森美術館
医学と芸術展　～生命と愛の未来を探る～
太古の時代から、人間は身体の内部と外部、小宇宙（ﾐｸﾛｺｽﾓｽ）と大宇宙（ﾏｸﾛｺｽﾓｽ）の内・外に広がる世界を様々に想像し、構想して、言葉や絵（壁画・ｲｺﾝ）によって表現してきた。
科学的精神をもって身体のメカニズムを探求し、身体の内部構造を解明しようと試みる人間の好奇心が解剖という作業を通して正確な図像に記録され、分析され、「死」と向き合い、克服するための医療技術が開発されてきた。
解剖図は、古代エジプトから１５世紀～１６世紀にかけてのレオナルド・ダ・ヴィンチやアンドレアス・ヴェサリウスにより、機械的な構造として人間の内部を記録して科学的な解剖図の基礎を作った。日本では、１７５４年に山脇東洋が最初であるとされ、１７７１年には杉田玄白・前野良沢が「解体新書」を発表することになる。
解剖図の多くが、単なる科学的な資料にとどまらず、人間の動きを描き、生きた状態のまま内部構造を表そうとしてきた背景には、科学的表現が常に絵画的美学を求め、解剖図が限りなく科学と芸術の境界線上にあるということであろう。

見所は、第１部：身体の発見のなかで、本邦初公開となるダヴィンチの«頭蓋骨の習作»«肝臓の血管»もさることながら、１６世紀にはもう、«鉄製関節模型»が製作され数々の医療器具も製作されていたことには驚かされた。«横からみた妊婦解剖図»«妊娠子宮解剖図»«筋肉と動脈系を示す解剖模型»等々のには、度肝を抜かれます。アンディ・ウォーホルの«心臓»、白宜洛（ﾊﾞｲ･ｲｰﾙｵ）«リサイクル»は面白い表現作品、マグナス・ウォーリンのインスタレーション«エクササイズ・パレード»には、ついつい見入ってしまう。

第２部：病と死との戦いでは、人間が老いや病、そして「死」をどのように捉え、いかに抗ってきたかを医学、薬学、生命科学の発展の歴史だけでなく「老い」「病」「生」「死」についてのさまざまなイメージを展開していて面白い。ゴッホの«ポール・ガシェ医師の肖像»あり、写真のようなデミアン・ハーストの«外科手術（マイア）»、ルーク・ジェラムの«豚インフルエンザ»«鳥インフルエンザ（球体）»«鳥インフルエンザ（卵型）»は、奇抜なアイディアであふれている。はたまた、義手・義足・車椅子・鉄の肺等の医療器具には感心させられる。「ガラス製義眼５０個セット」「半球型白ガラス製義眼」も秀逸である。

第３部：永遠の生と愛に向かって、ヤン・ファーブルの«脳の木»«私は自分の脳を運転する»、松井冬子の«無傷の標本»ジル・バルビエ«老人ホーム»フランシス・ベーコンの«横たわる人物»などなど　必見です！
古代から現代まで、人間の生命の営みを感じられる展覧会でした！！！
ヘドデル・キドリンスキー