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六本木クロッシング2022展:往来オーライ!

開催中〜2023/03/26

森美術館

東京都・港区

速水御舟展

開催中〜2023/03/26

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

江戸絵画の華 〈第2部〉京都画壇と江戸琳派

開催中〜2023/03/26

出光美術館

東京都・千代田区

静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅲ「お雛さま―岩﨑小彌太邸へようこそ」

開催中〜2023/03/26

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

VOCA展2023

開催中〜2023/03/30

上野の森美術館

東京都・台東区

仏具の世界 信仰と美のかたち

開催中〜2023/03/31

根津美術館

東京都・港区

特別展「動画クリエイター展」

開催中〜2023/04/02

日本科学未来館

東京都・江東区

飯川雄大 デコレータークラブ 同時に起きる、もしくは遅れて気づく

開催中〜2023/04/02

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

トンコハウス・堤大介の「ONI展」

開催中〜2023/04/02

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル

開催中〜2023/04/09

三菱一号館美術館

東京都・千代田区

キャラクターデザインの先駆者 土方重巳の世界

開催中〜2023/04/09

横須賀美術館

神奈川県・横須賀市

アートのための場所づくり 1970年代から90年代の群馬におけるアートスペース

開催中〜2023/04/09

群馬県立近代美術館

群馬県・高崎市

レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才

開催中〜2023/04/09

東京都美術館

東京都・台東区

わたしたちは生きている! セタビの森の動物たち

開催中〜2023/04/09

世田谷美術館

東京都・世田谷区

ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END

開催中〜2023/04/10

森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)

東京都・港区

本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション

開催中〜2023/04/16

練馬区立美術館

東京都・練馬区

真鍋大度 特別企画展「EXPERIMENT」

2023/04/01〜2023/05/10

清春芸術村・光の美術館

山梨県・北杜市

第59 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap

開催中〜2023/05/14

アーティゾン美術館

東京都・中央区

東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」

開催中〜2023/05/14

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

【特別展】世界遺産登録10周年記念 富士と桜 ―北斎の富士から土牛の桜まで―

開催中〜2023/05/14

山種美術館

東京都・渋谷区

企画展「北斎バードパーク」

開催中〜2023/05/21

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

特別展 大阪市立東洋陶磁美術館 安宅コレクション名品選101

開催中〜2023/05/21

泉屋博古館東京

東京都・港区

クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ

開催中〜2023/05/28

東京都現代美術館

東京都・江東区

櫻田精一展 ~気韻生動 刻の流れをみつめて~

開催中〜2023/05/28

森の美術館

千葉県・流山市

モノクロームの表現

2023/04/08〜2023/05/28

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

さくらももこ展

2023/04/22〜2023/05/28

そごう美術館

神奈川県・横浜市

さくらももこ展

2023/04/22〜2023/05/28

そごう美術館

神奈川県・横浜市

フジヤマミュージアム「春の収蔵作品展」

開催中〜2023/05/28

フジヤマミュージアム

山梨県・富士吉田市

NACT View 02 築地のはら ねずみっけ

開催中〜2023/05/29

国立新美術館

東京都・港区

美しい人びと 松園からローランサンまで

開催中〜2023/06/04

松岡美術館

東京都・港区

へザウィック・スタジオ展:共感する建築

開催中〜2023/06/04

森美術館

東京都・港区

深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ

開催中〜2023/06/04

東京都写真美術館

東京都・目黒区

アルフォンス・ ミュシャ展

2023/04/07〜2023/06/04

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

特別展「明治美術狂想曲」

2023/04/08〜2023/06/04

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

東京都・千代田区

憧憬の地 ブルターニュ  ―モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷

開催中〜2023/06/11

国立西洋美術館

東京都・台東区

ブルターニュの光と風 ー画家たちを魅了したフランス<辺境の地>

2023/03/25〜2023/06/11

SOMPO美術館

東京都・新宿区

細川護熙 美の世界

2023/04/08〜2023/06/11

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

山梨県立美術館コレクションREMIX

2023/04/22〜2023/06/11

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

大阪の日本画

2023/04/15〜2023/06/11

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

ルーヴル美術館展 愛を描く

開催中〜2023/06/12

国立新美術館

東京都・港区

さばかれえぬ私へ Tokyo Contemporary Art Award 2021-2023 受賞記念展

開催中〜2023/06/18

東京都現代美術館

東京都・江東区

麻生三郎展 三軒茶屋の頃、そしてベン・シャーン

2023/04/22〜2023/06/18

世田谷美術館

東京都・世田谷区

MOTコレクション 被膜虚実/Breathing めぐる呼吸

開催中〜2023/06/18

ジョルジュ・ルオー ー かたち、色、ハーモニー ー(開館20周年記念展)

2023/04/08〜2023/06/25

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「The Original」

開催中〜2023/06/25

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2

東京都・港区

猪熊弦一郎展『いのくまさん』

2023/04/15〜2023/06/25

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで

開催中〜2023/07/02

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

豊島区立 熊谷守一美術館 特別企画展 熊谷守一美術館38周年展

2023/04/11〜2023/07/02

豊島区立 熊谷守一美術館

東京都・豊島区

特集展示「修験と密教の美術 祖師とみほとけ」

開催中〜2023/07/09

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

霊気を彫り出す彫刻家 大森暁生展

2023/06/03〜2023/07/09

そごう美術館

神奈川県・横浜市

谷川俊太郎 絵本★百貨展

2023/04/12〜2023/07/09

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

【特別展】小林古径 生誕140年記念 小林古径と速水御舟 ―画壇を揺るがした二人の天才―

2023/05/20〜2023/07/17

山種美術館

東京都・渋谷区

恐竜図鑑 ― 失われた世界の想像/創造

2023/05/31〜2023/07/22

上野の森美術館

東京都・台東区

青空は、太陽の反対側にある:原美術館/原六郎コレクション 第1期(春夏季)

2023/03/24〜2023/09/03

原美術館ARC

群馬県・渋川市

石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ

2023/04/29〜2023/09/03

世田谷文学館

東京都・世田谷区

企画展「藤田嗣治 猫と少女の部屋」

開催中〜2023/09/12

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会

2023/04/19〜2023/09/24

森美術館

東京都・港区

美しき時代(ベル・エポック)と異彩のジュエリー

2023/04/29〜2023/11/26

箱根ラリック美術館

神奈川県・箱根町

Exhibitions

「ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし」


【東京展】2015 年6 月2 日~7 月26 日 東京藝術大学大学美術館にて
【仙台展】2015 年8 月6 日~10 月12 日 宮城県美術館にて
【広島展】2015 年10 月30 日~2016 年1 月3 日 奥田元宋・小由女美術館にて
【葉山展】2016 年1 月10 日~3 月27 日 神奈川県立近代美術館 葉山にて

ヘレン・シャルフベック(1862~1946)はフィンランドを代表する画家であり、19 世紀から20 世紀初頭に活躍し、女性画家としての地位を確立したにも関わらず、日本ではほとんど知られていない。
2012 年に、フィンランドの国立アテネウム美術館で生誕150 年記念の大回顧展が開催され、世界的に改めて注目を集めた。本展覧会では、5 つのセクションから彼女の全貌が紹介されている。

■初期:ヘルシンキ~パリ
 3 歳の時、階段から落ちて左腰に負傷を追い、小学校に通えなくなったシャルフベックは家庭教師による教育を受ける。その家庭教師に彼女の素描の才能を見いだされ、11 歳でフィンランド芸術協会の素描学校に異例の入学を許される。学校では毎年優秀賞をとり、その才能を現す。15 歳でパリ留学の経験のあるアドルフ・ベッカーの画塾に籍を置き、パリの教育モデルに沿った素描の基礎、記憶に基づいて素早く描くオイルスケッチ、尊敬する作家作品の模倣などの指導を受ける。18 歳の時の作品「雪の中の負傷兵」(1880)はフィンランド芸術協会に高く評価され、パリ留学の奨学金を手にする。パリでは、画塾アカデミー・コラロッシで学び、” レアリスム” に影響を受ける。
 1883 年の夏、彼女はブルターニュ地方のポン= タヴェンへ友人達と休日を過ごす。当時は貧しい子どもたちを至る所で目にし、画家にとっては風景のように当たり前のモデル対象であった。同地で描かれた作品「鉢を持つ少女」(1881)、「妹に食事を与える少年」(1881)では、彼女の子供たちへのまなざしは暖かく、深刻さだけでなく、子供本来の微笑ましい姿を捉え描いている。
 2 度訪れた英国の陽光溢れるセント・アイヴスでは、自然主義的な明るい手法を取得する。最初の滞在中、英国人画家との婚約と失恋を経験し痛手を受ける。2 度目の滞在時の作品「快復期」(1888)はパリのサロンに出品、1889 年の万国博覧会で銅メダルを獲得する。絵の中の少女が見つめる小枝に芽吹いた若葉は婚約破棄からの立ち直りを示唆する” 精神的な自画像” という見方もある。

■フランス美術の影響と消化
 パリでアカデミックな教育を受け、最新のアートシーンから刺激を受けたシャルフベックは、1890 年にフィンランドに帰国し、素描学校の教師となる。病弱のため、1902 年には教師を退職し母と空気のきれいなヒュヴィンガーに移住。以後15 年間、この町を出ることなく、町の人々をモデルに制作を続け、フランスや英国の美術雑誌から最新の情報を得るようになる。この療養期間はパリ留学の成果を熟成させ、作品にも反映される。マネやホイッスラーの影響により、表現は抽象化が色濃くなる。印象派的な光と鮮やかな色合いは消え、より内面的な表現が現れる。モデルや背景の細かなタッチを省略した「菩提樹の下で」(1911)「赤いリンゴ」(1915)はセザンヌからの、「カリフォルニアから来た少女Ⅰ」(1919)からは、ピカソやモディリアニの影響を感じさせる。中でも「お針子(働く女性)」(1905)は、線も色もシンプル化され、モデルの女性や背景の無地の壁からはディテールを何も語らせていないにも関わらず、深い静寂と女性のかすかな息づかいのような空気感を醸し出し、深く内面的なものを感じさせられる。シャルフベックがもっとも影響を受けたホイッスラーの「灰色と黒のアレンジメントNo.1(母の肖像)」が大きなヒントになっていると言われている。
 この時期、画商のヨースタ・ステンマンが作品を買い取り、1917 年には159 点の作品を紹介する初めての個展を開催する。当時、パリで話題のキュビストのマリー・ローランサンの情報もステンマンによってもたらされる。シャルフベック作品にはしばしばファッショナブルで、モード雑誌の女性を思わせるような肖像画が見られる。中でも、「コスチューム画Ⅱ」(1909)はマリーローランサンの「読書する女」の刺激を受けていると言われている。反対に、後年のローランサンの「花環の乙女」からは、シャルフベックの「サーカスの少女」(1916)を思い浮かぶとも……。同時代を生きた女性作家が互いの存在に刺激され合っていたのかもしれない。
 この時期に、エイナル・ロイターとの出会いもあった。彼は画家であり、シャルフベックの熱烈なファンだった。後に彼女は彼に恋愛感情を持ち、大きな痛手を伴う失恋の対象となる。その後も二人の友情は維持され、ロイターはシャルフベック芸術の最大の理解者として、彼女の評伝や作品カタログ(未出版)など貴重な研究資料を残している。

■肖像画と自画像
 シャルフベックは最初の自画像「16 歳の自画像」から、生涯に40 点ほどの自画像を描いている。
それらの作品を追って行くと、描かれた時期に影響を受けていた美術様式や技法が見てとれ、画家としての自己イメージや精神状態も伺われる。
 パリ留学中の1884 年に描かれた「自画像」(1884~1885)は当時の流行中だった印象派風で、顔の正確な描写と色調がルパージュの、洋服の強い質感はマネの影響があると言われている。1895 年に描かれた「自画像」(1895)は、色合いも筆のタッチも柔らかく、印象派の影響から抜け出しつつある。フィンランド芸術協会より依頼され、1915 年に描かれた「黒い背景の自画像」(1915)では、今までの自画像に見られなかった女性らしさを前面に出す様な工夫が見られる。例えば、過去の自画像では洋服の襟は詰め襟のように高く、性別を押し隠しているようだった。本作では、ほお紅と口紅で顔をあでやかに見せ、長い首から肩がなだらかに落ち、首元のブローチにも女性らしいあしらいが施されている。芸術の世界でも女性の位置があやふやだった時代に、ようやく女性画家としての地位を確実なものにした自信が、くっとあげたあごの線に溢れている。
 シャルフベックは、モデルの持つ個性に刺激を受け創作意欲をかきたてた。そのため、多くの肖像画を描いている。ヒュフィンガーでの療養生活の中で、シャルフベックは身近かな人たちをデルに肖像画を描いていた。身の回りの世話をしてくれたマキネン家の息子で薪や水を運んでくれるお気に入りの少年を描いた「木こりⅠ」(1910-1911)や、娘のマルタは「砂浜の少女」(1912)に描かれている。この時期に描かれた肖像画はパリのモード雑誌の影響からか、色彩も洒落ていてファッショナブルな構図が多い。「エアムール家」(1915~1916)の少しうつむいた2 人の女性のを斜め横からの構図で目線を外し、先端の帽子と深紅の口紅を強調する構図、「アクトーネから来た少女Ⅱ」(1927)の長い首からデコルテへの美しいラインを強調し、白とブルーの大胆な幾何学模様のドレスを斜めのラインで伸びやかに見せるポーズ、「占い師(黄色いドレスの女性)」(1926)の目を伏せた表情と黒い帽子と洋服の柄に神秘さをたたえた存在感は、技法より大胆で意識的な構図から確固たる表現を感じさせ、絵画の域を超えたファッション性とデザイン性を強く感じる。

■自作の再解釈とエル・グレコの発見
 母を亡したシャルベクは、1925 年にリゾート地タンミサーリに移り住む。独り身になり、気兼ねなく制作に集中できるはずだったが、創作の刺激になるモデルの欠乏と、自らの体力の低下から、創造力が弱まり制作が遅くなる。1927 年、ストックフォルムでの個展を企画していた画商のステンマンは彼女の創作意欲を刺激するために、「お針子」(1905)の再解釈制作を提案する。この提案に興味を示し「パン屋」(1887)、「岩陰に落ちる陰」(1883)の再解釈作品を手がける。「岩陰に落ちる陰<緑のベンチ>」(1927~1928)は、絵筆のタッチが極端に省略化された作品になっている。木の幹のザラザラとした手触り感や、画面の左上の細かに張り出した小枝の陰影、鋭さがなくなり、弱々しいひと筆で描かれた様な線になっていて、オリジナルのリアリティーからは遠ざかっている。再解釈の「パン屋Ⅱ」(1941)をオリジナル「パン屋」(1887)と見比べると、その変化は分かりやすい。
「パン屋Ⅱ」では全体が白くやわらかな光線に覆われ、細かなデォテールはここでも消え去っている。抽象化とはまた様相が違う。見方によっては同じ絵には見えないほど。音楽で言い換えれば、クラシックをジャズにアレンジしたような、基本のメロディラインを気をつけていないと聞き逃してしまうような感じを受ける。その変化に最初は戸惑い、老いからの焦点のかすみなのかと思わせる。だが、不思議な事に少し時間をおくと画家にもたらされた時間による変化が、衰えでだけはなく、体力や気力を支えとする技術に頼らなくとも、観る者に深く語りかける事が可能になる……それが熟成かと思わせる。単純化された画面が醸し出す不思議な静けさは、じっくりとモノと向き合うまなざしと姿勢を思い出させてくれる。
 この時期のシャルフベックは自作の再解釈だけでなく、雑誌や画集からも情報収集をし、過去の巨匠たちからの刺激を受け続けていた。中でも、セザンヌやピカソによって再評価されていたエル・グレコへの注目は、彼女の創作意欲をかき立てた。尊敬するセザンヌがかつてエル・グレコを手本にした事もあり、若い頃からグレコ・スタイルを意識し、自画像にもその影響は反映されていた。晩年の彼女はエル・グレコの再解釈作品を多く手がけている。本展でも「横顔の聖母<マグダラのマリアの横顔>」(1943)、「慈悲の聖母(1941)、「エル・グレコの自画像」(1944)、「天使断片」(1928)などが観られる。

■死に向かって:自画像と静物画
 1944 年、82 歳になったシャスルベックは画商のステンマンの勧めで療養ホテルに移り住む。終の住処で、窓からの風景、ホテルの従業員、静物画、そして自画像も20 点以上制作している。ひたすら自分の顔を鏡に映し続け、刻々と忍び寄る死と向き合い描いた。1945 年に描かれた「正面を向いた自画像Ⅰ」(1945)では顔の輪郭や、目、鼻、口が木炭で描いたようなぼかした線で描かれている。同年作の「自画像、光と影」(1945)では画面全体はグレーの色で描かれていて、背景と自画像の区別がつきにくくなっている。まるで、今にもその存在がとけて消えてしまうような自分の危うい存在感を描いているようだ。もう1 枚の「黒とピンクの自画像」(1945)では、目、鼻、口はその形を失い、深い陰影がそれらの位置を示していて、骸骨の様に見える。日一日と肉体が朽ち果てていく老いと向き合う、強い姿勢を感じさせる作品だ。静物画「かぼちゃ」(1937)「黒いりんごのある静物」(1944)では、並んだ野菜や果物の瑞々しさを健康的な色彩で表現しつつ、一つだけ腐りきった野菜や果物を真っ黒に描いて配置されている。確実に近づいている、しかしその正体がつかめない死を、すべての色を含んだ黒という色で表現している。

■展覧会の後先…
 新緑深まる季節、私鉄沿線の駅……大きな瞳をこちらに向ける女性のまなざしに、おもわず足を止めた。それが、ヘレン・シャルフベックとの初めての出逢いだった。
 上半分に印象的なまなざしのその画家のモノクローム写真、下には白いシーツのくるまれ、小枝を見つめるあどけない少女の油絵を配置したポスターだった。直感的に、この展覧会には行こうと脳がささやいた。
 女性が美学校で学ぶことさえ許されていなかった時代に、シャルフベックは結婚・出産を伴う依存の道ではなく、絵画を通して、その恵まれた才能の種を育て、熟成、定着させる人生を歩んだ。それは、自分と常に向き合い、内へ内へと掘り下げ進化し続ける作業の連続だったのではないか。
 彼女の深いまなざしを通して描かれた作品は、彼女の美術的技法の変遷とともに、私たちにその生涯の物語を語りかけているだった。

by 木の実

2015年7月23日