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21st DOMANI・明日展
文化庁新進芸術家海外研修制度の成果
平成の終わりに

2019年3月3日

 第21回「DOMANI・明日展」が、東京・六本木の国立新美術館で3月3日まで開催されている。文化庁の「新進芸術家海外研修制度」で留学した作家の成果発表の場として1998年から行われている同展の今回のテーマは「平成の終わりに」。出品作家は、加藤翼、川久保ジョイ、木村悟之、志村信裕、白木麻子、蓮沼昌宏、松原慈、村山悟郎、和田的にゲスト作家の三瀬夏之介の計10人。本展を企画した文化庁の林洋子芸術文化調査官によると、「ゲスト以外の9人は昭和50年代の生まれで、平成期の2000年代以降に作家活動を始め、うち8名は作家として活動を始めた早い時期に東日本大震災を経験し、以後、いったん日本を離れ、母国を客観視した経験を持つ」という。
 林は同展図録中、平成期の現代美術の動きをまとめた中で、平成元年の1989年に広島市現代美術館が開館し、国公立美術館で「現代」を冠した館が誕生したことや、文化庁の新進芸術家海外研修制度において、昭和期は男性が大半で研修先もほぼ西欧と北米に集中していたが、平成期に入ると女性も多くなり、特に2000年以降は東南アジア圏を選ぶ作家が続けて出ていること、また、研修先で絵画や彫刻を作るのではなく、調査やプロジェクトを重視した活動を展開する作家が増えていることなどをあげている。

●原発事故の現状を見続ける―川久保ジョイ
 2016年にイギリスのロンドンで研修した川久保ジョイ(1979年スペイン生まれ)は、研修を機にロンドンで活動している。写真や映像、インスタレーションなど多様なメディアで個人の体験と歴史上のさまざまな出来事を普遍的な問題へと媒介していく作品で知られる。本展では、福島第一原発近くの双葉町や大熊町の土地に一定期間埋めた印画紙を現像した写真を展示した。原発から800mほどの、放射線量が34マイクロシーベルトの場所に3か月間埋められた写真フィルムをプリントした作品(写真②)は、淡い光を放つ明るい色彩の抽象画のようだ。「34マイクロシーベルトというと作業員が1日半か2日で作業できなくなるレベルの放射線量。写真は全く予想しなかった仕上がりで、最初に見た時は衝撃を受けた。きれいだと思ってしまうのと同時に罪悪感を感じる葛藤があった」(川久保)という。この作品の前に立つ人の多くは同じ感覚を味わうのではないだろうか。東日本大震災から8年経ち、当時の記憶が薄れていく中で、現実を見続けることを促される。ほかに、2016年に発表した「迷宮の神」を元にした映像とインスタレーションも展示。

●絵画を生み出すシステムを作品化-村山悟郎
 2015年から17年までオーストリアのウィーンで研修した村山悟郎(1983年東京都生まれ)は、切り株や人の頭部を思わせるふさのついたタピスリー状の作品を発表した。ウィーン滞在時に制作した作品で、麻ひもを竹串のような針を用いて、木のように枝分かれさせながら織って行き、その上から着彩した。こうした発想は、貝殻模様に興味を持ったのがきっかけで生まれたという。「絵は通常、四角いキャンバスに描いていくが、貝殻は成長するにつれて柄が出来てくる。支持体ができ上ってくると絵もでき上がるような、成長するイメージで作品が作れないか」と考えた。絵画を作るシステムを作品化するというコンセプトがあり、今回は、コンピューターで布の織り方をシミュレーションするプログラムを映像で表し、手仕事との差異も示している。

●白磁で心を模索―和田的
 白磁を中心に陶芸作品を制作している和田あきら
(1978年千葉県生まれ)は、今回のメンバーの中では最も早い2007年に、フランスのパリで研修した。しかもかつてはピカソやダリも学んだという銅版画専門の工房で「色を勉強した」。10代の頃から白い物体が作りたいと思い、白に対する憧れに突き動かされて制作してきた。研修先は、心の中にある白が光なのか何なのかを捜し続けている中での選択だったのだろう。和田の制作方法は、白磁の粘土をろくろで整形し、乾燥させた後、彫刻刀で削り出して焼成するというもの。手で彫ることを重視している。彫り出された形が生む陰影は作品の存在感を深め、新たな陶芸表現として注目されている。代表作でもある写真③の「ダイ/台」について和田は、「最初の“ダイ”は死の意味で、次の“台”は台形のように力強く立っている姿を表す生のイメージ。生と死は誰にも平等にあることを真ん中のクロスで象徴的に表した。20代後半の頃からの普遍性のあるテーマを追求した作品」と語る。本展には、2006年から昨年までの白磁や青磁など、所蔵家の協力を得て34点を展示。「昔の作品と改めて向き合うことで、その時に何を感じ、何を表現したかったのか、平成の終わりに振り返る良い機会になると思う。今後はゆらぎのある作品を作っていきたい」と述べている。

●浮力の増す部屋―白木麻子
 椅子や机や布などを用いて物質や人間について考察するインスタレーションで知られる白木麻子(1979年東京都生まれ)は2015年から1年間ドイツのベルリンで研修した。
 本展では、〝浮力の増す部屋〟をテーマに5作品をインスタレーションしている。「会場の天井が高く、水槽の中のように圧迫感がある」ことや「重力に抗う意味として」浮力という言葉を用いた。「常に受けざるを得ない重力のようなものに彫刻として抗えるか、作品は身体に成り得るかという不可能性のようなものにアプローチ」し続けている。今回は「自分が少し浮上することで、自分以外の存在を俯瞰できるような視点が与えられる作品ができれば」との思いで構成した。写真の「Your window is my mirror」はヨーロッパの窓や鏡、自らが昔、浄瑠璃寺で見た仏像の記憶などをベースとし、鏡のある枠とない枠を交互に並べた新作。「自分と何か別のものとの境界線がぼやけていく」感覚を呼び起こす。

●日本の自画像―三瀬夏之介
 ゲスト作家の三瀬夏之介(1973年奈良県生まれ)は、五島記念文化賞の受賞で2007年にイタリアのフィレンツェで研修した。2009年に東北芸術工科大学に赴任したのを機に、活動拠点を関西から山形に移し、現在に至っている。2011年には山形で東日本大震災を経験。本展でも、展示室に入ってすぐの頭上に吊るされた、太平洋側を上にした金箔の日本列島には、東京と福島第一原発を中心とした同心円が、震災直後の避難指示区域を示すように刻まれ、常に「日本とは」、「日本画とは何か」を問い続けてきた三瀬の日本像を浮かび上がらせる(写真⑥)。天井が8㍍ある展示室を縦断するように吊り下げられた旗状の「日本の絵-執拗低音」(写真⑦)は、山形、中国、チェルノブイリ、キューバの風景など「これまで見てきたものがパッチワークされている」(三瀬)作品。「くっつけられるとは思ってもみなかった絵が強引に接続されている。個別のものを結ぶことによって一つのコミュニティを表す旗になる」という。この大きな旗の裏側にも「死にかけの日本」だという今にも崩れそうな旗が立てかけられ、大小シンメトリーの構成。「震災直後は旗の元に集まり上を見ようという感じだったが、今は難しくなってきた」と語り、日本の現状を示唆する。
 ほかに富士山をモチーフにした文化庁所蔵の「日本の絵」(2006年)も展示。

執筆・写真:西澤美子(文中敬称略)

「21st DOMANI・明日展
文化庁新進芸術家海外研修制度の成果
平成の終わりに」
2019年1月23日(水)~3月3日(日)※火曜休館
国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
☎03-5777-8600(ハローダイヤル)
一般1,000円、大学生500円
詳細:https://domani-ten.com/

【参考文献】
『21st DOMANI・明日展 平成の終わりに』展図録
発行:文化庁 2019年

写真キャプション
① 出品作家
② 川久保ジョイ「ホエン ザ ミステイクソフ ザ サンズ」2013/2014年
③ 村山悟郎「自己組織化する絵画<過剰に>」2016年
④ 和田的「白器|ダイ/台」2017年 茨城県陶芸美術館蔵
⑤ 白木麻子「Your window is my mirror」
⑥ 三瀬夏之介「日本の絵」2017年
⑦ 三瀬夏之介「日本の絵-執拗低音-」2008~18年(「国立新美術館は天井が高いので展示してみたかった。旗めいているような表現はここでしかできなかった」と語る