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第20回岡本太郎現代芸術賞展 
岡本太郎賞に山本直樹《Miss Ileのみた風景》

  第20回岡本太郎現代芸術賞展が川崎市岡本太郎美術館で開かれている。授賞式は2月2日に行われ、大賞の岡本太郎賞(賞金200万円)に山本直樹の《Miss Ileのみた風景》が、岡本敏子賞(賞金100万円)に井原宏蕗の《cycling》が、特別賞(各20万円)にあべゆかの《BE GOD.》、井上裕起の《salamander [F1]》、黒木重雄《One day》が選ばれた。
  同賞は、美術家の岡本太郎の精神を次世代に継承し、自由な視点と発想で、現代社会に鋭いメッセージを突きつける作家を顕彰するために1997年に設立された。20回を数える今回は、499点の応募があり、26名が入選し、その中から各賞が決まった。
  審査員は、美術批評家で多摩美術大学教授の椹木野衣、空間メディアプロデューサーで岡本太郎記念館館長の平野暁臣、川崎市岡本太郎美術館館長の北條秀衛、美術史家で明治学院大学教授の山下裕二、ワタリウム美術館キュレーターの和多利浩一。
  同賞は、応募資格として国籍、年齢、プロ、アマを問わず、作品も高さ、幅、奥行き各5㍍以内などの規定に沿えば絵画、彫刻、小説、書などジャンルや形状、技法は問わないことが特徴。

・岡本太郎賞は山本直樹《Miss Ileのみた風景》
  岡本太郎賞を受賞した山本直樹は1963年新潟県生まれ。91年に東京造形大学造形学部美術学科Ⅰ類を卒業し、現在は京都嵯峨芸術大学准教授。受賞作は、ガラスで囲まれた空間に角砂糖を積み上げて東京の街を作り、壁にはアメリカのトランプ大統領の顔や「オスプレイ不時着」「北朝鮮ミサイル3発」などの言葉をグラニュー糖でかいた《Miss Ileのみた風景》。「タイトルのミス・イルは実はミサイルのこと。他国からの侵略で飛来するミサイルの視点で、日本ではどのような光景が見えるのだろうという観点で制作した。今の日本のモヤモヤした空気や今後の日本がどうなって行くのだろうという不安な気持ちをガラスの中に表現した」という。六本木や渋谷、新宿、皇居などの位置やビルの形などもほぼ忠実に表現されているがワークショップでは参加者とともに砂糖の街を作り直し、オリンピックに向けて開発の進む東京の新たな姿を生み出していくのも重要なコンセプトだ。展覧会場の入口にセットされたセンサーに感知するとジェット戦闘機の音が7秒後に3秒間流れ、LEDの3万8千ルーメンの光が作品内部に輝く仕掛けもある。「砂糖を使ったのは、甘いものが大好きなことと、辛辣な内容の作品が、砂糖を取り込むことで見え方が違ってくるのではないか」と考えたためだという。
  審査員の和多利浩一は「壊れやすく、スイートな砂糖で都市を形成する点においても今日性と社会性で優れた作品となっている」と評した。

  ・岡本敏子賞は井原宏蕗《cycling》
  岡本敏子賞を受賞した井原宏蕗は、1988年大阪府生まれ。2013年東京芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。受賞作《cycling》は、シカ、ヤギ、ウサギ、ブタなど8種類の動物の糞を漆でコーティングして接着し、排泄元の動物の形を原寸大で表した。井原は、「生きた痕跡を作品化した。糞も漆も生物から出る副産物のようなものだが、漆は高級で、恒久的な素材として糞の対極に位置することに着目し、糞をするという一過性の行為を普遍的なものに変えることができるかを考えて制作した」と言い、「受賞したことで地味な仕事が日の目を見て、糞の選別や糞にまみれた漆を削る仕事を手伝ってくれた人たちにも感謝の気持ちを伝えるきっかけができた」と喜びを語った。
  審査員の椹木野衣は「人が嫌がる糞を、古来人が愛でてきた漆でコーティングし、その持ち主へと『返す』ことで本来あるべき生の『サイクル』を完結させ、優れた工芸品のように『転生』させてみる。人間の社会にとって消費などが存在するのかなど、多くのことを考えさせる」と講評した。

・特別賞は、あべゆか《BE GOD.》、井上裕起《salamander [F1]》、黒木重雄《One day》

  特別賞を受賞したのは3人。あべゆかは1986年東京都生まれ。2011年東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修了。受賞作は《最後の晩餐》を連想させる絵画とテーブル上の紙粘土や樹脂で作った肉やケーキを模した立体で構成されたインスタレーション《BE GOD.》。「大学は油絵科だったが、空間を作る芸術家だと思って制作している。空間表現のひとつとして絵が存在している」と考えている。あべは「バイブルを読むと、男の人が男の人のために書いた読み物という感じがすごくあった。女性に関する記述も結構良いことが書いてあるので、キリストも十二使途も女性バージョンなら物語の結末や世界の終焉も変わったのではないか」と考えた。描かれているのは最後の晩餐以前のいつかの食事。「この時点ではまだ誰も裏切り者ではなく、誰もが裏切り者になる可能性はあった。人間は悪の象徴のようなユダを作り上げて自分を許すようなところがある。裏切り者の象徴のようなユダがいなくても、物語の終焉は似たものになったのではないかと思い制作した」という。
  審査員の北條秀衛は「大胆なタッチの絵画と緻密で一つ一つに気配りされたインスタレーションの作品群は、神と人間、善と悪、対極的で面白い作品に仕上がっている」と評した。

  井上裕起は1972年神奈川県生まれ。2000年多摩美術大学大学院彫刻専攻修了。
受賞作《salamander [F1]》は日本で一番大きい両生類のオオサンショウウオと1965年にF1世界選手権で日本車として初優勝したマシンのイメージを重ねた立体。井上は「オオサンショウウオをモチーフとし、進化をコンセプトに15年ほど制作してきた。両生類は人間へと進化したが、現在、絶滅危惧種に指定されている種も多い。そんな両生類が人間世界をどのように見ているのかをシニカルな目線で捉えることをコンセプトにしている。日本が世界に誇るテクノロジーと絶滅が危惧される特別天然記念物をハイブリッド化すること。そのベクトルは間逆に見えても時間は一定方向にしか進むことができない。生き物との共存をテーマにした作品」だという。
  審査員の山下裕二は「みごとなまでのディテールの作り込みで、クオリティーが高く、発想も面白い」と述べている。

  黒木重雄は1962年宮崎県生まれ。87年筑波大学大学院芸術研究科修了。現在、福岡の西南学院大学教授。受賞作《One day》は、瓦礫に覆われた海辺で餌をあさるカラスの群れを描いた絵画の大作。大震災を題材にして「人間がどんなに苦しもうと神様は助けない」という絵を描こうとしていたが、同じ頃に友人を亡くしたことなど、紆余曲折あり、構成も変更して現在の作品になったという。「描き表すものが非情から循環に昇華できたことは救いになった」と述べている。今回の受賞に関しては「今54歳だが、若い人たちに混ざって賞を取れたことが嬉しい」と喜んだ。
  講評では、山下裕二が「安定した構図と遠近感が強調されたカラスの描写によって壮大なスケールのパノラマがつくりだされる。褐色の瓦礫の中に点描で配される原色が効果的で、漆黒のカラス、あえてモノクロームで描かれる遠景とのコントラストが見事である。作者入魂の大作だと思う」と述べた。

  同展全体に関しては、授賞式の講評で山下裕二が「迫力があり、展覧会全体の構成としてはとても良い設営ができたのではないか。これしかないという突出した作品があったわけではないが、入選作のレベルは高く、甲乙つけがたいため特別賞も3名となった」と話した。
  入選作家はほかに、井口雄介、石野平四郎、因幡都頼、繪畑彩子、岡野里香、奥村彰一、加藤真史、川上幸子、工藤千尋、後藤拓朗、Scott Allen、鈴木伸吾、照屋美優、毒山凡太朗、冨田美穂、ナルコ、福嶋幸平、福本歩、MYU mikki、山田弘幸、ユアサエボシ。同展では受賞作を含む入選作26点が展示されている。4月9日まで。


執筆・写真:西澤美子(文中・敬称略)


第20回岡本太郎現代芸術賞展

2月3日(金)~4月9日(日)※月曜休館
川崎市岡本太郎美術館(神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5)
☎044-900-9898
9時30分~17時(入館は16時30分まで)
一般700円、高大生・65歳以上500円、中学生以下無料
詳細:http://www.taromuseum.jp/

写真キャプション
① 岡本太郎賞の山本直樹と受賞作《Miss Ileのみた風景》
② 岡本敏子賞の井原宏蕗と受賞作《cycling》
③ 特別賞のあべゆかと受賞作《BE GOD.》
④ 特別賞の井上裕起と受賞作《salamander [F1]》
⑤ 特別賞の黒木重雄と受賞作《One day》
⑥ 第20回岡本太郎現代芸術賞受賞者と審査員、入選者。(下段左から)井上裕起(特別賞)、井原宏蕗(岡本敏子賞)、山本直樹(岡本太郎賞)、あべゆか(特別賞)、黒木重雄(特別賞)

  宏蕗(岡本敏子賞)、山本直樹(岡本太郎賞)、あべゆか(特別賞)、黒木重雄(特別賞)


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