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フィンランド独立100周年記念「フィンランド・デザイン」展

【展覧会構成】
  フィンランド独立100周年を記念した本展は、以下の6つの章で構成されている。
第1章フィンランド独立以前の装飾芸術/第2章 フィンランド・デザインの“礎”/第3章 フィンランド・デザインの“完成” /第4章 フィンランド・デザインの“異彩たち”/第5章 フィンランド・デザインの“飛躍” /第6章 フィンランド・デザインの“いま”

フィンランド独立以前の装飾芸術
  8世紀から11世紀にかけて国づくりが行われた北欧において、フィンランドは国として成立せず600年以上スウェーデンに支配された後、19世紀にはロシア支配下に。ロシアの統制が強まっていた1900年、フィンランドの建築家・芸術家・デザイナーが総力を結集した「フィンランド館」をパリ万国博覧会に出展。そこで数々の賞を受賞し世界の注目を集めたことは独立への足がかりになったという。建築やデザインが独立への道筋をつくったことは、フィンランドデザインの質の高さ、類のないものだったことを示しているようである。ロシア革命で帝政が倒され、1917年、フィンランドは独立した。
  第1章では、独立以前に作られた食器や家具、照明器具が並ぶほか、CGによる完全再現がされたフィンランド館の映像を流す。重厚な《食器棚》(アルマス・リンドグレン、アーキテクチャー・ビューローGLS、木、オークベニヤ、真鍮、1904年、フィンランド・デザイン・ミュージアム所蔵)(*以下出品作品、記載ないもの全てフィンランド・デザイン・ミュージアム所蔵)やスモーキーグレイやダークブラウンといった抑えた色合いが木に調和する《椅子》(ワルター・トーメ、カール・リンダール、木(オーク)、革、1903~04年)など、シンプルでありながら人を引きつける魅力を備える姿にフィンランドデザインの原点を見る思いがする。アルフレッド・ウィリアム・フィンチの5つの陶器(全てイーリス、1900年)はコバルトブルーやモスグリーンなど深みのある色でモダンな印象を与え、ルイス・スパラのスケッチ《ダイニングルーム》(エーヴァ&ルイス・スパラ家具店、水彩、鉛筆、紙、1909年)は当時の生活を彷彿とさせる。

フィンランド・デザインを支えた企業とデザイナー
 パーテーションを抜けるとビビッドな「Marimekko(マリメッコ)」(1951年創業)のテキスタイルが突然現れ、抑えられた色合いの第1章からの対比もあり鮮やかな色彩があふれる感動に、思わず立ち尽くしてしまう。厳しく長い冬が続くフィンランドで、エネルギーあふれる色彩とその上に踊る大きなモチーフが生まれたその意味や喜びを改めて感じる。第2章では、フィンランドデザインの発展を支えた企業とデザイナーを紹介する。テーブルウェアなどを製作する「ARABIA(アラビア)」(1873年創業)や「iittala(イッタラ)」は独立前に創業し、今でもフィンランドを代表するブランドとして日本でも親しまれている(現在、フィスカースグループで両ブランドを扱う)。フィンランドデザインに大きな影響を与えたカイ・フランク(1911~1989年)は、アラビアで《キルタ》シリーズ(現在の《ティーマ》、イッタラで《カルティオ》シリーズなど、両企業で代表作を手掛けた。シンプルながらわずかな丸みや厚みが温かみを感じさせ、本人もこだわりを持っていたという色味が美しい。日本の民芸にも惹かれていたという彼の作品は彼の望んだ通り、時代を超えて世界中の人々の日常に豊かさをもたらしている。《ソイントゥ》シリーズ(磁器、アラビア、1949年)は、彼の作品と知らなくても強く引きつけられる。
  隣に並ぶのが壁を覆うマリメッコのテキスタイルとドレスの数々。マリメッコを代表するデザイナー、マイヤ・イソラ(1927~2001)の生地《ウニッコ(ケシの花)》(綿、プリント、1964年、個人蔵)や脇坂克二の生地《ブーブー》(綿、プリント、1974年、個人蔵)などお馴染みのデザインのほか眺めるだけでエネルギーをもらえるマリメッコのテキスタイルに包まれ、エネルギーをチャージする。マリメッコの創始者、アルミ・ラティアは当初、花のモチーフを禁止していたが、イソラは花をモチーフにした作品群を作り出し、そのうちの一つが今やマリメッコの代名詞ともいえる《ウニッコ》であり、ラティアはその素晴らしさに心を打たれたという。

  「北欧モダンデザインの父」と呼ばれる建築家・デザイナーのアルヴァ・アアルト(1898~1976年)が開発した成型合板や曲げ木の技術が使われたレリーフや椅子も展示する。「世界で最も有名な花瓶」と称される「花瓶」《アルヴァ・アアルト コレクション》(イッタラ、ガラス、1936年、スキャンデックス所蔵)などのプロダクト製作には「パーツのスタンダード化など量産を念頭に置いた合理的な考え方が用いられ、アルヴァ・アアルトやその妻アノイが目指した『多くの人が平等に、機能的で実用的なデザインを日常生活に取り入れる』ことを可能にした」という(本展カタログより)。フランクにもアアルトにも、「デザインは特別なものではなく全ての人のために存在する」といった心根が感じられ、これがフィンランドデザインに共通する世界中の人に愛されてやまない理由の一つだと気づく。1935年創業の「Artek(アルテック)」はアアルト夫妻を中心に創業したインテリアブランド。フィンランドを訪れた際、それとは知らずに魅力のある品々に引き寄せられ店内を回遊したことを思い出す。

世界から注目を集めるフィンランドデザイン
  第3章に展示されているタピオ・ウィルカラ(1915~1985年)のオブジェ《レヘティ(葉)》(ソインネ、合板(樺)、1951年)は1951年の第9回ミラノ・トリエンナーレで「世界で最も美しいオブジェ」として大賞を受賞した。この際、他にも6つのグランプリ、7つの金メダル、8つの銀メダルをフィンランドが受賞し、フィンランドデザインが世界から注目されるようになったという。これを機に次のトリエンナーレから北欧の他の国々も参加したことは、フィンランドデザインが北欧デザインを牽引していたことを示すようである。

洗練されたムーミンデザイングッズ
  第4章に登場するのがムーミンを生み出し、画家・児童文学作家・小説家として活躍したトーベ・ヤンソン(1914~2001年)。「原画 ぬりえ帳表紙『ムーミンとはさみとのり』」(制作年不詳、グアッシュ、厚紙、以下本章内全てトーベ・ヤンソン、ムーミン・キャラクターズ社所蔵)は子供向けにしてはシックながらスタイリッシュ。それぞれ限られた色彩を使ったファブリックは一枚一枚がセンスを感じる仕上がりで、キャラクターグッズというよりは大人がデザインを楽しむものという印象を受ける。《包装紙 クリスマス》(ストックマン、紙、印刷、1970年代)、《キャンドル》(1970年代、ろう)、《包装紙 ファッツェルキャンディー》(紙、印刷、1970年代、ファッツェル)はどれも本当にかわいくて、大人でもこの包装紙に包まれるプレゼントはどんなに嬉しいかと想像する。

フィンランドで活躍する日本人、石本藤雄の作品
  第5章を彩る、テキスタイルデザイナーで陶芸家の石本藤雄(1941年~)の陶芸レリーフやマリメッコ時代に手掛けたテキスタイルが素晴らしい。石本は1974年から念願のマリメッコのテキスタイルデザイナーとして、30年以上にわたって300点以上のデザインを手掛けた。砥部焼で知られる愛媛県砥部町に生まれ、陶芸をふとしてみたいと思い1989年から制作を開始。2006年に定年を迎え、アラビア・アート・デパートメントで本格的に制作に取り組んでいるという。本展カタログに「釉薬や焼成の研究を重ねた豊かな質感が特徴」とある石本の陶芸レリーフ(陶器、2007~2015年、スコープ所蔵)は花や果実などがモチーフで、色みや形、約4センチの厚みがとても感じがよく、日本らしさも感じさせる。一つ一つの作品をじっくり見て味わうのもいいが、約50センチのレリーフが絶妙なバランスで貼られた壁は温かみのある花畑のようで、全体を眺めても楽しい。「テキスタイルではデザインをしてきたが、陶芸では作陶をしたかった」(北欧デザインの巨人たち)という。テキスタイルも明るく美しく、女性に愛されるデザイン。60センチ近くの円形の《オブジェ》(ブラック・イエロー・オリーブ、陶器、2003年、オリーブは2005年、個人蔵)はシンプルながら色合い、形が秀逸だ。

  次々と現れる逸品の数々にため息が出るほど楽しい時間を過ごすと共に、歴史に重ねて観賞することで洗練されたフィンランドデザインの真髄を改めて実感する内容だった。ちなみに、1階のオープンスペースにデザイナーズチェアが置かれ自由に座れるが、エーロ・アールニオの椅子《ボールチェア》(1963年)は、体に見事にフィットし、本当に包み込まれる。
本展は2017年1月14日から福岡市博物館、愛知県美術館、福井市美術館を巡回し、現在、府中市美術館で10月22日まで開催中。その後、宮城県美術館で12月24日まで開催する。(文中・敬称略)

【参考文献】
1)本展カタログ「Finnish Design 2017」 日本経済新聞社文化事業部、キュレイターズ=企画・構成、ユッカ・サヴォライネン、柏木博、石堂裕昭、音ゆみ子、末吉武史、中村史子、濱﨑礼二、福薗美由紀、宮坂敦子、森下圭子、水野昌美=執筆、キュレイターズ=編集、日本経済新聞社=発行、2017年
2)「北欧フィンランド 巨匠たちのデザイン」島塚絵里=執筆、高橋かおる=編集、パイ インターナショナル=発行、2015年
3)「北欧デザインの巨人たち あしあとをたどって。」
萩原健太郎=著者、吉田知哉=編集、ビー・エヌ・エヌ新社=発行、2011年


※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。

20171008001
写真1)会場風景
左から《石けんケース》、《花瓶》、《花瓶》、《シュガーボウル》、《フルーツボウル》
(全てアルフレッド・ウィリアム・フィンチ、イーリス、陶器、1900年)

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写真2)会場風景
左から、生地《カイヴォ(泉)》(マイヤ・イソラ、1964年)、
《ロッキ(カモメ)》(マイヤ・イソラ、1961年)、
《ウニッコ(ケシの花)》(マイヤ・イソラ、1964年)、
《メローニ(メロン)》(マイヤ・イソラ、1963年)、
ドレス《モンレポー》生地《ケイダス(オアシス)》(生地デザイン=アンニカ・リマラ、1967年)、
《イビル》(マイヤ・イソラ、1970年)、
(全てマリメッコ、綿、プリント)

20171008003
写真3)《ソイントゥ》シリーズ(カイ・フランク、磁器、アラビア、1949年)

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写真4)左から《包装紙 クリスマス》(ストックマン、紙、印刷、1970年代)、
《包装紙 ファッツェルキャンディー》(紙、印刷、ファッツェル、1970年代)、
《キャンドル》(1970年代、ろう)(全てトーベ・ヤンソン)

20171008005
写真5)会場風景
《レリーフ》(陶器、2007~2015年、全て石本藤雄)

執筆・写真:堀内まりえ

フィンランド・デザイン展
http://finnish-design2017.exhn.jp/


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