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古典×現代2020 時空を超える日本のアート 
新型コロナ対策を講じて開幕

2020年7月12日

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、3月11日からの開幕を延期していた「古典×現代2020」展が6月24日からスタートした。
 同展は、葛飾北斎、曾我蕭白、仙厓ら江戸時代以前の古美術の作品を、しりあがり寿、横尾忠則、菅木志雄ら8人の現代作家の作品と対になるように組み合わせ、一組ずつ8つの部屋で展示して、造形活動の普遍性を探り、美術作品の時代を超えた魅力を見出す試み。古典作品の選定や監修を古美術研究のオーソリティである國華社が行うなど、これまでにない展覧会として開催が待ち望まれていた。
 とは言えコロナ禍で展覧会を見るためには、好きな時に自由にというわけにはいかず、感染対策として事前にオンラインでの「日時指定観覧券」を、旧会期の購入済チケットや招待券を持っている人も「日時指定券(無料)」を予約してからその招待券を提示して入場しなければならない。指定時間は、開館時間の10時から閉館45分前の17時15分までの15分おきで、おおむね15分で45人ほどが定員のようだ。入場後の観覧に時間制限はない。
 筆者は予約した「日時指定券(無料)」をプリントアウト(スマホの画面のQRコード提示でも可)し、美術館へ向かった。地下鉄乃木坂駅からの地下通路経由で館内方向に進むと、通路途中から赤いテープの誘導があり、エスカレーター手前の係の指示でサーモグラフィーによる体温測定があった。37.5度以上の発熱や風邪の症状があると入場できないが、無事にクリアして館内に。2階にある展覧会場の入口では、指定時間ごとに区切られた青いテープに沿って列に並び、時間が来て誘導され、「日時指定券(無料)」とチケットを提示してようやく入場できた。


 
●「仙厓×菅木志雄」 
 最初の部屋は、江戸時代の禅僧仙厓と美術家の菅木志雄(1944年生まれ)のペア。
 菅は、仙厓の「円相図」に呼応し、1985年に発表した円形の金属板を支えるかのように石や木の枝が置かれた「支空」を再制作し展示。芸術動向「もの派」の作家で、インド哲学の〝空〟の思想に共鳴する菅は、石や木などを空間に置くことで、人とものとの関係を問う作品を発表し続けてきた。「支空」は、あらゆるものは支え合い、関連しあって存在するというテーマが根底にあり、それは禅の思想の〝縁〟に通じる考えにも通じ、その世界観が禅画と響き合っている。そのイメージから制作された新作「縁空」も発表。床に約80個の石で四角が作られ、天井からは3つの石が吊るされた作品。菅は「石ころがどういう風に人間の手を通って人間の身近な形にくっついてくるかを見てほしい。円形だったり、あるいは四角だったり、あるいは三角かもしれないけれど、ある認識でできる形に自然のものがなっていくプロセスを見てもらえればいい」(同展広報動画より)と語っている。

●「円空×棚田康司」
 江戸時代の仏師円空と彫刻家の棚田康司(1968年生まれ)のペアは、一木造の技法をとる点で共通している。円空は、北は北海道、西は奈良までの諸国を巡り,飢餓や災害に苦しむ民衆を慰めるために村々で計12万体もの仏像を彫ったともいわれる。今回展示されている「善財童子立像(自刻像)」や「十一面観音菩薩立像」など、粗削りに彫り上げられた仏像は人々の心に寄り添うかのような素朴な味わいがある。
 一方、繊細でどこか危うげな少年少女像で知られる棚田は、憂いのあるまなざしを向ける新作の「つづら折りの少女 その2」や木目が肌の温かみを感じさせる「箱から出ていく彼女の像」など9点を出品。ともに木に内在する生命力と人間の命が溶け合うようで、心を揺さぶる。

●「仏像×田根剛」
 滋賀県の古刹・西明寺に伝わる鎌倉時代の日光・月光菩薩を光と祈りをテーマにインスタレーションした建築家の田根剛(1979年生まれ)の部屋は神秘的だ。僧侶の祈りの声に満ちた暗い室内に置かれた2体の仏像が、ゆっくりと上下するライトで照らされ、やがて闇に消える。
 田根は、場所や土地の記憶を徹底的にリサーチして建築をつくることで知られ、国内外で活動している。日光・月光菩薩を「遠い時代から仏像に捧げた祈りが時間の中に宿されている」と考え、「仏像という彫刻を光を通してみていただく」(同展広報動画より)との思いで制作したという。日の出から日没までの時の流れが、鎌倉から現代までの時とリンクし、勤行の声とともに体に染みわたるようだ。

●「北斎×しりあがり寿」
 江戸の浮世絵師・葛飾北斎と北斎を敬愛する漫画家のしりあがり寿(1958年生まれ)の部屋は、北斎の代表作「冨嶽三十六景」と、その全作品を現代風に解釈したパロディ作品「ちょっと可笑しなほぼ三十六景」が組になって展示されている。
 北斎の「凱風快晴」の隣に並ぶ、しりあがりの「髭剃り富士」は、左下のもやもやとした部分が髭のようで気になるため、剃ってしまおうというパロディ。しりあがりの作品はほかに、北斎の「常州牛堀」に描かれた船の舳先に男女が立っている「タイタニック」、北斎「江都駿河町三井見世略図」の、凧があがっている空にドローンを飛ばした「ドローン」など。
 また、しりあがりは、「ゆるめ~しょん」と呼ぶ、ゆるいタッチの映像の新作「―葛飾北斎―天地創造from四畳半」を北斎へのオマージュとして制作。北斎が踊りながら代表作を次々に生み出す7分間の作品が上映されている。

●「乾山×皆川明」
 江戸時代の琳派の陶工・尾形乾山と「ミナ ペルホネン」のデザイナー皆川明(1967年生まれ)の部屋からは、花や葉など自然界から模様や形のヒントをみつけてデザインを追い求める二人の共通性が見えてくる。
 紅葉をあしらった「色絵竜田川図向付」の皿をはじめとする乾山焼の展示ケースの上に「ミナ ぺルホネン」のテキスタイルがランプシェードのように吊るされたり、端切れを敷き詰めた上に乾山焼の陶片を置いたり。両者の作品が時空を超えて響き合う。
 皆川は「物を作る時の出発点といいいますか、アイディアをどのようなものとの関係にするかという形、例えば表裏への表現や、そういうことを組み立てていく考え方が、乾山と『ミナ ペルホネン』では近いものがあると思います。アイディアへのアプローチ、物へ到達するまでの考え方をご覧いただくと、その共通性や、時代ごとの背景が見えてくると思います」(広報用動画より)と語っている。

●「刀剣×鴻池朋子」「花鳥画×川内倫子」「蕭白×横尾忠則」
 刀剣と美術家の鴻池朋子(1960年生まれ)の部屋は、平安から江戸時代の刀剣と、鴻池による縫い合わせた牛の皮に神話的なイメージを描く巨大な緞帳が展示されている。天井から吊るされた2枚の緞帳の間を、人の頭を模した銀色の振り子が揺れ、しなやかな皮と硬い鉄という対照的な素材によるダイナミックで緊張感あふれる空気を拡張させている。
 伊藤若冲や司馬江漢ら江戸の絵師の花鳥画と、花や動物などを爽やかにとらえた写真家の川内倫子(1972年生まれ)のペアは、古今の作家の視線が混ざりあうかのよう。
 また、奇想の画家として人気の高い江戸時代の絵師曾我蕭白と画家の横尾忠則(1936年生まれ)の部屋は、横尾が蕭白の「寒山拾得」を下敷きにした新作を発表するなど、横尾の蕭白への思いの深さと、2人に共通する破天荒な画風や強烈な個性に圧倒される。
 出品点数は古典と現代を合わせて約200点。

●松濤美術館での新型コロナ対策  
 筆者がその後向かった渋谷区立松濤美術館の「真珠―海からの贈りもの」展(6月2日~9月22日)では、新型コロナ対策として、入口手前に置かれた「連絡先記入のお願い」と書かれた用紙に、来館日時、氏名、連絡先(電話番号もしくはメールアドレス)、健康状態(良好の場合チェックを入れる)を記入し、受付の回収箱に入れて入館する方法がとられていた。行政機関などの聞き取り調査に協力する際に必要で、用紙は来館日より60日経過後、破棄するとのこと。入館後は、番号が書かれた入館整理札を各自で取り、帰りに出口の回収箱に返却する。札には、マスク着用や1時間程度の鑑賞を目安とすること、作品に対する質問は電話か手紙かメールとし、展示室での職員への直接尋ねることを禁じることなどが書かれていた。

 国立新美術館での新型コロナウイルス感染防止対策下での鑑賞は、人数が制限されていることでゆったりと鑑賞できる利点もあった。一方で、スマホやパソコンを持たない人は足を運びにくい。
 また、松濤美術館のように美術館入館の際に連絡票に記入する館も多いようだが、作品に対する質問を直接職員に尋ねるのではなく、電話か手紙でということになれば、その場で作品に対する疑問を解消して、鑑賞を楽しむことができない。
 今後の柔軟な対応が望まれる。

執筆・写真①②⑩⑪⑫ 西澤美子(文中敬称略)

古典×現代2020
時空を超える日本のアート

6月24日(水)~8月24日(月) ※火曜休館
国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)
料:一般1,700円、大学生1,100円、高校生700円
詳細:https://kotengendai.exhibit.jp

写真キャプション
① サーモグラフィーによる検温。乃木坂駅6番出口(美術館直結)からの入館の際に

➁2階の展覧会場入口には15分ごとに仕切られたテープが張られ、入場者は該当の列に並んで予約時間まで待つ

③ 「仙厓×菅木志雄」の会場風景 撮影:上野則宏
奥が仙厓「円相図」、手前が菅の「支空」

④ 「仙厓×菅木志雄」の会場風景 撮影:上野則宏
新作の「縁空」

⑤ 「円空×棚田康司」の会場風景 撮影:上野則宏

⑥ 「仏像×田根剛」の会場風景 「月光菩薩立像」(左)、「日光菩薩立像」(右) 撮影:上野則宏

⑦ 「北斎×しりあがり寿」の会場風景 撮影:上野則宏
葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」(左)と、しりあがり寿「ちょっと可笑しなほぼ三十六景 髭剃り富士」

⑧ しりあがり寿「―葛飾北斎―天地創造 from 四畳半」 2020 年 作家蔵  撮影:上野則宏

⑨ 「乾山×皆川明」の会場風景  撮影:上野則宏  

⑩ 「刀剣×鴻池朋子」の会場風景 

⑪ ⑫ 渋谷区立松濤美術館「真珠」展の入り口に置かれた連絡先記入の用紙

●「真珠―海からの贈りもの」展 
詳細:https://shoto-museum.jp/exhibitions/188pearls/