芸術広場|Office I Ikegami blog

「AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲」展

 気持ちのいい空間。深澤のプロダクトデザインの周囲との関わりとは?

 現在、パナソニック 汐留ミュージアムにて、世界的に活躍するプロダクトデザイナー・深澤直人(ふかさわなおと)(1956年生まれ)による日本初の個展が開催中だ(〜10月1日まで)。彼はその優れたデザイン思考でも注目されている。深澤の放つ言葉は少し難しい。本展タイトルのAMBIENTとは、本来は「環境」の意。だが、今回はあえて「周囲」や「雰囲気」と捉えた。本展では深澤がデザインで目指していることを感じてもらいたいという。ほかならぬ深澤のこと。通常の発想とは一線を画す展覧会になっていることが予想される。
 
 ■入り口から次へと進む
 会場に入ってみて、瞠目されられた。いつも訪ねているミュージアムなのだが、様相が一変していた。入り口は、廊下のような細長く真っ白な空間。そこに見えるのは、木製の肘掛け椅子《HIROSHIMA ラウンジチェア》(深澤直人、マルニ木工、2009年)(※全作品のデザインは深澤直人。以下、略)だ。茶色の座面と木肌色の背とアーム。背からアームにかけてのゆるやかな曲面が身体を包むようだ。この椅子は、「今日はゆっくりしてください」と語りかけているようにも見える。その先は暗黒の空間に転じ、球体のライトが沢山浮かぶ。《モディファイ スフィア ペンダントライト》(パナソニック、2012年)と《モディファイ スフィア フロアライト》(パナソニック、2014年)である。真ん丸の光のなんという美しさ。照明を球形に光らせることは困難なことだったが、蓋に当たる部分にアクリル素材を使うことで成功させている。この空間には、すぐそばに暗闇に溶けるように黒色の《Roundish チェア(張座)》(マルニ木工、2011年)も置かれる。

 次は真っ白な部屋だ。壁には、紐を引くと音楽が流れ始める《壁掛式CDプレイヤー》(無印良品、1999年)が掛かる。深澤のデザインで最も有名なものの一つだ。彼は本展図録で「紐を引くってことが大事なんだ。行為が空間に溶けていくっていう感じがする」と記す。部屋の中央には、曲線でかたどられたグレーの布製のソファとオットマン(足置き用ソファ) の《グランデ パピリオ》と、白い人造大理石のシンプルな丸テーブル《アワ》(共に、B&B ITALIA、2009年)。共に彫刻的な存在感が光る。長く眺めていたい造形であり、すぐに使ってみたくもなる。この椅子に座って今日はどんな曲を聴いてみようか。

 ■さらに進むと
 さて、以上からもわかるように、本展では会場を一つの住居の居住空間に見立てて、各部屋で使う深澤のデザインした家具やプロダクトなどをそのまま設置している。画期的な手法といえる。よって、入り口は玄関だったわけで、このあともキッチンやダイニングルーム、風呂場などと続く。

 キッチンには、大きな《リビングステーション》(パナソニック、2008年)がある。深澤は「ものは壁と身体に分化する」という概念を提示している。しかし、ここではむしろ、すでに壁の一部となっていたキッチンを、家具のように人間と壁の間にあるものとして捉え、人が集まり調理をし食事もするというコミュニケーションセンターのように考え、キッチンのあるべき姿を追求した。その向こうの白い壁側の棚には身近なものが並んでいる。《チャ クリーマー》《チャ シュガーボウル》(共に、アレッシイ、2015年)はそれぞれ小さいサイズだが、造形美とステンレスの輝きが相伴って一つの宇宙をつくる。新作の《ノム 真空保温ジャグ》(アレッシイ、2017年)はすくっと真っ直ぐに立つ姿が凛々しい。そのハンドルは、どこを持ってもいい感じに握れるという。贅沢な雰囲気の食卓になりそうだ。

 ダイニングルームに入ると3mを超す長さの《MALTA ダイニングテーブル320》(スチールレッグ(マルニ木工、2013年)が中央を占める。堂々としているが、オークの無垢材の平滑なこのテーブルは、同時に軽快さももち、ここに皆で集まりたくなる雰囲気がある。風呂場の前の場に、壁に立て掛けた巨大なトレーのような《デジャブ ミラー》(マジス、2011年)も面白い。ここでは映りこむ実物大の自分と対峙することになるが、魔法にかかったような不思議な感覚を味わえる。そして、奥に長径2mの楕円の美しい浴槽《サピア》(ポッフィ、2008年)がある。ゆったりとしたバスタイムを想像させる。縁から流れるような内側の滑らかな曲線が見事だ。会場には携帯電話、家電、生活雑貨なども含めて90点ほどを出品。深澤のユーモアセンスが感じられるものも結構多いことにも気づかされる。

 ■深澤のデザイン思考
 展覧会開幕に先立つプレス内覧会で、深澤は「ものとものの間にある空気をAMBIENTという。ものが抜き取られた間の空気が感じられないか、という展示にしました」と語った。また、彼は展覧会図録の冒頭に、「アンビエント。ものは環境に溶けている。そのものの登場によって周りの空気や雰囲気が変わる。その空気や雰囲気をつくるためにものをデザインしてるんだ。ものは周りと対なんだ」と記述している。

 キッチンの棚には、丸い形状の加湿器《加湿器》(プラスマイナスゼロ、2004年)も置かれていた。深澤がデザインオブジェとして発想してつくりだした加湿器として、世界を驚かしたことでも良く知られる。水滴からのイメージというこの丸っこくつやのある加湿器が、一つ、空間に置かれると、周りの空気が柔らかくなり、人の心も表情も和むように思える。筆者はこれを目にすると、かつて自宅にあって田舎の祖母が冬、東京滞在時によく使っていた丸い火鉢の形も連想する。いずれにせよ、この加湿器がある時と無い時、また椅子などが置かれた時と無い時を比較してみると、深澤の上の記述はわかりやすくなるのではないだろうか。ミケランジェロは大理石の彫刻を彫る際、石の塊のなかに元から在る形を取り出すだけだ、と言ったと伝わるが、深澤のデザインの場合は、ものを空間ごと取り出す、ともいえるのだろうか。

 会場のどこを歩いても気持ちがいい。ありとあらゆることを徹底的に思索し試行して決定されたシンプルで精度の高い、絶妙な深澤のデザイン。そして柔らかな雰囲気。この展示空間を歩いていると、全体を楽しみながら呼吸する自分を感じる。普段の生活を大切にしたいなあと、つくづく思う。深澤のメッセージは静かにじわじわと伝わってくるようだ。
 なお今回は、ルオー・ギャラリーを除いて撮影が可能である。


【参考文献】
1) パナソニック 汐留ミュージアム=企画、坂井基樹・田中真利=編集:『AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲』、現代企画室、2017年。
2) 深澤直人・藤井保:『THE OUTLINE 見えていない輪郭』、アシェット婦人画報社、2009年
3) 深澤直人:『デザインの輪郭』、TOTO出版、2005年

執筆:細川 いづみ (HOSOKAWA Fonte Idumi) 
(2017年8月)

※会場内の画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。
20170821_001
写真1 会場風景。
左手前から、深澤直人、《グランデ パピリオ》、《アワ》、共に、B&B ITALIA、2009年。
右上は、深澤直人《壁掛式CDプレイヤー》、無印良品、1999年。
(撮影:I.HOSOKAWA)

20170821_002
写真2 会場風景。
深澤直人、《モディファイ スフィア ペンダントライト》、パナソニック、2012年。
深澤直人、《モディファイ スフィア フロアライト》、パナソニック、2014年。
(撮影:I.HOSOKAWA)

20170821_003
写真3 会場風景。
中段の中央。左から、全て深澤直人。
《チャ シュガーボウル》、アレッシイ、2015年。《チャ クリーマー》、アレッシイ、2015年。
《チャ ポット》、アレッシイ、2014年。《ノム 真空保温ジャグ》アレッシイ、2017年。
《ノム 真空ステンレスボトル》、アレッシイ、2017年。
(撮影:I.HOSOKAWA)

【展覧会英語表記】
AMBIENT

Lifestyle Items Designed by Naoto Fukasawa
【会期・会場】
2017年7月8日~10月1日 パナソニック 汐留ミュージアム
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル) 
詳細: https://panasonic.co.jp/es/museum


Comments are closed.

Twitter

カレンダー

2017年10月
« 9月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

カテゴリー

最近の展覧会記事と書籍案内

PR

ブログランキング

にほんブログ村 美術ブログ 美術情報へ

Tag Cloud