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津和野町立安野光雅美術館コレクション 安野先生のふしぎな学校

開催中〜2025/11/16

茨城県近代美術館

茨城県・水戸市

谷岡靖則 退任記念展 うしなわれしもの・とき、そして

開催中〜2025/11/16

東京藝術大学大学美術館

東京都・台東区

宋元仏画―蒼海(うみ)を越えたほとけたち

開催中〜2025/11/16

京都国立博物館

京都府・京都市

中国絵画への憧憬―楊文驄「江山孤亭図」と江戸時代の文人たち

開催中〜2025/11/16

遠山記念館

埼玉県・川島町

開館30周年記念 MOTコレクション 9つのプロフィール 1935→2025

開催中〜2025/11/24

東京都現代美術館

東京都・江東区

開館20周年特別展 円山応挙―革新者から巨匠へ

開催中〜2025/11/24

三井記念美術館

東京都・中央区

移転開館5周年記念 ルーシー・リー展—東西をつなぐ優美のうつわ—

開催中〜2025/11/24

国立工芸館

石川県・金沢市

岡山芸術交流2025―The Parks of Aomame 青豆の公園

開催中〜2025/11/24

芸術祭/岡山市中心部

岡山県・岡山市

北斎をめぐる美人画の系譜〜名手たちとの競演〜

開催中〜2025/11/24

すみだ北斎美術館

東京都・墨田区

生誕100年 山下清展-百年目の大回想

開催中〜2025/11/24

山梨県立美術館

山梨県・甲府市

企画展「ゴッホ・インパクト—生成する情熱」

開催中〜2025/11/30

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー

開催中〜2025/11/30

ポーラ美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

HOKUSAI−ぜんぶ、北斎のしわざでした。展

開催中〜2025/11/30

CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京・京橋TODA BUILDING 6階)

東京都・中央区

秋季展 重要文化財「黒き猫」修理完成記念「永青文庫 近代日本画の粋―あの猫が帰って来る!―」

開催中〜2025/11/30

永青文庫

東京都・文京区

没後35年 北澤映月展

開催中〜2025/11/30

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

【特別展】 日本画聖地巡礼 2025 −速水御舟、東山魁夷から山口晃まで−

開催中〜2025/11/30

山種美術館

東京都・渋谷区

国際芸術祭「あいち 2025」

開催中〜2025/11/30

芸術祭/愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか

愛知県・名古屋市、瀬戸市

取手収蔵棟竣工記念・取手館開館30周年記念 藝大取手コレクション展 2025

2025/11/13〜2025/11/30

東京藝術大学大学美術館 取手館

茨城県・取手市

特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」

開催中〜2025/11/30

東京国立博物館

東京都・台東区

法然と極楽浄土

開催中〜2025/11/30

九州国立博物館

福岡県・太宰府市

中村正義「視線のゆくえ」

開催中〜2025/11/30

中村正義の美術館(開館日:金・土・日・祝日)

神奈川県・川崎市

総合開館30周年記念「ペドロ・コスタ インナーヴィジョンズ」

開催中〜2025/12/07

東京都写真美術館

東京都・目黒区

なんという目だ! ー北斎にはこう見えるー

開催中〜2025/12/07

北斎館

長野県・小布施町

フジタからはじまる猫の絵画史 藤田嗣治と洋画家たちの猫

開催中〜2025/12/07

府中市美術館

東京都・府中市

在原業平生誕1200年記念 特別展 伊勢物語 —美術が映す王朝の恋とうた

開催中〜2025/12/07

根津美術館

東京都・港区

時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010

開催中〜2025/12/08

国立新美術館

東京都・港区

ムットーニ セレクション ―2024年度寄託作品を含むムットーニ特集展示―

2025/11/23〜2025/12/14

八王子市夢美術館

東京都・八王子市

ウィーン・スタイル ビーダーマイヤーと世紀末 生活のデザイン、ウィーン・劇場都市便り

開催中〜2025/12/17

パナソニック汐留美術館

東京都・港区

鈴木のりたけ「大ピンチ展!」

開催中〜2025/12/20

PLAY! MUSEUM

東京都・立川市

ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢

開催中〜2025/12/21

東京都美術館

東京都・台東区

「OPEN SITE 10」Part 2

2025/11/22〜2025/12/21

トーキョーアーツアンドスペース本郷

東京都・文京区

ゴースト 見えないものが見えるとき

開催中〜2025/12/21

アーツ前橋 ギャラリー

群馬県・前橋市

ライシテからみるフランス美術 信仰の光と理性の光

開催中〜2025/12/21

宇都宮美術館

栃木県・宇都宮市

熱気の向こうの白と黒 -ビッグ錠と風間サチコ異食なふたり

開催中〜2025/12/21

藤沢市アートスペース

神奈川県・藤沢市

特集展示「阿弥陀仏 ―おわす・みちびく・あらわれる―」

開催中〜2025/12/28

半蔵門ミュージアム

東京都・千代田区

ACN ラムセス大王展 ファラオたちの黄金

開催中〜2026/01/04

ラムセス・ミュージアム at CREVIA BASE Tokyo(豊洲)

東京都・江東区

ランス美術館コレクション 藤田嗣治からレオナール・フジタへ 祈りへの

開催中〜2026/01/04

軽井沢安東美術館

長野県・軽井沢町

総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol. 22

開催中〜2026/01/07

東京都写真美術館

東京都・目黒区

トロイメライ

開催中〜2026/01/12

原美術館ARC

群馬県・渋川市

野口哲哉 鎧を着て見る夢 –ARMOURED DREAMER–

開催中〜2026/01/12

彫刻の森美術館

神奈川県・足柄下郡箱根町

30周年記念展「ALL OF EVANGELION」

2025/11/14〜2026/01/12

東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)

東京都・港区

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山城知佳子×志賀理江子 漂着

開催中〜2026/01/12

アーティゾン美術館

東京都・中央区

Perfume COSTUME MUSEUM FINAL EDITION

2025/11/15〜2026/01/12

そごう美術館

神奈川県・横浜市

織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ

2025/12/02〜2026/01/18

ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)

東京都・渋谷区

小林徳三郎

2025/11/22〜2026/01/18

東京ステーションギャラリー

東京都・千代田区

しあわせのぬいぐるみパーク展

開催中〜2026/01/18

世界の民俗人形博物館・須坂版画美術館(須坂アートパーク内)

長野県・須坂市

オランダ×千葉 撮る、物語る ーサラ・ファン・ライ&ダヴィット・ファン・デル・レーウ×清水裕貴

2025/11/15〜2026/01/18

千葉県立美術館

千葉県・千葉市

アール・デコとモード 京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に

開催中〜2026/01/25

三菱一号館美術館

東京都・千代田区

磯崎新:群島としての建築

開催中〜2026/01/25

水戸芸術館 現代美術ギャラリー

茨城県・水戸市

総合開館30周年記念「作家の現在 これまでとこれから」

開催中〜2026/01/25

東京都写真美術館

東京都・目黒区

つぐ mina perhonen

2025/11/22〜2026/02/01

世田谷美術館

東京都・世田谷区

日本の色 染司よしおか 吉岡更紗の仕事

2025/11/29〜2026/02/01

三鷹市美術ギャラリー

東京都・三鷹市

国宝 熊野御幸記と藤原定家の書 ―茶道具・かるた・歌仙絵とともに ―

2025/12/06〜2026/02/01

三井記念美術館

東京都・中央区

アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦

2025/12/16〜2026/02/08

東京国立近代美術館

東京都・千代田区

開館50周年記念「わたしを呼ぶ《アート》 古代エジプトの棺からシャガールまで」

開催中〜2026/02/08

松岡美術館

東京都・港区

特集展「国立劇場の名品展 鏑木清方、小倉遊亀、東山魁夷、髙山辰雄、加山又造…」

開催中〜2026/02/15

平塚市美術館

神奈川県・平塚市

オルセー美術館所蔵 印象派—室内をめぐる物語

開催中〜2026/02/15

国立西洋美術館

東京都・台東区

マチュピチュ展

2025/11/22〜2026/03/01

森アーツセンターギャラリー

東京都・港区

移転開館5周年記念 令和6年能登半島地震復興祈念 工芸と天気展 −石川県ゆかりの作家を中心に−

2025/12/09〜2026/03/01

国立工芸館

石川県・金沢市

マチュピチュ展

2025/11/22〜2026/03/01

森アーツセンターギャラリー

東京都・港区

いつもとなりにいるから 日本と韓国、アートの80年

2025/12/06〜2026/03/22

横浜美術館

神奈川県・横浜市

横浜美術館コレクション展「子どもも、おとなも! つくるわたしが、つくられる」

2025/12/06〜2026/03/22

横浜美術館

神奈川県・横浜市

森重昭と被爆米兵調査-戦争が終わるということ

開催中〜2026/03/31

中央大学 法と正義の資料館

東京都・八王子市

ソル・ルウィット オープン・ストラクチャー

2025/12/25〜2026/04/02

東京都現代美術館

東京都・江東区

Exhibitions

「ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし」


【東京展】2015 年6 月2 日~7 月26 日 東京藝術大学大学美術館にて
【仙台展】2015 年8 月6 日~10 月12 日 宮城県美術館にて
【広島展】2015 年10 月30 日~2016 年1 月3 日 奥田元宋・小由女美術館にて
【葉山展】2016 年1 月10 日~3 月27 日 神奈川県立近代美術館 葉山にて

ヘレン・シャルフベック(1862~1946)はフィンランドを代表する画家であり、19 世紀から20 世紀初頭に活躍し、女性画家としての地位を確立したにも関わらず、日本ではほとんど知られていない。
2012 年に、フィンランドの国立アテネウム美術館で生誕150 年記念の大回顧展が開催され、世界的に改めて注目を集めた。本展覧会では、5 つのセクションから彼女の全貌が紹介されている。

■初期:ヘルシンキ~パリ
 3 歳の時、階段から落ちて左腰に負傷を追い、小学校に通えなくなったシャルフベックは家庭教師による教育を受ける。その家庭教師に彼女の素描の才能を見いだされ、11 歳でフィンランド芸術協会の素描学校に異例の入学を許される。学校では毎年優秀賞をとり、その才能を現す。15 歳でパリ留学の経験のあるアドルフ・ベッカーの画塾に籍を置き、パリの教育モデルに沿った素描の基礎、記憶に基づいて素早く描くオイルスケッチ、尊敬する作家作品の模倣などの指導を受ける。18 歳の時の作品「雪の中の負傷兵」(1880)はフィンランド芸術協会に高く評価され、パリ留学の奨学金を手にする。パリでは、画塾アカデミー・コラロッシで学び、” レアリスム” に影響を受ける。
 1883 年の夏、彼女はブルターニュ地方のポン= タヴェンへ友人達と休日を過ごす。当時は貧しい子どもたちを至る所で目にし、画家にとっては風景のように当たり前のモデル対象であった。同地で描かれた作品「鉢を持つ少女」(1881)、「妹に食事を与える少年」(1881)では、彼女の子供たちへのまなざしは暖かく、深刻さだけでなく、子供本来の微笑ましい姿を捉え描いている。
 2 度訪れた英国の陽光溢れるセント・アイヴスでは、自然主義的な明るい手法を取得する。最初の滞在中、英国人画家との婚約と失恋を経験し痛手を受ける。2 度目の滞在時の作品「快復期」(1888)はパリのサロンに出品、1889 年の万国博覧会で銅メダルを獲得する。絵の中の少女が見つめる小枝に芽吹いた若葉は婚約破棄からの立ち直りを示唆する” 精神的な自画像” という見方もある。

■フランス美術の影響と消化
 パリでアカデミックな教育を受け、最新のアートシーンから刺激を受けたシャルフベックは、1890 年にフィンランドに帰国し、素描学校の教師となる。病弱のため、1902 年には教師を退職し母と空気のきれいなヒュヴィンガーに移住。以後15 年間、この町を出ることなく、町の人々をモデルに制作を続け、フランスや英国の美術雑誌から最新の情報を得るようになる。この療養期間はパリ留学の成果を熟成させ、作品にも反映される。マネやホイッスラーの影響により、表現は抽象化が色濃くなる。印象派的な光と鮮やかな色合いは消え、より内面的な表現が現れる。モデルや背景の細かなタッチを省略した「菩提樹の下で」(1911)「赤いリンゴ」(1915)はセザンヌからの、「カリフォルニアから来た少女Ⅰ」(1919)からは、ピカソやモディリアニの影響を感じさせる。中でも「お針子(働く女性)」(1905)は、線も色もシンプル化され、モデルの女性や背景の無地の壁からはディテールを何も語らせていないにも関わらず、深い静寂と女性のかすかな息づかいのような空気感を醸し出し、深く内面的なものを感じさせられる。シャルフベックがもっとも影響を受けたホイッスラーの「灰色と黒のアレンジメントNo.1(母の肖像)」が大きなヒントになっていると言われている。
 この時期、画商のヨースタ・ステンマンが作品を買い取り、1917 年には159 点の作品を紹介する初めての個展を開催する。当時、パリで話題のキュビストのマリー・ローランサンの情報もステンマンによってもたらされる。シャルフベック作品にはしばしばファッショナブルで、モード雑誌の女性を思わせるような肖像画が見られる。中でも、「コスチューム画Ⅱ」(1909)はマリーローランサンの「読書する女」の刺激を受けていると言われている。反対に、後年のローランサンの「花環の乙女」からは、シャルフベックの「サーカスの少女」(1916)を思い浮かぶとも……。同時代を生きた女性作家が互いの存在に刺激され合っていたのかもしれない。
 この時期に、エイナル・ロイターとの出会いもあった。彼は画家であり、シャルフベックの熱烈なファンだった。後に彼女は彼に恋愛感情を持ち、大きな痛手を伴う失恋の対象となる。その後も二人の友情は維持され、ロイターはシャルフベック芸術の最大の理解者として、彼女の評伝や作品カタログ(未出版)など貴重な研究資料を残している。

■肖像画と自画像
 シャルフベックは最初の自画像「16 歳の自画像」から、生涯に40 点ほどの自画像を描いている。
それらの作品を追って行くと、描かれた時期に影響を受けていた美術様式や技法が見てとれ、画家としての自己イメージや精神状態も伺われる。
 パリ留学中の1884 年に描かれた「自画像」(1884~1885)は当時の流行中だった印象派風で、顔の正確な描写と色調がルパージュの、洋服の強い質感はマネの影響があると言われている。1895 年に描かれた「自画像」(1895)は、色合いも筆のタッチも柔らかく、印象派の影響から抜け出しつつある。フィンランド芸術協会より依頼され、1915 年に描かれた「黒い背景の自画像」(1915)では、今までの自画像に見られなかった女性らしさを前面に出す様な工夫が見られる。例えば、過去の自画像では洋服の襟は詰め襟のように高く、性別を押し隠しているようだった。本作では、ほお紅と口紅で顔をあでやかに見せ、長い首から肩がなだらかに落ち、首元のブローチにも女性らしいあしらいが施されている。芸術の世界でも女性の位置があやふやだった時代に、ようやく女性画家としての地位を確実なものにした自信が、くっとあげたあごの線に溢れている。
 シャルフベックは、モデルの持つ個性に刺激を受け創作意欲をかきたてた。そのため、多くの肖像画を描いている。ヒュフィンガーでの療養生活の中で、シャルフベックは身近かな人たちをデルに肖像画を描いていた。身の回りの世話をしてくれたマキネン家の息子で薪や水を運んでくれるお気に入りの少年を描いた「木こりⅠ」(1910-1911)や、娘のマルタは「砂浜の少女」(1912)に描かれている。この時期に描かれた肖像画はパリのモード雑誌の影響からか、色彩も洒落ていてファッショナブルな構図が多い。「エアムール家」(1915~1916)の少しうつむいた2 人の女性のを斜め横からの構図で目線を外し、先端の帽子と深紅の口紅を強調する構図、「アクトーネから来た少女Ⅱ」(1927)の長い首からデコルテへの美しいラインを強調し、白とブルーの大胆な幾何学模様のドレスを斜めのラインで伸びやかに見せるポーズ、「占い師(黄色いドレスの女性)」(1926)の目を伏せた表情と黒い帽子と洋服の柄に神秘さをたたえた存在感は、技法より大胆で意識的な構図から確固たる表現を感じさせ、絵画の域を超えたファッション性とデザイン性を強く感じる。

■自作の再解釈とエル・グレコの発見
 母を亡したシャルベクは、1925 年にリゾート地タンミサーリに移り住む。独り身になり、気兼ねなく制作に集中できるはずだったが、創作の刺激になるモデルの欠乏と、自らの体力の低下から、創造力が弱まり制作が遅くなる。1927 年、ストックフォルムでの個展を企画していた画商のステンマンは彼女の創作意欲を刺激するために、「お針子」(1905)の再解釈制作を提案する。この提案に興味を示し「パン屋」(1887)、「岩陰に落ちる陰」(1883)の再解釈作品を手がける。「岩陰に落ちる陰<緑のベンチ>」(1927~1928)は、絵筆のタッチが極端に省略化された作品になっている。木の幹のザラザラとした手触り感や、画面の左上の細かに張り出した小枝の陰影、鋭さがなくなり、弱々しいひと筆で描かれた様な線になっていて、オリジナルのリアリティーからは遠ざかっている。再解釈の「パン屋Ⅱ」(1941)をオリジナル「パン屋」(1887)と見比べると、その変化は分かりやすい。
「パン屋Ⅱ」では全体が白くやわらかな光線に覆われ、細かなデォテールはここでも消え去っている。抽象化とはまた様相が違う。見方によっては同じ絵には見えないほど。音楽で言い換えれば、クラシックをジャズにアレンジしたような、基本のメロディラインを気をつけていないと聞き逃してしまうような感じを受ける。その変化に最初は戸惑い、老いからの焦点のかすみなのかと思わせる。だが、不思議な事に少し時間をおくと画家にもたらされた時間による変化が、衰えでだけはなく、体力や気力を支えとする技術に頼らなくとも、観る者に深く語りかける事が可能になる……それが熟成かと思わせる。単純化された画面が醸し出す不思議な静けさは、じっくりとモノと向き合うまなざしと姿勢を思い出させてくれる。
 この時期のシャルフベックは自作の再解釈だけでなく、雑誌や画集からも情報収集をし、過去の巨匠たちからの刺激を受け続けていた。中でも、セザンヌやピカソによって再評価されていたエル・グレコへの注目は、彼女の創作意欲をかき立てた。尊敬するセザンヌがかつてエル・グレコを手本にした事もあり、若い頃からグレコ・スタイルを意識し、自画像にもその影響は反映されていた。晩年の彼女はエル・グレコの再解釈作品を多く手がけている。本展でも「横顔の聖母<マグダラのマリアの横顔>」(1943)、「慈悲の聖母(1941)、「エル・グレコの自画像」(1944)、「天使断片」(1928)などが観られる。

■死に向かって:自画像と静物画
 1944 年、82 歳になったシャスルベックは画商のステンマンの勧めで療養ホテルに移り住む。終の住処で、窓からの風景、ホテルの従業員、静物画、そして自画像も20 点以上制作している。ひたすら自分の顔を鏡に映し続け、刻々と忍び寄る死と向き合い描いた。1945 年に描かれた「正面を向いた自画像Ⅰ」(1945)では顔の輪郭や、目、鼻、口が木炭で描いたようなぼかした線で描かれている。同年作の「自画像、光と影」(1945)では画面全体はグレーの色で描かれていて、背景と自画像の区別がつきにくくなっている。まるで、今にもその存在がとけて消えてしまうような自分の危うい存在感を描いているようだ。もう1 枚の「黒とピンクの自画像」(1945)では、目、鼻、口はその形を失い、深い陰影がそれらの位置を示していて、骸骨の様に見える。日一日と肉体が朽ち果てていく老いと向き合う、強い姿勢を感じさせる作品だ。静物画「かぼちゃ」(1937)「黒いりんごのある静物」(1944)では、並んだ野菜や果物の瑞々しさを健康的な色彩で表現しつつ、一つだけ腐りきった野菜や果物を真っ黒に描いて配置されている。確実に近づいている、しかしその正体がつかめない死を、すべての色を含んだ黒という色で表現している。

■展覧会の後先…
 新緑深まる季節、私鉄沿線の駅……大きな瞳をこちらに向ける女性のまなざしに、おもわず足を止めた。それが、ヘレン・シャルフベックとの初めての出逢いだった。
 上半分に印象的なまなざしのその画家のモノクローム写真、下には白いシーツのくるまれ、小枝を見つめるあどけない少女の油絵を配置したポスターだった。直感的に、この展覧会には行こうと脳がささやいた。
 女性が美学校で学ぶことさえ許されていなかった時代に、シャルフベックは結婚・出産を伴う依存の道ではなく、絵画を通して、その恵まれた才能の種を育て、熟成、定着させる人生を歩んだ。それは、自分と常に向き合い、内へ内へと掘り下げ進化し続ける作業の連続だったのではないか。
 彼女の深いまなざしを通して描かれた作品は、彼女の美術的技法の変遷とともに、私たちにその生涯の物語を語りかけているだった。

by 木の実

2015年7月23日