詳細はミュージアムのオフィシャルサイトなどでご確認ください。

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東京都美術館開館100周年記念 この場所の風景―上野・大牟田・ブエノスアイレス

開催中〜2026/10/07

東京都美術館

東京都・台東区

「風そよぐ情景 ヴィクトリア朝絵画・フランス印象派」展

開催中〜2026/10/12

松岡美術館

東京都・港区

竹村京 うごくせかい

開催中〜2026/10/12

水戸芸術館現代美術ギャラリー

茨城県・水戸市

没後100年記念 住友春翠—仕合せの住友近代美術コレクション

開催中〜2026/10/12

泉屋博古館東京

東京都・港区

カラフルパレット 鈴木信太郎

開催中〜2026/10/12

そごう美術館

神奈川県・横浜市

東京都美術館開館100周年記念 大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画

開催中〜2026/10/18

東京都美術館

東京都・台東区

イタリア現代美術展「境界を越えるアイデンティティ 人間と自然の対話 ファルネジーナコレクション」

開催中〜2026/10/22

イタリア文化会館

東京都・千代田区

印象派の先駆者 ウジェーヌ・ブーダン展 ―瞬間の美学、光の探求

開催中〜2026/11/03

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

没後20年 大野五郎 / 夭折の画家 小野幸吉

開催中〜2026/11/03

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

秋の特別展 「柳清子コレクション ラオス、幻の布」

開催中〜2026/11/06

ICU湯浅八郎記念館

東京都・三鷹市

四季を写す絵画たち

開催中〜2026/11/08

ホキ美術館

千葉県・千葉市

瀧本幹也 LUNATION 朔望―海から天体を読む

開催中〜2026/11/08

茅ヶ崎市美術館

神奈川県・茅ヶ崎市

水滸伝

開催中〜2026/11/08

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

『北斗の拳 -FIST OF THE NORTH STAR-』特別企画展

開催中〜2026/11/08

アニメ東京ステーション 14階 特設会場

東京都・豊島区

民藝SHOCK!!―没後60年静嘉堂の河井寬次郎

開催中〜2026/11/08

静嘉堂@丸の内

東京都・千代田区

高橋龍太郎コレクション連携企画 川端龍子プラスワン(前期)「川内理香子 LOVE, Wild Grape, Tiger, heart」

開催中〜2026/11/08

大田区立龍子記念館

東京都・大田区

アーツ中村橋 2026―わたしとまちの記憶

開催中〜2026/11/08

練馬区立美術館、サンライフ練馬ほか

東京都・練馬区

スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン

開催中〜2026/11/15

世田谷美術館

東京都・世田谷区

ようこそ! 華麗なる宮中晩餐会の世界へ

開催中〜2026/11/21

霞会館記念学習院ミュージアム

東京都・豊島区

マリー・アントワネット・スタイル

開催中〜2026/11/23

横浜美術館

神奈川県・横浜市

開館10周年記念 特別展「ベスト オブ すみだ北斎美術館—隅田川両岸景色図巻と名品—」

開催中〜2026/11/23

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

平塚・カウナス姉妹都市提携3周年記念展 シュヴェグジュダと湘南の画家たち

開催中〜2026/11/23

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

館蔵の茶碗 100 撰 ―国宝から手造茶碗まで―

開催中〜2026/11/23

三井記念美術館

東京都・中央区

毛利悠子 Recompose ― 第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館帰国展

開催中〜2026/11/23

横浜美術館

神奈川県・横浜市

花のある暮らし ボタニカルアートとデザイン

開催中〜2026/11/29

府中市美術館

東京都・府中市

秋季展「白隠ワールド―細川護立コレクションのはじまり―」

開催中〜2026/11/29

永青文庫

東京都・文京区

中村正義 タウン誌うえの 表紙絵展

開催中〜2026/11/29

中村正義の美術館(金・土・日・祝日開館)

神奈川県・川崎市

ルネ・ラリックにみる 日本とフランスの“かわいい”文化交流

開催中〜2026/12/06

箱根ラリック美術館

神奈川県・箱根町

没後50年 髙島野十郎展

開催中〜2026/12/06

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

ザ・ベスト・オブ・山種美術館コレクション1−横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ−

2026/10/10〜2026/12/06

山種美術館

東京都・渋谷区

秋のコレクション展「浜口陽三展 リズム」

開催中〜2026/12/06

ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション

東京都・中央区

KIRIKANE Sculpture 山本茜

2026/10/24〜2026/12/06

そごう美術館

神奈川県・横浜市

共時的星叢──時を共にした星たち 越境する芸術のまなざし

開催中〜2026/12/13

東京都現代美術館

東京都・江東区

ルーヴル美術館展 ルネサンス

開催中〜2026/12/13

国立新美術館

東京都・港区

唐物誕生―茶の湯デザインの源流をさぐる―

2026/11/03〜2026/12/13

泉屋博古館東京

東京都・港区

足利樺崎寺と運慶 ―二体の大日如来像―

2026/10/24〜2026/12/20

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

企画展 美しい瞬間(とき)-美人画を中心にー

開催中〜2026/12/20

大倉集古館

東京・港区

中嶋明希展 MY GARDEN-たねをまく-

開催中〜2026/12/27

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

MOTコレクション いつかの光を今みている

開催中〜2027/01/06

東京都現代美術館

東京都・江東区

生誕140周年記念企画「ニューヨークの藤田嗣治」展

開催中〜2027/01/11

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

方丈記に学ぶ―生きるを編み直す小さな建築ー

開催中〜2027/01/11

21_21 DESIGN SIGHT

東京都・港区

ムットーニワールド からくりシアターⅥ

2026/11/14〜2027/01/11

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

ふたたびくみたてる 日本の新進作家 vol.23

開催中〜2027/01/17

東京都写真美術館

東京都・目黒区

デュエット――アジアン・コンテンポラリー

開催中〜2027/01/17

東京都写真美術館

東京都・目黒区

北斎館50周年記念展  フランス ナント「EXPOSITION HOKUSAI」凱旋展  小布施 北斎の傑作

2026/10/24〜2027/01/17

北斎館

長野県・小布施町

中西夏之 緩やかにみつめるためにいつまでも佇む、装置

2026/11/12〜2027/01/17

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

ニコライ・アストルップ 創造する庭

2026/11/21〜2027/01/31

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

粧い眠る 秋と冬の日本画名品選

2026/10/27〜2027/02/07

松岡美術館

東京都・港区

ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―

開催中〜2027/02/07

世田谷文学館

東京都・世田谷区

少女漫画・インフィニティ 萩尾望都×山岸凉子×大和和紀 三人展

2026/10/28〜2027/02/08

国立新美術館

東京都・港区

テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話

2026/10/24〜2027/02/21

国立西洋美術館

東京都・台東区

Siblings are Wonderful きょうだいって、いいな

開催中〜2027/02/28

スヌーピーミュージアム

東京都・町田市

世田谷文学館コレクション展「没後30年 宇野千代展」

開催中〜2027/03/28

世田谷文学館

東京都・世田谷区

モネ没後100年・開館25周年記念 あたらしい目 — モネと21世紀のアート

開催中〜2027/04/07

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「神奈川沖浪裏」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

Exhibitions

北斎 冨嶽三十六景 
井内コレクションより

いざ、北斎の富士へ! 46図すべてを国立西洋美術館でめぐる。

 日本美術の代表作ともいえる葛飾北斎(1760~1849)筆「浪裏」、つまり「神奈川沖浪裏」は、『冨嶽三十六景』(1830~33[天保1~4]頃)の一枚。200年ほど前、北斎が70代で手掛けたこの浮世絵連作は、名称の36図ではなく、46図から成る。国立西洋美術館で、その全46図を紹介する展覧会が開催中だ。2年前に寄託された井内コレクションの初披露。一部屋に全図が並ぶ。様々な富士の姿を探し愛でながら、北斎の底知れぬ魅力を満喫できる。
 本展は、樋口一貴 十文字学園女子大学教授が監修された。

井内コレクションの特徴

 会場全体を見渡すと、美しい青色が際立つ。樋口先生が井内コレクションの『冨嶽三十六景』を初めて目にした際、コンディションの良さと、北斎の藍(ベロ藍)の鮮やかさに驚いたという。浮世絵は評判を呼ぶと摺りを重ねるが、遅い摺りほど原板が磨滅するなど仕上がりが悪くなる。本作品群は早い時期に摺られたものが、良好に保存されたようだ。
 また、浮世絵版画は紙の強度を増すため裏打紙が貼られることが多いが、本連作の多くは裏打紙が無い。江戸の人々は手にとって表から裏からと眺めただろう。会場では3作品の表裏両面を見られる。加えて井内コレクションは、「神奈川沖浪裏」を3図(3図めは4/21より追加展示)、「凱風快晴」は別ヴァージョンを含む。本展ではすべてを公開。

ベロ藍

 『冨嶽三十六景』に多用されたベロ藍とは、プルシアンブルーのことで、18世紀初めにベルリンで製造された化学顔料。日本には同世紀後半に入ったが、高額だった。19世紀初頭より価格が下がり、1829年にベロ藍を使用した渓斎英泉の団扇絵「唐土山水」が大変な人気を博した。ベロ藍はそれまでの植物藍より鮮やかであり、薄い水色から濃紺まで微妙な色の変化を表現できる。特に空や水を表すことに効果的で、画面に奥行きをもたらした。
 『冨嶽三十六景』の版元である永寿堂西村屋与八は、北斎を起用する新連作について、①主題は様々な場所からの富士の姿、②藍摺り、③三十六図に限らない旨を、広告(柳亭種彦『正本製』奥付広告、1831年)でうたった。この主題とベロ藍使用のアイデアは、西村屋か北斎なのか、筆者は興味深く思う。主題については、富士山を信仰する冨士講が庶民の間で盛んだったことも関与するだろう。そして北斎はベロ藍をいかに生かすか、工夫を重ねた。

展覧会構成

 本展は書体の研究に基づき、北斎が版下絵を描いた早い順にAからFの6グループに分けて構成。Aグループ(10図)はスケールの大きな代表作が揃う。Bグループ(10図)は藍摺一色が多い。最後のFグループ(10図)は、主版の輪郭線が墨色で、他の植物藍と墨を混ぜた濃い藍の輪郭線とは異なるため、最後に追加された10図と考える。刊行の順序については、版下絵の製作順とは異なり、西村屋がベロ藍の流行を知って出版計画変更してBからスタートした、つまりB→A→C…の刊行順であろうと、樋口先生は著述している(※参考文献1。116~121頁)。

右から、葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「相州七里濱」「武陽佃嶌」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション(2点ともBグループ)
右から、葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「相州七里濱」「武陽佃嶌」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション(2点ともBグループ)

「神奈川沖浪裏」

 ダイナミックな大波の動き、翻弄される押送船(おしおくりぶね)、奥に屹立する気高い冠雪の富士、ベロ藍と白色の美しさ。緊張感を孕む本作にあらためて圧倒された。東海道3番目の宿場・神奈川宿からの風景とされる。なお押送船とは江戸に鮮魚類を運ぶ小型荷船。大波のしぶきは富士の頂に降る雪のようでもある。手前の波濤の形は富士と相似する。
 この手前の波の形について、樋口先生は『北斎漫画』七編を拠り所として、筑波山をしのばせたのではないかと著作の論考で記した(※参考文献1。75頁)。高階秀爾先生は甲州(現在の山梨県)側から見える「裏富士」ではないかと指摘された(※参考文献2)。北斎の目論見はどうだろう。見る人々に感興と刺激を与える作品だ。
 
 北斎は巨大な波と船という主題を40代後半から描いていた。本作は関心の深い主題への長い挑戦を経ての完成作といえよう。
 北斎が印象派の画家や工芸家に影響を与えたことは有名だ。樋口先生は、本図がフランスのクロード・ドビュッシー作曲の交響詩「海」の初版楽譜の表紙(出版1905)に使われたこと、その際トリミングされ富士山も押送船も見事に削られたことを、上述の論考で紹介している(※参考文献1。72~75頁)。主人公の霊峰富士が消えていたとは!
 
 本展では本作が3図展示され、見比べられる。また紙の裏側も眺めることができる。反転した図様は不思議だ。ベロ藍も白色も美しく、ばれんで摺った跡が臨場感をもたらす。

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「神奈川沖浪裏」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「神奈川沖浪裏」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「神奈川沖浪裏」の裏面 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「神奈川沖浪裏」の裏面 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

「凱風快晴」赤富士と青富士

 「凱風快晴」は、富士の雄姿を画面いっぱいに描く。凱風とは、南から吹く初夏のそよ風。青空の鰯雲を背景に、朝陽に染まる富士は神々しい。「神奈川沖浪裏」と共に最も名高い本作は、「赤富士」として親しまれる。実際より鋭角に描かれたこの富士の姿は、富士のイメージとなった。なお赤色は地肌とみる説もある。本作は全46図の中で、どこからの眺めと特定できない3図の一つ。会場には、「赤富士」を大きく改変した珍しい「青富士」も並ぶ。

2点とも、葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「凱風快晴」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
2点とも、葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「凱風快晴」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

機知に富む卓抜な造形。幾何学形態。反復。ベロ藍の効果。働く人、集う人。

 続けていくつか見てみよう。「尾州不二見原」は、愛知県名古屋城下の富士見原とされる。巨大な桶を立て、内部を一心不乱に槍鉋で削る桶職人。桶が動かぬよう道具類で固定させている。大桶を覗くと遠方に小さな富士が! 巨大な円と小さな三角形の対比。「円窓」という東アジアの絵画の伝統も重ねる。全図中いちばん小さな富士はどれだろう。

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「尾州不二見原」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「尾州不二見原」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

 「武州玉川」は、武蔵野国を流れる玉川、つまり現在の多摩川のこと。巧みな構図、及びベロ藍と摺りの超絶表現に息をのんだ。左右に流れる川と、すやり霞を大きく配し、川向うに富士を望む。自然豊かな情景に、小さく手前に馬を引く一人、川面に浮かぶ小舟に三人の男たち。川面と波の色相変化、そして手前の波の空摺り。見入ってしまった。

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「武州玉川」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「武州玉川」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「武州玉川」の部分 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「武州玉川」の部分 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

 「東都淺草本願寺」は、現在も西浅草にある東本願寺。近接する極端に巨大な本堂の大屋根が富士と呼応する。屋根では瓦職人たちが作業中だ。井戸掘の櫓、凧、大屋根も高さを競うようだ。凧が風を感じさせる。ベロ藍が建築物にも効果的に使われている。

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「東都淺草本願寺」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「東都淺草本願寺」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

 「甲州三坂水面」は、現在の山梨県にある御坂峠からの富士と、河口湖に映るその姿。しかし不思議。北斎はルネ・マグリット(1898~1967)を予想させるトリックを仕掛けている。

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「甲州三坂水面」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「甲州三坂水面」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

 「隅田川関屋の里」は、現在の東京都足立区にある。大きくうねる土手道を、男を乗せた三頭の馬が疾走し、その動勢が伝わる。手前の馬は同形、先頭の馬はその反転形だ。奥に小さな赤富士が見える。早朝だろうか。

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「隅田川関屋の里」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「隅田川関屋の里」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

 「東海道品川御殿山ノ不二」は、現在の東京都品川区の御殿山。花見の風景である。白抜きを使って描く咲き誇る満開の桜は軽快。枝の先に富士が姿をみせる構図の妙。本作は多彩な色彩で、人々の賑わいと楽しげな様子を描く。赤ん坊を負ぶった家族も微笑ましい。

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「東海道品川御殿山ノ不二」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション
葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「東海道品川御殿山ノ不二」 1830~33(天保1~4)年頃 横大判錦絵 井内コレクション

一図一図も、その細部も、全46図の全体像も

 『冨嶽三十六景』は一作一作も、その細部もすこぶる面白い。例えば「青山圓座枩」の左下、松林の中に松葉がきをする人の足だけが見えている等。仕掛けた北斎の笑顔が頭に浮かぶ。そして全46図をめぐると、この連作全体の奥深さを体験した実感をもった。

北斎と富士

 北斎は、70代で『冨嶽三十六景』にて大評判を得た後、『諸国瀧廻り』など次々連作に挑み、絵本『富嶽百景』三冊本も手掛けた。そして90歳で没するまで、技法も作風も常に新しい挑戦を実践した。死の直前に発した最期の言葉、「天我をして五年の命を保たしめば、真正の画工となるを得べし」(飯島虚心著『葛飾北斎伝』1893年、より)は、心に迫る。北斎は生涯に富士を多く描いた。「真正の画工」を目標に常に高みを目指した北斎。北斎にとって富士とは、自身の達成すべき至高の画境の象徴だったのかもしれない。

本展に関する優れた作品集

 本記事で度々触れたが、樋口一貴先生の本展に関する新著『北斎の藍 井内コレクション『冨嶽三十六景』全作品集』(※参考文献1)も紹介したい。本書は横長の判型で、和紙のような手触りの紙を使用した上製本。作品頁をめくると、浮世絵の裏面も印刷されているので、北斎の浮世絵を江戸の人たちと同様に手に取って眺めている気分になる。研究成果を踏まえた内容と共に、書籍としての仕上がりも秀逸である。
 
 なお国立西洋美術館では、本展と、リトアニアを代表する作曲家で画家のM.K.チュルリョーニス(1875~1911)の展覧会が同時に開催されている。チュルリョーニスは音楽の構造を絵画に取り入れるなど独創的な絵画を生み出した。北斎の代表作に想を得たと思われる作品も出品されている。
 
 
【参考文献】
1)樋口一貴 監修・著:『北斎の藍 井内コレクション『冨嶽三十六景』全作品集』阿部出版、2026年
2)高階秀爾:「波裏」をめぐる幻想、『西洋の眼 日本の眼』85~94頁、青土社、2018年(本論考の初出:「近代画説」7号(明治美術学会)、1998年)
3)大久保純一:『カラー版 北斎』岩波書店(岩波新書)、2012年
4)飯島虚心 著、鈴木重三 校注:『葛飾北斎伝』岩波書店(岩波文庫)、1999年
 
執筆・撮影:細川いづみ(HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2026年5月)
 
※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。
※本文・図版とも無断引用・無断転載を禁じます。

北斎 冨嶽三十六景 井内コレクションより
Hokusai: Thirty-six Views of Mt.Fuji 
from the Iuchi Collection
  
【会期・会場】
2026年3月28日(土)~6月14日(日) 国立西洋美術館 企画展示室B3F(東京都台東区)
※詳細は以下でご確認ください。
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2026hokusai.html