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モネ、ルノワール 印象派の光

開催中〜2023/10/09

松岡美術館

東京都・港区

名作展 画家と生活—川端龍子の晩年の作品から

開催中〜2023/10/09

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展

開催中〜2023/10/09

東京都美術館

東京都・台東区

中之条ビエンナーレ2023

開催中〜2023/10/09

芸術祭(群馬県中之条町)

群馬県・中之条町

特別展「海ー生命のみなもとー」

開催中〜2023/10/09

国立科学博物館

東京都・台東区

企画展 楽しい隠遁生活 文人たちのマインドフルネス

開催中〜2023/10/15

泉屋博古館東京

東京都

企画展 甲冑・刀・刀装具 光村コレクション・ダイジェスト

開催中〜2023/10/15

根津美術館

東京都・港区

北島敬三「UNTITLED RECORDS : REVISITED + PORTRAITS」展

開催中〜2023/10/22

BankART Station

神奈川県・横浜市

北陸工芸の祭典 GO FOR KOGEI 2023「物質的想像力と物語の縁起― マテリアル、データ、ファンタジー」

開催中〜2023/10/29

芸術祭(富山県富山市富岩運河沿い)

富山県・富山市

瞳の奥にあるもの -表情でみる人物画展-

開催中〜2023/11/05

ホキ美術館

千葉県・千葉市

堅山南風《大震災実写図巻》と近代の画家 大観・玉堂・青邨・蓬春

開催中〜2023/11/05

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

ジョセフ・アルバースの授業 色と素材の実験室

開催中〜2023/11/05

DIC川村記念美術館

千葉県・佐倉市

MOTコレクション 被膜虚実/特集展示 横尾忠則―水のように/生誕100年 サム・フランシス

開催中〜2023/11/05

東京都現代美術館

東京都・江東区

宇川直宏展 FINAL MEDIA THERA PIST @DOMMUNE

開催中〜2023/11/05

練馬区立美術館

東京都・練馬区

九谷焼の芸術祭 KUTANism 2023

2023/10/06〜2023/11/05

芸術祭(石川県小松市・能美市各所)

石川県・小松市、能美市

土方久功と柚木沙弥郎――熱き体験と創作の愉しみ

開催中〜2023/11/05

世田谷美術館

東京都・世田谷区

テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本

開催中〜2023/11/05

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

特別展「めぐりあう大津絵―笠間日動美術館・小絲源太郎コレクションと 神戸女子大学古典芸能研究センター・志水文庫の大津絵」

開催中〜2023/11/05

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

開催中〜2023/11/05

そごう美術館

神奈川県・横浜市

東京の地場に発する国際芸術祭 東京ビエンナーレ2023

開催中〜2023/11/05

芸術祭(東京都心北東エリア〔千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア〕 、歴史的建築物、公共空間、学校、店舗屋上、遊休化した建物等)

東京都・千代田区、中央区、文京区、台東区

春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ

開催中〜2023/11/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館

開催中〜2023/11/12

芸術祭(奈良県 吉野町、下北山村、ほか予定)

奈良県・吉野町、下北山村、ほか予定

奥能登国際芸術祭2023

開催中〜2023/11/12

芸術祭(石川県珠洲市)

石川県・珠洲市

TOKAS Project Vol. 6 『凪ぎ、揺らぎ、』

2023/10/07〜2023/11/12

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

松本秋則+松本倫子「惑星トラリス」展

開催中〜2023/11/12

BankART KAIKO

神奈川県・横浜市

浄瑠璃寺九体阿弥陀修理完成記念 特別展「京都・南山城の仏像」

開催中〜2023/11/12

東京国立博物館

東京都・台東区

第75回 正倉院展

2023/10/28〜2023/11/13

奈良国立博物館

奈良県・奈良市

北斗の拳40周年大原画展 ~愛をとりもどせ!!~

2023/10/07〜2023/11/19

森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)

東京都・港区

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

創造の現場― 映画と写真による芸術家の記録

開催中〜2023/11/19

アーティゾン美術館

東京都・中央区

秋の特別展「おまもりとハンコとコイン -古代オリエントの偉大なる小さきものたち-」

開催中〜2023/11/19

古代オリエント博物館

東京都・豊島区

六甲ミーツ・アート芸術散歩 2023 beyond

開催中〜2023/11/23

芸術祭(神戸・六甲山上)

兵庫県・神戸市

美しき時代(ベル・エポック)と異彩のジュエリー

開催中〜2023/11/26

箱根ラリック美術館

神奈川県・箱根町

企画展「北斎のまく笑いの種」

開催中〜2023/11/26

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

横山美術館名品展 明治・大正の輸出陶磁器 技巧から意匠へ

2023/10/07〜2023/11/26

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

皇居三の丸尚蔵館収蔵品展 皇室と石川 —麗しき美の煌めき—

2023/10/14〜2023/11/26

国立工芸館(石川県立美術館との共催)

石川県・金沢市

開館20周年 & 富士山世界遺産登録10周年記念 後期「フジヤマミュージアム名品展」

開催中〜2023/11/26

フジヤマミュージアム

山梨県・富士吉田市

特別展「日本画聖地巡礼 ー東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門ー」

開催中〜2023/11/26

山種美術館

東京都・渋谷区

特別展「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」

開催中〜2023/11/26

三井記念美術館

東京都・中央区

関東大震災100年企画展 「震災からのあゆみ —未来へつなげる科学技術—」

開催中〜2023/11/26

国立科学博物館

東京都・台東区

シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、 杉山寧から現代の作家まで

開催中〜2023/12/03

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ

2023/10/06〜2023/12/03

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

「横尾忠則 寒山百得」展

開催中〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

特別展「北宋書画精華」

2023/11/03〜2023/12/03

根津美術館

東京都・港区

特別展「やまと絵 -受け継がれる王朝の美-」

2023/10/11〜2023/12/03

東京国立博物館

東京都・台東区

特別展「岡本玉水 人形芸術にかけた生涯—御所人形から玉水人形へ」

2023/10/07〜2023/12/03

さいたま市岩槻人形博物館

埼玉県・さいたま市

日中平和友好条約45周年記念「世界遺産 大シルクロード展」

開催中〜2023/12/10

東京富士美術館

東京都・八王子市

さいたま国際芸術祭2023

2023/10/07〜2023/12/10

芸術祭(さいたま市・旧市民会館おおみや(メイン会場)ほか)

埼玉県・さいたま市

永遠の都ローマ展

開催中〜2023/12/10

東京都美術館

東京都・台東区

イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル

開催中〜2023/12/11

国立新美術館

東京都・港区

コスチュームジュエリー美の変革者たち シャネル、スキャパレッリ、ディオール 小瀧千佐子コレクションより

2023/10/07〜2023/12/17

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

布の芸術祭『FUJI TEXTILE WEEK 2023(フジテキスタイルウィーク)』

2023/11/23〜2023/12/17

芸術祭(山梨県富士吉田市)

山梨県・富士吉田市

特別企画展 日本画の棲み家

2023/11/02〜2023/12/17

泉屋博古館東京

東京都・港区

開館1周年記念特別展 二つの頂 —宋磁と清朝官窯—

2023/10/07〜2023/12/17

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

国吉康雄展 ~安眠を妨げる夢~ 福武コレクション・岡山県立美術館のコレクションを中心に

2023/10/24〜2023/12/24

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

ヨシタケシンスケ展かもしれない

2023/10/15〜2023/12/24

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ

2023/11/01〜2023/12/25

国立新美術館

東京都・港区

「今こそ、ルーシー!」LUCY IS HERE

開催中〜2024/01/08

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

「青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション」第2期(秋冬季)

開催中〜2024/01/08

原美術館ARC

群馬県・渋川市

上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」

2023/11/16〜2024/01/08

東京都美術館

東京都・台東区

「鹿児島睦 まいにち」展

2023/10/07〜2024/01/08

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

111年目の中原淳一展

2023/11/18〜2024/01/10

そごう美術館

神奈川県・横浜市

ICCアニュアル 2023 ものごとのかたち

開催中〜2024/01/14

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

東京都・新宿区

企画展「ある従軍カメラマンの追憶 義烈空挺隊員と家族の片影」

開催中〜2024/01/14

平和祈念展示資料館

東京都・新宿区

佐野史郎写真展 瞬間と一日

2023/10/14〜2024/01/14

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

ゴッホと静物画―伝統と革新へ

2023/10/17〜2024/01/21

SOMPO美術館

東京都・新宿区

モネ 連作の情景

2023/10/20〜2024/01/28

上野の森美術館

東京都・台東区

倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙

2023/11/18〜2024/01/28

世田谷美術館

東京都・世田谷区

江口寿史展 ノット・コンプリーテッド

開催中〜2024/02/04

世田谷文学館

東京都・世田谷区

アメイジング・チャイナ 深淵なる中国美術の世界

2023/10/24〜2024/02/11

松岡美術館

東京都・港区

みちのく いとしい仏たち

2023/12/02〜2024/02/12

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

1周年記念特別企画「ようこそ藤田嗣治のお家へ」

開催中〜2024/02/20

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

生誕120年 古賀忠雄展 塑造(像)の楽しみ

2023/11/17〜2024/02/25

練馬区立美術館

東京都・練馬区

森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために

2023/10/18〜2024/03/31

森美術館

東京都・港区

tupera tupera + 遠藤幹子 しつもんパーク in 彫刻の森美術館

開催中〜2024/03/31

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

岡田健太郎―重なる景体

2023/12/05〜2024/04/07

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

Exhibitions

画家が見たこども展 ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン

親しみやすい展覧会。ボナールらナビ派を中心とする画家が描いた子どもたち。
東京の三菱一号館美術館にて、会期を延長し、9月22日まで開催。

 描かれた子どもたちや画家に思いを馳せながら、ふと、子どもだった自分にも出会える。現在、開催中の「画家が見たこども展 ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン」でのことだ。本展は今年4月に開館10周年を迎えた東京の三菱一号館美術館、および南仏ル・カネにあるボナール美術館との共同企画で、両館を巡回。なお展覧会の仏語タイトルは、「夢の子供時代 ボナール、ナビ派と子ども時代」である。ナビ派は19世紀末のパリで活躍した前衛芸術家グループであり、近年注目され研究が進む。三菱一号館美術館は2017年、「オルセーのナビ派展 美の預言者たち――ささやきとざわめき」によってナビ派の画家たちの全貌を日本で初めて紹介した。また、それに先立つ2014年に「ヴァロットン――冷たい炎の画家」展を開催。本展はそれらに続く同館でのナビ派展で、彼らが好んだ主題の一つの「子ども」に焦点を絞ったものだ。個人コレクターを含め国内外30か所を超える所蔵者の貴重な作品が112点出品されている。未発表作品も多い。親しみやすく、意義深い展覧会である。

 ■展覧会構成
 本展の構成は、プロローグと4つの章、およびエピローグの6つの部分からなる。プロローグとエピローグは、展覧会の趣旨を鮮明にするために日本展のみに加えられた。
 プロローグ 「子ども」の誕生/1 路上の光景、散策する人々/2 都市の公園と家族の庭/3 家族の情景/4 挿画と物語、写真/エピローグ 永遠の子ども時代
 
 ■ナビ派とは
 ナビ派とは、19世紀末のパリに集った知識人である若い画家たちの、緩やかなつながりのグループだ。印象派に続く世代に当たる。ポール・ゴーガン(1848~1903年)の絵画に大きな影響を受けて結成された。「ナビ」はヘブライ語で「預言者」の意。彼らは自ら命名した呼称どおり、新しい芸術の先駆者としての自負をもって、仲間のアトリエ「神殿」で毎週集会を開いて交流し、展覧会に参加するなど活動した。平面的で単純化された表現や、日常生活の身近な情景を主題とするなどの特徴がみられるが、多彩である。ナビ派は、20世紀美術を予兆する重要な美術運動として静かな革命を行ったといえる。

 ■プロローグ
 「プロローグ」では、このあと見るナビ派の画家たちの作品との相違点や共通点を考えさせる。ウジェーヌ・カリエール(1849~1906年)が病気の息子を抱く母親像を描いた《病める子ども》(1885年、油彩・カンヴァス、パリ、オルセー美術館)は、聖母子像のようだ。夢のごとく虚ろな茶褐色の画面から母親の不安な心情が伝わる。一方、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90年)による《マルセル・ルーランの肖像》(1888年、油彩・カンヴァス、アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館)は、ゴッホ独特の鮮やかな色彩と力強い筆致で青い眼の赤ん坊が描かれる。ゴッホのアルルでの友人で、絵のモデルにもなった郵便配達人ルーランの、長女マルセルだ。生まれたての生命力がみなぎる。

 ■ナビ派の画家が描いた子どもたち
 ●ボナール:日本かぶれのナビ 

 ピエール・ボナール(1867~1947年)による《乳母たちの散歩、辻馬車の列》(1897年、リトグラフ・紙、ル・カネ、ボナール美術館)は、四曲の屏風形式のリトグラフ(石版画)の作品。大きな余白をとった平面的な淡い色面による構成。手前に輪回しを競争する二人の子どもが見える。上部には長いリボン付きの帽子をかぶった3人の乳母が立ち、さらに奥に整然と辻馬車の列が並ぶ。動と静。パリのコンコルド広場での情景という。子どもたちの動きの本質をつかむ表現や母親の腰をかがめた姿に、日本の浮世絵が重なるようだ。ボナールは浮世絵の収集家でもあった。ナビ派は日本美術から大きな影響を受けたが、ボナールは特にその傾向が強く、批評家フェリックス・フェネオンに「日本かぶれのナビ」と呼ばれた。なお、輪回しの遊びをする子どもたち、麦藁帽子にセーラー服の少年たち、また長いリボン付き帽子の乳母たちの姿は、会場で他の作品にも多く見られる。

 ボナールは妻マルトとの間に子どもはなかったが、甥や姪を可愛がり、日常生活のなかの彼らを好んで描いた。妹アンドレとその夫で作曲家のクロード・テラスの子どもたちだ。楽譜を見ながら一生懸命歌う二人の甥、ランプの下の食卓で静かに食事をする子どもたち、また猫を抱く少女らの作品には、画家が甥や姪に接するときの幸福感と喜びがあふれている。

 ●ヴュイヤール:アンティミスト(親密派)
 エドゥアール・ヴュイヤール(1868~1940年)による《赤いスカーフの子ども》(1891年頃、油彩・厚紙、ワシントン・ナショナル・ギャラリー)は、小さなサイズながら印象深い。鮮やかな色彩のスカーフをまとった幼い女の子が父親に手を引かれて歩く後ろ姿を、大胆なトリミングで捉える。《乗り合い馬車》(1895年頃、油彩・厚紙、ロサンゼルス、ハマー美術館)は、色の斑点の集合にも見えるが、近づくと、お揃いのお洒落な服と帽子の姉妹が、乗り合い馬車の内部から外を覗いている情景だとわかる。微笑ましい気持ちになった。現代でも子どもたちは、電車の一番前で運転手さんの運転や、次々と変化する景色を眺めるのが好きである。

 ヴュイヤールは生涯独身を通し、母と暮らしたが、姉夫婦の娘アネットを作品の題材として多く描いた。《青いベッドにいる祖母と子ども》(1899年、油彩・厚紙、ヴィンタートゥール美術館)は、前年に生まれた赤ん坊のアネットと、その世話をする画家の母を、愛情をもって描いている。ヴュイヤールは自らをアンティミスト(親密派)と称した。

 ●ドニ:美しきイコンのナビ 
 モーリス・ドニ(1870~1943年)は、《私のところに来るままに》(1899年、油彩・板、個人蔵〈ウインター・コレクション〉)では子どもに接するキリストを描いた。《青いズボンの子ども》(1897年、油彩・カンヴァス、パリ、オルセー美術館)をはじめとする母と赤ん坊を描写した作品には聖母子像を重ねている。ドニは熱心なカトリック信者で、宗教をテーマとする多くの作品を手がけ、「美しきイコンのナビ」と呼ばれた。

 ドニは9人の子どもをもち、多くの作品に登場させた。《サクランボを持つノエルの肖像》(1899年、油彩・厚紙、ブリュッセル、個人蔵)は、長女ノエル3歳の可愛らしい姿を抜群の色彩配置で表現。《子ども部屋(二つの揺りかご)》(1899年、油彩・カンヴァス、個人蔵(モーリス・ドニ遺族))は、マットな色彩と、揺りかごの間の窓からカーテン越しに外の風景がぼんやり見えるという構図が、不思議な魅力を放つ。赤いワンピース姿はノエル。窓から見える赤い屋根は、ドニ一家が後に引っ越すことになる小修道院のものだ。

 ●ヴァロットン:外国人のナビ 
 ナビ派の多くはフランス出身だが、フェリックス・ヴァロットン(1865~1925年)はスイス生まれのため「外国人のナビ」といわれた。彼は、子どもをもつガブリエルを妻としたが、自身の子どもはもたなかった。彼の作品には皮肉がこめられ、複雑な人間や社会をあばいたものが多い。木版画《可愛い天使たち》(1894年、木版・紙、東京、三菱一号館美術館)でも、警官に捕えられた身なりのまずしい男を、面白がって取り囲む子どもたちの無邪気な残酷さが表現されている。一方、《リュクサンブール公園》(1895年、油彩・カンヴァス、株式会社講談社)では、公園で輪回しなどの遊びに興ずるセーラー服に麦藁帽子の子どもを、《エトルタの四人の海水浴客》(1899年、油彩・厚紙、ギャルリー・バイイ)では、楽しげな家族の情景を、他意なく描写したようだ。

 ■エピローグ:ナビ派を離れた晩年のボナールが描いた子どもたち
 ナビ派の画家たちは、1900年以降それぞれの道を歩んだ。ボナールは1942年に長年連れ添った伴侶マルトを亡くした。彼は晩年、地中海を一望する南仏のル・カネで制作を続け、第二次世界大戦後の1947年に79歳の生涯を全うした。展覧会場の最後の部屋には、その晩年の大作が並ぶ。ボナールが没年の前年に制作した《雄牛と子ども》(1946年、油彩・カンヴァス、モナコ、個人蔵〈マーク・カウフマン氏蔵〉)は、大画面の半分を占める雄牛と、手前の少年を描写する。明るい色彩と伸びやかな筆致。前に立つと、全体が一体化したような作品に包まれ、懐かしさがつのる。彼がナビ派時代に描いた現実の子どもとは趣を異にする。ボナールは生涯の最後に、大切な「子ども時代」の記憶を観る者に呼び起こす、このような絵画を創り出していた。

 ■美術史のなかの「子ども」
 意外にも思えることだが、「子ども」という主題は西洋美術の歴史のなかでは、天使や聖母子の宗教画やフランドルやオランダの風俗画を除けば、描かれてこなかった。そもそも西洋では「子ども」は「不完全な大人」と捉えられていた。しかしジャン=ジャック・ルソーが、著書『エミール、または教育について』(1762年)で子どもを尊重し成長に沿った教育の大切さを説き、それまでの子ども観が変化していく。美術においても18世紀から19世紀のロマン主義やレアリスムの絵画に子どもが登場する。

 19世紀末のナビ派の画家たちは、とりわけ子どもを重要視した。近代都市における日常生活での人々をつぶさに観察するナビ派は、子どもが身近にいる深遠な存在であることを見出した。そして子どもたちが、彼らの芸術を生み出す着想泉となった。また、ナビ派は日本美術からも多大な影響を受けたが、浮世絵には日常の子どもを描いたものが多くあった。

 たくさんの子どもたちに出会えた本展。帰り道も自分が子どもだった頃の思い出があれこれ蘇った。


【参考文献】
1)三菱一号館美術館 杉山菜穂子、株式会社キュレイターズ 水野昌美・吉田和佳奈=編集:『画家が見たこども展 ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン(展覧会カタログ)』、三菱一号館美術館=発行、2020年。

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2020年7月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。


写真1 三菱一号館美術館の会場風景(以下同様)。
フィンセント・ファン・ゴッホ《マルセル・ルーランの肖像》1888年、
油彩・カンヴァス、アムステルダム、ファン・ゴッホ美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真2 会場風景。
ピエール・ボナール《乳母たちの散歩、辻馬車の列》1897年、
リトグラフ・紙、ル・カネ、ボナール美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真3 会場風景。
左手前は、ピエール・ボナール《猫と子どもたち》1909年、
油彩・カンヴァス、ワシントン、フィリップ・コレクション。
奥は、ピエール・ボナール《子どもたちの昼食》1897年頃、
油彩・板、ナンシー美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真4 会場風景。
左から、エドゥアール・ヴュイヤール《赤いスカーフの子ども》1891年頃、
油彩・厚紙、ワシントン・ナショナル・ギャラリー。
エドゥアール・ヴュイヤール《乗り合い馬車》1895年頃、
油彩・厚紙、ロサンゼルス、ハマー美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真5 会場風景。
モーリス・ドニ《サクランボを持つノエルの肖像》1899年、
油彩・厚紙、ブリュッセル、個人蔵。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真6 会場風景。
左から、モーリス・ドニ《子ども部屋(二つの揺りかご)》1899年、
油彩・カンヴァス、個人蔵(モーリス・ドニ遺族)。
モーリス・ドニ《ベランダでボールを持つ子ども》1901年頃、
油彩・板に貼ったカンヴァス、個人蔵。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真7 会場風景。
上から、フェリックス・ヴァロットン《1月1日》1896年、
木版・紙、東京、三菱一号館美術館。
フェリックス・ヴァロットン《可愛い天使たち》1894年、
木版・紙、東京、三菱一号館美術館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真8 会場風景。
左から、ピエール・ボナール《雄牛と子ども》1946年、
油彩・カンヴァス、モナコ、個人蔵〈マーク・カウフマン氏蔵。
ピエール・ボナール《サーカスの馬》1946年、
油彩・カンヴァス、モナコ、個人蔵〈マーク・カウフマン氏蔵〉。
(撮影:I.HOSOKAWA)
 

【展覧会名】
画家が見たこども展
ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン
【会期・会場】

◎2020年9月22日まで 三菱一号館美術館 (東京) 
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
[展覧会詳細] https://mimt.jp/kodomo

★注意:三菱一号館美術館での会期は当初2月15日から6月7日まででしたが、
新型コロナウイルス対策で休館後、9月22日まで延長となりました。
日時指定予約制です。詳細は展覧会HPでご確認ください。

※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。