館 発行、2020年。

執筆:細川いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2021年1月)


※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。


写真1 俵屋宗達《風神雷神図屛風》、江戸時代 17世紀、建仁寺蔵(国宝)。
(※後期のみ展示:12月22日~2021年1月24日)

写真2 俵屋宗達《舞楽図屛風》、江戸時代 17世紀、醍醐寺蔵(重要文化財)
(※前期のみ展示。展示終了)(撮影:I.HOSOKAWA)

写真3 尾形光琳《孔雀立葵図屛風》、江戸時代 18世紀、石橋財団アーティゾン美術館蔵(重要文化財)。
(※通期展示)(撮影:I.HOSOKAWA)

写真4 酒井抱一《芥子藪柑子図》、江戸時代 19世紀、石橋財団アーティゾン美術館蔵。
(※後期のみ展示)(撮影:I.HOSOKAWA)

写真5 左は、エドガー・ドガ《右手で右足を持つ踊り子》1896~1911年、石橋財団アーティゾン美術館蔵。
エドガー・ドガ《踊りの稽古場にて》1895~98年、石橋財団アーティゾン美術館蔵。(※ともに通期展示)
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真6 クロード・モネ《雨のベリール》1886年、石橋財団アーティゾン美術館蔵)(※通期展示)
(撮影:I.HOSOKAWA)
 

【展覧会名】
琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術

Rimpa and Impressionism:
Arts Produced by Urban Cultures, East and West
【会期・会場】
2020年11月14日(土)~ 2021年1月24日(日)  アーティゾン美術館(東京)
★アーティゾン美術館は、日時指定予約制です。
当館ウェブサイトよりご来館前に「ウェブ予約チケット」をご購入ください。
当日チケット(窓口販売)はウェブ予約チケットが完売していない場合のみ販売。
学生無料(要予約)。中学生以下は予約不要です。
詳しくは、当館ウェブサイトをご覧ください。
www.artizon.museum
<電話> 050-5541-8600(ハローダイヤル)

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