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「遊びの流儀 遊楽図の系譜」展

2019年7月29日

皆が夢中になっているのは? 遊楽図の代表作がそろう。
サントリー美術館で8月18日まで開催。

 東京のサントリー美術館で、「遊びの流儀 遊楽図の系譜」展が開かれている。本展では、主に室町から江戸時代にかけて「遊び」をする人々を描いた屛風や絵巻や掛幅や、「遊び」に使う道具などを紹介する。出品総数は117件(★注意:会期中展示替えがあります)。国宝の《婦女遊楽図屛風(松浦屏風)》(大和文華館)をはじめ、日本の代表的な遊楽図がそろい、その系譜をたどることができる。本展は、石田佳也 サントリー美術館 学芸部長により企画された。見応えがあり、同時に誰にも身近に感じられる展覧会である。会場を歩くと、描かれた膨大な数の人々の楽しげなざわめきや笑い声が聞こえてくるようだ。

 ■展覧会構成
 本展覧会は、次の8つの章から構成されている。
 第一章「月次風俗図」の世界―暮らしの中の遊び/第二章 遊戯の源流―五感で楽しむ雅な遊び/第三章 琴棋書画の伝統―君子のたしなみ/第四章「遊楽図」の系譜①―「邸内遊楽図」の諸様相/第五章「遊楽図」の系譜②― 野外遊楽と祭礼行事/第六章 双六をめぐる文化史―西洋双六盤・盤双六・絵双六/第七章 カルタ遊びの変遷―うんすんカルタから花札まで/第八章 「遊楽図」の系譜③―舞踊・ファッションを中心に

 豊富な内容の一部を紹介しよう。

 ◇遊びの諸様相
 ■蹴鞠(けまり)/囲碁/管弦の遊び
 ●蹴鞠 展覧会場に足を踏み入れると、真っ白な球体が展示ケースに見える。蹴鞠に使う鞠と、それを挟む木製の《蹴鞠・鞠挟》(一組、江戸時代 18~19世紀、サントリー美術館)である。鞠は鹿の革を縫い合わせたもの。軽いのだろうか。天井にも鞠が吊ってある。平安貴族の雅な世界にふらりと入り込んだ気分だ。日本の伝統的な遊びは平安時代の貴人たちが盛んに行い、発展したものが多い。『源氏物語』などの文学作品にも度々登場する。

 《源氏物語画帖》(住吉如慶 画、園基福 詞書。紙本著色、一帖、江戸時代 17世紀、サントリー美術館)(★場面替えあり)を見てみよう。本作は『源氏物語』の五十四帖を、詞書と画で一組とする54組で展開した画帖。透明感のある色彩と可憐な人物描写が印象的だ。画は、やまと絵の名手で住吉派の創始者の住吉如慶(1599~1670年)の手になる。

 《源氏物語画帖》第34帖「若菜 上」では、庭で蹴鞠に興ずる4人の貴人が描かれる。御簾の内側から、色鮮やかな衣装をまとった光源氏の正室・女三宮がそれを見ている。突然、部屋から大きな唐猫に追いかけられた子猫が飛び出し、一瞬開いた御簾からのぞいた女三宮の姿を、蹴鞠に加わっていた柏木が目にする。これはその後の波乱の展開につながる決定的な場面である。貴族の女性は外部の人間には顔を見せない時代だった。さて、蹴鞠に目を移すと、それは庭の桜の樹に囲まれた場所で行われ、鞠は頭上より相当高い位置に上がっている。

 蹴鞠は、正確な動作によって鞠を蹴り、その回数が多いことを優秀とする。競争するものではない。蹴鞠の演技者は鞠足(まりあし)といい、数人の鞠足が、四隅に懸(かかり)と称する松や桜などの木を配した鞠庭で、鞠を懸の下の枝より高く蹴り上げる。その起源は定かではないが、平安時代の宮廷内外で流行。鎌倉時代に武家の間にも好まれ、難波流や飛鳥井流という鞠道の流派が生まれて方式が整えられた。

 ●囲碁や管弦の遊び 《源氏物語画帖》には他にも様々な遊びが見られる。例えば第3帖「空蝉(うつせみ)」や第44帖「竹河」では、邸内で女性二人が碁を打つ。第35帖「若菜 下」や第45帖「橋姫」では、女性たちが琴や琵琶を奏で管弦の遊びを行う。碁は貴族から武家社会に伝わり、今も愛好されている。

 ■双六(すごろく)
 ●盤双六 裁縫箱くらいの大きさだろうか。《草花蒔絵双六盤》(一具、江戸時代 19世紀、京都国立博物館)は、縦約30㎝、横約40㎝、高さが約20㎝の木製の直方体。狭いほうの側面には、黒漆塗の上に菫など春の草花を金蒔絵で描き、実に華麗だ。そして上面に升目があり、白と黒の15個の駒が置かれ、筒と二つの骰子(さいころ)がのる。現在では見慣れないものだが、これが日本で人々が長く親しんだ「双六」である。駒を二つの骰子の目に応じて進めるが、同じ数が出ると利点があるなど複雑な規則に従って行う。平安時代から近世にかけて、実に多くの絵画作品に描かれている。

 海北友雪(かいほうゆうせつ)(1598~1677年)の軽妙な筆による《徒然草絵巻》は、全二十巻の壮大な絵巻である。吉田兼好が鎌倉時代に綴った随筆『徒然草』全段の原文の詞書と象徴的な場面の画で構成される。本展では絵巻の第九巻(紙本著色、江戸時代 17世紀、サントリー美術館)(★場面替えあり)を出品。『徒然草』第110段では「負けじと打つべきなり」など、双六の極意を書いた詞書に、庭を見渡す邸内でゆったりと双六を楽しむ二人の男を描いた画を伴う。そして第111段の詞書は、熱中しすぎることを戒めるもの。画は、双六盤や碁盤を囲む男たちを描写する。

 双六の起源は古代エジプトといわれ、古代ギリシャからヨーロッパに広がり、さらに中国や日本にも伝播した。日本では早くも7世紀に双六禁止令が発令された。平安時代や鎌倉時代にも双六は賭博とみなされ禁令が出されるが、その人気は一向に衰えなかった。江戸時代には双六盤が将棋盤・囲碁盤と合わせて三面盤として婚礼調度にもなる。しかし、双六の人気は明治以後、凋落する。

 なお、古くヨーロッパに広がった双六は、現在も西欧でバックギャモンとして愛好されている。そしてこれは16世紀、ポルトガルから日本に西洋双六として輸入された。元を同じくする2種の双六が、千年の時差で日本に流入したわけだ。しかし西洋双六は日本では発達をみなかった。一方、現在に双六といわれるもの、つまり骰子を振り、駒を区画された紙の上で振り出しから上がりまで進める絵双六は、江戸時代から始まったといわれる。

 このように双六といっても様々だ。よって、日本で古くから愛好されたものを「盤双六」、西洋から輸入されたものを「西洋双六」、現在も双六と呼ぶものを「絵双六」と称する。

 ●西洋双六 会場の吹き抜けホールに、重要文化財《清水・住吉図蒔絵螺鈿西洋双六盤》(桃山時代 17世紀、サントリー美術館)が展示されている。独特の豪華絢爛さがある。長辺が50㎝強の長方形の箱二つを蝶番でつないだ形状。外側の二つの面に清水寺と住吉神社の景観や詣でる人々の姿を、黒漆の上に施された金銀蒔絵と螺鈿で表す。そして開いた中身を見ると、黒漆に赤漆と螺鈿により、上下12の尖塔形に区画されている。本作は西洋双六、つまりバックギャモンの盤(西洋双六盤)である。南蛮漆器の名品として名高い作品。サントリー美術館に新しく収蔵され、このことが本展企画の契機となったそうだ。

 ●絵双六 大名の出世や可愛いおもちゃや動物をテーマにした絵双六も出品されている。

 ◇遊楽図の諸様相
 ■野外遊楽図から邸内遊楽図へ/群衆から少人数へ
 ●野外遊楽図 冒頭に記したように、本展では遊楽図の傑作群が出品されており、見事な一作一作を味わいながら、日本美術史における遊楽図の流れをたどることができる。近世の桃山時代に入ると、市中や野外での楽しみや祭礼行事を描いた野外遊楽図が流行する。中世以来の「洛中洛外図」にも共通する情景だ。重要文化財《四条河原遊楽図屛風》(紙本金地著色、二曲一双、江戸時代 17世紀、静嘉堂文庫美術館)(★7/24~8/18の展示)は、京都に流れる鴨川を画面中央に配し、四条河原で催された遊女歌舞伎の芝居小屋、動物の芸を見せる見世物小屋、また矢場などの様子を克明に描き、大勢の人々の熱気も強く伝えてくれる。

 ●邸内遊楽図 江戸時代前期になると、政治体制の安定に伴い、屋敷の内外で楽しみに興ずる多数の人々を描いた邸内遊楽図が増えてくる。描かれる人数も群衆から一定の人数に減じる傾向を見せる。重要文化財《遊楽図屛風(相応寺屛風)》(紙本金地著色、八曲一双、江戸時代 17世紀、徳川美術館)(★7/15までの展示)は、その移行期の名作。大画面に一人一人を生き生きと描写した卓越の筆に目を奪われる。花見や輪舞や水遊びを楽しむ人々。能舞台を観たり、饂飩屋でおいしそうに饂飩を食べたりもしている。庭では蹴鞠や、三味線に合わせて輪舞が行われ、室内には盤双六やカルタをする人たちも見える。

 ■国宝《婦女遊楽図屛風(松浦屛風)》を見る
 国宝《婦女遊楽図屛風(松浦屛風)》(紙本金地著色、六曲一双、江戸時代 17世紀、大和文華館)(★7/24~8/18の展示)は、長崎県平戸の大名の松浦家が所有していた作品。本作は邸内遊楽図だが、描かれた人物の大きさにまず驚かされる。等身大に近いのだ。六曲一双の金地の大画面に総勢18人の遊女と禿(かむろ)たちが描かれる。これほどの大きさの群像表現は、日本の風俗図や遊楽図で類を見ないという。そして、女性たちがまとう大胆な意匠の豪奢な着物に目が奪われる。髪形も唐輪髷、垂髪など多様である。

 右隻の第一扇の上部には双六盤がぽつんと置かれ、第二扇の上部には白地の小袖が架かっている。本作は着物だけを描いた「誰が袖図屛風」の先例ともいわれる。女性たちは髪を結い、結われ、文(ふみ)を届け、受け取り、そして文を読む。硯を横に筆で文をしたためる人もいる。三味線を弾く。キセルを渡し、渡される。手鏡を見ながら化粧をする。左隻の左端にはカルタを楽しむ二人も見える。なお、カルタは日本にポルトガルのあたりから室町後期頃に伝来したといわれる。本作は人々の動作のつながりが流れるようなリズムを生んでいる。白と黒と赤などの色彩の配置も卓抜だ。

 また、この作品は、中世以降奨励された格調高い琴棋書画図(きんきしょがず)を意識した構成をとる。中国で君子のたしなみとしての琴棋書画を描いた絵画は、日本では琴を三味線に、棋(囲碁)を双六に置き変えて描き継がれてきた。本作は少し離れた距離でも見てみたい。《松浦屛風》全体から発する大らかな明るさの、なんと心地よいことだろう。

 ■舞踊図/寛文美人図へ
 本展の最後のほうに近づくと、作品に描かれる人数がさらに絞られていく。一人を大きく詳細に描写した舞踊図。着物だけを描き、不在の人物を想起させる不思議な「誰が袖図屛風」。そして艶やかな寛文美人図。これらは、その先の浮世絵美人画の登場を予告する。

 本展で見られる伝統的な遊びは、一人ではなく複数で行うものが多い。五感をふるに働かしているようだ。蹴鞠などは実際に試してみたい。そして、人々が日常のなかで感じる幸福とは何か。遊びを楽しめるのは平和な時代であってこそ。などなど。様々な思いを抱きつつ、充足感をもって展覧会場をあとにした。


【参考文献】
1)石田佳也・佐々木康之・久保佐知恵(以上、サントリー美術館) 編集:『遊びの流儀 遊楽図の系譜』、サントリー美術館 発行、2019年。

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2019年7月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。無断転載禁止。

写真1 サントリー美術館の会場風景(以下、同様)。
国宝《婦女遊楽図屛風(松浦屛風)》六曲一双のうち右隻(部分)、
紙本金地著色、江戸時代 17世紀、大和文華館。
(★7/24より展示)※会期中展示替えがあります。

写真2 会場風景。
左から、《蹴鞠・鞠挟》一組、江戸時代 18~19世紀、サントリー美術館。
右手前は、住吉如慶 画、園基福 詞書《源氏物語画帖》紙本金地著色、
一帖、江戸時代 17世紀、サントリー美術館(★場面替えあり)。
奥は、《源氏物語図屛風 須磨・橋姫》、土佐派、六曲一隻、
江戸時代 17世紀、サントリー美術館(★7/22までの展示)。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真3 会場風景。
左から、《草花蒔絵双六盤》一具、江戸時代 19世紀、京都国立博物館。
右手前は、海北友雪筆《徒然草絵巻》全二十巻のうち第九巻、
紙本著色、江戸時代 17世紀、サントリー美術館)(★場面替えあり)。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真4 会場風景。
手前から、重要文化財《清水・住吉図蒔絵螺鈿西洋双六盤》一合、
桃山時代 17世紀、サントリー美術館。
《扇文蒔絵螺鈿西洋双六盤》一合、桃山時代 17世紀、南蛮文化館。
(撮影:I.HOSOKAWA)

写真5 会場風景。
手前は、《うんすんかるた》紙本著色、一揃(一面)、
江戸時代 17世紀、個人蔵。
(撮影:I.HOSOKAWA)
 

【展覧会名】
遊びの流儀 遊楽図の系譜
Styles of Play: The History of Merrymaking in Art

【会期・会場】
2019年6月26日~8月18日 サントリー美術館 
電話:03-3479-8600 
[展覧会詳細] http://suntory.jp/SMA/

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